軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

141 仲良きこと。

「随分とご機嫌だな、ディーン」

「そりゃぁ、今日は楽しかったから……」

けど兄上に指摘されるほど俺は機嫌が良さそうに見えたのだろうか。もしかして鼻歌でも歌っていたのだろうか。思わず顔を押さえて不安になった俺に、斜め後ろを歩いていた兄上が笑った。

「いや、悪い。ここのところ勉強に励んでばかりいると義母上が心配しておられたからな。元気そうで良かった」

「……俺だって来年は入学だから、ちょっとくらい勉強するよ」

そりゃ兄上みたいに俺は大人の男じゃないから、好きな女の子に会えたらそれだけで嬉しい。

ましてやその相手が王女さまで滅多に会えないとくれば、会えて嬉しかったって気持ちが全面に出ちゃったってしょうがない……ってこの考え方がまだガキだなあ、俺。

でもちょっとずつは成長出来てると思うんだよな。

ユリアさんに言われて勉強をしっかりしようって決めた時はやっぱり億劫だったんだけど、プリメラさまが本を読むって聞いてつい俺も読むって言っちゃったんだよな。家の図書室にあるのかとか聞いたら執事がびっくりするもんだから、俺ってそんなに本を読まない人間に見えてたのかよってちょっとショックだった。まあ、読んでなかったけど……。

幸い、冒険譚だったから俺も楽しくて……本を読むのも悪くないんじゃないのかって思えた。しかもプリメラさまが本の中に出てくる騎士みたいな、品行方正な男が素敵だって言ってたから成程なって思ったよ。

とりあえず剣が強くて騎士になればいいって思ってたのがそれだけじゃプリメラさまに釣り合わないんだって気が付いて、挽回しなくちゃいけないんだって大慌てだったよ。おかげで真面目に勉強する姿勢を見せた俺に家庭教師が面食らったっけ。

「でも兄上だってご機嫌じゃないか」

「そうか?」

「……ユリアさんとはちゃんと仲良くしてるの?」

「まあ、それなりに」

「義姉上になってくれるといいんだけどな」

「……そういうのは、まず自分の方をしっかりしてから言うもんだぞディーン」

兄上がユリアさんとお付き合いを始めたって聞いた時にはびっくりしたよな!

まあ、俺とプリメラさまのことで二人がやり取りしてたのは知ってたけど……父上とかも、俺がプリメラさまの婚約者になれるか相当心配してたし。そりゃまあ、ちょっと前の自分を思うと確かにガキだったと思うんだけどさ……。

一応言葉遣いとかは気をつけてたつもりなんだけどな、貴族の若様らしくって。

でもそれって外面だけの話で、俺は強ければなんとかなるって思ってるだけで、実際に『跡継ぎ』ってのがなんなのかよくわかってなかったんじゃないかな。今は、責任があるんだって理解してる。

兄上が陰で色々言われてることも、わかってる。

だからこそ、俺が立派なバウム伯爵家の跡取りになってみせることで、兄上もきっと楽になると思うんだ。父上だって、母上だって安心してくれるんだろうと思う。

それにプリメラさまの婚約者として国王陛下だって認めてくださると思うんだ。まだ内定ってだけで、内定ってのはいつでもひっくり返るんだって父上は仰ってたから……。そんなことはさせない。

「でも今日はちゃんと喋れたよ」

「それは良かった」

「……生誕祭でもちゃんと踊れた」

「それも良かった」

初めてプリメラさまに会って、好きになって。

婚約者候補としてお茶会をした時、緊張して碌に話せなかったっけ。

園遊会の時は緊張して喋った内容を覚えちゃいないしモンスターが出た時はちょっとびっくりしたけどちゃんとプリメラさまを守りたいって思った。まあ……兄上に避難経路を指示されて、俺はプリメラさまを庇うようにして逃げるしかできなかったんだけど。

その時のプリメラさまは残ったユリアさんをすごく心配していて俺もすごく心配になった。

結局は兄上が助けたんだけど……俺は結局、逃げ惑っただけだったしちょっと自分が情けなかった。

だからもっと強くなるし、もっと勉強もするし、立派な騎士になるんだって改めて思った。

生誕祭はあんまり喋ることができないけど、プリメラさまとずっと踊ることができた!

ダンスも得意とは言えなかったし、恥ずかしかったけどちゃんと練習してきた甲斐あってプリメラさまも褒めてくれたんだ。また踊りたいって。俺と踊りたいって!!

あーでもあの時のプリメラさますごく可愛かった。

兄上の方は……なんか色々あったみたいだけど、観劇に行ったらしい。

「兄上、観劇って面白い?」

「うーん、どうだろうな。私は嫌いじゃないけれど、義母上の方が詳しいだろう?」

まあ、そりゃそうなんだけど。

俺としては聞きたいことは『デートとしてどうなのか』であって、でもそう聞くのは兄上にまた微笑ましいって顔されるから嫌なんだよな!

ちょっと大人だからってさ。余裕綽々を装ってるけど、俺は弟だから知ってるんだ。

「なんだよ、兄上だって贈り物とか色々悩んでるんだろ?」

「……どこでそれを聞いたんだ?」

「母上情報~」

「……それ、ユリアには言うなよ」

兄上が実は新年祭でユリアさんに贈り物をヒミツで用意してるって母上から聞いたんだよね!

彼女の誕生日に贈り物とかやること一緒だよな、やっぱり兄弟だからかな。まあ、俺は……カード一つ選ぶのにも兄上とユリアさんに付き添ってもらった過去を思えばやっぱりまだ経験が足りないんだろうけど。

でも兄上の焦った顔が見れたから、俺としてはしてやったりかな!

まあ、勿論言ったりなんかしないよ。

だって兄上に叱られるのは嫌だし、ユリアさんにも喜んでもらいたいし、もっと言うならそういういい雰囲気をぶち壊すような真似したらメレクからも苦情が来そうだし。

兄上のセンスが壊滅的にダメってんならアレだけど、そんなことはないし……母上の協力もあるし。

きっと喜んでもらえる贈り物が準備出来てるんだろうと思うんだよな。

メレクの情報によればいつも新年祭が終わってからユリアさんは帰省してるらしいから、その時に兄上からの贈り物がユリアさんの荷物にあるならいいんだけど。

「兄上、これからもう宿舎にお戻りですか」

「うん?」

「あの……いや、うん。あのさ!」

「うん」

「えっと」

「……なあディーン、まだもう少し何か入りそうか? ユリアのケーキ程じゃないんだが、食堂で最近出たピザが結構いけるんだ」

「! いく!」

いや、食い意地が張ってるわけじゃないぞ!?

兄上ともうちょっと話がしたいだけで。ほら、女の子だって恋愛話とか相談し合うって言うけどさ、男同士ってなかなか難しいんだ。

だからそういう意味でも先輩である兄上に色々と聞きたいこともあるわけで。

まあ、うん。

兄上が大人しく素直に話を聞かせてくれるとは思っちゃいないけど。

(でもまあ、ユリアさんには申し訳ないけど、兄上が逃がすとは思えないし……メレクにも悪いけど、まあ、)

「何か言ったか?」

「兄上、メレクは結構強敵だぜ。シスコンなんじゃないかなって俺、最近ちょっと思うんだよなー」

「……へえ、それはそれは」

「どうするんだよ?」

「まあ、あちらにも安心してもらうしかないだろう」

にっこり笑う兄上は、まあ世間でいう所のハンサムで優しそうな表情をした、ってやつなんだろうけど。

でもこれ、譲る気ない時の笑い方だから。

まあ、兄弟揃ってそういうところは譲れない気質なんだと思うから、メレクには諦めてもらうしかない。せめてもの救いは兄上なら多分、幸せにすることを約束してくれるだろうって感じかなあ。

ユリアさんがこの独占欲が強い兄上の性格を理解してるかどうかはわからないけど。

「そういや兄上」

「うん?」

「例の英雄父娘の話、兄上の見解でいいから教えて欲しい。あんまり近づくなとしか父上も言わないもんだから、どこをどういう風に避けるべきなのかわかんなくて……」

ミュリエッタ・ウィナーだっけ?

学園で会うかもしれないけど、あまり馴れ合うなと父上が言っていた。

でもそれってまるっきり避けるべきなのか? 英雄って騎士たちの英雄じゃないのか?

聞こうと思ったら聞いてくれるなオーラが出まくってた父上だったから、機嫌が良くないことは一目でわかるんだけどさ。知らないと何もできないじゃないか。さすがにもう俺もガキじゃないから、ちょっとくらい考えることはできるんだからな!

「……うーん。そう、だな……」

「兄上?」

あ、でも。

兄上も困ったように笑うってことは、あんまり良くないのか?

俺を見て曖昧に笑った兄上が、俺の頭をぽんぽん撫でる。

あれ、これって兄上がいつも誤魔化す時の癖だ。

(……あんまり、教えてもらえなそうだけど)

関わっても良いことは、なさそうだってことくらいは理解したよ。兄上。