軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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与えられた部屋の、備え付けられている机に向かって座って早や数十分。

カチコチと時計の針が動く音だけが部屋の中に響きます。

私の目の前には、真っ白な便箋が一枚。

そう……いざ手紙を書こうと決断した割に、一文字も書けておりません!!

(いやだってさ、今更なんだけど本人からじゃなくて色々聞いちゃったんだっていうのもきちんと書いておくべきなのかしら。いやいやそうじゃない、それは会えた時に言えばいいだけの話であってだな、要するに私からちょっと真面目にお話をしたいからお時間それなりにいただけますかって書くだけなんだけどそれがまた困難極まりないっていうか、どの辺が?)

という自問自答を繰り返しているというわけです。

いやほんともうそれだけ書けばいいだけなんですが、色々無駄に考えちゃってどうしてよいのか判断がつかなくなっております。

キース・レッスさまに私は考えすぎる傾向にあるって言われたことがあったけど、その時はまさかぁって内心笑ってましたがあながち間違いじゃないなコレ。

自分のことになると途端に優柔不断になるんですよね、昔っから。

そういうところは大人になるにつれ、上手いことなんとかできていたと思いますが思い返してみるとそうでもないな……?

特にアルダールと恋愛関係になってからひどいな?

冷静に思い返してみるとなんで私はキース・レッスさまに対してあんな無駄に自信を持っていたんだろうか。

(と言ってもこのままなにもしないわけにも)

アルダールへと名前を記したところで、何度目かになるため息を吐き出して私はようやく意を決しました。

こういうのはビシッと行くべきです。侍女として考えるなら、必要な情報を最低限記して後は野となれ山となれ! 当たって砕けることも大事……いや砕けたらだめでした。

(まずは時候の挨拶を書いて、それからナシャンダ侯爵領での薔薇が綺麗ですよと書いて……)

うん、この辺りまで書けば心配性なアルダールにもこちらで元気にやっていることが伝わることでしょう。そういうの書いておかないと後々に響くといけませんから。

アルダールって本当に心配性ですからね……あっ、その心配性が高じて色々私の知らないところで動いていたのかもしれない。

勿論、バウム伯爵さまになにか言われて言葉に出来なかったというのもあるんでしょうが、そこらは複雑な事情を含んでそうですから聞くに聞けない、かな。

「よし、と。こんなものかしら」

ナシャンダ侯爵さまから色々とお話を聞かせてもらったこと。

その上で少し真面目なお話をしてみたいというお願いを記して、完成です!

書き出してみると案外呆気なくて、きっとアルダールとの話し合いも同じなんだろうなあと思いました。

私のことですから話し始めるまでがきっとまた長かったり、無駄なことを思い悩んだりしちゃうんでしょうね。

……でもアルダールのことだから、またちゃんと待っていてくれるんだろうなあ。

そう思うと胸の奥がほっこりするわけですが、いや、惚気じゃないですよ?

インクが乾いたかどうかを確認した後に、私は呼び鈴を鳴らしました。

すぐにやってきた侯爵邸の侍女に手紙を託して、その姿が見えなくなったのを確認してからほっと一息ついて私が窓の外に視線を向けると、すっかり外は夕暮れ時になっていて。

(……前にこれと同じような光景を見たのは、夏の終わりだったのよね)

ナシャンダ侯爵さまと、プリメラさまと、……ジェンダ商会の会頭さんと。

それがもう去年の夏の出来事だなんて!

あの頃はまだ私とアルダールの関係も、友人関係でした。

それがあれよあれよという間に恋人関係になって、ミュリエッタさんが登場して、本当に色々あったなあ。

(養子縁組の件は、お父さまは知っているんだろうか)

知っていても、私が決めるまでは何も口出しするなと言われているという可能性もあるのよね。でも、お父さま自身がどう思っておられるのかを聞いてみたい気もします。

私は、ファンディッドの娘でありたい。

利権関係とか、多くのことを望めるのは侯爵家の娘になることだと頭では理解できていますが、感情的にはこのままが良いのです。

プリメラさまは、きっと私が侯爵家の娘になったら喜ぶのでしょう。義理とは言え縁故となるのですから。

けれど、ならなくてもプリメラさまと私の関係が変わるとは思えません。いいえ、それ一つで変わることなど私たちの間柄では起こりえない。そう私は信じています。

でも、実家の家族はどうでしょう?

(……喜ばしい、って言われちゃうのかな)

ある意味、栄誉なことには違いありませんから。

上位貴族への養子縁組というのは、将来が約束されたようなものです。

子爵令嬢として、そのことは重々承知の上でお断りしたいと願う私は、親不孝になるのだろうかと思ってしまうのです。

(大丈夫、侯爵さまは、断ったっていいと仰ってくださった)

変わらずこれからも信頼関係を持ってビジネスパートナーとして重んじてくださると。

そのお言葉は信頼に足るものです。

ただ、これは私一人の感情の問題であって、……そして私一人、個人の問題で済まないというだけで。

その辺りのことはお父さまに、そっとお尋ねするのが良いかもしれません。

お手紙がいいのでしょうか、それとも一度顔を出す? もう少し頻繁に帰省するとお義母さまにもお約束しましたし、不自然ではないはず。

「アルダールは、……どう思っているんだろう」

ぽつりと零した声は、私が自分で思う以上に不安そうなものでした。

思わずはっとして周囲を見渡しましたが、当然誰も室内にはいません。安堵で胸を撫で下ろしてから、何をしているんだろうと苦笑が浮かびました。

結局のところ私は、私が知らないところで色々な事態が動いていたことに対して、不安を感じているだけなのでしょう。

憤りとか不満とかよりも、不安。これに尽きます。

だからこそ、何もわからなくて震えているのではなく何か行動をしなくては!

それがあの手紙なわけですが。

(何を聞く?)

ぼんやりと、茜色に染まる空と薔薇を見ながら、思い浮かべます。

アルダールは、私が養女にならなくても良い方法を探していた。

彼はこの話を聞いて、何を思ったんでしょう。私と、どういう道を歩んでいきたいんでしょう。

(じゃあ、私は?)

もしアルダールが、結婚はしないけど寄り添っていきたいと言うならそれでもいい?

それとも今すぐにでも結婚したいって言われたら、「はい喜んでー!」って応えられる?

即座に答えが出せない辺りが私の悪い所なのでしょうね!

「……色々覚悟を決めて、話し合いをしなくっちゃなあ……」

別に結婚が嫌ってわけじゃないんですよ?

これでも子爵令嬢として、愛のない結婚生活だってあり得ることは頭で理解できてましたから。それに前世に比べたらこんなにも侍女ライフからのリア充しておりますし。

アルダールとそうなったら嬉しいかな? くらいに漠然としたビジョンはないとは言いませんしね!

でもじゃあそれがいつだったらとかそう具体的なことを問われるとわからないし、アルダールが結婚を嫌がっていたようなそぶりも見受けられたからあれっそういうものなのかなーって……いやいやそれを理由に私が現実から目を逸らしていいとこしか見てないだけですねわかってますよ!!

今までのツケがきたってだけですね。

(いやでも、どんな形に落ち着くにしろ、私たちが次のステップを踏む理由がミュリエッタさんって、彼女も知ったら変な顔するでしょうね……)

愛らしい美少女の姿が私の脳裏で何とも言えない微妙な顔になっていたのは内緒です。