軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ナシャンダ侯爵さまのお手紙に書かれていた通り、冬でも薔薇が美しく咲き誇るその庭は、以前夏の折に見た時とはまた少し違った趣があるように思えました。

冬の澄んだ空と、鮮やかな薔薇と葉の緑がなんとも美しいのです。

そして前回と同じように、ナシャンダ侯爵さまが玄関先でお出迎えしてくださいました。以前のようにどこかぎこちない様子ではなく、同じ満面の笑みでも今回はとても嬉しそうに、私には見えました。

「王女殿下、ファンディッド子爵令嬢、ようこそナシャンダ侯爵領へ。首を長くしてまっておりましたよ」

「ルイスおじいさま!」

「遠い所よくおいでくださいました。馬車での移動でお疲れではありませんかな?」

「いいえ、お会いできてとても嬉しいわ。滞在中、どうぞよろしくお願いします」

プリメラさまが馬車から降りてすぐにぱっと笑顔を見せ、それから優雅に お辞儀(カーテシー) 。

以前、夏の滞在ですっかり打ち解けられたお二方はにこにことしていて、見ているこちらが幸せになるっていうか……いいなあ、いいなあ、ああー、こういう和やかな空気はとても癒しです!

「ユリア嬢も、ようこそ。貴族令嬢としての貴女を今回お招きできて、とても光栄に思うよ」

「ナシャンダ侯爵さま、お久しぶりでございます。この度はお招き、誠にありがとうございます」

「自分の家だと思って是非寛いでおくれ。今回は以前とは別の部屋を用意させてもらったが、気に入ってもらえると良いのだけれど」

「ありがとうございます」

小首を傾げて心配そうに仰るロマンスグレーの紳士、なんでしょう可愛らしいんですけど。

そりゃまあ、前回はプリメラさまの侍女としてついてきたわけですから使用人としての立場でお部屋をご用意いただいたのであって、今回は客人扱いされているって自覚はありますから驚いたりはいたしません。

驚いたりはいたしませんよ?

ええ、侯爵さまのお宅ともなれば客室だってそりゃ豪勢だとわかってますし。

ですけどね!?

「……これは、なんか、ちがう……。ちがう、よね……?」

部屋に案内されて侯爵邸の侍女たちが下がったのを確認してから私は思わず呟いちゃいましたね!

だってですよ。

客人用の部屋はそれ相応に贅を尽くしたものだったりするんですが、見事な薔薇が活けてあったりするのはさすがナシャンダ侯爵さまのところだなあって思いますが、そこじゃない。

私の荷物以外に、いくつか荷物がある。

しかもそれが、なんか見覚えがある箱なんですよね。

以前、私の誕生祝いにと贈ってくださったプレゼントの箱に刻印されていた店の紋とよく似ている……似ているっていうか、同じ……。

(いやいや待って!? なんだろう、なんでこの箱があるのかな!? 案内する部屋を間違えたとかそんなオチは! ……あるわけない)

曲がりなりにも侯爵邸で働く侍女たちのレベルの高さは前回の逗留でよくわかっています。そんな初歩的なミスを彼女たちがするとは思えません。

となると、この箱は当然……この部屋に滞在する人物宛の荷物、ということになるわけで……。

恐る恐る近寄って、箱に手をかけてみました。

いくつか積み重なっている中で、一番手前にあった箱のふたをそっと開けてみるとそこにはきれいな帽子が入っているではありませんか。

(やっぱり!?)

同じ刻印があるのですから当然といえば当然で、帽子があるということは他の箱は服なのかそれとも靴なのか!?

そういった系統のものが入っているに違いありません。

特に理由もなく贈り物がされるということに身構えてしまうのは、性分といいますか……ナシャンダ侯爵さまにとって私はビジネスパートナーであり、義理とはいえ孫娘の慕う相手。

だからといってこんなに過分な贈り物をされるいわれはないはずなのですが。

(……開けずにいるのは失礼かしら、それとも開けないで真意を確かめてからの方が良いのかしら)

侍女は何も言わずに去ったということは、私の判断に委ねられているのでしょうか?

私は少しだけ考えて、覚悟を決めてから呼び鈴に手を伸ばしました。

ちりりりん。

軽やかな音色が響けば、すぐにノックの音が聞こえました。

「お入りください」

「失礼いたします、お呼びでございましょうか」

「ええ。こちらの品々は侯爵さまからの贈り物だと思いますが、間違いありませんか?」

「はい。当家の主がファンディッド子爵令嬢さまにとご用意した品にございます」

「……そうですか、ではお礼を申し上げたいのでお時間を頂きたいとお伝え願えるかしら?」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

そうです、わからないなら聞けばいいじゃない!

多分、あちらもそれは織り込み済みなのでしょう。

客人から時間をくれと言われれば、余程のことがない限りすぐに会うのがマナーというものです。プリメラさまの前でもできる会話で済むのか、それとも別の思惑がまさかここでも……!?

そう思うとちょっと胃が痛いんですけれど、このユリア・フォン・ファンディッド。プリメラさまと楽しく薔薇園でお茶会をするためにも、憂いは早めになんとかするべきなのだと思います!!

内心ぐっと気合を入れつつ、表面上は落ち着いて見せながら私は椅子に座って反応を待つことにしました。

(きっと、わざわざ国王陛下が私に対して『子爵令嬢として』ナシャンダ侯爵さまの所へ行けと言ったことが関係しているんだと思うのよね)

でもそうすると、どうなるんだろう?

今ひとつ、その影響とやらがわからない。

なんせファンディッド子爵家はセレッセ伯爵家と縁が持てたとはいえまだまだ弱小貴族というところから脱せていない。

長女の私が、王女専属侍女として高位の方々と縁があるといったところで多少注目されたところで実家が突然躍進するわけじゃないし……評価されるにはそれなりの出来事が必要だしね。

勿論、領民が心穏やかに、安心して暮らせる統治ができているというのは高く評価してもらっていいと思うけど。

(だからファンディッド家がどうのこうのって話じゃないと思うんだよなあ……そうだったとしても私に贈り物をしてくださる理由にはならないし)

プリメラさまが喜ぶから、私をプリメラさまの友人として招き堂々と過ごせる時間を用意してくれたとか?

いやいや、それもなんのためにってなるから違うな……。

(わっかんないなぁ……!!)

偉い人の考えていることは難しく、そして複雑でこちらとしてはわからな過ぎて困ります。一周回ってもう好きに振舞っちゃえばいいんじゃないかってヤケになりつつありますが、さすがにそれではまずいことくらいはわかってます。

(まあ、ナシャンダ侯爵さまのお答え次第なんだろうけど)

決して悪い話じゃないとは思うんだよね。

あっ、まさかと思うけどなにか悪いことがあってそのお詫びの品という可能性も!?

(……薔薇ジャムの売り上げがよくないから、ビジネスパートナー解消とか? ……違うよねえ、人気だって話はそこかしこで耳にするから)

聞かなきゃいけない、でも聞くのは怖い。

そんな心境で何度目かのため息を吐き出したところで先程の侍女が戻ってきて優雅にお辞儀をしました。

「主がお会いするそうです。ご案内させていただきますがよろしいでしょうか?」

「ええ、勿論」

「それでは、どうぞこちらへ」

どうしよう。

やっぱり、緊張してきました! 頑張れ私!!