軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ジェンダ商会はいつもと同じ様子で穏やかで、私は本当に、こう、心底ほっとしますよね……ご近所のおばあちゃんが日用品を買いに来ていて店員さんとおしゃべりしているとか、お会計の所で脇に置いてあるお菓子を小さな子がお母さんにおねだりしているそんなありきたりの光景、そうそうこれですよ!!

どうやらグミキャンディは子供たちの間で好評のようです。

きゃっきゃと笑い合う幼い子供たちが出ていくのを見送って、こちらも微笑ましい気持ちになりました。

「おう、嬢ちゃんよく来たなあ! そっちは護衛の騎士さんか、ご苦労さまです」

「いえ」

「うちのやつが菓子を作って待ってたんだよ、話もしたいし中に入ってくれ。騎士さんも勿論一緒にどうぞ」

「ありがとうございます」

これこれ、これですよ!

リジル商会でお得意さまみたいな扱いされたアレとは雲泥の差のあったかさ!!

色んな意味で疲弊した気持ちがこう、癒されますよね……。

こういう歓迎のされ方だったら私だって喜んでーってなりますとも。

奥の応接室に通されて出されたのはカモミールティーとまぁるいドーナツみたいなものでした。焼き菓子の一種で、半分に切ったら中を少しだけくりぬいて、くり抜いたものをすりつぶした後ジャムと混ぜて塗ってくっつけたものだそうです。

まるで杏みたいでコロッとして可愛いなあ、食べちゃうのがもったいない。

「娘がね、好きだったのよ」

「……そうなんですね」

「庶民のお菓子だから、ユリアさんにはちょっと素朴すぎたかもしれないけど……でも美味しいから、良かったらどうぞ」

「いただきます。ね、レジーナさん!」

「ええ、アタシも幼い頃食べましたね。ジャムをたくさん食べたくて中身を多くくり抜いてジャム塗れにしちゃった思い出があります」

「まあ!」

ジェンダ夫人が懐かしそうに語る『娘』が誰を指し示すかわかるので、なんとなくしんみりしてしまいました。でも夫人の顔はとても穏やかで、思い出を懐かしんだだけなのでしょう。

でもそういうことでしたら、是非プリメラさまにこれを召し上がっていただきたい。

(これ、王女宮でも作れないかしら。材料的には庶民のお菓子ってことなんだから手に入らないってこともないし……)

うん、美味しい。優しい味がするなあ。

絶対に、プリメラさまも喜んでくださると思うのよね。

「これの作り方、教えていただいてもよろしいですか?」

「ええ、勿論ですよ」

メッタボンなら知ってるとは思いますが。

でもどうせなら、ご側室さまが好きだったという味を再現したい。

私の気持ちが伝わったんでしょう、レジーナさんもにっこり笑ってくれました。しかも小さなガッツポーズ付きです。

これはあれですね。レジーナさんも『アタシもお手伝いしますからね! 味見役として』ですね。わかってますよ……?

でもこれ、中に入るジャムで色々味が変わるから面白いですね。

定番なら苺とか杏なんでしょうが、ナシャンダの薔薇ジャムもやはり用意するべきでしょう。あとブルーベリーとかでしょうか。

「それで、今回はどんな品をお求めで?」

「グミキャンディと、それ以外に普通のキャンディ類、それから蜂蜜を。それから便箋セットと、ポプリもお願いしたいのですけれど」

世間話とレシピを夫人としたところで会頭さんに聞かれて私は予定通りのものを口にします。蜂蜜は色々使えますからね、ジェンダ商会の蜂蜜はとても美味しいんですよ!

それを聞いて会頭さんも頷いて立ち上がったところで、ふと思い出したようにテーブルの上にあるカップを指さしました。

「そのハーブティーはどうする?」

「ああ、そうですね。もし在庫があるようでしたらそちらもお願いします。それを飲むと夜はよく眠れるんですよね」

「そりゃぁよかった。こいつはなかなか人気があるからな、良ければ今後は定期的に送ろうか」

「まあ! よろしいんですか?」

「なぁに、嬢ちゃんと俺の仲だろう。なによりお得意さまだしなぁ」

からからと笑った会頭さんが姿を消すと、夫人が楽しそうに微笑みました。

レジーナさんも美味しそうにカモミールティーを飲んでいて、この空気、すごくほっこりします。

「ありがとうねえ、ユリアさんが来てくれるとうちの人も喜ぶから。本当ならうちの方から出向かなきゃいけないような立場の方なのに」

「私が好きで来ているんですから、お気になさらず。ここの雰囲気が、すごく好きなんです」

「ありがとうねえ」

ほどなくして戻って来た会頭さんから荷物のリストを受け取りサインをする。

荷物はまとめて王城に送ってくれるから、その時にお支払いするのがいつものスタイルだ。

「そういやあ、また妙なことに巻き込まれてるんだって?」

「……そうなんですよねえ」

もう誤魔化すのも疲れるので苦笑して返せば、会頭さんは気遣わし気に私のことを見て一緒にため息を吐き出してくれた。

「タルボット商会についてはやり方を間違えちまったんだなあ、まあ大体は代替わりでその後付き合いがあるかどうかはそれまでの関係性だから、タルボットだけを咎めるのも同じ商人としちゃあちっとばかり思うところもあるんだが」

「ああ、それはなんとなくわかります。おそらくはパーバス伯爵家の方が稀だったのではないかと思います。ただ、……色々ありますから」

「そうだねえ、なんかあればいつでも言っとくれ。うちで力になれることは手伝うからさ」

「ありがとうございます」

優しい……!!

いやでも変にここで甘えてしまうと前のようによくわかんない慰謝料とかが突然転がり込んで私がびっくりしてしまうので、まずちゃんと私自身が考えて行動してから、ですね!

でもこうやって私のことを温かく支えてくれる人もいるのですから、へこたれている場合ではありません。

よくわかんない巻き込まれ方をしていますが、だからって流されっぱなしも悔しいじゃありませんか。私を簡単に利用できると思うなよ!

まあ啖呵をきったところで貴族としても仕事としても低くないですけど高くもない中間管理職にすぎないんですけどね!

だからってまあ好き勝手されっぱなしで終わるタイプでもないのでまずは情報収集ですかね。

とりあえずやらなければならないのは、お義母さまたちの安否確認ですか。

タルボット商会よりも懇意にしている商会があるということは今回のことで上手く示せたでしょうし、それを逆に利用された辺りで自分の立ち位置も改めてなんとなくわかりましたし。

(王女宮筆頭という立場がプリメラさまの迷惑につながるとは思いたくないけど)

どこの貴族が今後私に関わってくるのでしょうか。

知らないままに終わっている可能性もありますが、その余波で必要のない恨みまで買ってはいけません。

とはいえ人間が行うことですから、その辺りは絶対がないことが絶対です。

であるならば、私にできるのは『どうなったか』を知るよりも『誰が』の流れを知るべきなのでしょう。

(どうなったか、どうするのか……に関しては私の意見なんてこれっぽっちも通らないでしょうからね!)

ただ私も黙って利用されはしませんよ、というところだけは示しておくべきだと思います。

だとするならば、そういうところを評価するのは誰か?

そういう意味ではやはり宰相閣下でしょうが、あの方が私から面会を申し込んでお話を聞いてくださるとは思えません。

王弟殿下とセレッセ伯爵さまも合理的ではありますが、情に厚い部分がありますから私に話を聞かせてくださるかどうか。すべてが終わってからでないと、なんて言い出すでしょう。

(だとしたら、セバスチャンさんを頼るか……でもそれは筋違いな気がするし)

ならやっぱり。

ここは会いたくもないですが、そういう点でだけは信頼のおける、ニコラスさんなんでしょうね……!