軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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扉を開ければそこには人の姿。

勿論その人はアルダールな訳で、つまり目の前には当然アルダール。

なんと、夜会用の礼服に身を包んだアルダールがいたんですよ!

一般的に貴族でも騎士とかだとそれぞれ所属する隊の騎士服が正装なんだけど、昼間のアルダールは式典だったから特別仕様な礼装の騎士服を着ていたんです。

それを遠目に見て、カッコいいなあって思ったんだけど……って違う!

夜は観劇だからいつもの騎士服で来るって思うじゃん! 思うじゃん!?

なのに予想してなかったいつもとはちょっと違うその姿にドキドキすんなって方が無理でしょう!?

どうしたらいいですか私呼吸してもいいですかね見上げるとかできないんですけどいつまでも下向いてたらまずいよねでもほら顔上げたらイケメンの顔が目の前にあるわけでだからと言って私免疫なんてものはできていなくて。

「ユリア?」

「い、いえ。以前の、ダンスパーティ以来の、その……ドレスなので緊張してしまって!」

「ああ、そうだね。……とてもよく似合ってるよ」

「ああああありがとうございます!」

「顔を見せてはくれないのかな?」

「い、いえ、あの、ちょっと都合が悪く」

「ユリア」

「ひゃい!」

いやまあ確かに顔をいつまでも俯かせたままとかあり得ないでしょ。

これから二人でウィナー父娘に挨拶に行くってなってるのにいつまでこうしてるんだって話なんだけどさ。

だけどね? 考えてくださいよ。

顔を上げれば甘く笑うイッケメェェェンがおりましてな?

で、思わず顔を俯かせれば自分の足元が見えましてな?

いっつも仕事の上ではきちんとどんな時も前を向いてなさいと下の者に指導している身としては……カッコ悪いですね……。

でもほら! これ仕事と違うし! って言い訳は成り立つでしょうか。

(ああー私、いつからこんな意気地なしに……違う、緊張してるだけだぁこれ……)

似合ってる。言われて嬉しいけどね!

照れくさい。それは間違いないんです。

その上で、うん、いや社交辞令って言葉を私も知っておりますからね。着飾って見れるレベルになっているとわかってますけど、これから本物の、掛け値なしの美少女であるミュリエッタさんが。

原石から宝石に磨き上げられた、美しい令嬢になっているであろう姿を見に行くんだと思うと、やっぱりちょっと気後れすると言いますかなんと言いますか、まあそのままなんですけど。

「あ、アルダールさま、は、いつもと、装いが、違います、ね?」

どうしよう口が回らないよ……つっかえつっかえでなんとみっともない……。

これだからイケメン耐性の無い女は……私のことだよ!!

「ああ、うん。久しぶりに袖を通したんだけれどね。今日はプライベートで公式の場に行くわけじゃないというのを強調しようかと思って」

「え?」

それってミュリエッタさんに対する牽制って意味でとっていいんですかね。

私に都合よく聞きすぎ? それとも、私に対して遠慮?

いやいやだから落ち着け私。アルダールは不誠実な人じゃないって自問自答した結果毎回同じ答え出してるじゃないの。

「挨拶には行くけどね。“挨拶だけ”だと周囲にも理解してもらえるよう、よりわかりやすくなるかと思って。騎士になってからは騎士服ばかりだったからね、たまにはと思って以前仕立てておいたものを実家から取り寄せておいたんだ。どうかな?」

「に、似合ってます! すごく!!」

「そうかい? ありがとう」

思わず即答しちゃったよ……ああああだからね、私、いい加減学ぼうか!?

小中学生の初恋か! そのくらいの勢い! 駆け引きとかそういうものは私からドロップアウトしているんだと思います。

でもほら、嘘は言ってない。というよりも控えめに言っても最高かよ……そういう状態なんだけどね。それを正直に告げられることが出来るほどのメンタルを私が持ち合わせていないだけであって。

でも私が似合ってると言ったら、アルダールは笑ってくれました。

なんていうか、ふんわり柔らかく、嬉しそうに。

あああああああああああああ。

どうしよう超カッコいい上に私の恋人が超可愛いかもしれない!!

おかしいな、私よりも年上で普段から理知的でカッコよくて甘いものとかもさらっと食べちゃうしエスコートとかもばっちりなのになんでこんな何気ない仕草で私のことトキメキによる動悸と息切れで殺しにかかってるとかじゃないよね!?

「それじゃあ、そろそろ行こうか?」

「はっ……はい!」

「コートと手袋は着けていく? どうせ挨拶だけだからすぐにお暇するしね」

「……そう、ですね」

アルダールに促されてコートと手袋を手に出たけれど、ミュリエッタさんが簡単に挨拶だけで済ませてくれるかなあ。いや、前回あれだけ拒否されてたんだし諦めてくれてたら嬉しいんだけど……。

いや待て、メイナが耳にしたっていう噂の事を考えるとどうなんだろう。

はあ……ミュリエッタさんが現れるまでは生誕祭の後は普通にデートだと思ってウキウキできてたんですけど、なんだか気持ちがもやもやしちゃうのは何故でしょうか。

自分に自信がないから? それはある。

ミュリエッタさんという存在が、ゲームというモノが、どう影響してくるかわからないから? それもある。

ミュリエッタさんの行動が読めないから? それは、大いにある。

心当たりが多すぎるわ!

自分でもびっくり過ぎるこの心当たりの多さです。きっともっと考えたらもっと出てくるんじゃないでしょうか。意外と私、気にするタイプだったんですね! 新しい発見です。

そんな発見要らないわぁ。

「そういえば、観劇のチケットはバウム伯爵さまがご用意くださったのですよね」

「うん? そうだよ」

「でしたら、お礼を申し上げたいのですが今日はお会いできるのでしょうか? それとも後日、お礼状を送らせていただいても?」

「今回挨拶を捻じ込んできたのは親父殿の方だから気にしないで。演目が選べなかったことは申し訳ないなと思ってる」

「いいえ、観劇自体久しぶりですので楽しみです!」

「なら良かった。 義母上(ははうえ) が城下にある劇場のオーナーと懇意でボックス席を常に押さえているものでね。今回の演目はなかなか人気だと聞くけど、楽しめるといいね」

「伯爵夫人は観劇がお好きなのですか?」

バウム伯爵夫人と言えば、ディーン・デインさまの実母でアルダールからすると義理の母で、恩人だって話なんだよね。正妻として迎えられてディーン・デインさまを身籠られた時に、 愛人に産ませた子(アルダール) が別邸で暮らしてるって聞いて引き取ってくれた、とても器の大きな女性だって話。

お姿は何回か拝見したけれど、直接言葉を交わしたことはないと記憶してます。

アルダールは家族を大事にしてますけど、ちょっとだけ遠慮がちな感じみたいなんですよね……家族の話を聞いてると。

「ちょいちょい見に行くって程じゃあないけれどね。親父殿の都合で夜会なんかに同伴で出なきゃいけない時には劇場に寄ったりもしているようだよ。普段は領地の方で大人しくしてる人だから、時々の楽しみなんだろうね」

「そうなんですね……」

「ユリアは観劇が久しぶりだって言っていたけど、前に行ったのは?」

「メイナを宮に迎えた時に、教育として現場に連れて行って給仕の仕方を教えた時以来ですから……個人として見に行ったのはそれよりももっと前ですね」

貴族令嬢の嗜みのひとつとして、ファンディッド子爵家に居た時に観劇とかは行きましたけどね!

劇場なんて立派なものは領地にないので演劇興行とかでしたけど。それでも楽しかったなあ。

観劇っていうのは社交のひとつですからね!

趣味として楽しむという人も勿論いますけど、そういう場で流行を知るっていう意味合いもあるんだそうですよ。

私は、まあ……そこまで観劇が好きってわけじゃないですが、たまに見に行く分には楽しいですから。

プリメラさまが観劇に行かれる際には勿論ついて行ってますのでそれで見ることもあります。ただ、プリメラさまは観劇よりも演奏会の方がお好きですのであまり機会はないですけどね! それにその時は“客”として行くのではなく、お付きの人間としてお仕事ですから純粋に観劇を楽しむという意味では久しぶりなのです。

しかしバウム伯爵家が押さえているボックス席とか、なんか豪華だなあ……!

あ、ちょっと落ち込んでいた気分が持ち上がった気がします。

(これで、ミュリエッタさんの所に行くってイベントがなければ最高だったのにね!)