軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

412

「それから次は何を話そうかな……そうだね、何故近衛騎士隊が……というか、国王陛下が親父殿の提案を受けたのかってことと、ウィナー男爵令嬢の元を訪れた理由かな」

「……ええ」

「ウィナー男爵令嬢に関しては、私は一人で会いに行ったわけじゃない。同僚が同行した」

「そ、う……なの?」

アルダールがきっぱりとそう言ってくれて、私はそれに対してほっとするのと同時にビックリしてしまいました。

いえ、アルダールを疑っていたってわけではありませんし、ミュリエッタさんの言葉をまるっと頭から信じていたってわけでもありません。

だけど、でも、じゃあなんで彼女はあんな……変なことを言ったのやら。

(私に嫌がらせってのが一番なんでしょうけど)

それにしたって、自分の言動によって今までも苦労する羽目になっているというのに、繰り返すかしらと思わずにいられません。

だって、場合によってはアルダールからしてみると名誉問題に発展しかねませんからね……未婚のご令嬢と二人きりで会っていたなんて吹聴されたら、私と付合っていることが知られている以上よろしくないことは明白です。

それでも、彼女がそんなことをしたのには、理由がある?

「ウィナー嬢に見合い話を持っていったんだ。相手については言えない」

「えっ」

「近衛騎士隊が見合い話を持っていくなんて不思議だろう? 普通ならあり得ない」

「え、ええ……」

「……これも近衛騎士隊が、何故今回の件に噛んでいるのかというのにも含まれるんだけれどね」

バウム伯爵家が、本来秘密であるべき宮中伯という地位を明かして各貴族を牽制する、武門と併せて王家の名実ともに盾であるように。

貴族たちを監視する貴族が、存在する。

それが誰なのかは勿論明かせないし、明かしてほしいとも私は思いませんが……とにかく、その貴族は名門貴族の一つであり、もしかすれば複数いるのかもしれない。

国王派なのか、中立派なのか。或いは軍部派なのか、貴族派なのか……もしかすればどの派閥にも存在する可能性がある、そんな〝貴族〟が存在する。

王家や公爵家が持つ影のような、それでいて表で生きる人たちなのだと言われて私は思わず息を呑みました。

考えれば、それはそうかもしれないと。

貴族たちの派閥、その動きを知るためにお互いに探りを入れたりするのは日常茶飯事……そのくらいは私も知っていますし、貴族令嬢として理解しています。

でも、どうして常にバランスを保てるのか……なんてことは考えたこともありませんでした。

なんとなく、賢い誰かが上手く執り成してバランスを保ってきた……そんな風に思っていたのかもしれません。

それこそが、まさしくその〝貴族〟なのでしょうけれど。

「ウィナー男爵父娘は、そういう意味で確かに貴族たちを引っかき回したと思うよ」

英雄の出現、祝祭を示すかのような髪色を持つ類い稀なる治癒魔法を使う英雄の娘。

彼らを良い様に使おうとする国王陛下も、貴族たちも、その〝貴族〟の目にはどのように映ったのでしょう。

……私には、ちょっと壮大すぎて見当もつきませんね。

「まあ、とにかく……言い方は悪いが、彼女はもう役目を十二分に果たしてくれたってことらしい」

だから、貴族令嬢らしく婚約者を持たせて落ち着かせようという結論が出たのだそうだ。

上位貴族から申し込まれたら、余程力を持っているか理由がなければ断りづらいことは確かです。

つまり、ミュリエッタさんにとって、それは……ほぼ、確定した婚約であるということではないでしょうか。

(可哀想と思うのはいけないことよね、きっと)

彼女だって、私にそんな風に思われては余計に腹が立つでしょうしね!

それでも。

まだ若いのにとか、もっと周りの大人が彼女に親身になってあげたら未来が変わっていたかもしれないのにとか、今でもそう思ってしまうのは私が甘っちょろいのでしょう。

でも私がたくさんの優しい大人に囲まれて成長し、時に叱咤されつつ、時に導いていただいたように……そんな相手がいたら、違ったのかもしれないなって思うのです。

「私としては会いたくもなかったんだが、これも親父殿に指示されていて、断れなかったんだ。けじめをつけてこいってことだったんだけど、最後だから文句を言ってもいいってことで折角だから実行してきた」

「え?」

「しっかりきっぱりお別れを述べて、婚約が上手くいくよう祈っていると伝えてきたよ」

にこりと笑ったアルダールが、それはもういい笑顔でそんなことを言うから私としてはなんというか、……ええ、なんて言っていいかわかりませんでした。

前々からミュリエッタさんに対しては塩対応と言っていいアルダールでしたが、今回のそれはもうどこまでいってもツレないどころの話ではない言葉を投げつけてきたわけですね。

かといってそれを私が喜ぶのも変ですし、ええ……? これはどうしろと……。

そんな風に私が困惑する中、アルダールは一気にたくさん話したからか息を吐き出して、それから私を見て……柔らかく笑いました。

「きみが好きだよ、ユリア」

「……え? ええ、私も……好き、です、よ?」

「ここまで話して、こんな場所でって思わずにはいられないんだけど」

「アルダール?」

ちょっとだけ、苦々しい顔を見せてから、アルダールは困ったように笑って私の手を握りました。

じっと見つめてくる目は静かだけれど、何かを決意している時の眼差しで、私は何かを言うでもなく、ただ見つめ返すだけ。

「私は、近衛騎士隊に残るから……騎士爵という扱いの、ただの貴族になる」

「え、ええ」

「親父殿は……まあ、後ろ盾ってやつとはまた違うし、バウム家と縁が切れたわけでもないけど、それを頼りにするつもりもないし、まあこれだけ啖呵を切ってしまったから頼るなんて格好悪いことはできやしないんだけど」

「……ええ……?」

「何をするにも当主の意向を伺わねばならなくて、今回も……きっと賛成してくれると思っていたことを阻まれるだけじゃなくて、色々と言われて、まあ、親子喧嘩に似たようなこともしでかしたしなあ」

「だ、大丈夫なの?」

「ああ。そこについては義母上がもっとやってくれていいと言ってくれたしね。まあそれはともかく、私は……私の気持ちだけで、こんなに行動したのは、子供の頃以来かな」

「そう、なのね……」

「正しくはユリアと出会ってから、かな」

それは、良いことなのでしょうか。多分、いいことなんでしょうけど。

私には、分かりません。

困惑する私をよそに、アルダールは言葉を続けます。

私を、真っ直ぐに見据えて。

それに対してどうして良いかわからなくて相槌を打つしか出来ないけれど、多分、あってる……よね?

「私は、騎士であること以外、ただの平凡な男になったと思うんだ」

「アルダール?」

「それでもいいと、言ってくれないかな」

「……え?」

ぎゅっと、アルダールが私の手を握りました。

その手が、少しだけ……震えているような気がしたけれど、確認は出来ませんでした。

「ユリア。私と共に、人生を歩んでくれないか。地位や名誉が必要ならば、きっと……この手で、掴んでみせるから」

青い目が、熱情を持って。

私に縋るように、訴えるように、そして、何よりも焦がすような、熱を。

「結婚してほしい」