軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

216

ガタガタ、と馬車の扉から音が聞こえてくる。

「また降って来たね」

「ええ、吹雪かないといいですけど。……アルダール、お茶を淹れましょうか?」

「もらおうかな」

魔法の馬車とはいえ、吹雪とまでは行かなくても雪がまた結構降って来たから風と相まってこうやって音となるのよね。

幸いにも馬車が進めるくらいだし、魔法の馬車だから中はとても暖かいわけだけど……このまま降り続ければ馬たちが辛いからどこかで休むことにもなるんだろうけれど。

私たちは、ギルドでの一件の後少しだけ後味の悪さを感じつつ翌朝予定通りに出立した。

そこからの行程は特にトラブルはなくて、目的の街についたらキース・レッスさまの奥さまだけじゃなくてその妹であるオルタンス嬢まで待っていたっていうね?

そこでキース・レッスさまが叱られたりメレクが彼女を前にしどろもどろしていたら焦れたオルタンス嬢から腕組みされて顔を真っ赤にしたりとか。

まあ弟が上手くやっているようで姉としては微笑ましかったです。

直接お目にかかったことはありませんでしたが、オルタンス嬢、ゲームでちらっと出てくる画像よりもずっと 溌溂(はつらつ) とした美少女でした!

ちらっと話した感じだと、オルタンス嬢はミュリエッタさんとすでに面識があり、今回お祭りでも挨拶されたとのこと。

……なにがしたかったのか、なんて今からじゃあ聞けないなあ。

いずれゆっくりお話を、って鈴を転がすような声で簡単に挨拶されてそれぞれ別行動をすることになったんだけど……そこでロマリアちゃんにも会って、そのお母さんでもあるデザイナーのマウリアさんにも会って……ってなかなか濃い旅行だったよね。

(まあ、お土産に人気のカップル向け飾りみたいのを作ってもらえたから良かったなあ)

そう、布地が特産品なセレッセ領ということでそういうお守り? とかそういう感じのものが今流行なんですって! それをプリメラさまたちのお土産にしたいなって思ったんですよ。

ところが売り出しと同時に人気が出て、残念ながらどこも今や品薄状態が続いている。

その上参入した商人によっては粗悪品も出回っていてそちらの取り締まりとかで新しいのをどんどん作るわけにもいかず……という、売れすぎるというのも頭が痛いという話だった。

だけど、ロマリアちゃんの恩人ということで私とアルダール、それに名前は伏せましたけれどプリメラさまとディーン・デインさま用にもオーダーメイド扱いってことでマウリアさんが直接作ってくださることになりました! 後で王城に届くそうです。楽しみ。

女性は特別な布で作られたコサージュ、男性は女性と同じ布で作られたスカーフ。

私はちょっとだけマウリアさんにお願いして、工房の端っこに積まれていたとある宝石の屑石を飾りにつけてもらった。

(……筆頭侍女になって宝石もそこそこ見てきたけど、この世界でもローズクオーツって恋愛のお守りになるのかな……?)

屑石、とはつまり宝石として金銭価値がないもの。

マウリアさんの工房ではそれをたくさん引き取って粉のようにして、布に吹き付けるとかそういうこともするらしい。わあ、すごい!! って思ったけどそれ最終的に重くならないのかな……?

そんなキラキラしたドレスだとかは私には縁がないのでそれ以上話題としては広がらなかったんだけどね。

まあ、でも飾りとして付けることには快く応じてくれて「どうして?」って聞かれたから、色合い的に恋愛ごとのお守りになりそうだったので……とかボカして答えたんだけど、にんまり笑われて居心地悪かった。

ええ、まあ……うん、アルダールとやっぱり恋愛的に上手くいっているって思ってもこういうことしたいっていう乙女心っていうの? 私にもこういう部分はあるんですよ言わせんな!

でも私の話を聞いたマウリアさんが、今回のお守り石をつけるアイデアを使いたいって言っていたから私も頷いちゃったんだけど……。

うん? まあ、デザイナーさんと知り合えてちょっとなんとなくいい話ができたと思うことにしようそうしよう。

お祭りも楽しかった。

ミュリエッタさんの件で、ちょっとだけ困惑はしたけれど。

(……大丈夫、だったのかなあ)

あの父娘、無事に城下の自宅に戻れたんでしょうか。

ウィナー男爵とミュリエッタさんとは、その後はもう会うことはありませんでした。

キース・レッスさまはきっと今回のことをバウム伯爵さまにも、宰相閣下にもご連絡なさることでしょう。

(そんなこと考えたらきっと夜も寝れないんじゃないかな、少なくとも私だったら怖くてしょうがないなあ!)

旅行先で失敗をして、統括侍女さまがお怒りの表情で待っている……とか想像したらそれだけで胃が痛いわ!

まあ、私が心配するのもお門違いなんですけどね。

どうにもまだ浮足立って見えるあの父娘、パーバス一家みたいな妖怪に取り憑かれたりしたら流石にちょっとねえって思うじゃないですか。

陛下が召し上げた英雄って公言されているから大丈夫だとは思いますが、そんなことになったら食い物にされて終わっちゃう……というのは言葉も交わした相手と思うといささか気分が良くないっていうか……。

(アルダールたちにそれとなく聞いても、なんだったのか教えてくれないし)

まあ私が子爵令嬢のままで成長していたならば、こんな面倒な身分社会とかのことは理解しきれなかったかもしれません。侍女として王宮の、多くのそうした人たちのやり取りが見える場所で『侍女』という立場で一歩下がった場所で見られたからこそ学んだことでもあると思います。

いつか彼女たちにもそんな風に、落ち着いて見える日が来ればいいと思うんですが……まあそれは私のように遠い遠い関係性の人がどうこう言うところじゃないですよね。

私だってすごい人間ってわけじゃないんですから、手の届くところを守るので精一杯。それを忘れてはいけません。

(でも、モヤモヤしてた気分の原因はわかった)

ずっとずっと、私の中にあったもの。

それは、ロマリアちゃんがアルダールを見て、「おねえさんと、けんせいこうほのおにいさん」というその呼び方で気が付いた。

私は、アルダールが、……彼個人、として見られないことに腹を立てていたみたいだ。

私が腹を立ててどうするんだよ!? ってすとんと頭の中で理解したところで次いで思ったわけだけど、まあそういうことだったらしい。

王城内で、王城外で、そりゃまあ『剣聖』ってのがすごいってのはわかるんですよ。

ええ、その次期とまで噂されるっていうのは光栄なことなんでしょうね。本人が望む望まないに関わらず。

アルダールとしては自分がまだまだだっていうのとお師匠さんが健在であること、その点から嬉しくはなさそうだけど……。

バルムンク・脳筋・公子の時はあれはあくまで一方的なライバル視ってことで気にならなかった。彼はあくまで『打倒! アルダール!!』だから。

王城内での次期剣聖候補、という扱いでアルダールが一対多とかの場面に駆り出されて当然、とかそれで勝っちゃうのも次期剣聖候補なんだから当然って褒め称えられてるのも納得できなかった。

キース・レッスさまが冗談交じりに「次期剣聖候補殿!」ってアルダールを呼ぶのはからかってるとしか思えないからノーカン。

「……どうかしたの?」

「え?」

「なんだかおかしそうに笑ってるから」

「笑ってました!?」

「いいや、本当は笑ってない。ただ、そんな気がしただけ」

な、なんだってー!?

カマかけられたってやつですか! よくわかったね。思わず脳内で脳筋公子とキース・レッスさまがケラケラ笑う姿を想像して面白くなっちゃってただけなんですけど。

「大したことはないんですよ、ただちょっと変な想像をしただけです」

「ええ? どんな?」

「内緒です。……ねえアルダール」

「うん?」

私が問いかけると、アルダールが小首を傾げる。

相変わらずちょっと直視は厳しいイケメン具合ですが、隣にいることには慣れました。

……このまま、隣は私がいいな。できたら、そうであって欲しい。

「アルダールが頑張っていて、真っ直ぐだって。私、ちゃんと知ってますからね」

「え?」

「なんとなく言いたかっただけですよ、普段はこんなこと言えません。……このくらいの声なら、御者さんにも聞こえないですから」

「……」

「アルダール?」

「本当、ユリアはいつだって不意打ちだから困るんだ」

そりゃそうでしょう。

私だっていつもアルダールから不意打ち喰らってばかりじゃないんですからね!

……でも今の、どこが不意打ちだったのか教えて欲しい。

恥ずかしいセリフは言っていないはずだ! 多分。……いや、多分……?