軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

310

「あ、あー……えっと、アルダール、休憩時間、ですか?」

「うん、ユリアの様子を確認しに、ね」

「あー……」

心配をかけたんだろうな、というのは予想できました。

なにせ王弟殿下も統括侍女さまも、騒ぎをご存知でしたもの。

となればアルダールの耳に入っていたとしてもなんら不思議ではありません。

エイリップ・カリアンさまの件ではアルダールに相談もしていましたしね。気を付けてはいたし、レジーナさんがいたおかげで怪我はないですが……その後の話も含めて、一度ちゃんとお話をしたいかなとは思いました。

とはいえ、私は休憩時間が終わっておりますしアルダールは休憩の合間に様子を見に来てくれただけ。

「あの、アルダール」

「うん?」

思ったよりは怒っていない雰囲気!

若干目が笑っていない気がしますが、……いや、それは私の考えすぎだったのかもしれません。

「今日の夜は勤務ですか?」

「いや、……そうだな、いつもよりは今日は早く終わるよ」

「では食事に出ませんか? 野苺亭に久しぶりに足を延ばしたいなと思うんですけど」

「……いいよ。じゃあ仕事が終わったら迎えに行くよ。それでいいかな?」

「はい、ありがとうございます」

いつものように穏やかに微笑んで応じてくれたのでやっぱりそんなに怒っていないのかもしれません! ほら、前に王弟殿下はお兄ちゃんみたいってアルダールには言ってありますしね。

「ユリア」

「はい?」

名前を呼ばれて、足早に距離を詰められて、思わずびっくりしてアルダールを見上げてしまえば彼はとても静かな表情で私の髪を撫でつけました。

すごく優しい触り方だったのでくすぐったいなと思うのと、それがアルダールの手だと思うとむず痒いような嬉しさがあって思わず私も手を伸ばして彼の手を掴み、ほおずりしてしまって。

「はっ……! す、すみません!」

「……いや、いいけれど。髪が乱れていたからと思っただけなんだけどね」

くすくす笑い始めたアルダールに、私はただただ恥ずかしくなるばかり。

ほんと慣れって怖い! 慣れって怖い!!

少し前までの私だったらこんなスキンシップあり得ないってくらいだったのに、アルダールとこういう触れ合いにいつの間に慣れてしまったのでしょうか!?

(……恥ずかしい)

しかもアルダールはただ髪の乱れを直そうとしてくれていただけとかほんともう、恥ずかしくてですね……おそらく今の私は首まで真っ赤なんじゃないでしょうか。

思わず俯いてしまいましたが、アルダールはまだ笑っているようです。

それが悔しくて、少し睨みつけるようになってしまいましたが彼は怯むことなく小首を傾げて私を見ているではありませんか。くっ、余裕か。

「正直に言うと、少し妬いていたんだけど」

「えっ」

まさか本人からの申告ありですか。あれもやっぱりアウトですか。いやでもどう考えても王弟殿下も面白がってたし妬くだろうなって思ってたんだろうし、私も妬いたかなって思ったくらいですし、まさか本人があっさり認めるとは思いませんでしたが……。

「だけど、ユリアがそんな可愛いことをしてくれたからどうでも良くなるな」

「忘れましょう! 今すぐ!」

「さて。ほら、これで髪の毛も綺麗に直った。それじゃあまた後で」

「アルダール!」

いけません、これはいけません。

去って行くアルダールの背中を見送って、私はぐっとこぶしを握り締めました。

ユリア・フォン・ファンディッド、このところ腑抜けていたのかもしれません!

なんという体たらくでしょうか。

このままではプリメラさまの専属侍女として、責任ある王女宮筆頭という立場のある人間として、残念過ぎるではありませんか!!

(……そうです、ちゃんとしなければ!)

気合を入れ直して、きちんといたしましょう。

ミュリエッタさんのことは気にしなくても良いし気にしすぎるのは逆に失礼だったのだろうと割り切るのです。

エイリップ・カリアンさまについては王城内での心配はほぼなくなったのだから頭から切り離しちゃっていいでしょう、この際。

パーバス伯爵家に関してはもういいです、メレクに任せます。あの子だってもう一人前、一人で手に負えなければ家族に助力を求めることだってできるのです。

……お父さまとお義母さまが大丈夫かな? っていう心配はありますけど。

「よし!」

小さく気合を入れ直して、とりあえず執務室に戻って深呼吸をして体を伸ばして、心機一転! 頑張りましょう。

アルダールには今日あったこととある程度の進展具合を説明して、……王弟殿下に言われたことを、少し相談というか、反省したいと思うのです。

(アルダールも、前に……あまり、ミュリエッタさん関係は、避けた方がいいというようなことを言っていたものね)

私は、心配をかけているのでしょうね。それこそ付き合いの長い王弟殿下やプリメラさま、セバスチャンさんやメッタボンだけでなく。

恋人であるアルダールにも、メイナやスカーレットにも。

勿論、お父様さまとお義母さまは私を娘として内容はともかくずっと案じてくださっているでしょうけど。

……そこら辺はこれからです、これから。

(考えるのは良いこと。だけれどウジウジするのは考えるのとは違う)

ミュリエッタさんのことは、心配 でした(・・・) 。

そうです、もう過去形です。

彼女がメレクと同い年だからとか、平民出身だから貴族社会の怖さを知らないからとか、同じ転生者かもしれないとか、顔見知りだから、とか……私が気にしてはいけなかったのです。

私の見えるところにいても、手の届くところにいないのです。

彼女には彼女の保護者がいる。それでいいじゃないですか。

どうして私はそれに気づかなかったのかしら。

そういう意味ではまだまだ私も【ゲーム】に考えを囚われているのかもしれません。

そうじゃないって決めて、行動を起こしてその結果を見てきた私ですが……いえ、勿論、【ゲーム】の強制力が働くという可能性はゼロでない以上ゲーム期間は気を抜かずにプリメラさまの安寧を守るつもりではありました。

(単純な話じゃない、可能性、ただそれだけのこと)

それは何も【ゲーム】に限ったことではないのです。

ありとあらゆる可能性の中で、プリメラさまにとって良くないことに対して私は行動をするだけなのであって、その過程で私の手の届く範囲のことはしよう。

(今までだってそうしてきた)

それ以上のことなんて、私にはできないのだから。

色んな人の手助けを、自分の力だと思ってしまっていたのでしょうか? 私の周りが大きく変化していて、私は自分を見誤っていたのかもしれません。

「……初心に返るって本当に大事ね」

叱られてようやく気付く、初心です。

なんだか一句読めそうな感じですが、私はそれでも気づけました。

気づいたところから、また頑張ることが大事なのでしょう。そう自分を励まして、私はいつもの仕事に取り掛かることにしました。

といっても、あんまり出来そうなことがなかったので書類の整頓だけしてプリメラさまの所に行くのですけどね。

夜は出てくるということをセバスチャンさんに伝えて、緊急時の体制を作っておかないと。

(アルダールが来る前に、きちんと全部終わらせておこう)

まず、自分にできることからやろう。

そして今までのことを反省して、ちゃんとアルダールにも話して謝って、自分がすべきことを一つずつ、一つずつ、丁寧にやって行こう。

「……アルダール、さっきの忘れてくれないかしら……」

願わくば、後それなんだけどね!