軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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あー……いいねえ、朝が穏やかに迎えられるって最高!

ミュリエッタさんのことでトゲトゲしちゃった心もアルダールのおかげですっきりしたし、今日はお休みの日だし、込み入った予定がひとつもない真の休日です!

真の休日とはなんだと突っ込んではいけない。浮かれすぎだって? 脳内でくらいいいじゃないですか。

アルダールのことも名前で呼べたしね! とはいえ、あれは勢いだったのだと自覚があるので次もまた呼べるとは思ってないけど。

でもあの時夜勤に向かうアルダールに会えたから穏やかな気持ちで朝を迎えられたんだよなあ。

そうじゃなかったら休日なのに朝っぱらからイライラしたままだったに違いない。感謝だわあ。

あ、そういえば挨拶だけしたら観劇とか言ってたっけ。じゃあ正装がいいんだろうなあ、プリメラさまたちに貰ったやつも使えるね!

今日はおばあちゃんに会いに行こうかな。

あと、ディーン・デインさまのお茶会用の林檎チップスでも試作して……。

休日の使い道がこんなに優雅とか私も捨てたもんじゃないと思わない?

とか思って朝食でも食べに行くかと着替えてたらノックが聞こえた。

朝っぱらから誰だろう。急ぎの仕事とかじゃないといいんだけど。休日返上とかできればちょっとご遠慮申し上げたい!!

「はい、どなたで……」

「ユリア、失礼するよ」

「え、あ、あれ? あの、アルダール、さま……?」

あれ、夜勤だったんじゃないの? いや朝だから今もう休憩時間か。

今日は会えないとかそんなこと仰ってなかったですかね。昨晩何か伝え忘れたとか?

いや、なんか不機嫌そうだわコレ。

なんか嫌な事でもあったのかな。

「……夜勤明けで直接ここに来られたんですか?」

「うん、まあ。そうなるかな」

「朝食は召し上がられました?」

「いや、まだ」

怒ってる、というか。

不機嫌、というか。

拗ねてる……のかなこれ。うーん、私が休日だからとかそういうのじゃないよな、流石に。

心当たりがないぞ? なにかやらかしたっけな……いや、心当たりがいっぱいあってですね……。

「ユリアは、ずるい」

「は?」

腕組みしてこちらを見てくるアルダールの発言に、私は思わず気の抜けた声を出してしまった。

だってそうじゃん? え? ずるいとかなんでしょうか!

寧ろアルダールの方がズルイって一般的に言われてもおかしくないんですけど。ルックスでしょ、家柄でしょ、実力でしょ、全部揃ってるじゃないですかね。

そんな彼が何をもって私に『ずるい』と言っているのかわからない。

「昨日の夜!」

「え、ああ、はい」

「なんで去り際に! なのに今はまた戻ってる!」

「え?」

なにが?

いやこれなにがって聞かなきゃわかんないけど聞いたらもっと怒られそうな気がする。

ええと……去り際。去り際って何があったっけ。恋人として紹介してくれるって言ってくれて、そしたら劇を見に行こうって言ってくれて。

あ、うん。おやすみなさいって言った。

そんでもって勢いで名前を──なまえを?

名前……を、確かに呼びました。ハイ呼びました!

で、今またさっき今日会えないとか言っていたアルダールさん登場に思わずいつも通りの呼び方しました。ハイ!

「……もしかして、呼び方……ですか……?」

「そう! それ!!」

あれえええええ、いや、まあ、そうだね、そうだったよ!

アルダール側の立場からすれば唐突な私の行動に驚かされたに違いありませんよね!!

「え、えっと……その」

「……呼んで」

「え?」

「ちゃんと、今。目の前で。私の名前を、呼んでくれないか」

「あ、アルダール……さま」

「ほらまたさま付けになった!」

「もう! そんな風にされたら言えるものも言えないじゃないですか!!」

そうですよ、ただでさえあれは勢いという偶然の産物だったので……そんな真面目に肩を掴まれるようにして「さあ言え!」って迫られて言えるかってんですよ。

なんだこれコントか! 罰ゲームか!!

いや、うん。

そりゃね……アルダールが呼んで欲しがってた、っていうのはひしひし感じておりましたとも。ええ、ちゃんと理解しておりました。

その上で彼が私のこの性格を考慮して自分から行動できるのを待っていてくれたその優しさだって理解してますよ。ちゃんとしてますからね!?

そこに胡坐をかいていちゃだめだってことくらいわかってますよ。

わかってますけど……ほら、ね? 照れると言葉なんて出ないじゃないですか。異性の名前を呼び捨てとかハードル高いわけですよ。いや、イケメン彼氏とかそれだけでもうなんだろう、別次元の存在みたいな感じだったんですけど今は本当に幻でも何でもなく目の前にいるんで、流石にハードル云々いつまでも言ってちゃだめなんだろうなあとは思っているんですがね。

「……ユリア」

「ま、まだ慣れてませんからね!? さま付けだってしちゃうと思いますし、仕事の時は仕事の時で割り切りますからね!?」

「うん、それで構わないから」

ほら、とすごく真剣な顔で促されて。いや、そこまで真剣な顔する必要ある?

ただ名前を呼ぶだけなんだけど、そこまで重い話だったかこれ。

「あ……あるだー、る」

「うん」

いや、確かに名前を呼ぶだけですごく重要なイベントをこなした気がしてきました。

喉がからっからです。なんか声が裏返った気がしないでもありませんが、アルダールはとても満足したのでしょう、良い笑顔を見せてくれました。眩しい。目が潰れる……!

イケメン耐性出来てきたと思ってましたが、まだまだのようです……!!

「……あ、あの……良かったら、あの。朝食を、用意、しましょうか……」

「うん……そうだね、ユリアが大丈夫なら」

「ちゃんと! 食べたら宿舎に戻って休んでくださいね!」

「ああ、ありがとう」

くっ……もうすっかり余裕綽々のいつものアルダールに戻りおった……!!

思わず仏心を出して朝ごはん作ってあげようかななんて思うんじゃなかったかもしれない。食堂に行きましょうで良かったじゃん!?

いやまあ、なんとなく一歩前進出来た気がしたからね、今日はこの後私とアルダールの時間が合わないことを考えてちょっと一緒に過ごしたいかなーなんてちらっと思っちゃったのも事実だけどね。うん? ちらっとだよ、ちらっと。

仕方がない。朝ごはんを作ろうかな。

何があったかなあ。チーズとかパンはあったと思うんだけど……ああ、そうだ。卵とアボカドとトマトもあったな。夜食用にと思ったけどこれでいいか。

「……アルダール、は好き嫌い、ありますか」

「いや、ないよ」

「そうですか。簡単なものしかできないけど……」

「ありがとう、嬉しいよ」

……あれ? なんでしょう。

ちょっと予定と違ってバタバタしましたけど、悪くない休日の朝じゃないかなと思い始めましたよ。

簡易キッチンついてて良かった!

まずは朝の紅茶でも入れて、それからパンを焼き直して、……恋人と朝から食事を共にしてスタートする休日ってそういえば憧れでしたねえ、前世の話ですけど。

ゲームの朝練デートとかそういうイベントには学生時代から縁がなかった分憧れたものです。

まさか転生してからこんなリア充イベントを迎えるとは……人生わからないものですね!

「ユリア、誰か来たみたいだ」

「本当。こんな朝から誰でしょう……はい、今出ま――」

「ユリアさま! 大変ですわ!!」

「……スカーレット、前にノックはしなさいと注意しましたけどノックだけじゃなくて入室の許可を得てから……」

「大変申し訳ございません。アルダール・サウルさまもごきげんよう! 朝からユリアさまのご機嫌伺いですの? 夜勤明けでしょうに、熱心ですのね」

「スカーレット……」

これが嫌味じゃないから困ったものなんだよね!!

普通に今の発言を意訳すると『夜勤明けなのに恋人に会いに来るなんて本当に好きなのね』ってところでしょうか。素直にそう言え! 言われたら言われたで私が対応に困るけど。

でもスカーレットは私たちの関係を羨むとか妬むとか一切なしの雰囲気だからアルダールの方も曖昧に笑っただけだ。でも後で注意する。絶対する。

「それで、どうしたの。何か大変なことがあったんでしょう?」

「そうでしたわ! どう対処して良いか指示を仰ぎにまいりましたの!!」

「……どうしたの?」

これは本当に大変な事でも起こったか?

何かあれば上司に指示を仰ぐというのが大事とは確かに普段から言っているけど、基本的な雑事はスカーレットだけじゃなくてセバスチャンさんとか皆ある程度の事は出来るはずなのに。

思わず緊張した私に、スカーレットが眉根を寄せて口を開きました。

「ハンス・エドワルドを通じて、ミュリエッタ・ウィナーが面会を申し込んできたのですわ。ユリアさまに」

「……は」

「ですから、例の、あの、娘が。ユリアさまに、面会を申し込んできたんですわ! ハンス・エドワルドを通じて」

私の面くらった顔に、スカーレットが丁寧にゆっくりと聞かせてくれる。

いや、聞き取れなかったわけじゃないよ……?

だって昨日会ったじゃない!?

思わず何やってんだあのヒロイン、と叫ばなかった私を褒めていただきたい。

褒めて、いただきたい。

……優雅な、朝食は迎えられそうにないなって思いました。ええ、ほんと……。