作品タイトル不明
二巻販促用SS 夢は叶うのでなく叶えるもの
「これが《かるぼなぁら》か」
「左様でございます」
恭しく頭を下げる料理人。
市井を賑わす料理と聞き、マルチェロ王子はそのレシピを手に入れて王宮の料理人に作らせた。
モノは絶品。似たようなパスタを今までも口にしてきていたが、黒胡椒を振っただけで全くの別物に変貌する。
感心しつつも呆れ気味な口調でマルチェロ王子は呟いた。
「これを、あの王女殿下が指南なされたと.....」
とにもかくにも破天荒な御仁である。
つくづくといった感じに考え込む王子。
主の森のことといい、このパスタといい、巨大な旋風を散々巻き起こし、彼女は飄々とフロンティアへ去ってしまった。
残された我々に、多大な宿題を残して。
それが宿題なのだと王子が気づいたのも、つい最近である。
甦った国境の森の影響か、辺境の村の穀倉地帯が見違えるように広く大きく展開され始めたのだ。
見渡す限りの広大な畑。
あのように見事な農地を作るのに、辺境の村は多大な努力を重ねている。
主らの助力があるとはいえ、結局は荒れ果てた荒野だ。人々が手を加えねば何ともならない。
その努力は実を結び、今では大量の農作物をフラウワーズ中に提供している辺境の村。
いずれ、フラウワーズでも自給自足が復活するかもしれない。
マルチェロ王子は、ぞわりと背筋を震わせた。
あの時、フロンティアの王女殿下は何と言っていた?
『王都に森はありますか?』
.....ない。
だが逆を言えば、森さえあれば主の訪れを待つことが可能なのだ。マルチェロ王子は、突然、そう気がついた。
辺境の荒野が穀倉地帯に変わりつつある今、それが決して不可能なことではないということを、彼はいきなり理解する。
そして愕然と顔を凍りつかせた。
「.....森を作る? やれるのか? いや.....」
やれる、やれないではない。やるのだ。
求めるのなら、それを叶えるべく努力を重ねるのだ。辺境の村のように。
野望に満ちた剣呑な光が、マルチェロ王子の瞳に一閃する。
こうして王宮北の林を森へと変えるため、マルチェロ王子の努力が始まった。
自ら陣頭指揮を取り、泥や枯れ葉にまみれて植林を繰り返す王子。
私財の殆どを投入して土作業に明け暮れるマルチェロ王子を見守りつつ、周りは彼の頭が違ってしまったのではないかと、酷く心配をした。
そんな周囲を顧みもしないで、彼は、ただひたすらに森を増殖させていく。
愚直とも思える必死さ。
時には挫けて蹲ったり、些細な成功に歓喜したり。多くの悲喜交々を交え、努力する彼の姿に共感する者も現れたりと、順風満帆ではない紆余曲折を歩きながら、マルチェロ王子は努力を重ねる。
短くはない年月を費やし、ようよう森と呼べる大きさに成長した王宮北側を見て、彼が雄叫びをあげたのも御愛嬌。
多くの文献を読み漁り、フロンティアから農林の専門家も招き、あらゆる努力を惜しみ無く注いで、彼はさらに大きく森を成長させる。
何処まで大きくさせても満足しないマルチェロ王子。もっと、もっとと森へ傾倒する彼の姿は狂気じみていて、思わず周りに恐怖を抱かせる。
そんなこんなで変わり者のレッテルを貼られても、猪突猛進に植林を繰り返すマルチェロ王子。その経緯から後に彼は《森の王》と呼ばれるようになる。
小人さんは彼の努力を、じっと見守ってくれていた。そして彼の夢見ていた野望は現実と交差する。
マルチェロ王子の悲願が実を結ぶのは、十数年後。
森の主と共に空を翔る幸せな未来を、今のマルチェロ王子は知らない。