軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#060 引き撃ちは鉄板戦術

敵は後方に十三隻。最初から後ろを取られているこの状況はあまり面白くはない。

だが、基本的にシールド容量も火力もこちらの方が圧倒的に上の筈だ。シールドセルも十分に積んでいる。たまにはゴリ押し戦法を取るのもアリだろう。

「今回は真正面からの撃ち合いで行くぞ」

「本気?」

「本気さ」

重レーザー砲を搭載した四本の武器腕と二門の散弾砲を展開しながら最大出力でスラスターを噴かして加速する。

『なんだよ逃げんのかァ? 腰抜け野郎!』

『ギャハハ! 十三隻相手に逃げられるかなぁ?』

別に逃げるわけじゃないんだが。と思いつつ宙賊達との距離を取る。真正面から撃ち合うとは言ったが、別に足を止めて撃ち合うつもりではない。四方八方から撃たれると面倒だからな。

「このまま逃げるんですか? こっちのほうが速いみたいですから、逃げられそうですけど……」

「まさか」

「えっと……?」

「こうするのさ」

『クソッ、あいつ思ったより速――!?』

前方へと移動するスピードをそのままに、姿勢制御スラスターを噴かしてクリシュナを急速に回転させた。結果として、ケツを見せながら逃げていたクリシュナは速度をそのままに後退しながら十三隻の宙賊と対峙することになる。

「まぁ、引き撃ち安定よね」

「そういうこった」

頑張ってこちらに肉薄しようとする宙賊どもに対し、クリシュナは後退用スラスターを噴かして距離を保ちながら四門の重レーザー砲を連射する。宙賊艦というものは基本的に攻撃力を優先しているため、シールド容量が大変お粗末だ。

重レーザー砲から放たれる緑色の光条はそんな宙賊艦達のシールドを障子紙か何かのように容易く貫いて装甲を融解させ、船体を穿っていく。

『一撃でシールドが――うわあぁぁぁぁっ!?』

『ミ、ミサイルだ! 全弾叩き込め!』

四隻の宙賊艦が爆発四散するが、残りの九隻が健気にも熱探知式のシーカーミサイルを発射してきた。仲間の犠牲を無駄にしないために全力の攻撃を放ってきたわけだ。

感動的だな。だが無意味だ。

『な、なんだ!? ミサイルがっ!? ぐわぁ!?』

二門の散弾砲から発射された超高速の散弾が迫りくるシーカーミサイルを迎撃し、誘爆させて大爆発を起こした。その爆発を目眩ましにして更に重レーザー砲を連続で撃ち込んでいく。宙賊どもからもレーザー砲やマルチキャノンから発射された弾丸が飛んでくるが、クリシュナの分厚いシールドに阻まれて装甲に傷一つつけることができていない。

『クソッ! カモかと思ったらとんだ化物だ! 逃げるぞ!』

また四隻減って残り五隻。こういう時、都合よくリーダー格が残るのはやはりいちばん後ろにいるからなのだろうか? と益体もないことを考えながら更に重レーザー砲を連射して宙賊どもを仕留めていく。

『クソッ! クソッ! 死にたくねぇ! 死にたくねぇ! 死に――』

最後の一隻が四本の光条に貫かれて爆発四散する。こいつはクソって言葉が口癖なのかね? ああ、そういや昔FPSで遊んでた時もこういう奴いたな、壊れたラジオみたいにブルシットブルシット言ってた人。

「状況終了。うーん、性能差がありすぎてどうにもだな」

「この艦は反則過ぎるわよ。ジェネレーター出力おかしくない? 見た目は小型艦だけど、出力と火力が大型艦並みじゃないの」

「反則っぽいってのは否定しない。でも、機動特性は割とピーキーだぞ」

「まぁそうね。スワンほどじゃないけど」

「アレを使いこなしてたエルマは間違いなく腕利きだと思うぞ……アレは俺には無理だ」

エルマと話をしながらクリシュナを宙賊艦の残骸の方へと進めて戦利品のサルベージを開始する。

「いつものことですけど、なんというか……」

和気藹々と言っても良いほどの明るい調子で話をする俺とエルマにミミが微妙な視線を向けてくる。ふむ。断末魔を聞いて引っ張られたか。

「人を殺したっていうのに平然としすぎてる?」

「えっと……」

ミミはエルマの質問に言い淀んだ。その通りなのだろうが、俺とエルマにそう言うのは気が引ける、といったところだろうか。

「ミミ、いちいち気にしていたらキリがないぞ。アレは人を襲うたちの悪い宇宙怪獣みたいなもんだから。ある程度知恵が回って理解できる言葉を話す分始末に負えないけどな」

「ヒロの言うとおりよ。あいつらが上げる断末魔や命乞いの声なんか気にする必要はないわ。あいつらは何の罪もない民間船を襲って散々そんな悲鳴を無視してきたクズどもなんだから。因果応報ってやつよ」

「……はい」

ミミからしょんぼりとした声が返ってくる。席が離れているから表情は見えないが、きっと表情も暗く沈んでいるのだろう。

「まぁ、でも辛いかもしれないけどミミはそのままの方が良いのかもな。俺とエルマはこんなだから、ミミにはこの船の良心として優しい心を持ち続けて貰ったほうが良いのかもしれん」

「私にだって良心くらいはあるわよ……? でもミミ、宙賊に容赦はしてはいけないの。奴らを一人逃せば何十人、何百人もの人が不幸になるかもしれないんだからね」

「……はい」

ううむ、テンションは今ひとつ戻らないようだ。こういう時、どんな言葉をかけたら良いかわからないの。ごめんなミミ。

「大した積み荷は無いみたいね」

「だなぁ。保存食、酒、少量のレアメタルくらいか。装備もわざわざ引っ剥がしてまで持っていくようなものは……Oh」

ドローンを操作して戦利品を漁っていると、思わず溜息の出るようなものを見つけてしまった。

「どうしたの?」

「やべーもんを見つけたかもしれん」

「えぇ? 何よ、また歌う水晶?」

「いんや、これ」

俺が見つけた戦利品のデータをミミとエルマに送る。

「これは……コールドスリープポッド? げ、中身入りじゃない」

俺の送ったデータを確認したエルマが嫌そうな声を上げた。

コールドスリープポッドというのは、客船などに装備されている緊急用の脱出ポッドだ。中に入って脱出した人間を低温下で仮死状態にして代謝を抑え、少ないリソースで長時間生存できるようにするものである。

射出して一定時間後に救難信号が発せられるようになっており、コールドスリープ状態で搭乗者が生存しているうちになんとか他の船に回収してもらおうというコンセプトの救命装置だな。ちなみにステラオンラインにおいては換金アイテムみたいなもんである。この世界においてはそんな単純な物体ではないのだが。

「中身入りってことは……生存者ですか?」

「ポッドがイカれてなければそうなるな……放置して帰るわけにもいかないよな」

「いかないわね」

これも発見者に救命義務が課せられている。発見して放置した場合は結構な重罪になり、賞金がつくらしい。バレへんバレへんと放置して多額の賞金を懸けられてしまう傭兵や商船主の話には枚挙にいとまがない。

「回収するかぁ……んで可及的速やかにコロニーに向かおう」

「バカンスに来たっていうのに早速ケチが付いたわねぇ……まぁ宙賊に襲われた時点でケチはついてたけど」

「えっと、なんでそんなに面倒臭そうなんでしょうか……?」

ミミの言葉に俺とエルマは目を見合わせた。メインパイロットシートとサブパイロットシートは隣り合っているからこうやって視線を合わせられる。

で、今は互いにお前が説明しろよ、あんたが説明しなさいよと説明役を押し付けあっているわけだが……いや、さっきミミに宙賊に関してちょっと厳しいことを言った手前、人命救助をめんどくさがる理由を説明しにくいんだよ。

結局はエルマが折れて溜息を吐いてから説明を始める。

「コールドスリープポッドを使うと、数日の間記憶の混乱が起こることが多いのよ。だから、一週間ほどの間は救助した人が『中身』の保護義務を負うことになってるの。記憶が戻った後にその間にかかった費用なんかはその人に請求できることにもなってるけどね」

「つまり、一週間の間はバカンスにも行けないし、宙賊狩りにも行けないってことだな……まぁ、人助けだから仕方ないな」

「そうですね。人助けは良いことだと思います。私もエルマさんも、ヒロ様のそういうところに助けられましたから」

「……そうね。ケチが付いたなんて言ったらバチが当たるわね。あとは『中身』に問題がなければ良いけど」

「中身なぁ……そればかりは開けてみないことにはなぁ」

中から出てくるのが記憶の混乱があっても理性的な人なら良いんだが……エルマから聞いた話だととんでもないのが出てくることもあるらしいからなぁ。

「何にせよ、シエラプライムコロニーにさっさと向かうとしようか。回収も終わったし」

「そうね。ミミ、ナビゲーションの再設定をお願い」

「はい、ナビゲーションデータを設定します」

シエラプライムコロニーへのナビゲーションデータが設定され、コックピットのメインディスプレイ上に目標が表示される。

「よーし、じゃあ行くぞ。超光速ドライブチャージ開始だ」

「はい、チャージ開始します」

こうして俺達は中身不明のコールドスリープポッドをカーゴに収め、シエラプライムコロニーへの移動を再開するのだった。

コールドスリープポッドの『中身』がどんな面倒事を引き起こすかも知らぬままに。