軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#504 「痛くなければ覚えませぬ」

用意を終えた俺達は聖堂へと向かった。今回はお留守番なし、全員での出陣だ。出陣と言っても別に戦いに行くわけではないけども。

「お待ちしておりました。歓迎いたします」

「すっげぇ憮然とした表情じゃん……」

で、ヴェルザルス神聖帝国の聖堂の入口でコノハ――丸獣耳系サムライガール――に滅茶苦茶嫌そうな顔で出迎えられた。なんでだよ。

「嫌なら帰るけど……?」

「別にそういうのではないです……フウシン殿が皆様をお待ちしておりますので、どうぞ」

そう言ってコノハが踵を返し、しずしずと俺達を先導し始める。彼女から伝わってくる精神波はごく僅かで、感情の機微を読み取ることは難しい。恐らくだが、そういったものを漏らさないような訓練を積んでいるのだろう。

それにしても解せぬ。どうしてコノハはこんなに塩対応なのか。俺達に対してというか、特に俺に対して塩対応っぽいんだよな。何か彼女に嫌われるようなことをした覚えは無いのだが。

「どうしてこんなに塩対応なんだと思う?」

「さぁ……? 潔癖な質なんじゃない?」

「沢山女を侍らしてサイテー! とか思われてるやつやな」

「申開きのしようもねぇ……」

手当たり次第ってわけじゃないし、誰だって良いってわけでもないんだと反論したい気持ちも無くもないのだが、客観的に見てそういう関係にある女性の数が多いというのは事実でしかないし、なんなら昨日から今朝にかけて全員とくんずほぐれつしていたという事実がある――もっとも、殆ど覚えていないが――ので、そういう理由で隔意を持たれているということであれば言った通りに申開きのしようもない。

皆で靴を脱ぎ、昨日案内された奥の部屋へと移動する。

「おお、お待ちしておりましたぞ。本日もお元気そうで何よりですな」

「そりゃどうも。誘われるままに来てはみたものの、俺達の相手でそちらの手を煩わせるのも心苦しいんだが」

「いえいえ、その点はお気になさらず。これも我々の務めですからな。大いに楽しんでいって頂きたい」

にんまりと好々爺めいた笑みを浮かべ、フウシンはそう言った。

☆★☆

「それで、貴方は護衛官の訓練見学を志望したんですか」

「目下ヴェルザルス神聖帝国に関連する事柄で俺と密接な関係があるのって法力関係だしなぁ……それはそうなるだろ?」

「そうですか……」

俺を訓練場へと案内するコノハから今にも溜息が漏れ出てきそうだ。どうして俺にはそんなに塩対応なのよ、君は。

まぁ、ちょうど良いから聞いてみるか。幸い、コノハと一緒に訓練場に向かうのは俺だけで、他には同行者もいないし。

「回りくどいのは苦手だから単刀直入に聞くが、俺は何か君のお気に召さないことをしたかな?」

「……いいえ」

「絶対嘘じゃん……」

あの間は絶対に何かあるやつじゃん。と言っても、何も心当たりが無いんだが。うーん? やはりエルマが言っていたように潔癖な質なんだろうか?

「俺が沢山の女性と仲良くしているのが気に入らないとかそういう……?」

「……それも関係なくはないですね。はぁ」

彼女は溜息を吐き、ちらりとこちらを振り返った。

「巫女様というものがありながら、どうして貴方は他の女性にうつつを抜かしているんですか」

「えっ? どうしてって言われても困るが……クギが来た時にはもう五人の女性がいたわけだし、クギが来たからって皆を蔑ろにする方がクズの所業じゃない……?」

ショーコ先生とネーヴェがクルーとして俺の船に乗ったのはクギが来てからの話だが、ショーコ先生は個人的な事情だけでなく船に船医がいてくれると心強いという思惑もあったし、ネーヴェに至っては俺が保護しないと野垂れ死ぬのがほぼ確定みたいな状態だった。いや、そこまではいかなかったかな? 政治的に使えるかもしれないと考えた貴族が拾った可能性はあるか。

「そ、それは……」

「君の価値観からするとクギ以外の女の子にも手を出している俺はとんでもないスケコマシ野郎なのかもしれない。それはまぁそう、否定はしない。ただ、俺は全員と真面目にお付き合いしてるし、ちゃんと向き合っているつもりだぞ。無論、誰にも寂しい思いをさせず完璧に振る舞えているとは思ってないけど、少なくともそうなるように努力はしているつもりだ。俺一人が頑張ってるわけじゃなく、皆で支え合っているんだけどな」

寧ろ、俺が皆に支えられている面の方が多いと思う。俺をシェアするローテーションとかに関しては全部丸投げだしな。主にメイがその辺りを差配しているんだと思う。その差配に従って俺をちやほやしてくれる皆には頭が上がらんね。

「とはいえ、俺の考えを押し付けても仕方がない話だよな。とにかく、君が俺のことを気に入らない理由はわかった。機会があったらクギと話してみてくれないか? 彼女にも同郷人にしか話せない悩みとかあるかもしれないし。俺に対する不満とかが聞き出せたら教えてくれると有り難い」

「……考えておきます」

俺の言葉が少しは響いたのか、コノハの塩対応が少しだけ緩和した気がする。やはりコミュニケーションというのは大事だよな。

☆★☆

「よし、戦りましょう」

コノハに案内されて訓練場に辿り着くなり満面の笑みを浮かべたランシンにそう言われた。もしかして頭の中身にまで筋肉とか詰まってらっしゃる?

「いや、俺は訓練を見学しに来たんだが……それもチャンバラとかじゃなく、法力の」

「それは少し難しいのですよ、ヒロ殿」

「どうして」

「我々が法力も併用して戦うにはこのコロニーは脆過ぎますからな。設備が整っていれば話は別なのですが」

「設備ねぇ……それはどんなものなんだ?」

自分の扱う第一法力――念動力系のサイオニックパワーの威力を知っているだけに、その威力を持つ攻撃を振るっても問題なくなる設備というものに興味が湧いた。

「一種の精神空間で肉体の損傷や周りへの被害などを気にせず訓練することができる専用の設備がありましてな。残念ながら、そういった高度な法力設備は本国にしか配備されていないのです」

そう言ってランシンがいかにも残念だといった様子で溜息を吐く。つまり、何も気にせずに全力で殺し合い同然の訓練ができる設備……ッテコト!? こいつら、思っていた以上に脳筋なのでは?

「もう少しこう、なんというか、穏便な訓練は無いのか……? クギにはお部屋でできるかんたん念動力訓練みたいなのを習ってたんだが」

「お恥ずかしい話ですが、某はそういった地道な訓練が苦手でして」

「ランシン隊長は第一法力の中でも自己強化系の法力が得意な方なんです。逆に放出系の法力は……」

頭を掻くランシンの横でモエギが苦笑いを浮かべる。なるほど、自己強化系。

「具体的には自己強化系の第一法力ってどういうものなんだ?」

「某が得意とするのは身体能力や自己治癒能力の向上、自身や得物の耐久力強化です」

「ピンとこねぇ……グラッカン帝国の貴族と比べるとどんな感じなんだ?」

「ああ、前に模擬剣を使った立ち会いをしたことがあります。反応は良かったですが、力と速度は今ひとつでしたな。あと脆すぎます」

「おーけー、なんとなくわかった」

恐らくだが、帝国貴族を子供扱いできるレベルの身体強化だな。もしかしたらメイと同等か、それ以上の身体能力を発揮するのかもしれん。いや、コロニーを脆いと言い放ってる辺り、それ以上かもしれないな。単純なフィジカルでコロニーを壊しかねないとか、タイタン級の巨大戦闘ボット並みか、それ以上か? 恐ろしいな。

「まぁ……やってみるか? 模擬戦。言っておくが、俺の身体能力は少し鍛えた一般人レベルだからな? 模擬剣でぶん殴られたら簡単に骨折して血反吐を吐くからな?」

「ははは、それならば某が自己強化系の法力の使い方を伝授いたしましょう。実地で」

「それ、痛くないやつ?」

「痛くなければ覚えませぬ」

「おい誰かこいつを止めろ!」

俺に模擬剣――いや、模擬刀を投げ渡したランシンが良い笑顔で間合いを詰めてくる。助けて!