軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「今どんなに仲が良くても! クレドリタス夫人が実の母親だって知ったら、アルダールさまは心が壊れちゃうんですよ!!」

ぐっと握りこぶしを作ったミュリエッタさんの力説を、私はかなり奇妙な気分で聞いていました。うん、なんか他に表現できない。

この子は、何を言い出しているんだろう。

それにつきますね!!

「……ミュリエッタさん」

「いいですか、アルダールさまにそれを告げる人が現れた後、アルダールさまはすべてを拒絶するんです」

「ミュリエッタさん」

「家族への愛情とかも信じられないし、貴族ってものが信じられないし、自分のルーツに疑惑を持って逃げ出したいのに逃げれないなら、あたしが……」

「ミュリエッタさん!」

こちらの言葉なんて聞く気がないと言わんばかりにマシンガントークを始めた彼女を、少し大きめの声で制すればようやくミュリエッタさんも止まりました。

とはいえ、不満そうな顔をしていますけどね。

いやいや私の方がそうしたいくらいだわ!

まあそんなこと言いませんけどね、私の方が大人なわけですし、社会人ですもの。

「まず第一に、その話を鵜呑みにすることはできませんし、仮に真実だったとしても私にその話をなさることを理解できません」

「だからっ、あたしが、あたしならアルダールさまを助けられるから……」

「アルダールに、名前で呼ぶなと忠告されていましたね。そのことをお忘れですか。……わかりませんか、貴女と彼の関係は友人ですらないのですよ? それなのになぜそこまで自信を持てるのですか」

「……えっ……」

私に問われて、ミュリエッタさんが怯みました。

怯んだというよりも、心底驚いた、でしょうか?

私としてはごくごく普通のことを聞いたつもりなんですけどね。

大体彼女が言っていることが真実だとして、過去そういうことがありましたってそれは予言じゃないし!

クレドリタス夫人が実母とか……そうでないことを祈るばかりですが、まあそれはこの際置いておきましょう。

(誰が実母かとアルダールの耳に入れる人物が現れる、そしてアルダールが絶望する……というのが彼女の言っている『予言』だとして)

まずバウム伯爵家の醜聞としか言いようのないそれを 今更(・・) アルダールに告げる理由はどこにあるのでしょう? 何一つメリットが見出せません。むしろバウム家に敵対している勢力の嫌がらせかって思うのが先じゃないですかね?

そしてそれが真実だと誰が証明してくれるっていうんでしょう、バウム伯爵でしょうか?

いやいや、ないでしょ……。

その上で、彼女が言う『家族に対する愛情が信じられない』とか自分のルーツについてとか、それとこれは別ものでしょう?

(私が知っているアルダールは)

父であるバウム伯爵を、言葉足らずの不器用な人だと。

義母である夫人を、弟と変わらぬ愛情を注いでくれた人だと。

ディーン・デインさまを、可愛い弟だと。

目を細めて、笑ったあの人が実母のことを聞いてショックだったとしても家族を信じられなくなるなんて思えません。

「これ以上、この話を口外してはなりません。良いですね?」

「あっ、あたしは……!」

「バウム家の内情を知る危険人物。わかっていますか、貴女がしているのはそういうことですよ?」

「き、けん、じんぶつ……? あたしが?」

「そうです。他人が知らぬ事情を知っている? それも聞いたのではなく“見た”と。わかりませんか、それがどれほど危険なことで、貴女は何を口にしたのか」

優しく聞かなかったことにしてあげる。

小さな子供の、可愛い悪戯を見逃すように。

それができれば簡単でしょうね、でもそれができないんですよ。

そもそも可愛い悪戯や失敗なんて範疇を相当飛び越えての危険発言だもの。

私個人の感情云々じゃありません、彼女自身、すでに警告を何度も受けている話。

今更、私がこれを黙っていたところでほかに誰が知っていたっておかしくない……というのは考えすぎでしょうか?

壁に耳あり障子に目あり……ってね。

ニコラスさんの胡散臭い笑顔が脳裏を過りましたが、あまり考えないことにしました。背筋が寒くなっちゃうからね!!

私の言葉に、ミュリエッタさんが何かを言いかけて口を噤みました。可哀想に、顔色は真っ青です。だけれどその目は怒りを湛えていて、逆に年相応に見えたのは気のせいでしょうか。

それまで穏やかに笑みを浮かべ、無邪気な少女の顔をしていたミュリエッタさんが、怒りや焦りを隠さず表情に出しているのがなぜだか彼女の素顔をようやく見れた気にさせたのです。

「アルダールさまが、心配じゃないんですか!」

「……私は、アルダールを信じています」

彼女が案ずる気持ちは、本物なのでしょう。

ちょっとどころではなく、ずれている気がしますが。

「どうしてわかってくれないんですか、そうしたら みんな(・・・) 幸せなのに……!」

勢いよく立ちあがったミュリエッタさんは、私に向かって叫ぶように言いました。

けれど、その言葉に私は疑問を覚えずにはいられません。

そして、それをそのまま口にしました。

正直、イライラしているんだと自分でも思いましたが、努めて冷静に振舞っているつもりです。

大人げない? ……いえいえ、そんなはずはないと思います。

「それは、どなたの幸せですか」

私の問いかけに、ミュリエッタさんがまた驚いたように目を見開いて、私を凝視しました。緑の目が、落っこちそうなほど大きく見開いた彼女は一歩、二歩と後ずさりました。

「み、んなの……」

「ですからそれはどなたのですか」

「……」

アルダールが本当に絶望したとして。

ミュリエッタさんの手を取って、騎士の誇りを捨てこの地を去れば誰が喜ぶというのでしょう。

ご家族も、同僚も、もちろん私も。誰一人として喜べません。彼が幸せなら良いじゃないか? そんなの詭弁です。何一つ、問題を解決しないままじゃないですか。

(私が知っているアルダールなら、きちんと向き合ってくれる)

その上で出した結論を、ちゃんと告げることができる。

そういう“強さ”をあの人は持っている。私はそう信じている。

だから、ミュリエッタさんの言葉は衝撃ではあったけれどそれだけだ。

「あたしは! みんなを幸せにしたいだけだよ……!!」

「あっ、ミュリエッタさん!?」

私の言葉に顔色を一層悪くしたミュリエッタさんが、駆け出しました。

慌てて追いかけましたが、流石元冒険者というべきでしょうか、ブーツを履いていたからなのか、とにかく彼女の姿はあっという間に遠のいてしまいました。

追い詰めてしまった、と反省はしましたが後悔はしておりません。

(……それよりも これ(・・) をどうニコラスさんとアルダールに説明するのよ……?)

脳内をフル回転させたところで良い考えは生まれず、ミュリエッタさんが去っていった方向を見つめてドアを閉めるために手を伸ばしたところでエーレンさんの姿が見えました。

どうやら途中で駆けていくミュリエッタさんを見たのでしょう、彼女も大慌てで私の所へ走ってくると、息を整えて心配そうに私を見つめました。

「……ミュリエッタ、は……」

「……少し、話し合いが拗れてしまいまして。ごめんなさい、貴女の結婚祝いの席だったのに」

「いいえ」

エーレンさんは力なく首を左右に振って、寂しそうに笑いました。

そして視線を、彼女もまたミュリエッタさんが走り去っていった方角に向けてからそっと目を伏せました。

「これで良かったんです、……彼女には改めて手紙を書きたいと思います」

「そうですか」

「茶葉を買ってまいりましたので、あの、よろしければユリアさまの護衛の方も招いて改めてお茶にしませんか」

泣き笑いを見せたエーレンさんに、私はちくりと申し訳なさを覚えましたが……その彼女の精一杯に応じるために、私は馬車に向かって手を振ったのでした。