作品タイトル不明
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「どうぞ身辺にお気を付けください。最近はなにかと物騒ですからなあ!」
……朗らかな笑顔で、物騒なことを言われたんだと思うんですが。
私の気のせいなのか? ってくらい目の前の会頭ったら良い笑顔。
「いやいや、ユリア嬢の身はなによりも守られているのだから、会頭もあまり女性を怖がらせるようなことを口にするのはいかがなものかと思うよ?」
「はは、いやぁすみません。そうですな、申し訳ない」
キース・レッスさまがやんわりと注意すれば会頭は私に向かってすぐに謝罪をしました。
私としてはなんと答えて良いのかわからなかったので、無難にうなずいておきましたけれど……いえ、心配してくださっているのか、それとも裏があるのか。
(どう考えても裏がある話しっぷりだけどね……)
言葉通りに受け取るにはちょっとアレですものね!?
決して私の心が捻くれているわけではございません、ええ、決して。
「近衛騎士さまに守られ、王女殿下の信頼篤き御方とはいえ良からぬことを考える者がいないとは限りませんので、ついつい心配に……とはいえナシャンダ侯爵さまとも親しいという話を耳にしておりますので名だたる貴族たちもお味方になりましょうな!」
「えっ」
もっともらしいことを言っているようで、私が知らない話をしれっとしてきましたよこのタヌキ!!
それに対して思わず反応が遅れた私をフォローするかのように歩み寄ったキース・レッスさまが、私の手をとってにこやかに会頭を見ましたが、こちらも目が笑ってないよね……!?
「おや、耳が早いね。さすが天下のリジル商会、その元締めだねえ」
「ははは、情報は生きたままでないと! 商売には大事ですからねえ!」
(いやいや、私のことを話しているようで置いてけぼり止めてくれないかな! ……いや、決して面倒の渦中に引き込まれたいわけじゃないけどね!?)
っていうかナシャンダ侯爵さまの名前が出るとかタイムリーだよね、いやタイムリー過ぎるよね。
ということは、それも 含めて(・・・) なにかしら事態が動いていると考えるべきなのかしら。少なくとも、私は外野というわけではないけれど直接知らされることもない駒の一つというところ?
(だとしたら、その 台本(シナリオ) を書いたのは誰なのかってのが問題なわけで)
私の身になにかしら危険が迫っているというようなことが含まれているのであれば、可能性として考えられるのは三つ……四つ?
一つ目はシャグラン王国の貴族。
お父さま含めて貴族たちを賭博で破産させようとした件に私が関わったことで公的なメスが入ったからそこの恨み?
秋の園遊会の件でシャグランのバルムンク公爵家の代替わりとなったけれど、別に脳筋公子はアルダールと勝負はしたがっていたけれど、私のことは箸にも棒にも掛からぬってやつだったからここはあんまり関係ないと思う。
(それに、王城で働く私に何かあればそれこそアルダールだけじゃない、他にも色々あるってわかっているんだからそんなリスクをあちらが背負いたがるとは思えない。嫌がらせをするなら、 実家(ファンディッド家) にすると思うけど……今やキース・レッスさまの庇護下にあるからそう簡単に手を出してくるとは思えないし)
二つ目はタルボット商会。
まあ多少痛い目に遭ったらしいけれど、正直こちらは私、関与していないからね!?
気が付いたらあれよあれよとジェンダ商会の会頭が片付けてくれて、なぜかあちらが経営を縮小したっていうだけで……いやでも十分逆恨みされる理由にはなるか。
(こっちの方が可能性は高いかしら? 最近城下で動きがあるというのを先程耳にしたばかりだし。でも商人にとって恨みはあっても私にそれを仕返ししたとして、なんのメリットがあるのかしら。利がないのに動くとは思えないし……)
三つめは、ミュリエッタさんに関して。
これは正直ミュリエッタさん本人がどうとかいう問題ではなく、彼女に熱を上げている冒険者たちが私とかアルダールをよく思っていないっていう現状問題よね。
とはいえ、冒険者全体がそうだとは思わないし、彼らだって私のことを直接的に知っているわけじゃないからそこまで重視することじゃないと思う。
(セレッセ領でのあのトラブルでわかったことであって、普通に暮らしていたら知らないで終わったレベルの話だからこの線は薄いかな)
四つ目は、パーバス伯爵家……というか、エイリップ・カリアンさま?
いやあこれに関してはなんとなく思い出したレベルなんだけど。
(あ、でもあの人、軍属なんだった。王城で会うことはほぼないだろうから、可能性としてはほぼ考えなくていいか)
アルダールに対して一方的に 敵愾心(てきがいしん) を燃やしていたようだし、エイリップ・カリアンさまの父親の方もキース・レッスさまに対して思うところがあるらしいっていう話を小耳に挟みましたし?
……あの人たち、天然のトラブル発生機なのかしら。
そもそもがあの妖怪、じゃなかったパーバス伯爵さまが地位に固執して次世代を育てることを嫌がってあえて避けていたからそんな風になったのかもしれませんけどね!
「キース・レッスさま?」
「まぁまぁ、ユリア嬢。折角会頭も来ていることだし貴女が淹れてくれたお茶が飲みたいなあ! どうだろうかリジル殿」
「おお、それはありがたく。何せ王女宮の筆頭侍女さまの茶は格別であり、直接淹れていただける機会は数少ないですからなあ」
そりゃそうだ、リジル商会の会頭相手に茶を淹れる機会がそんなにあってたまりますか。上手なセールストークにこっちの財布全部持っていかれる未来しか見えませんよ。
それにプリメラさまもいくら王家御用達のリジル商会だからって深窓の姫君ゆえにそうご利用になりませんしね。
(まあその理由が、美味しい茶葉はセバスチャンさんが、淹れる人間は信頼できる侍女たちで、美味しいお菓子はメッタボンがいるし自分が望むことはなにもないからだ、だなんて……)
ああー思い出せば出すほどうちの王女さま、どこまでいっても天使……清らかなる天使……微笑みひとつで世界を浄化する、そんなパワーを秘めていらっしゃる……。
ちなみに王太子殿下もそんなにリジル商会を利用することはないようです。
王家御用達というのは基本的に、必要に応じて『王族の方が利用なさるに値する品を取り扱う』店であると信頼に足る商会だということですから当然と言えば当然ですけれどね。
御用聞きと言いながら王城にちょくちょくきているのは、国王陛下とリジル商会会頭がオトモダチだからだっていうだけの話。
「……そこまで仰っていただけるのであれば、勿論喜んで」
「ありがとう、ユリア嬢」
にっこり笑ったキース・レッスさまが目を細めて笑う。
今この場で問い詰める話題じゃないんだと暗に言われているのがわかるので私もにっこりと笑ってみせましたけどね。
「お父さまも温かいお茶でよろしいですか? ……お父さま?」
「えっ、あ、ああ……うん。ありがとう、ユリア……。お前、本当に……」
「なんです?」
お父さまが目を白黒していらっしゃったので、私はそっと声を潜めてお父さまのそばに身を寄せました。
その横でキース・レッスさまと会頭が、今年の布地の話題でなにやら悪い笑いをしていましたがそちらは私、見なかったことにいたします。
お父さまは私の方を見て、でもどこか遠い目をしつつ声を小さくして言いました。
「お前、本当に……すごい人たちと知り合いで、すごい人間だったんだねえ……」
「まああの方たちはすごい人だとは思いますが、私は違いますからね!?」
お父さま、勘違いしてはなりません。
貴方の娘は、間違いなくモブです。
プリメラさまの侍女にならなかったらこんなすごい人たちに絡まれる……じゃなかった、親しくお声をかけていただく機会なんてきっとなかったんですからね!
そんな私の注意を、お父さまはどう受け止めたのか。
うんうん、となぜか悟りを開いた賢者のように穏やかなお顔をしておいででした……。