軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 とある近衛騎士の自覚

「おい、アルダール・サウル!!」

「なんです、騒々しい」

「お前宛に手紙だぞ」

「ありがとうございます。……なんです、くれたらいいじゃないですか」

目の前でニヤニヤと笑うのはハンスと言って、近衛隊の同期だ。まあ、腐れ縁のように仲が良い相手でこの悪い笑いをしているのに実家は侯爵家で三男坊。要するに自分と同じで家督を継げないから就職活動をした結果、というやつだ。

で、差し出された手紙を受け取ったのに相手が離さない。

「相変わらずモテてんなー、これなんてあれだろ、近衛隊の宿舎に食料品置きに来てるアンナちゃんだし、こっちは外宮の侍女の子だろ? そんでもってこっちは――」

「プライバシー無視して差出人読み上げるの止めてください」

「なんだよー1人くらい回せってんだよ!」

「ついこないだ外宮の侍女に上がったばかりの子をナンパしてたでしょう」

「あー、彼女には地元で待ってる男がいるんだとよ」

「それは残念でした」

ぱっとハンスの手が緩んだところで奪うようにして取った手紙類を見れば確かにいくつかは女性からのもの、それとディーン・デインからとリジル商会からの請求書、それにユリア殿だ。

それらを分類してハンスが羨んだ手紙は後回しにし、まずは弟の手紙を読む。

最近ではアイツの愛しの姫君の影響が良い方向に向かっているようで、勉学にも力を入れているらしく実家の義母からは喜びの手紙をもらったばかりだ。

手紙の内容は当たり障りないもので、まあそれは先日パーティで会っているからだけど。

パーティで護衛役をしてくれてありがとうということと、プレゼントのお礼を姫君はそっと贈ってくれたらしく嬉しかったということ、また近いうちに茶会を開いてくれるそうだからその時付いてきて欲しいこと、冒険奇譚を最新刊まで読んだけど次が待ちきれないからお勧めはないだろうかということだった。

おやおや、成長したものだ。微笑ましく思いながら次の手紙を手に取ると、ハンスが何とも言えない顔で私を見ていることに気がついた。

「どうしたんです?」

「いーやー? 堅物アルダール・サウル・フォン・バウムが最近優しい顔をするようになったってんで女たちが騒いでるわけだけどさ。まさかまさかの本当に噂通り、 あの(・・) 鉄面皮で完璧主義の侍女殿に熱でもあげてンのか?」

「は? ……ああ、もしかしてそれはユリア殿のことですか」

「ああ、証拠はあがってんだぜー? リジル商会にこないだデートで贈り物したらしいじゃねえか」

「おや早耳ですね。まあデートではありませんよ、弟の付き添いです。彼女にも手伝ってもらったので、お礼に贈り物をさせていただきました」

「……へーえ」

にやにやと笑うばかりでそれ以上言ってこないようだったので、私もそれ以上は応えずに手紙の方へと視線を落とす。

おや、今度のは鈴蘭の便箋か。相変わらずシンプルそうに見えてそっと洒落たものが描かれたものをつかってらっしゃる。

小さな鈴蘭が端の方に描かれているのは、ああ女性らしいよなあとやっぱり思うものだから。

内容はやっぱり彼女らしい季節の挨拶から始まって、丁寧なお礼状だった。

けれどちくりと戯れが過ぎるのは止めて欲しいと釘を刺されてしまった。

いやあ、わたしもあそこまではするつもりはなかったんだけどねえ。

私としてもあれは自分でちょっとやり過ぎたと反省はしている。後悔はしていないけどね。

まさか彼女があそこまで令嬢として化けるとは思わなかった。

いや、そんなに美醜の問題で言えば彼女が思っているほど醜いとは思わないし、背もあるから確かに流行のドレスだと肩身が狭いのだろうなとは思っていたんだけれど。

ところがどうだろう、あの日現れた彼女はその背を活かすかのようなスマートなスタイルだった。

あのドレスを見た後だとフリルのふわふわとしたドレスを体形に合わないのに無理をして着ている令嬢たちが野暮ったく見えてしまうほどに。

勿論、似合うものを選んだのだと言われればまさにその通りなんだろう。似合うから似合う。それに尽きる。

ただ今までのデザイナーたちはどうしてそこに行きつかなかったのかなと言いたくなるくらい、今回彼女の着てきたドレスは衝撃的だったと言えるんじゃないかな。

着ていたのがまた渦中の令嬢だったから、余計に話題に上ったのも事実だ。

だからこれがすべて王太后さまのご配慮の賜物だとしたら、やはりあの方は恐るべき方なのだろうと痛感した。

「……でもなあ、あれは無理だろう」

ぽつんと思わず呟けば、同室のハンスは聞き逃さなかったらしくやいのやいの聞いてきた。

まあ、勿論応える義務はないから早々に貰った手紙は鍵付きの引き出しにしまい込んで素知らぬふりをして仕事を始める。

私が答える気がないとわかったらしいハンスはつまらなそうだったけれども。

(でも言うのも勿体ない気がするし、ね)

本当はあの日、ダンスをあんなに踊らなくても良かったんだ。

ただ私に振り回される彼女と言うのがあまりにも珍しくて、嬉しくなったから。

あの時、あんな風に抱きしめて色々教える必要もなかった。

後でそっと別の方法で連絡を取れば良いだけだったのだから。

あのドレス姿に絆されたんじゃない。

あのドレス姿になった途端、侍女の仮面が剥がれてしまって心細そうにしながらなんとか前を向かなくちゃいけないっていうユリアという女性の本音が見えてしまったら、もう少しその 表情(かお) が見たくなってしまった。

何でもそつなくこなし、人当たり良く、時として厳しく、教え導く。

そんな完璧な筆頭侍女という立場よりも慣れない社交場に放り出されたひとりの女性だった。

(抱きしめた時、いい香りがしていたなあ。柔らかかった)

女を知らない子供では勿論ないし、それなりに恋愛経験はしていると思う。

勿論、近衛という地位や実家の地位目当ての女性もいたし、割り切りの関係を望むような女性もいたし、そういうのを踏まえて今はフリーだったんだけど。

ああいけないな、もうこれ以上は自分を誤魔化すのは無理だろう。

弟の恋愛が成就するための 相棒(パートナー) 。

できればちょっと興味が湧いたから、良い友人関係に、なんて思っていたけど。

あの日の興味はきっと今に繋がっていて、あの頼りなげな表情こそがユリア・フォン・ファンディッドという 女性(ひと) で――私は、そんな彼女のそばにいて手を取りたいと思ったんだ。

(あれだけであんなに恥ずかしそうにしていたなら、……私以外と踊ったこともないと言っていたし、あの日は私がずっと隣を独占していたし、他の男の目に留まる率は低かったはず)

それでもプリメラ王女殿下の筆頭侍女であり、王太后さまの後ろ盾を得ている――つまり王族お気に入りという立ち位置だ。

しかもありがたくないことに、王弟殿下まで彼女と親しくしている、なんて噂があれば……まあ、うまくいったらいいな程度に今頃ファンディッド子爵家の方には幾つか縁談話が持ち込まれているかもしれない。

勿論今回の問題があったからこその急遽社交界デビューとなったのでファンディッド子爵家の方では何も動いてはならないと宰相閣下が告げているはずだ。

私に対しても口外するな、と共に落ち着くまでは城下と言えども自由に行動をするな、ユリア殿の所に行って表面上近衛騎士が彼女を守っているように見せろ、とまあ指示をいただいている。

宰相閣下からの指示となると従う義務はないが、王太后さまからの指示となればまた別だ。

今の所国王陛下は色々ご存じのはずだが、静観のご様子だしね。

……まあ、私にとって悪いことはないのかな。

どうやらユリア殿を鈍いなんて笑えない程度には、私も自分の気持ちを把握できていなかったのだし。

これはここから挽回していかねばね!

「おいおいアルダール・サウル殿、悪い顔してんぞ」

「あなたに言われたくありませんよ」