軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#503 「まだ、大丈夫ですよ」

「頭がいてぇ……」

気がついたら何故かメディカルベイではなく俺の部屋のベッドの上だった。しかもどういうわけか、クギだけでなくミミとウィスカもベッドにいるし。脱ぎ散らかしてある服を見るに、姿はないけど他の面々も居たのでは……? というか今何時だ?

「……どういうことなの」

クギの看病をしていたのが昨日の昼過ぎ。今は翌朝というか、ほぼ昼前である。まるっと二十時間分くらいの記憶が無いんだが。

あ、いや、待って。何か思い出してきたような気がする。クギに何かされて、意識が吹っ飛んだと思ったらなんか色々ととんでもないことを自供させられたような……その自供内容を元にクギに色々されたような……そのうちミミ達が帰ってきて――ウッ、頭が!? 思い出そうとすると頭が痛い!? 何か脳が思い出すことを拒否している気がする!

俺は痛む頭を押さえながらクギ達を起こさないようにベッドを抜け出し、とりあえずシャワーへと向かった。何故かってそれはもう完璧に事後なんだもの。身体が痛いし、よく見ればなんか色々と痕がついている。身体のあちこちに。

最近皆勘違いしていそうなんだが、俺の肉体的な強度はあくまでも鍛えた一般人クラスなのだ。身体強化が施されている帝国貴族と違って、無茶をすれば簡単に壊れる。もう少しこう、手心というか……。

誰かが入ったすぐ後、といった様子のシャワーで軽く全身を洗い、シャワールームにストックしてある下着やラフな部屋着を着て食堂へと向かう。ものすごく腹が減っているのだ。二十時間近くの記憶がないので、最後にいつメシを食ったのかもわからない。

「あ、起きてきたのね。おはよ」

「兄さんおはようさん。もう正気なんやね?」

「もうその発言だけで色々と察せられたが、二十時間分くらいの記憶がさっぱり無いんだよ……あ、いや、詳細は語らなくて良い。脳が思い出すことを拒否して頭が痛くなるから」

「後でちょっとメディカルチェックしようか。やっぱり脳に全くダメージなしとはいかないよねぇ、アレは」

ショーコ先生がさもありなんといった様子で恐ろしいことを言っている。ショーコ先生がそう考えるくらい俺はまともな状態ではなかったらしい。オラッ! 催眠! されたみたいな状態になっていたんだろうか? 一体俺の失われた二十時間で何が起こっていたんだ……本当に失われたのは俺の記憶だけなのか? なにか尊厳的なものも失っているのでは? 俺は訝しんだ。

「それで、今日は聖堂とやらに行くわけ?」

「足を運ぶって言ったしな……口約束とはいえ、破るわけにもいかないだろう」

テツジンからいつもより多めの朝食……いや昼食? が盛られたプレートを受け取りつつ、そう返事して三人が座っている卓に俺も腰を落ち着ける。ああー、塩味の利いた食事が失われた電解質を補う感覚ぅ。

「律儀やねぇ。それじゃあ皆起こしてくるわぁ」

「ヒロくんは食事を摂ったら出かける前にメディカルチェックをしようね」

「ああ……あれ? そういやネーヴェは?」

「ああ、ネーヴェなら休憩スペースでいじけてるわ」

「いじけ……?」

「ほら、昨日のアレに参加できんかったから」

「……反応に困る」

昨日から今日にかけて何が起こっていたのかはもう察しがついているが、確かにネーヴェは参加できなかっただろうな。未だにポッドから出ることも、自分の足で歩くこともできない彼女には負担が大き過ぎるし、そもそも彼女の身体では色々と難しいだろう。ティーナやウィスカと違って彼女の身体は頑丈なドワーフのものではなく、俺やミミと同じ人間のものなのだから。

「あとでフォローしておきたまえよ?」

「どうフォローしろっていうんだ……」

ショーコ先生の無茶振りに俺は内心頭を抱えながらメシを腹に詰め込むのであった。

☆★☆

『私だけ放っておかれて聞き分けよくヘラヘラしていろというのは流石に無理があると思うんだ、キャプテン』

「わかった。わかったから。今回の件は借り一つってことで覚えておいてくれ。できる範囲で何か言うことを聞くから」

『ん? 今なんでもって』

「一言も言ってない。できる範囲でっつってんだろ」

というやり取りがあり、ネーヴェがいじけていた件はとりあえず一件落着ということになった。本当に一件落着なのかというと少々疑問が残るが、まぁ本人が納得したからヨシ!

問題は、いつどんな無茶振りをされるかということなのだが。忘れた頃に権利を行使されそうで実は少し怖い。やっちまったかもしれねぇ。

「はい、診察終わり。このサプリを飲んで水分もちゃんと摂ってね」

「はい」

メディカルチェックの結果は上々であった。健康って素晴らしいな。身体のあちこちが痛いのも治ったし。ただ、ミネラルとかビタミンとかを補助するサプリメントを飲まされた。

「食事だけで補うのは追いつかなさそうだからねぇ」

何に関するサプリメントなのかは敢えて聞くまい。しかし今になって考えると何も覚えていないのは損――いや、思い出すのは止めておこう。なんか考えただけでまた頭が痛くなってきた。

俺とネーヴェ以外はこころなしかお肌とかがツヤツヤしている気がするし、概ね機嫌が良さそうだからな。それで満足しておこう。望みすぎてはいけない。

「それじゃあ俺は出かける用意をしてくるから……ショーコ先生も行くんだよな?」

「もちろん。サイオニックテクノロジーに接するチャンスは逃したくないからねぇ。もしかしたら遺伝子サンプルも手に入るかもしれないし」

「同意の元にやってくれよ……?」

そこらに落ちてる髪の毛とか尻尾から抜け落ちた毛とかを回収して遺伝子サンプルゲット! とかはトラブルの元になりそうなので本気でやめてほしい。なので、一応釘を刺しておいたのだが、ショーコ先生に「当然じゃないか!」と怒られてしまった。そういえば、俺の遺伝子サンプルを取った時にもちゃんと同意を取ってきたもんな。そりゃそうか。

ぷりぷりと怒るショーコ先生に謝ってからメディカルベイを後にし、自室で着替える。いつもの傭兵服に着替えてレーザーガン、大小一対の剣、それに小型情報端末を持てば準備は完了だ。小型情報端末が通信機器兼財布兼キーチェーンだからこそできる軽装というやつだな。

治安の悪いコロニーだとこれに加えて万が一の時に備えた救急ナノマシンユニットとか、予備のエネルギーパックだとか、対レーザースモークグレネードだとか、携帯型のパーソナルシールドだとかを装備したりするんだが、ニーパックプライムコロニーは非常に治安の良いコロニーなのでそこまでは持っていかない。嵩張るしな。

「お待ちしておりました、我が君」

全員に聖堂に行くから用意してくれ、という旨のメッセージを送って休憩スペースに赴くと、そこには既にクギが待っていた。狐耳をパタパタと動かし、尻尾をフリフリしてのお出迎えである。狐耳も尻尾もツヤッツヤである。毛並みの良さが当社比五割増である。

「元気いっぱいだな」

「はい。我が君からたくさん元気を頂きましたから」

そう言ってクギが自分のお腹の辺りを撫で、にっこりととても良い笑顔を浮かべる。その仕草の意味と本当に元気を吸われたのではないかという懸念で俺の胸がドキドキしてくるな。もしかしてなんだけど、クギさん命中しないようにするお薬とか飲むのやめておられる? いや、それはそれで良いのだけれども。俺はクギをはじめとして皆の選択を尊重するし、そうなったら腹を括るだけだ。やることをやっているのだから責任は取るさ。

などと考えていると、クギが俺にそっと近寄り、耳元で囁いた。

「まだ、大丈夫ですよ」

「そ、そっかぁ……」

なんだろう、昨日からクギに滅茶苦茶に振り回されている気がする。これは主というか、キャプテンとしての沽券に関わるのではないか……? い、いや。これくらいなんでもないな。うん、なんでもない。とにかく振り回されて情緒が滅茶苦茶になってしまったので、心を落ち着かせよう。