軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#079 ちょうねむい

このロッジの二階は寝室が並んでいる。全部で五部屋だったかな? あとはトイレが一室だ。

部屋数が多いので、一人に一室ずつが宛てがわれた。俺の部屋は階段を上がってすぐの一番手前だな。何故こんなことを話しているのかというと、つまり階下に降りるには俺の部屋の前を通る必要があるということだ。

寝る前にちょっと情報端末でシエラ星系内の時事ニュースに目を通し、一通り目を通したので寝ようと思ったのだが……そんな時、誰かが階下へと降りていく気配を感じた。

既に時刻は深夜と言っても良い時間帯だ。もうとっくに皆寝ていると思ったのだが。

エルマ辺りが寝る前に酒でも一杯引っ掛けようとでもしているんだろうか? 俺もなんとなく喉が渇いたような気がするし、水でも飲むかな。

俺もベッドから抜け出し、階下へと足を向けることにした。

「……?」

一階へと降りてみたが、ぼんやりとした間接照明しか明かりが点けられておらず、一階は薄暗かった。おかしいな、誰か降りてきたはずだが……? と首を傾げながらキッチンの冷蔵庫から飲料水のボトルを取り出してリビングへと向かう。

「……何やってんだ?」

「あっ……」

リビングのソファの上に寝巻き姿のクリスが寝っ転がっていた。間接照明の薄明かりに照らされたクリスの顔には涙の跡があり、目も少し赤いように見える。クリスは慌てて身を起こし、俺から顔を背けた。既にバッチリと見てしまったのでバレバレである。

俺は何も言わずにクリスの隣に腰掛け、水のボトルの蓋を開けた。喉を通り抜けていく冷たい水の感覚が心地よい。さて……どうしたものかな。

「寝られないか」

「いえ、そんなことは――」

「その言い分は厳しいだろ」

「――はい」

クリスが背けていた顔を正面に向けてしゅんと肩を落とす。その横顔を見ると、やはりちょっと目の辺りが腫れぼったいように見えるな。目も赤い。

「ここには俺しか居ないわけだし、別に良いんじゃないか。帝国貴族の娘たらんと無理に振る舞わなくても」

「べ、別に無理などしていません」

「そうかい?」

再び水を飲む。うーん、冷たい。俺、この冷水が喉を通っていく感覚って結構好きなんだよな。今まではどうしてた――ああ、そういやミミと一緒に寝てたもんな。ミミの部屋には一応ベッドが二つあったはずだが、この様子だと同じベッドで寝てたんじゃないだろうか。

「一緒に寝るか?」

「だいじょ……えっ?」

「いや、寝るだけだぞ。今からミミやエルマを起こすのは可哀想だし」

この状態のクリスを放置して寝るというのも無いだろう。この調子だと明日の朝まで起きてそうだし。別に疚しいことをするわけじゃなく、ただ添い寝するだけなら良いだろ。このロッジには俺達しか居ないし、ミロが外部に情報を漏らすとも思えない。

「そ、それは、そのっ?」

「寝るだけだって。ふあぁ……俺も眠いし」

そう言って俺は水のボトルの蓋を締めて手に持ち、ソファから立ち上がった。

「ほら、行こう」

「は、はいっ」

俺が差し伸べた手を取ってクリスが立ち上がったので、その手を引いて階段を登り、俺に宛てがわれた寝室に入る。ベッドはキングサイズなので広々としているから俺とクリスが同じベッドで寝ても狭いということはまず無いだろう。

俺はベッドの傍でクリスの手を離し、ベッドに上がって寝転んだ。そしてクリスと繋いでいたのとは反対の手に持っていた水のボトルをベッドサイドのテーブルに置く。

「おやすみ……腕枕でもするか?」

「いっ、いえっ! おかまいなくっ!?」

「そっか」

なんだ、なんか積極的な感じだったのにいざとなるとガチガチだな。案外自分のペースを乱されると弱いタイプなのかね。暫く躊躇していたようだが、俺が目を瞑って寝たふりをするとベッドの上に上がってきたようだった。ごそごそと落ち着かなさげに暫く身を捩っていたようだったが、やがてそれも大人しくなった。

寝たかな? と思って薄目を開けるとバッチリクリスと目が合った。

「やはり寝たふりでしたか」

「や、もうねる寸前だけど……」

実際もう目を開けているのも限界だ。ちょうねむい。

「くりすはもっとあまえていいぞ……」

だめだ眠い。呂律も怪しくなってきた。意識が眠りに落ちる前に何か温かいものがくっついてきたように思うが、クリスがくっついてきたのかね? まぁいいや。おやすみ。

目を覚ますと穏やかな寝息を立てるクリスの顔が目の前にあった。すぅすぅと気持ちよさそうに寝ている。意志の強そうな光を宿している黒い瞳も今は閉じられて瞼の裏に隠れているな。こうして間近で見るとまつげ長いなぁ……本当に美少女だ。

どうして俺のベッドにクリスが寝ているんだろうか? と考えて昨夜のことを思い出す。ああ、なんかいかにも眠れなさそうな感じだったから半ば強引にベッドに連れ込んだんだったか。今思えば迂闊な行動のようにも思えるが、まぁ手を出したわけじゃなし。問題ないだろう。

今晩からはミミかエルマに添い寝をするようにそれとなく頼んでおくか。手を出す気は無いが、同衾なんてしていたら万が一が無いとも限らないわけだし。

下手に動いて起こすのも可愛そうなのでぼーっとクリスの寝顔を眺めているうちにまた眠くなってきた。意識が落ちる。

何か身じろぎするような気配を感じて目を覚ますと、クリスが顔を真赤にして目をぐるぐるさせていた。どうやら俺が二度寝をしている間に目を覚ましたらしい。

「おはよう」

「お、おはっ、おはようござっ……」

「落ち着け。単に添い寝しただけだから。服も乱れてないだろ?」

そう言って俺は寝転がったまま身体をぐっと伸ばし、溜息を吐く。二度寝したせいか微妙に頭が重い感じがするな。まぁ起きて身体を動かしたりしているうちに抜けるだろう。

「よーし、起きるかぁ。クリスはよく眠れたか?」

「は、はひっ……!」

クリスが顔を真赤にしたまま俺の横、つまりベッドの上で正座をしていた。隙あらば俺と関係を……みたいな動きをしていたのに実際そういう状況になるとダメダメじゃないか。可愛いな。

ベッドサイドの机に置いておいたボトルの水を一口飲み、カチコチになっているクリスをなんとかベッドの上から下ろして連れ立って階下に向かう。すると、ダイニングのテーブルに既にエルマが座っていた。未だ顔を赤くしているクリスと俺を見て一言。

「あんた、あんなに手を出さないって言ってたのに……手が早いにも程があるでしょ」

「手ぇ出してねえから。添い寝しただけだ」

と一応エルマの言葉を否定してから俺も席に着く。

「添い寝しただけってあんたね……まぁ、確かに手を出した感じではないわね」

まだ席に着いていないクリスを上から下までジロジロと見たエルマがそう呟く。着衣も昨日寝た時のままだし、俺もクリスも朝風呂を浴びてきた風でもないからな。

「で、どういうつもりなわけ?」

「まぁ、後で話すよ。クリスは先に身支度をしてきたらどうだ?」

「は、はいっ」

俺の言葉にハッとしたような表情をしてからクリスはパタパタと洗面台のある風呂場の方へと駆けていった。それを見送ってからエルマに向き直る。

「どうも一人で寝ると親を失ったショックがぶり返してくるみたいでな。人の気配を感じてリビングに降りてみたら泣いてたんだ」

「そう……気丈に振る舞ってたから大丈夫なのかと思ってたけど、やっぱりそんなことはなかったのね」

「そうみたいだ。悪いが、ミミにもこっそり話してこんやはどっちががそれとなく話を振って一緒に寝てやってくれないか」

「んー……そうね、ミミにも話して上手くやってみるわ」

俺の頼みにエルマはそう言って頷いてくれた。

「頼むよ。ソファの上で泣き腫らしててさ、見てられなかったんだ」

そんな話をしているうちにミミも起きてきた。

「おはようございます!」

「おはよう」

「おはよう、ミミ。朝から元気いっぱいだな」

「はいっ、海で遊ぶのが楽しみで」

朝からミミのテンションは最高潮である。ミミは朝から元気だなぁ。

「クリスが戻ってきたら俺も顔を洗って朝飯だな。朝食は何が出るのかね?」

「朝食のメニューは焼き立てのパンにスクランブルエッグ、カリカリに焼いたベーコンと茹でたウィンナー、それに新鮮な野菜のサラダと果汁100%ジューズです」

「まさにホテルの朝食って感じだな」

朝食を終えたら遂に海だな。ふふふ、三人がどんな水着をチョイスしたのか実に楽しみだ。