軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ニコラスさんの笑顔が若干曇ったところで溜飲は下がりましたから、お引き取り願いました。

ええ、今回はこのくらいで引いて差し上げましたとも。あんまりやりすぎてはまたあちらから何を言われるかわかったものじゃありませんからね。

今回この程度で収めておけば、ニコラスさんだって私がただいいように使われるだけの女だとは思わないでしょう。

……危険はないけど財布に被害を与えてくる女だと!!

いやうん、なんかかっこ悪いな?

とにかく、ニコラスさんが出て行ってすぐに私はエーレンさんにお返事を書きましたとも。

色々心配をかけていて申し訳ない、もし大丈夫であれば一度エーレンさん主催でお茶をしませんか、と。

エーレンさんが主催なことで私もミュリエッタさんも貴族令嬢としてではなく、彼女の『友人』として集まることが出来て周囲の目もあまり気にしないで済むのではないかという理由も添えて。

思うに、一度エーレンさんも義理を果たしたことになって安心して遠方へと旅立てるでしょうから、あんまり他のことに気をとられていてはなかなか旅支度も進まないのではとこちらも心配ですしね!!

(……いや別に私はミュリエッタさんに会いたくはないけどね)

狐狩りの時に窓からこちらをぞっとするほど温度のない目で見降ろしていた彼女がちょっとしたホラーだったから思い出すとちょっと背中がぞわぞわって。ぞわぞわってした!

でも、会いたくはないけど……どうせなら私も『会って話をした』って実績をもって彼女が探りを入れてくるのを終わりにしたい気持ちもある。

いやまあミュリエッタさんが納得しなくてこれが徒労に終わる可能性もあるのは理解しておりますとも。

(まあ悩んでいても仕方ない)

エーレンさんの顔を立てることもあるし、癪ではあるけどニコラスさんの策に乗るのが一番いいんでしょう。

ケーキも買ってもらう話にまでもっていってしまったしね。

まさかと思うけどあの嫌そうな表情まで演技でこうなったら私が引けないという確信犯じゃないだろうな!? ……違ってほしい。

私に関してはもう王太子殿下もニコラスさんも問題なしと思ってくれているのだろうとは思いますが、どうにもきな臭いお話は本当、よそでやっていただきたいですよね。

(でもビアンカさまのお茶会前に憂いは断っておきたいし)

下手な同情はしてはいけない。うん、気を付けようね!

私は単なる侍女に過ぎないのだし、彼女のように『英雄』として期待されているような人とは住む世界が違うのだ、ってことでまとめちゃだめかしら。

いえ、生粋の貴族令嬢ってものには違いないんですけどね、私も。

「……まああれこれ悩んでいても仕方ありません」

手紙を書き上げて、インクが乾いたことを確認して、折りたたんで……最後に封蝋を施してっと。

エーレンさんはどう思うのだろう、あるいはどう思っているんだろう。

幼い頃から知っている、いうなれば幼馴染なんだろうけど。

でも彼女の発言を何度も耳にして思うのは、幼馴染、っていうにはエーレンさんがミュリエッタさんに抱いている感情は違うと思う。

畏怖に近いんだろうか? いやまあそりゃそうか、未来予知ができる、……まるで聖女のような存在に見えていたんだろうから。

(……そういえばミュリエッタさんと、アルダール抜きで会うのって初めて……?)

だとしたら彼女は遠慮のない言葉を向けてくるかもしれない!

転生者だとわかれば……わかれば?

別に何も変わらないな……?

(いやうん、もうすでに私の中ではほぼ確定だけど、だからってゲームとはもう全く違う現実なんだし。別にアルダールがゲーム通りに彼女に惹かれるってわけでもなさそうだし)

それこそ彼女の言動に私が惑わされなければ、今何かが変わる! ってこともないでしょう。

これで『現実』を見てくれてミュリエッタさんの目が覚めてくれるなら私とエーレンさんにとって万々歳の結果となりますが……ま、そう甘くはないでしょうね。

それで済むなら彼女だって今頃あそこまで自信たっぷりに行動してなかったと思いますし。

「ユリアさま、今よろしいかしら?」

「あらスカーレット、どうかした?」

「はい、こちらの書類なのですけれど……」

ノックをして控えめに顔を覗かせたスカーレットに、私は案外思索に耽っていたらしい自分に気が付いて慌てて立ち上がる。

けれど、スカーレットはそれに気が付かなかったようで書類を片手に難しい顔をして、ああうん、その文官、文字が読みにくいのよね! 解読が必要だったのね!!

特別大きな問題が起こって来たわけじゃないとわかってほっと胸を撫で下ろし、癖の強い人もいるからと解読を手伝って、去り際に手紙を出していってもらうことにしました。

(これで、エーレンさんからの返事待ちだとしても……きっとお茶くらいはするでしょう。その日はお休みをいただくとして、服装は一般的な外出着にするとして)

手土産はニコラスさんに請求をするにしても、ついでに紅茶とジャムも追加しておこう。

もしあの動揺した顔自体が罠だったなら、見事に嵌まって悔しい限り!

そうじゃないならそうじゃないで、次に『お茶会の報告』で会う理由にもなるでしょうしね。

いくら王子宮と王女宮、仕える方が同じ王族だからとて違う宮の人間が理由もなく頻繁に会っているようでは妙な誤解や勘繰りをされないとも限らない。

アルダールはわかってくれるだろうけど、良い顔もしないだろうし。

(……アルダールと言えば、このことを伝えておくべきかしら)

いや、いくら嫉妬深いって自己申告ももらっているとはいえ女性だけのお茶会でそんなことは言わないと思うけど。ミュリエッタさんがらみってことで心配するかもしれない?

そこまで過保護ではないと思うけど……ニコラスさんが発案って言ったら嫌そうな顔をするだろうなあとまでは想像できました。

よし、と一つ自分を鼓舞してから部屋を出て、セバスチャンさんを探しました。

プリメラさまの給仕をお任せしてあったので当然その周辺にいるわけなので、探すほどのこともないんですけどね!

(終わった後に話せばいいか……)

あのお酒の醜態を思い出すとちょっと顔が合わせづらい。

いつまでも合わせないわけにはいかないので、まあそこはおいおい……だけどニコラスさんの名前を出してわざわざ気まずいところにプラス気まずいはノーセンキューも良いところですからね。

私は自分が可愛いのです。

「セバスチャンさん、今後の予定で少しお話が」

「承知いたしましたぞ」

薄く笑うセバスチャンさんも、おそらく、ですが。

有事でなければニコラスさんよりは私を優先してくれるのではないでしょうか。

一番なのはプリメラさまですけどね! 私にとってもですが。

ニコラスさんに会いたいと言った時点で私になにかあったのだと知っているセバスチャンさんは今後の予定で急にお休みをいただくかもしれないことを了承してくれました。

いやあ頼りになる執事さんですよね!!

「……ところで、貴女の恋人への説明はちゃんとした方がよろしいですぞ。差し出がましいですが」

「ナンノコトデスカネ」

「どうせ貴女のことだから、女性のみだから大丈夫……もしくはニコラスが絡むと面倒だから事後報告でいいかとか思ってらっしゃるかと」

「……セバスチャンさん、なんでわかるんですか……」

「ニコラスよりも貴女の方が孫のようなものですからなあ」

「え?」

にっこり笑ってセバスチャンさんがそっと私の頭を撫でて去っていきました。

あっ、スマート……さすがのイケジジイ……。

そう思わずにはいられなかった私を誰か許してほしい。