軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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その後、私はバウム伯爵さまがお仕事に戻られるということで部屋を後にして……少しだけ頭の中を整理したくて、外宮の方にある庭園に向かいました。

人が行き来する気配や声は聞こえますが、あまり人がこない隠れた場所。

侍女たちは知ってますし、他の方だって入って来られますが、王城を訪れる方々にはあまり知られていない場所なのでこうやって考え事をしたり気分を落ち着けたい時にはうってつけの場所なのです。

侍女生活長いと、みんなこうやって息抜きの場所が用意されているってことを知ってありがたく思うもんですよ。ええ。

「……はあ……」

ベンチに座り込んだ途端に、私の口からは大きなため息が出てしまいました。

いけないと思いつつも、なんだかすごく疲れてしまったんだから仕方ない。

バウム伯爵さまが色々と話をしてくださっていたんですが……正直私の頭の中は真っ白で、内容が耳に入っていても、こう……するするっと抜け出ていくような気持ちでしたねえ。

とはいえ、まあ、そこは長年の侍女生活のおかげで受け答えはきちんとできていたはずですけどね!

それから、ありがとう表情筋!!

侍女としての表情、保てていたのは日頃の行いの賜物です!

空を見上げれば雲一つない青空です。

今夜は星が綺麗に見えそうだなあなんてぼんやり思いました。

(アルダールが、ミュリエッタさんと会ったというのは、きっと事実……なんでしょうね)

面会という言葉を使っておられたことから、二人きりかどうかまではわかりません。

ただ、公式に会ったということなのでしょう。

それがアルダールにとってどのような立場でのものかはわかりませんが、一体それはどうしてなのか。

バウム伯爵さまは何故それを知っていたのか。

その後のお話で、彼女との〝面会〟についてはバウム伯爵さまが指示したことのようにも受け取れましたが、はっきりとはわかりませんでした。

何度か質問をしてみたもののはぐらかされてしまったことで、余計に私の胸の内がもやもやするのです。

言うなら言うで最初から最後まで責任持ってほしいな!?

中途半端なのが一番困るんですよ、ほんとにもう!

(……いいえ。いいえ、大丈夫)

アルダールはきちんと『全部話す』と私に約束してくれたのです。

あれこれ話すことが出来なかった、でも私が知らない〝何か〟を終えたのでアルダールは全てを話せると笑顔を見せてくれていたではありませんか。

ただ、先にバウム伯爵さまから余分な情報を聞かされてしまって、動揺してしまっただけのこと!

(そうよ、……大丈夫。少しここで気分を落ち着けてから部屋に戻ってアルダールの迎えを待てばいいのよ)

今部屋に戻ると、余計なことを考えてしまいそうだから。

人の気配があって、穏やかな風と色とりどりの花がある庭園でなら気持ちも少し和むというモノです。

セバスチャンさんが心配していたこととか、王太后さまがバウム伯爵さまにはがつんと言った方がいいとかってのの理由が分かった気がします……。

若干、他者の機微に疎い方なのでしょう。

だからアルダールにも『不器用な』なんて表現をされるんだなあと思いました。

悪い人じゃないってのはわかってるんだけど、こうさあ!

(……先に聞いちゃってて、もしアルダールがこのことに触れなかったら?)

私から聞けばいいんだろうし、アルダールはきっと話してくれると思うけど。

それでも心のどこかで、もし話してくれなかったら?

何してたの?

二人きりだったの?

彼女はあなたに甘えたの?

そんな風に詰め寄ってしまいそう。

……いや、意気地なしの私のことだ、そんなことを思いながら言えなくて苦しくなってしまうに違いない。

(こういう時は、落ち着かなくちゃ)

聞けば教えてくれる。アルダールを信じている。

この二つは、間違えちゃいけない部分。

意気地なしで恋に臆病な私が二の足を踏んだとしても、そこだけわかっていればなんとかなるはずだ。

ただ、そう。

今は、落ち着きたいだけ。

このよくわからない、焦りみたいな気持ちを、落ち着けたいだけ。

(……どうして、なんて考えちゃいけない)

私はその答えを、 これから(・・・・) 教えてもらえるはずなのだから。

それがわかっているのに、怯える必要はない。

アルダールが私を好いてくれていることも、大切にしてくれていることも、ちゃんとわかっている。

それなのに怯えてばかりいては申し訳ないし、彼を疑ってかかるなんてそれこそ失礼な話だって理解しているのだ。

だけど、心はどうだろう?

こんなにも荒れ狂って、暴走してしまいそう。

(それでも、私も進歩したものね)

ほんの少し前まで、アルダールが私を選んでくれたことにすら自信が持てなかったのが嘘のよう。

今だって決して女性としての自分には自信が持てているわけではありませんが、それでも愛されているのだということは理解しているつもりです。

だから、気持ちを落ち着けて、アルダールと旅行中に全てを聞いて、納得出来ないところは質問して、それでいいのです。

こんな動揺した気持ちのままではいけないと冷静さを求める自分に従って、今はこうやって庭園のベンチに座って花でも眺めているのが一番でしょう。

(綺麗な花だなあ)

あれはアネモネだっけな。花言葉が色で変わったりするのよね。

以前、庭師さんに教えていただいたのだけれど……赤は愛の告白みたいなやつで、後は何だったかしら。

ふと気になってベンチから立ち上がり、花壇に歩み寄って私はアネモネに視線を落としました。

赤、ピンク、白、青や黄色と咲き誇るそれは風に揺れていてそれだけで目を和ませてくれます。

なかなか花言葉が思い出せないままに花を愛でていると、誰かが庭園にやってきたのが見えて私は視線をそちらに向けました。

「……ユリアさま?」

そこには疲れた様子のミュリエッタさんがいたのです。

思わず息を呑んで彼女を無言で見つめてしまいましたが、私はその動揺を誤魔化すように笑みを浮かべてみせました。

そこは大人としての、小さなプライドみたいなものでしょうか。

なんとなく、彼女を前には余裕な態度を見せたいだなんて思ってしまったんです。

「ごきげんよう、ミュリエッタさん。治癒師のお勤め帰りですか? お疲れさまです」

「……ありがとうございます」

私の言葉に、ミュリエッタさんは無表情にそう答えました。

美少女の無表情って怖いな?

(……それにしても、疲れているのは疲れているんだろうけど……)

それにしたって疲れすぎじゃないか?

十代の少女がしていい表情じゃないんだけど。

治癒師ってそんなにハードだったかなあなんて思わず私が心配になるくらい、彼女は疲れているというより、やつれているように見えました。

いつも天真爛漫という雰囲気だったはずの彼女は目の下に隈を作り、キラキラしていた目はどこかどんよりとしているではありませんか。

「ねえ、ユリアさま。先ほど、軍部棟にいらしてましたね」

「え?」

「あたしも、治癒師として軍部棟に行く用事があったのでお姿を見かけたものですから。大将軍さまと面会なさってたんですね」

「……ええ、そうです」

そこまで見られていたなら、下手に否定する方が変に勘ぐられてしまうというものでしょう。

私はにっこりと笑ってなんでもないことのように答えて見せました。

ですが、ミュリエッタさんはそれを受けてにこりと微笑んだのです。

今まで、見たこともないような笑顔でした。

「じゃあ、きっとあたしとアルダールさまが二人きりで会ったことも、ユリアさまの耳に入ってしまったんですね」

「……!」

驚いた私をよそに、彼女は私の反応などまるで見てはいませんでした。

だけれど、ほの暗い笑みを浮かべた彼女は私を真っ直ぐに見ていて、それなのにこちらを見ているのではないかのようで危うい気がします。

「ミュリエッタさん……?」

「あ、すみません。呼ばれているから行かなくちゃ」

彼女の名前を呼びましたが、ミュリエッタさんを呼ぶ声に彼女はさっと私に背を向けました。

そして、振り返ることなく去って行ったのです。

彼女は何をしに来たのでしょう、ただ休憩しに来たのでしょうか。

それとも、私を見つけてやってきたのでしょうか。

私は、彼女を呼び止めて、どうしたかったんでしょう。

ただ、立ち尽くすしか出来ませんでした。