軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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あの後、どのくらい庭園で立ち尽くしていたのでしょう。

時間にしてみれば、きっと大したことはなかったのだと思います。

ですが、なんというか、足元が覚束ない。

いいえ、すれ違う人たちが声をかけてくることもなかったのできっと足取りはしっかりしたものなのでしょう。

それでも、私は足元がぐらぐらしているかのような気持ちになっていました。

(どうして)

アルダールの愛情を疑ったり、彼が私に対して不誠実な行動をとるなどとは思えません。

ましてや、ミュリエッタさんと 二人きり(・・・・) で会うなんてことを上層部の方々や、お目付役であるタルボットさんが許すとも思えません。

だって、未婚の、婚約者のいない貴族令嬢と男性が二人きりだなんて、それではまるで密会のようであまり良いイメージがつきませんから。

アルダールと私が二人で会っていることは、恋人だと公言しているからこそ周りも何も言わないのであって……彼女がそのことを知らないのだとしても、周囲がよしとするわけがないのです。

だから、二人きりはあり得ない。

ただ、誰かの立ち会いがあったのだとしても、アルダールが彼女と会ったのは事実というだけのこと。

では、私は何に対して不安を覚えているのでしょう?

自分でもよくわかりません。

(よくわからないことが、腹が立つのかもしれない)

アルダールにとっても、私にとっても、あれもこれも蚊帳の外に追いやられているのに巻き込まれている感が拭えず、しかしそれが決して私たちにとって無理難題であるかと問われれば違うものであるから拒絶することも出来ず。

ましてや、それが職務に関わる範囲内であれば、大人として不平不満はある程度呑み込んでやり遂げるものでしょう。

今回のことも、私は……きっと、アルダールからだけ聞きたかった。

彼以外の人の口から、ああでもないこうでもないと余計な情報を吹き込まれるようなことはされたくなかったのだと思います。

余計なことを何一つ考えずに、アルダールの言葉だけを受け取ってから彼らの言葉を聞けたなら、こんな風にならないのに。

もやもや、ムカムカする。

この苛立ちが、誰に向かっているのか分からない。

気持ちを落ち着けるために庭園に行ったというのに、結局より波立たせてしまって気持ちが落ち着かない。

(いやだなあ、このままじゃ、アルダールと顔を合わせられない)

折角これから楽しい旅行だというのに、私がこんな気持ちではアルダールに心配をかけてしまうに違いない。

そう思うととても申し訳なくて、でも話をしてくれるのだからこの気持ちも晴れるに違いないという理性もあって、自分のことながらしっちゃかめっちゃかなのです。

ふと、王女宮へと向かう道の途中で、人の姿がないことに気がつきました。

王宮へ続く廊下は、内外宮と違って人通りががくんと減るからそれ自体は珍しいことではなくて、巡回の警備兵が歩く音や近くで働く人々の声は当然聞こえます。

ただ、廊下に人の姿がないというだけのこと。

完全に無人になるなんてことは王城で、特に王宮ではあり得ない話。

けれど、廊下でぽつんと自分だけが立っている状態が、まるで隔絶された場所に来てしまったような気持ちになりました。

(いけない)

気持ちが落ち込んでいるせいだと私は首を左右に緩く振って、そんな考えを振り切ろうとしました。

物理的にそんなことができるものではありませんが……少しだけ、スッキリした気もします。

「ユリア?」

「……アルダール」

「良かった、すれ違いになったかと。親父殿に呼ばれたと聞いて、心配したんだ……ユリア?」

ほっとした様子のアルダールが、私に歩み寄ってくる姿に私は自分の眉が寄るのを感じました。

彼の姿を見て安堵しているのに、ミュリエッタさんの面影が私の脳裏にちらついて、そんなことはないと理性が訴えるのに、好きだからこそ嫌なのだという気持ちが膨れ上がって……わけが、わからない。

私の様子がおかしいことに気がついたらしいアルダールが、険しい顔をしているのが見えました。

なぜでしょう、なんでかわからないけれど、泣きそう。

胸がぎゅうっと痛くて、でもアルダールは悪くないってわかっています。

なのに、口を開いたら彼に対して文句ばかり飛び出してしまいそうで怖いのです。

「ユリア、どうしたんだい?」

「……アルダール……」

優しく、声をかけてくれるそれは私を心配してくれている。

わかっている、わかっている、ちゃんと私は理解している。

なのに、どうしてこんなに気持ちが荒れているんだろう。

「アルダール、ごめんなさい」

「えっ?」

「今日、一緒に町屋敷に行くと約束したけれど……明日の朝、私が町屋敷の方へ行くから。だから、今日は……一人で、先に行っていて」

「ユリア?」

「ごめんなさい」

そうだ、私は冷静じゃないから。

明日の朝になれば、冷静になれるから。

だからお願い、そう続けられれば良かったのだけれど、私は気を抜いたら叫び出しそうな自分の気持ちを押し殺すだけで精一杯で、それだけ告げるとアルダールの横をすり抜けました。できるかぎり、平静を装って。

(ああ、なんて身勝手なのかしら)

アルダールは悪くないのに。

もしかしたら、話を聞いて文句を言うべき場面もあるのかもしれないけど、まだ彼から何も聞いていない段階で耳を塞いで逃げ出すなんて、私の身勝手にしかすぎない。

そんな自分が情けなくて、冷静を装ってすり抜けた後段々と早足になり、行儀が悪いと知りながらも小走りで自分の部屋へと急ぎました。

早く、早く。

一人きりになって、よくわからないこの気持ちを枕にでも顔を押しつけて吐き出してしまいたい。

「ユリア!」

だけど、あと少しというところで、私の手をアルダールが捕まえる。

そりゃそうだろうなと思う私と、ほっといてくれたらいいのにと思う私の両方がいて彼の方を見ることが出来なかった。

ああ、捕まってしまった!

「離して……お願い、アルダール、お願いだから……!」

「だめだ。ユリア、頼むから」

もがくようにしてアルダールの手を振り払おうとする私を、部屋のドアに押しつけるような形で視線を合わせてきました。

その距離はまるでキスするみたいな距離で、彼の青い目に、私の泣きそうな顔が映っているのが見えて余計に泣きそうになる。

「……親父殿が、何を言ったのかは大体予想がつく。だけど、それが君を傷つけたなら、それを私にぶつけてくれた方がいい」

「や、ちが、違うの……別に、違う、違うの」

何が違うのかなんて上手く説明出来なくて、しゃくり上げるようにただ否定する私に、アルダールは難しい顔をしていました。

「違わない。……それに、逃がしてあげるわけには、いかないんだ」

「なに、を……」

逃がす? 何を言っているのか分からない。

その言葉に私が首を傾げるのを見て、アルダールは小さく苦笑を浮かべて何を思ったのか、すっかり抵抗を忘れてしまった私を担ぎ上げたのです。

「ひぃえ!?」

この場に似合わない悲鳴が出たと思います。

自分でも、もうちょっと乙女な声が出ないのかと思いましたが……咄嗟に出る声で乙女っぷりがバレますね!

なんて、思ったのは内緒です。

「それではセバスチャン殿、申し訳ありませんがユリアは連れて行きますので。後ほど人を寄越しますのでユリアの荷物をよろしくお願いします」

「えっ、えっ!? セバスチャンさんがいるの!?」

「かしこまりました。では荷物と引き換えに筆頭侍女殿の制服をお渡し願えますかな、着替えの一つや二つ、バウム家の町屋敷であれば客人に貸し出せる程度にはものもありますでしょうし」

「承知しました」

「ちょっとセバスチャンさああああん!?」

担がれているせいで私の視界にセバスチャンさんはいないんですが、え、ちょっと待って私の人権どこ行った?

逃げ出した方が悪いって言われたらそうなんですが、話し合いの余地は!

「きちんと、話をさせてほしい。それから苦情はいくらでも聞くから」

そのまま歩き出したアルダールにそう言われて、私はぐっと言葉につまりました。

いや、うん、そうですね……話し合いもなにも、そこから逃げ出したのは私なので……。

アルダールが歩き出したことにより見えたセバスチャンさんは、大変良い笑顔を浮かべてハンカチを振っておられました。

なんなら親指を立てている姿、ちょっと後で問い詰めたい。

「……ユリアは、もっと私に色々言ってくれていいんだ」

「あの、アルダール」

「迷惑をかけていることの方が多いことはわかっている。だから、言ってほしい。それも私のわがままかもしれないけど」

「あの! わかりました、わかりましたから!」

せめて担ぐの止めて!!

必死に訴えたことにより、改善されました。良かった、誰かに見つかる前で。

けれど、横抱きにされたことで余計に恥ずかしくなるなんて思わなかったんだ……!!