軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

211

現れた幼女のその行動に私たちが呆気に取られたけれど、正気に戻ったアルダールが私にちらりと視線を向けたのを感じました。

私とあの子。

両方をどう守るのか、瞬間的に考えたのでしょう。彼は、騎士だから。

酔っ払い冒険者の方も呆気に取られて、そして赤ら顔をさらに赤くしてダァンと大きく足踏みをし、その足元に残る雪が、びしゃりと四方に飛び散りました。

「うるっせぇなしゃしゃり出てくるンじゃねえよ、ガキがア!!」

その怒号たるや、びりぃっと私のような大人まで竦みそうになるようなものです。

少女がいくら無謀なのかわからない勇気を持っていようとも、まだまだ幼い少女。その怒号に気丈にもびくつきながら冒険者を見たまま、何か次の言葉を紡ごうとして。

(ああ、だめ)

「ユリア」

「守ってくれるんでしょう」

私の言葉に、アルダールがどんな返事をしたのかは知りません。だけど、彼から離れて少女に向かう私をアルダールは、止めなかった。それが答えだと思うんです。

冒険者たちと私たちの中ほどにいた少女の顔は、くしゃりと歪んで、「う、うー」と小さな唸り声をあげて、ああ、ああ、もう!

この子はどれだけ気が強いのか、泣こうとするのに抗って、ああもう、なんてこと!

こんな大人のよくわからないケンカに出しゃばっちゃう無謀な正義感、可愛らしい子供らしい勇気だったね。さあ、もう、大丈夫。

そんな気持ちを込めて、私はその子を抱き寄せました。

抱き上げてその場から離脱できれば格好良いんでしょうけれど、生憎私にはそんな身体能力はなくてですね……一般的な侍女の能力くらいですから……。

少女の登場に苛立ちを増大させた酔っ払いが詰め寄っているのと同時の行動でしたが、アルダールがきちんと私たちの間に入ってくれてあっという間に投げ飛ばしてしまったので今度は私が呆気にとられましたよ。

私の腕の中にいる少女も泣きそうだったのにもう目を丸くして! あっ、この子可愛いな。プリメラさまほどじゃないですけどね!!

「まったく……自警団が来るまで、と思ったけれどね。小さな子にまで怒鳴りつけるようじゃあ困ったものだ」

アルダールが心底呆れたような声で冒険者たちを睨みつければ、彼らは仲間がやられたことに対して腹を立てているのか今にも武器を抜きそうな雰囲気です。武器を抜こうと何度かしていたようですが、抜かなかったのはまだ理性が多少は残っているってことなのかな……?

「う、うるせえ……ッ」

「そればかりだな」

アルダールに庇われる私たちはどうしようもありませんが、冒険者たちももしかすれば引き際を探しているのかもしれません。

若干ふらついているようにも見える足取りで、あちらこちらに視線を彷徨わせ、さりとて仲間を置いてなどは論外で、まとまらないように見えました。

「そこまでだっ!」

そうこうしているとようやく人混みをかき分けて、軽鎧に外套を着こんだ人たちが現れました。

どうやら自警団の方々のようで、冒険者たちも安心するやら自分たちに非があることを理解しているからバツが悪いやらで複雑そうな顔でした。

それと一緒に、少女の保護者らしき人物が自警団と一緒にこちらに駆け寄ってきて膝をついたのです。

「ああ、ああ、お嬢さまご無事で何よりです! お嬢さまに何かあったら旦那さまがどれほどご心配なさると……!!」

「ごめ、ん、なさぁぃ……だって、だってえええええええ!」

うわーん、と私の腕の中にいるままで少女はとうとう大きな声で泣き始めました。

思わずよしよしと頭を撫でてあげましたが、保護者というか、どこかのご令嬢なのかしら? とにかく執事さんらしき初老の男性に少女を預けて私も立ち上がれば彼は少女を抱き上げて、お辞儀を軽くしました。

「大変ご迷惑をおかけいたしました」

「いいえ、こちらの事情に巻き込んだ形になったようなものです」

「それを言いましたならばうちのお嬢さまがこのようにお転婆ゆえ」

お互いに謝り合うようなこの事態に互いに苦笑をひとつ。

そんな私たちに、アルダールが歩み寄って彼もなんだか困ったように曖昧に笑いました。

どうやら、到着した自警団のリーダーらしき人と話して我々も冒険者ギルドへと足を運ばねばならないようなのだというのです。

まあこの場でいきなり断罪とかそういうわけにはいきませんし、調書を取るにも酔っ払いですし、現場にいた人間が呼ばれるのは当然と言えば当然でしょうね。私たちは被害者なのでキース・レッスさまのお名前を出しても良かったんですが、大きな問題にしないためにもついて行く事にしました。

ちょっと、ドキドキします。

ええ、これは不安だけが理由じゃない。

(ぼ、冒険者ギルド……)

前世の記憶で考えればもう冒険者ギルドといえばテッパンですよね!

いえ、浮かれてなんかいませんけどね?

私だってこの現実社会を生きる女ですもの。メッタボンからも話を聞いてちょっとだけ冒険者生活などというものに憧れた時期もありました!

その実力もなければプリメラさまのおそばを離れる気なんて一ミリとてないんですけどね!!

昏倒している酔っ払いと、意識ある酔っ払い。

それらを連れて行く自警団と、私とアルダール。

移動する前から目立つ集団になってませんかね。

いえ、まあしょうがないか……幸いにも野次馬は自警団が現れた途端あっという間に散っていきましたからそこまで好奇の目に晒されることもないでしょう。

「お、お待ちください、お嬢さまがお世話になったというのに何もお礼をしないわけには……!」

「まあ、お礼だなんてとんでもない。むしろ勇気ある行動、ありがとう。だけれど」

少女を抱いたまま、執事さん風の男性が私たちを追ってきてそう言ってくれましたけれどお断りしました。

そう、受け取るようなお礼なんてなにも。

だって結局何もしてないしね?

「レディを目指すなら、危ないことを一人でしてはいけないわ。それと、人を指さしてはいけません。ね?」

「……はぁい……」

「ちゃんとお返事もできて偉いですね。きっと将来は素敵なレディになれます」

「ありがとう、おねえさん!」

ああー素直な子供って可愛い……!!

私に注意されてちょっぴりしょぼんとしちゃっている姿とか、ぶらさげられてる人形とかもう子供ってそれだけで可愛いとか……いえ、私そういう趣味とかじゃないです。犯罪ではないです。

ただ可愛いが正義なだけで! 正義なだけで!!

「で、でしたらもし雪まつりを楽しまれるご予定でしたらアトリエ・デロッツィニ! そちらに足をお運びくださいませ!!」

「デロ……なんですって? すみません、もう一度」

「デロッツィニ洋裁店にございます。お嬢さまが無茶をしたのを庇ってくださったお方に何もしなかったとあっては旦那さまに叱られてしまいます」

「……アトリエ・デロッツィニ……。どこかで、聞いたような……?」

「新進気鋭のデザイナーとして最近御贔屓にしていただくことも多く、セレッセ伯爵家御用達の洋裁店にございます。お嬢さまはそのチーフデザイナーであり店主のマウリア・デロッツィニさまの一人娘、ロマリアさまにございます」

「そ、そうなのですね」

そうだったー!

そういえば聞いたことがあると思ったらセレッセ領からの布の買い付けでお勧めのデザイナーで名前見ましたね! 書類で!!

予想してなかった大物? と望まぬ接点ができたけどこれは吉なのか、凶なのか?

わからないけれど、差し出された名刺を受け取ってしまった私にはそれをとりあえず汚さないように、しまうことくらいしかできないのでした。

「……ユリアはそういう商人とかに好かれやすいよね」

「こればっかりは好かれたというのとは違うと思いますけど!?」

アルダールが呆れたように言うものだから、思わず反論しましたけどね。当然です!!

ところで、冒険者ギルドですよ冒険者ギルド。

どんなところなんだろう、やっぱりこう……冒険者であふれかえったり掲示板があってそこに依頼が貼りだされるんでしょうか!

若干楽しみになってしまうのは不謹慎かなと思うんですけど、わくわくが止まらない……!!