軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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城下の町屋敷が立ち並ぶ一角。

ファンディッド家の借りているところはもっと街中寄りの一番お安い区画ですが、馬車が向かうのはそんな一角でも一等地と呼ばれるところです。

いやまあ、バウム家と言えば建国当初からある名門家ですものね!

改めてその凄さを思い知るっていうかね!?

そうだよね、公爵家とかからだって一目置かれているっていうか、宮廷伯って地位なんだからっていうか、とにかくすごいんですよ。

当然、バウム家が所有する町屋敷も大きな一軒家とかそんなレベルじゃなくて、庭付きのお屋敷。

豪奢(ごうしゃ) とか 瀟洒(しょうしゃ) とかそういう言葉で形容されるお屋敷とは違って、なんていうんでしょう……シンプルイズベスト?

初代バウム伯爵様が立派な武人であられたということもあるのでしょうが、立派なお屋敷なんですけど装飾とかはほとんどなく、でもすべてに使われている材質は優れているという感じでしょうか。

(質実剛健な雰囲気を持つ……ってやつですかね)

といっても馬車から見ただけなんですけど!

私も建築学に詳しいわけじゃないですが、それ相応に良いものを王城で見て育っておりますからこう見えて審美眼はそれなりですよ。

エスコートされて馬車から降りると、町屋敷を預かる執事や侍女が慌てて出てくる出てくる。

どうやらアルダールは事前に連絡をしていなかったようです。

「これはアルダールさま、本日お越しになるとは伺っておりませんでしたが」

「ああ、前に預けた荷物を取りに来ただけだ。すぐに出るから過剰なもてなしは必要ない」

「は、はい」

慌てて出てきた町屋敷を預かる執事のトップらしい人物が、アルダールに向かってお辞儀をする。

……なんだか、アルダールの言葉が少しだけ、キツい気がしたのは私の気のせいでしょうか。

「一旦私の部屋に茶を運んでくれ。彼女の案内は私がするからいい。酒蔵の責任者に預けたワインを取りに来たと伝えて持ってきてくれるよう伝えてくれ」

「かしこまりました」

「それが済めば、すぐに出ていくよ」

ふっとアルダールが困ったように笑みを浮かべて、声を和らげました。

けれど、その声は少しどころかだいぶ複雑そうで、私は思わず彼に手を伸ばしかけて……結局おろしました。

このタイミングは違う気がする。

「私がいても皆が困るだけだからね」

そっとそう私に向かっていったのか、或いは執事さんに向かってなのか。

ちょっとだけ反応に困った私とは反対に、執事さんは勢いよく顔を上げました。

「い、いえ! アルダールさまはバウム家の長子でございますのでまったく問題ございません。この町屋敷を自由に訪れ、使っていただきたいと思っております。ただ」

「……ただ?」

アルダールも執事さんの勢いにちょっと怯みつつトーンダウンした言葉の続きを求めるように促しました。

「実は、ライラが来ておりまして」

「……クレドリタス夫人が?」

(ライラ……クレドリタス夫人?)

執事さんの口から出た名前、と。

アルダールが嫌そうな顔を隠さずに告げた名前。

それが同じ人物を示すことはわかっていますが、どうやらあまりアルダールにとって良くない人物のようです。

執事さんは会わせたくない、同時にアルダールは会いたくない。

そういったところでしょうか?

「あ、あの。アルダール、ワインは別の日にしても私は別に……」

「……いや。私の部屋に行くなら彼女には会わないだろう。ワインを取りに行かせている間にクレドリタス夫人を遠ざけておいてくれ」

「か、かしこまりました。……わかったな、すぐに行動してくれ」

「ユリア、こっちへ」

「え、ええ」

差し出された手を取って、町屋敷の中へ。

まあ現当主の『家族』であるアルダールが町屋敷の中で個室を与えられていることは当然だと思いますので案内されるのが彼の部屋でも私としては特に問題はないんですが、なんでしょうか。疑問がいっぱいっていうか、なんだろう……なんだかアルダールが意地を張っている?

いつもよりも少しだけ早足のアルダールの歩き方が、苛立っている?

(そうよね、私が今日じゃなくてもって言ったけど……アルダールは押し通した)

もう一度来るのが面倒だからとかそういう雰囲気じゃなかったし、会いたくないらしい『クレドリタス夫人』って人は普段この町屋敷には多分いないんじゃないかなと推測します。

そして執事さんがその人のことを『ライラ』と呼び捨てにしたことを考えるとバウム家に関する使用人か或いはそれに近しい立場だと思うんですよね。

「……ごめん」

そんなことをつらつら考える私をよそに、アルダールは部屋に着くなり謝罪の言葉を口にしました。

しょんぼりとしている姿はいつものアルダールじゃないみたいで、そんな風にされたら文句なんて言えるはずもありません。

……言うつもりもないけど。

「アルダールが幼い頃を過ごしたというのは町屋敷なんですか?」

「えっ」

私の唐突な質問に、彼はびっくりしたようで顔を上げました。

それから私をじっと見て、アルダールは椅子を引いていつものように紳士らしい振舞いを見せてから彼も座りました。

うん、調子を取り戻して……とは言えないんでしょうが、少し落ち着いたようです。

「私が過ごしたのはここじゃないよ。……義母上が私の存在を認めて、引き取ってくださったときに町屋敷にも私の部屋が作られたという経緯があるからちょっと敬遠していたのは否めないけれど」

「そうなんですね」

道理で手入れされてるけど殺風景な部屋だなと思いましたよ。

実家にある私の部屋と同じくらい殺風景さではいい勝負じゃないんでしょうか。

……えっ、女としてそれはどうなのって……。

いいんですよ、実家の私の部屋は年に一回二回短期間帰るかどうかなんですからね!

でもこれからは帰省回数をもう少し増やすか期間を長めにするつもりなので、あの殺風景な部屋もどうにかする予定です。

もちろん、オルタンス嬢が嫁いで来られたらそれらは全部引き揚げる予定で飾る計画を立ててますので未来の義姉としての気遣いも忘れてませんよ!!

おっと、話が逸れた。

「私が育ったのはバウム領の端の方にある別邸だよ。……クレドリタス夫人は、そこで侍女として働いていた女性なんだ」

「……あの、アルダールが言いたくないなら」

「いや。万が一彼女と顔を合わせることになった時にユリアが嫌な思いをするかもしれない。……私が意地を張ったせいだけどね」

自嘲をするかのようなアルダールのその笑みに、ちょっとモヤッとしたものを感じて思わず私はアルダールの手を取りました。

いやうん、考えなしなんですけども。

ああほら、アルダール驚いてるじゃないですか……!!

「別に何かがあってびっくりすることはあるかもしれません。けれど、アルダールが嫌な思いをする方が嫌です。それは忘れないで」

「……うん」

「わかってます?」

「わかってる」

「……ならいいです」

ぱっと手を離す。

いやあ、手を離すきっかけができて良かった!

そしてそのタイミングで上手いことお茶が運ばれてきて、ほっとしましたね。

後は早くワインが運ばれてきて、そして無事王城に戻ってワインを飲むことができれば誰も傷つくことなく楽しく一日が終わる、と思うんですけれどどうでしょうか。

「……いややっぱり話しておこうかな」

「え?」

「聞いてもらえたら、私が楽になるから。……なんて言ったら、ズルいかな?」

お茶を飲み干したアルダールが、にっこりと笑いました。

どこか、寂しげに。

その笑顔の方が、その発言よりもずっとズルいでしょ!?

そうは思いましたが、当然のごとくそれは言葉にできませんでした……!!