軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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緊張、する。

隣には笑顔のプリメラさま。

近くにはセバスチャンさんの姿もあるし、レジーナさんとメッタボン、今回はスカーレットとメイナだって傍にいる。

だけど、緊張するものは緊張するのである。

なぜかって?

「それではファンディッド子爵令嬢さま、お手をどうぞ」

「……セバスチャンさん」

「ささ、どうぞ」

そう!

今の私は『王女宮筆頭のユリア』ではなく、『王女殿下の 親しい友人(・・・・・) である子爵令嬢のユリア』という立場なのです!

それに合わせて勿論私もドレス姿であり、皆の私に対する態度もそれ相応のものとなるわけですが……。

セバスチャンさんはどう考えても楽しんでおられますし!?

メイナとスカーレットはチラチラ見てきますし!?

メッタボンはこちらを見るなり指をさして笑おうとしたので、レジーナさんが真顔で渾身の肘打ちをしたことをここにご報告申し上げます。

「ユリアどうしたの? 乗らないの?」

馬車に先に乗ったプリメラさまが、不思議そうな表情をして顔を覗かせました。ああ可愛い!

そんなプリメラさまをお待たせするなどできるだろうか。いや、できない。

「いえ! 今すぐ参ります」

差し出されたセバスチャンさんの手を取って馬車に乗りこめば、前にも体験した魔法の馬車で内部は広々としていました。

そう、今回プリメラさまと私が向かうのはナシャンダ侯爵領なのです!

以前誕生祝の品を贈っていただいた際に招待されていた件で、国王陛下が『ファンディッド子爵令嬢と共に行くと良い』なんて仰ったために私も侍女としてではなく、客人となったのです……。

まあプリメラさまが一緒にナシャンダ侯爵邸の薔薇が美しい庭園でお茶を共にしたいと楽しみにしておられるので、私としては否やということはないんですが……侍女としての振る舞いならば誰にも引けは取らないと自負しておりますけれど、一人前の貴族令嬢としてというのはまだまだ経験値が足りなくて緊張せざるを得ないのです……!

勿論、顔には出しませんが。

そこのところは侍女として学んだスキルが活きていると思います。こんなところで活用できると思わなかった。

「ルイスおじいさま、お元気かしら……」

「きっとプリメラさまが到着されるのを首を長くして待ってらっしゃいますよ」

「そうだと嬉しいなあ……!」

にこにこと楽しそうに、ナシャンダ侯爵さまにお会いしたら話したいことがたくさんあるのだと無邪気に笑うプリメラさまは控えめに言って天使……いや、大天使かな!

ちょっとお姉さんぶったり仕事を始めたんだから大人の仲間入りをしているんだって胸を張っちゃうようなところがまだまだ愛らしいですが、去年よりもずっと手足が長くなって背も伸びたプリメラさまにきっとナシャンダ侯爵さまも驚かれることでしょう。

そのうち義理とはいえ祖父と孫でダンスだって踊れるようになりますとも。

今でも踊れるでしょうが、きっとそれはもう絵になる光景でしょうねえ、想像するとうっとりしてしまいそうです。

ロマンスグレーの侯爵さまと、美しさの権化となった成長したプリメラさまの取り合わせとかなにそれ私が見たい。

いえ、お二人がすっかり仲良しなのですからこれからそのような機会はいくらでも訪れるのでしょう。見逃してなるものか。

「でもユリアはそのドレスで良かったの?」

「……侯爵さまからいただいたドレスは、あちらで着ようかと思いまして」

「そう! きっとおじいさま、お喜びになるわ!」

私の答えに、プリメラさまがまた笑顔を見せた。

今回のナシャンダ侯爵領への旅行を、大変楽しみにしておられたプリメラさまですものね。当然のことでしょう。そして尊い。

思わず変な声が出そうになりましたが、ぐっとそこは堪えましたとも。

何となくセバスチャンさんが状況を察したのか生温い視線を向けてきましたがここは気が付いていない 体(てい) を貫きたいと思います。

「おじいさまのところのお庭なら、きっと冬薔薇もたくさん色とりどりに咲いているのでしょうね。お散歩できるかしら」

「きっとできますよ」

前日準備は私も参加してましたからね! プリメラさまの防寒具もばっちりです。

まあ、準備に真剣すぎて最終的にメイナとスカーレットに自分の準備もしてくれとお願いされてしまったのは失敗でした。

ついプリメラさまのこととなると、自分で色々してあげたくて。

とはいえ、私の旅行準備は二の次で! なんて言ってちゃいけませんね!!

(もうそろそろ、淑女としての立ち居振る舞いも考えなければいけませんしね)

侍女としては統括侍女さまに厳しく育てていただきましたから、どこに行っても恥ずかしくないと自負しております。

ですが、淑女としてとなると礼儀作法は身についていますが優雅に微笑み続けて会話を続けるとか私にはとてもとても、できないわけじゃないけどハードルが高い!!

(なんて言ってちゃだめなんだけどね)

未だ正式なお茶会に参加というのは、少し前にサプライズで私の誕生会が行われたビアンカさまのお茶会のみ。あれだって結局身内のお茶会なので、ノーカウントだと言われれば確かになって思うレベルでした。

とはいえ今の所、王女専属侍女であるということでお茶会に誘って仕事を抜けられては困るという風に王太后さまとビアンカさまが手を回してくださっているのでちょっと猶予があるのです。

少なくとも、プリメラさまが社交界デビューを正式になさるまではできるかぎりお傍に控えていること、という風に指示をいただいておりますので。

(今後はどこかのお茶会とかに誘われる可能性があるんだって思って振舞いに気を付けよう)

私の行いは私自身の評価だけでなく、プリメラさまや実家、それにアルダールとか王女宮のみんなに繋がりますからね!

侍女としてはできる女だけど、貴婦人としてはなあ、なんて言わせてなるものか……!!

そんな決意も新たにしている私に気づくこともなく、プリメラさまはとてもご機嫌です。

「ルイスおじいさまとユリアと、お茶会ができるなんて夢みたい……!」

私としても若干場違いじゃないかしらって心配ですけどその場にいられることは夢のようですよプリメラさま!!

馬車の中であれやこれやと会話を楽しみながら、時にセバスチャンさんに給仕していただいてとかこんな優雅な旅を私がしていていいのか……とちょっとドキドキしてしまいます。

できたらプリメラさまへのお茶は私が淹れたいなあなんて思っているのはきっとセバスチャンさんにはバレバレなのでしょう。

『おとなしくしているように』

そう視線で釘を刺されたような気がしますが、気のせいではないはずです……!!

なにせ今でこそ私が王女宮筆頭としてしっかりしているのも、セバスチャンさんがあれこれ教えてくださったからなので、やっぱり頭が上がりません。

「……ねえユリア」

「はい、なんでございましょう?」

「いつか、わたし……ファンディッド領にも行きたいわ」

「え?」

「かあさまが育った土地を、プリメラも見たいなあって。それからね、バウム領も行きたいの。わたしがいつか嫁ぐ先だけど、先に知りたいなって……ほら、かあさまがセレッセ伯爵家のご令嬢が顔合わせの時に領内を見て気に入ったようだって言っていたでしょう?」

ちょっと照れくさそうに笑ったプリメラさまが、お茶を飲んでふぅっと息を吐き出しました。その仕草は、どこかご側室さまを思い出させてどきりとしたのは内緒です。

「わたしも未来のバウム伯爵夫人になるのだもの、自分が暮らしていく土地を、そこに住まう人たちの顔を見たいなって思ったの。王城にいるだけではわからないことは、たくさんあるものね」

「プリメラさま……」

まだまだ子供だなあ、なんて思っていたのに。

女の子の成長は、なんて早いんでしょう。

私はにこにこ笑うプリメラさまの笑顔を、まぶしく思ったのでした。