軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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私が何とも言えずにニコラスさんを見ていると、彼はにっこりと笑いました。

それは胡散臭いいつもの笑顔とは違う笑顔のような気がします。

ただ糸目のために相変わらず表情が読めないっていうか……そういう意味ではお針子のおばあちゃんも糸目っぽいんですが、あちらは優しい雰囲気があるから全然違いますけど。

「まぁ正直に申し上げますとね、王太子殿下は必要ないと仰いましたが僕は貴女のことも少々疑っておりましたので。あ、勿論今はそのようなこと思っておりませんよ」

「えっ」

「だってそうでしょう? 領地持ちである子爵家のご令嬢が、王女殿下のお気に入りのまま侍女でい続けることの不思議さ!」

「……それは……」

確かにプリメラさまがある程度の年齢になった時に、侍女を辞しても社交界デビューさえしてしまえば『お気に入りのご令嬢』としておそばに行くということもできたと思う。

だけどそれはプリメラさまのおそばにいて、愛情を注いであげるっていうのとは違う気がしたから侍女のままがいいんだって私が決めたことなんだけど……。

貴族令嬢としてはニコラスさんが言うように、令嬢としてお気に入りっていう立場を作ってより良い縁談をとか考えるべきなんだよね、お家のために。

とはいえ我が家にはメレクっていう跡取り息子もいるし、結婚で玉の輿は流石に期待されてないだろうって当時思っていたわけだから、そんなことよりご側室さまの分までプリメラさまに愛情をって考えていたわけで。

取り巻きよりも侍女の方がより近いところで、ほぼ一緒にいられるって考えたら後者を選ぶじゃない?

でもそれを説明するのも馬鹿らしくて言い淀めば、ニコラスさんがクスクス笑った。

「愛情からってやつでしょう? まあ美談ですよね、真に受けるのもどうかなと思いましたが……まさか本当とは思いませんでした」

小馬鹿にしたようなニコラスさんの物言いにちょっとむっとしつつも、彼が疑っていたとはっきり言われたことには衝撃を受けました。

いやまあ態度で薄々感じてはいましたが、こうまではっきり『疑っていた』と言葉にするとは思わなかったって言うか。

「ですがまぁ調べれば調べるほど、 おじいさま(・・・・・) に聞けば聞くほど、貴女が ただの(・・・) 努力家で愛情深い人だってことがわかった程度でしたしねえ」

努力家で愛情深いとかなにそれ、そんな大層なものじゃないんだけどな。

折角褒めてくれているのを否定するのもアレなので、どうしたものかと思っているとニコラスさんがまた笑いました。

本当によく笑う人だなあ。

「その表情! 世間では鉄壁侍女などと言われておられるのでどんな方かと思っていたんですがねえ、蓋を開けてみたらなんてことはない、ただの真面目なお人でこちらがどれだけ安心したかおわかりいただけないかなぁ」

「……ニコラスさんが笑い上戸なのはわかりました」

「いえいえ、久しぶりにこんなに笑いましたよ」

真面目な人、というのが誉め言葉なのか他の意味も含めてなのかと考えるときりがない。

とりあえず彼は私に対して『疑いが晴れた』ということを告げるためにわざわざこうしてセバスチャンさんを遠ざけてまで?

だとしたらなんて回りくどい……というかまあ探られて痛い腹はないのでいいんですけどね、良い気分ではありませんが。

王家にお仕えするという点でその忠誠が本物か否か、その尊い存在に近ければ近い人物程気をつけねばならないのは当然のことでしょうからね。

「まあ、そういうことでお近づきになれたらと思ったんですよ。個人的にね」

「……」

「おやおや、そんな目をしなくたっていいじゃありませんか。おじいさまも不用意に近づくなって牽制ばかりでようやく上手く出かけてもらったっていうのに」

「……早く、行きましょう」

「王女殿下にはちゃんと王子宮の侍女がついておりますよ」

「それでも私が来なければ気になされるでしょう」

「まあ、それはそうでしょうね」

ではどうぞ、なんてエスコートしようとする手を無視して歩き始めればニコラスさんは私の横に立って声をかけてきました。

ああ、無駄に広い邸宅が恨めしい。たかが休憩室に行くのにもう少し歩かなきゃいけないなんて!

いやいや、王族の持ち物に文句をつけてはいけませんね。

「では歩きながらお話でも?」

「……ミュリエッタさんが稀有な能力をお持ちであるということは理解いたしました。では、なぜそれを必要としないのかを改めて説明していただけますか」

「どうせご理解なさっているでしょうに。僕としてはもっと仲良くなれる話題の方が良かったんですがねえ……」

私の問いに、ニコラスさんはわざとらしいため息を一つ零してからまた笑顔を見せました。

だからそういうところが胡散臭いんだってば……と思いましたが、まぁ教えてあげませんけどね。

「まあ稀有な回復能力、というのは王族や高位の方々に何かあった時の保険になりますからね。囲って重宝すべきという考えもなくはないんですよ、ただ囲い込んで飼い殺すなんて方法は物騒でならないでしょう?」

「……」

「この国の『貴族』の一員として迎えられた父親が、この国に忠義を心底貫いてくれるならばきっとそのご息女も国の有事には力を貸してくれる、そういうものでしょう?」

ふふふと笑うニコラスさんの言葉は、柔らかい。

でも取り繕う感じもないそれは、ごくごく普通に、当たり前だろうって感じで話されるから背筋がぞわっとした。

確かに、私も必要としていないって言われたことで大体予想はできていた。

できていたうえで、改めてそれを確認したんだから今更って感はあるんだけど……大人って怖い、としか言いようがないっていうか。

口調は柔らかいけどそれってつまり、結果的にはウィナー男爵を餌にミュリエッタさんを飼い殺すことと何が違うのかって話で……いえ、まあ幽閉されてるとかじゃないので自由度が高いですけどそれってもう自由奔放にできないとも同義っていうか。

普通の貴族でもそこまでじゃないっていうか……いえ、高位の方々のことは存じませんが。

(やっぱりこの人、怖い人だ……)

役目として必要な悪役っていうんですか? そういう部分を担っているんだとは思いますけど笑顔でそんなのを語られると、まあ聞いたのはこっちとはいえニコラスさんはやっぱり怖い人だなあって思うわけですよ。

ミュリエッタさんのことについて聞くことで、どういう態度をとるかっていうのを見ようと思ったんですが普通に怖い人だコレ。

同じ王家に仕える人間として、という感じはありますけど個人的にはやっぱり親しくなりたくないですね!!

決してアルダールにそんなことになったら説教を食らう未来が見えるからじゃないですよ。ええ、決して。そこもちょっと怖いんですけども。

「まぁこのピクニックの間にもう少し我々も交流を持とうじゃありませんか、ユリアさま」

「……ご遠慮申し上げておきます」

「つれないなあ」

プリメラさまがいる部屋へのドアノブに手をかけたまま、ニコラスさんが身をかがめて私の顔を覗き込む。

綺麗な顔が、笑顔で私を見ているのに。

普段ならイケメン直視無理ィー! ってなるところですが、ニコラスさんの場合はなんかこう、違う意味で直視無理。怖い。

「騎士さまにも申し上げたでしょう? 僕は相手のいる方に手を出すような下種な真似はいたしません」

「ええ、確かに仰っていたのを私も耳にしています、が……」

「僕は貴女みたいに『普通』な人ともう少しお喋りがしたいなぁって思っただけですよ」

だって楽しいでしょう、って続けられたけども。

私としては、楽しくないかなぁ……なんて思いましたね! 勿論言葉にすると面倒そうでしたので、無言を貫いてドアを開けさせましたけど!