軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

202

案内する、と言ってみたものの……うん、まあ。ファンディッド子爵家ってそう珍しいものがあるわけじゃないし、ごくごく普通の下級貴族ですからね……。

我が家自慢のと言えるのは、テラスくらいですかね?

とはいえ連日の雪ですっかり埋もれてますのであんまり今はお勧めできません。

書庫? バウム家の方が絶対蔵書量とか段違いですよね。

うーん……いや、本当自分から言い出しておいてなんですが、どうすんのこれ。

「まあ、案内すると言いましたけど……正直、行儀見習いで十歳の頃に家を出て以来たまにしか帰ってこないので私もそこまで詳しくはないんです」

「……小さい頃、どこの部屋がお気に入りだった?」

「えっ?」

アルダールの問いかけに、私は少しだけ考えて。

すんなりと、思い当たる部屋を見つけておかしくなりました。

「……お父さまの、執務室が好きでした。お父さまがいらっしゃる時しか入れなくて、おじいさまやその前のファンディッド子爵が残した本が置いてあって、静かで、特別な部屋なんだって子供ながらに思っていたの」

「ああ、それわかるなぁ。あそこは特別な場所だって子供心にわくわくする場所だよね。でもまあ、私は子供の頃は親父殿が執務室に入っていくのを見るとちょっとほっとした覚えがあるんだ。……私は庭にある木が好きだった。そこに登っているとね、大体見つからないんだ」

「隠れるの?」

「ああ。周囲の目が面倒だったからね、師匠と会う予定がない時で家にいなくちゃならない時は大体そこにいた。今にして思えば、秘密基地みたいなものだったんだろうね」

アルダールが、懐かしむように笑うのを見て私も笑う。

そんなに広いと自慢できるわけじゃないけれど、小さい頃の思い出を語りながら家の中を案内する、というのは……ちょっと、楽しかった。

あそこはメレクとかくれんぼをして遊んだ、あの花瓶は代々大事にされていたのにひっくり返しそうになって執事に叱られた、とかそんな他愛ないものばかりだったけど。それでもアルダールも、楽しそうに笑ってくれたから私としては満足だった。

ま、まあアルダールが私に合わせてくれたんだろうけどね! わかってますよ?

ちょっと年甲斐もなくはしゃいだわけじゃないですからね!

そうこうしているとパーバス伯爵さまたちがサロンから出てくる姿が見えました。

あっ、そうでしたねお帰りなんですよ。色々衝撃的過ぎたけど忘れてたわけじゃありません。

……そういえば、キース・レッスさまは何故引き留めたんでしょう。いやまさか本当にお土産渡したかっただけじゃないよね!?

というか、アルダールがいるのをあちらも気が付いたんでしょう。パーバス伯爵さまが「おや」と小さく声に出して驚いたご様子でしたが、すぐににっこりと笑ってアルダールに向けて会釈してきました。こういう対応ができるところがこの妖怪……じゃなかった伯爵さまの強い所なんでしょうね。

なんていうんでしょう、こういうのを 老獪(ろうかい) っていうんですかね? 同じ伯爵位であっても上位であるバウム家のご子息に対して礼儀を払うことをしてみせているのに、腹の内では絶対に違うんだろうなって思うんですよね……。私の勘繰り過ぎじゃないはずです。

「貴様、アルダール・サウル……!」

「これ、エイリップ。大声を出すものではないわい」

「ははは、久しく会ったのでエイリップ・カリアン殿もつい感情が高ぶったのだろう! 大目に見てあげてはいかがな、パーバス伯」

「セレッセ伯がそう言うならば」

(あっ、なんか狐と狸が腹芸をしているような)

「おやユリア嬢、今何か?」

「いいえ、なにも! お帰りですのね、お見送りをいたします」

サロンにはパーバス伯爵さま一行と、キース・レッスさまとその後を追ったメレクがいただけのようです。お父さまとお義母さまの姿はそこにありません。

とはいえ、お客人として迎えた縁戚の方々をお見送りするのに次期子爵とはいえ、メレクだけというわけにはいかないでしょう。

私たちは階下にいたのでそのままお見送りできる態勢でしたし、メレクはキース・レッスさまの後ろを歩くようにしているし、近くにいた侍女にお父さまたちを探して来てもらうことにしました。

やっぱり当主夫妻がいないままというわけにはいきませんからね!

どうやらお父さまたちは書斎にいるということで、侍女はすぐに呼びに行ってくれました。

(しかし……)

エイリップ・カリアンさまが、アルダールのことを睨んでます。超睨んでます。

ええ、まあ。キース・レッスさまから小耳に挟んだことも含めれば、まああちらが良い感情を持ってないことはわかってますけどあからさますぎるのもどうかなって私思うんですよ。どうせだったらででんと構えてもらいたいものですよね、器の大きさを見せてみなよ! ってな感じで。

「ふん……噂ではそこの女に骨抜きだとか。所詮お前はその程度の器だな、アルダール・サウル・フォン・バウム」

「何を仰っているか、わからないが……ご家族は先に行かれたようですよ」

一番後ろを歩いてきたエイリップ・カリアンさまが、足を止めてわざわざアルダールに嫌味を言う様はちょっとカッコ悪い。それもさらっと流されてよりカッコ悪い!!

私を貶して大した男じゃない、とか笑える立場なのかなエイリップ・カリアンさま。

まあ、勿論それを口に出したりしませんよ!?

腕を掴まれたとかその辺のこともわざわざ今ここで口に出して火種にするつもりもございません。まあ後でアルダールにはちょっとエイリップ・カリアンさまは行動が乱暴だったから苦手だと思った、くらいには話しておくつもりですけどね。黙ってたら後が怖いし。

「ふん! 余裕ぶっているのも今の内だ」

そんな私たちに対し、エイリップ・カリアンさまは少しだけ悔しそうにしたかと思うとふんぞり返ってにやりと笑ってきました。

おお……悪役スマイルだ! 貴族のご令息っていうよりもヒーローものとかで出てくる悪役っぽい!!

そんな風に思った私は、アルダールが横にいるっていう安心感からでしょうかね? 余裕があるんだと思います。だってほら、腕掴まれた相手ですから。怖かったですから。

近寄りたくもないっていうのが正直な気持ちですから!!

「セレッセ伯爵殿の口利きで、俺は騎士として研鑽を積むために軍に所属することとなった。いずれは近衛隊に入り、貴様を下してみせる……!!」

「ほう、そうですか。では、近衛隊でお待ちしております」

えっ、キース・レッスさまの口利きってなんだかどこまであの人計画してたんだろう?

私としては困惑するばかりですが、まあ私がどうこうするような内容でもないから黙ってますけど。後で聞いて教えてもらえるなら、ちょっとくらい聞いてみたい、かな……?

アルダールがまったく態度を変えないことにむっとしたんでしょうか、エイリップ・カリアンさまはまた強く睨みつけてきました。なんだってこの人こんなに攻撃的なんでしょう。そんなんだからモテないんですよきっと、いえわかんないですけど。

「例の英雄の娘、あれもいずれは俺が口説き落としてみせる。貴様はそこの地味女を弟のために口説いたのか、閨の具合が良いのかは知らんが、選ぶのを間違えた、損をしたと精々歯噛みすればいい!」

「……なんだって?」

まるで負け惜しみのように放ったエイリップ・カリアンさまの言葉に、ああミュリエッタさんは全くもって彼と関係がなかったんだなと思ったところで私は思わず一歩下がりました。

だって、アルダールの声が低くて怖かったんです。

うん。

怖かったんです!!