軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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侯爵さまとのお話を終えて私はぼんやりと、与えられた部屋で贈り物の山を見てはため息を吐き出していました。

小さな箱から出てきたブローチがこれまたなんか高級品だよなあってもう……いやもう……うん、ナシャンダ侯爵がファンディッド子爵令嬢に対して親愛の意味で好意的であることを表明するにも、贈り物というのはとても有益な『目に見えた』証拠なのだけれど。

(養女になったなら、あれは準備のための品だったのだと周囲は思うのだろうし……ならなければ、ビジネスパートナーとしての私に敬意を払っているのを示す形になるのでしょうね)

何を選べば良いのかと問われると本当に難しい。

ご側室さまと義理でも姉妹になれるのだとしたら、それはやっぱり嬉しくないと言えば、嘘だ。

でも家族のことは?

私が侯爵令嬢になってしまったら、ジェンダ商会の会頭たちとも気軽に会えなくなるのでは?

そのまま筆頭侍女を務めていて良いのだろうけれど、私とみんなの距離が生まれてしまわないだろうか。

そんな埒の明かないことばかり、頭に浮かんでは消えてを繰り返してしまうのです。

(アルダールは、どうして……何も、言ってくれないのかしら)

言えないことがある、でもいつかはちゃんと話すから。

そうアルダールは以前言ってくれたけれど、それはこのことを示していたのだろうかと思うと不安になるのです。これ以外にも、私が知らないだけで……知らないことの方が多いのだということは理解していますが、それでも、何も知らないままで勝手に自分のことが決められているのではないかと思うと、ひどく不安になってしまうのです。

(いつか話すって、それはいつ?)

でも話してくれると約束してくれたのに、私からせっついていいものなのか。

そんなことをしたら、私が知らない、私が知らなくていいようにしてくれている彼の努力を無駄にしないだろうか?

侯爵さまは、私たちで話し合ったらいいと仰った。

確かに私のことなのに、私が知らなくて守られているというのはわかるのに蚊帳の外なのがなんとも落ち着かない。

「話し合う、か……」

なんて聞けばいい? 今は話せないってまた言われたら、私はそれで引っ込むべきなのか。

自分のことなのに、どうしたらいいのか客観的に判断できなくてため息ばかり。

何度目かももう数えるのにうんざりするくらいのため息の合間に、ノックが聞こえてはっとする。

いけない、どれくらいぼうっとしていたんだろう。

「……はい」

「ユリアさま、失礼します。あの、晩餐のお時間になったのでお迎えに上がりました!」

「ありがとう、メイナ」

「いえ! えへへ、なんだか不思議ですね。ユリアさまのご令嬢姿はもう何度も目にしているんですけど、今は私がお仕えしているみたい!」

「メイナがお仕えしているのはプリメラさまでしょう」

「そうなんですけど。……いつか、ユリアさまがお嫁に行ったりして侍女を募集するなら、わたし付いて行きたいなって思ってます」

「え?」

メイナが、なんとか笑おうとしている雰囲気で顔を真っ赤にしています。

今なんて言われたのか聞こえなかったわけじゃありません。

でも、意外だったっていうか。

「メイナ……?」

「わかってます! まだなんにもユリアさま仰ってませんし、この先のことなんて誰にもわかりませんよね。ただわたしが勝手にそう思ってるってだけなんです!」

「……ありがとう。そうね、そんな日がいつか来たなら、貴女が傍にいてくれたらとても心強いと思うわ」

「は、はい!」

「でも今はプリメラさまに私も含め、まだまだしっかりお仕えする仲間でありたいと思うの。……それではだめかしら」

「いえ! あの、すみません、変なことを突然言っちゃって……」

「いいのよ」

先のことは誰にも分らない。

そう言われて私もなんだかすとんと来た気持ちです。

メイナはわからない未来にも、自分が望む未来をきちんと描いてそれを言葉にしました。私の返事がどんなものであっても、自分の思いを伝えてくれました。

実際、私はメイナの気持ちを聞いても感謝の言葉以外は伝えられません。

だって、彼女が言ったように未来はわからないから。

もしアルダールと結婚したとしても、バウム家にお嫁入した私が彼女を雇うことなんてできるのかわかりませんし……雇ったからって彼女が王城の侍女仕事以上にやりがいを感じるかはまた別だし。

でも、そういうことじゃないんですよね。

「ありがとう、メイナ」

「? はい!」

「後で手紙を書くから、明日の朝一番で出してもらえるよう手配をお願いできるかしら」

「はい、かしこまりました!」

「それと、元気が良いのはいいけれど。もう少し声の大きさを控えめに」

「……はぁい……」

私の注意に少しだけしょんぼりして見せるメイナは、それでもにこにこしていました。

そんな彼女に私も笑みを誘われて食堂に着いた時にはプリメラさまに目を丸くされてしまいましたが、まあご愛敬ってやつですよね。

「どうしたの? 二人ともなんだか楽しそう!」

「いいえ、つい私がいつもの癖でメイナを叱ってしまったものですから」

「そうなの?」

「今は私が口出しすべきではありませんでしたのに、つい。ですのでおかしくなってしまって……」

「ユリアとメイナは仲良しですものね! ルイスおじいさまも邸内だったら二人がいつものようにしていても何もおっしゃらないと思うわ! プリメラもその方が好きよ」

「ありがとうございます、プリメラさま」

プリメラさまが満面の笑みで私たちに向かって手を伸ばしました。

王城にいる時よりものびのびとしていらっしゃるのは、王女としての矜持があっても多少羽が伸ばせている証拠でしょうか?

「でもわたしのことは仲間外れにしちゃいやよ?」

いつも侍女としてならば、お傍に控えて離れない私が近くにいないと少しだけ不満がっていたことをメイナからこっそり聞いていた私はプリメラさまが口を尖らせて言う姿がもう可愛らしくて可愛らしくて。

なんでこの子はこんなにも可愛いんでしょう! プリメラさまだからですよね、わかっておりますとも!!

「勿論です、プリメラさま」

「……一緒にいる時間がちょっぴり減るけど、そうやって名前を呼んでもらえるのは嬉しいからどっちが良いのかなあ」

「そうですね、私もどちらが良いかと問われると難しい気がいたします」

「うふふ、一緒ね! ……それにしてもルイスおじいさま、さっきまでいらっしゃったんだけれど……急なお客さまがいらしたとかで行ってしまわれて、まだ戻ってこないの」

「まあ、さようでしたか」

晩餐だというのに主がいないのは確かに変だなあと思ってはいたんですが。

プリメラさまが可愛くて失念していたわけじゃないよ!!

「きっと大切なお客さまなのでしょう、私たちはこちらでお話しして待っていればようございます」

「そうよね。そういえば明日は庭園でお茶をしましょう! ルイスおじいさまも良いって言ってくださったのよ!」

「はい、では暖かい恰好を……」

「もう! 今のユリアは侍女じゃないんだからね!」

思わずいつもの調子で準備の予定を頭に浮かべてしまった私に、プリメラさまが笑いました。あー、うん、身に沁みついている侍女としての習慣なのでお許しいただきたい!!

「……ナシャンダ侯爵邸にいる間は、ユリアとできなかったことを色々したい」

「色々、で、ございますか?」

「えっとね、一緒に刺繍とかお散歩とか、わたしの後ろにいるんじゃなくて、隣にいてもらいたいもの! 本当は町にお買い物も行きたいけれど、それはさすがにダメだってルイスおじいさまが……」

「ではまた商人を呼んでいただくのはいかがでしょうか」

そうなるとジェンダ会頭が呼ばれる気がするけれど。

まあ、そこの辺りは侯爵さまのお考え一つだからわからないです。

でもそうなったら、きっとプリメラさまは喜ぶと思いますからね!

そんな風に話をしていると、侯爵さまが戻ってこられてふんわりといつものように優しい笑みを浮かべて一礼しました。

「申し訳なかった、レディたちを待たせしてしまったね。出入りの商人が予定していたよりも早く到着してしまったものだったから、商談を済ませていたのだよ」

「まあ、そうだったのね!」

「後ほどまた寄ってもらう予定ですからその際にはプリメラさまにも珍しい品々を持ってこさせましょう」

「ありがとう、ルイスおじいさま!」

ぱっと華やいだ笑顔を見せるプリメラさまに、侯爵さまも笑みを深められました。

プリメラさまの笑顔一つできっと世界は平和になる。

そのくらいの破壊力……!!

私の悩みも、メイナとプリメラさまの笑顔のおかげで解決……できたらいいな!