軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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私の言葉に、王弟殿下とキース・レッスさまはとても微妙な顔をなさいました。

二人は顔を見合せたと思うと、難しい顔をして私の方へと向きなおるからこちらもなんとなく背筋が伸びますよね!

私が悪いわけじゃないんだけど! 一切悪くないんだけど!!

「あ、あの……?」

「ライラ・クレドリタス。その名前を出したんだな? あのお嬢ちゃん」

「は、はい」

「……ユリア殿はライラ・クレドリタスという人物については?」

「バウム家の町屋敷でほんの少しだけ」

「……そうか……」

少し考えた様子の王弟殿下は、じっと私を見つめて何かを悩んでいるようでした。

キース・レッスさまも難しい顔をなさっていて、そんなにもこの話題は良くないものなのだなあと思うと胃が痛くてたまりません。

ミュリエッタさんの置き土産、とんでもないもののようです。

「ユリア」

「は、はい!」

「……この話は、バウム家の、バウム伯爵の醜聞だ。どうするかも含めてこの件はバウム伯にオレから話す。それでいいな」

「はい、決して口外いたしません」

王弟殿下は私のきっぱりとした口調にふっと表情を和らげて、優し気な笑みを浮かべて手を伸ばしたかと思うと私の頭を撫でてきました。いつもみたいに乱暴にぐしゃぐしゃってするんじゃなくて、ぽんぽんと宥めるみたいな、え、ちょっときゅんとした。

「お前が物分かりの良いやつで助かる。……悪いな、詳しく話してやりたい気もするが」

「いいえ。私が知るべきではないのでしょう、……家族の問題ですから」

「……そうだな」

私の言葉に、王弟殿下は真剣な顔で頷きました。

この方も複雑な家庭環境で、アルダールの気持ちがわかるのかもしれません。

「……オレが言うのもおかしな話だが、バウム伯爵は不器用な男で、誠実な男なんだよ」

「……?」

アルダールからも、不器用な人だとは耳にしたことがありますけど。

なんでそんなことを言うんでしょう?

あれでしょうか、もともとバウム家に流れるアルダールの出生にまつわる公然の秘密、あれで私がバウム伯爵さまを嫌っていると思われたんでしょうか……?

ちょっと女性目線で納得できないところがあるけれど、そこは古くから続く貴族の嫡子として色々あるんだろうなって複雑な思いでいただけですがそんな風に見えているのだとしたら気を付けなくては。

「バウム伯爵さまはご立派な武人であられますし、私に思うところは別にございませんが……」

「まあ、そうだろうな。だけど、……まあ知っておいてやってくれ」

「はい、わかりました」

よくわかりませんけど!

まあ、覚えておけばいいってことですよね? わからないことを無理に聞こうとしたらきっと後悔する気がします。後で悔いると書いて後悔ですからね!

「まあ、いい。おいセレッセ伯、そういうことだからそっちの案件はその方向も視野に入れて動け」

「かしこまりました。まったく人使いの荒い……」

「あン?」

王弟殿下の言葉にわざとらしいほど肩を竦めて見せたキース・レッスさまはからからと笑って立ち上がると私の手を取ってウィンクを一つしてきました。

きざなのにきざったらしくなくて、キース・レッスさまらしいというかおちゃめさん!

そんな様子に呆れたように笑みを浮かべた王弟殿下の姿から、どうやらいつもこの調子で会話をしているんでしょうかね?

「それではもうユリア殿は解放でよろしいので?」

「ああ、あんまりここに留めておくとうるさいのがいるだろう?」

「流石にあのお嬢さん絡みとわかっていればそこまで……といえないのが我が後輩ですなあ、ははは、申し訳ない!」

「全然申し訳ないとか思ってないだろう。教育係」

「いやはや、お恥ずかしいことで!」

笑い合った二人についていけない私ですが、そのままキース・レッスさまに肩を抱かれるようにしてあれよあれよと王弟殿下の執務室から退出いたしました。

勿論ちゃんと退出のご挨拶はいたしましたよ!!

エスコートがスマートっていうか、有無を言わせない辺りがもうこの件の闇を感じるっていうか……やだなあ、なんでこうなった。

いやわかってますよ、我が国有数の武門で王家の信任篤い大貴族が冒険者上がりの一代貴族、その娘に 外に知らせていない(・・・・・・・・・) 醜聞を言い当てられたっていうのはとんでもない話ですからね。

(ミュリエッタさんは、どうなるんだろう)

彼女の幼さゆえにとんでもない地雷を踏んだのだと私は思っていますが、彼女はそう思っていないかもしれません。

だからって、不憫にも思うし同情もしますが、私がここで首を突っ込んでもきっとどうにもならないと思うくらい大ごとなんですよね……。

(間違えちゃいけない。私が守りたいものは何か、だ)

私は物語の英雄でも聖女でも、チート能力を持っているわけでもない。

ただのモブで侍女。なら、できることなんて限りがあって当然。

後悔だってするし、もう少しなにかできたら良かったのにって悔しく思うことはきっとあるだろうし、今までだってそうだったようにこれからだってそうでしょう。

でも私は精一杯やるべきことをやるだけだし、それで大切に想う人が笑ってくれるなら、……それが大事。

(私が守りたいのは、プリメラさま。……それから、王女宮のみんな)

不安がないわけじゃない。

だけどそれは、今までと同じ。

「ユリア嬢」

「まあ、呼び方が……」

「先程は王弟殿下の前だったからねえ。貴女とは友人のつもりだからね」

「……ありがとうございます」

「外ではこうしてユリア嬢とお呼びしたいものだが、いやだったかい?」

「いいえ、お好きにお呼びください」

キース・レッスさまがいたということは、きっと国外とかの問題も見据えてなんだろうなあ。園遊会の時にエーレンさんが辺境出身ということで他国との繋がり云々と疑われたように、その延長上に姿が見えていたミュリエッタさんも多分疑われているんでしょうね。

そこに加えてバウム伯爵家の醜聞問題か……いやもう私の許容範囲も遥か彼方に飛び越えていった感じですよね。

「ユリア嬢」

「はい」

王女宮への道までエスコートしてくださったキース・レッスさまが、真面目な顔で私を見据えていました。

いつも柔和な笑みを浮かべているイメージがあるだけに緊張感があって、私も何を言われるのだろうかと身構えた所でキース・レッスさまはゆっくりと、頭を下げたのです。

「き、キース・レッスさま!?」

「アルダールを、よろしく頼む」

「……えっ?」

「今はそれしか言えないが、あれでも可愛い後輩だからね。……それじゃあ、ここで失礼するよ」

顔を上げたキース・レッスさまは、もういつもの笑顔でした。

だからこそ、私はなんとなく取り残された気がしました。

(……よろしく頼むって言われても)

どうしたらいいっていうんでしょうか。

どうすれば、良いんでしょうか。

わからなくて、私はただキース・レッスさまが去った方を見ることしかできませんでした。

それでもそのままそこに突っ立っているわけにもいきませんので、何とか深呼吸をして気持ちを落ち着けてから執務室に戻ると部屋の前に人の姿があって、私はなんとなしに体をぎくりとさせてしまいました

だって、それはアルダールだったから。

会えて嬉しいのに、どうしたら良いのかわからない。そんな気持ちが思わず態度に出てしまって、私に気が付いたアルダールもそれを見たのでしょう。

眉間に皺が……それでもイケメンってやっぱりズルいな!?

「あ、アルダール……勤務は?」

「終わったよ。エーレン殿に会いに行っただけにしては随分遅い気がするけれど?」

「え、えっと……あの、中に入りませんか。立ち話もなんですから」

「……わかった」

一難去って、また一難!

少しは考える余裕ってものをくれませんかねえ!!

なんて文句が言えたらいいのに……ですね。とほほ。