軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#427 ゲームチェンジャー

「気が進まねぇなぁ……」

「ご主人様がそのようにお考えなのであれば、私からお伝え致します」

「いや……気は進まないけど約束を破るような真似はしないよ」

翌日、俺はメイと戦闘ボットを引き連れてハルトムートの元へと向かっていた。別にカチコミをかけようというわけではない。先方にアポイントメントを取った際に、そろそろ情報が出揃いそうだという話があったので、襲撃用の戦力を引き連れてきただけである。

戦闘ボット達とメイ用のレーザーランチャーをを上層区と下層区に跨るチェックポイントで預かってもらい、ハルトムートが詰めている代官のオフィスへと更に歩を進めていく。

「俺みたいなのがあの超絶イケメンのハルトムートに男女の仲について忠告するとかどんな冗談なんだよ。何様だって話だと思うんだが……」

「ご主人様は実際に複数の女性と円滑で円満な相互互恵関係を築いているのですから、その分野では何歩も先を行く先達なのでは?」

「それはメイを中心として皆が俺に気を遣ってくれているだけの話だろう? おんぶに抱っこで今の状況があるということは俺だってよく知っているから……」

そりゃ俺の人徳的なものももしかしたら数%くらいはあるのかもしれないが、それを根拠に大上段からハルトムートに物申すとかどういう視点なんだよっていうね。

「まぁ、腐っても悩んでも仕方がないな。こういうのはズバッと言ってスパッと終わらせよう」

長引かせても俺の精神が苛まれるだけで、良いことが何も無いものな。

☆★☆

「ごきげんよう、ヒロ卿。そろそろ報告が上がってくるはずだから、掛けてくれ。今、茶を持ってこさせる」

「そりゃどうも」

ハルトムートはなんというかこう、やる気に満ち溢れていた。なんだろう、上手く言えないがこう……目の輝きが違う。士気MAX! って感じだ。

「それで、今日はどうしたのだろうか? 情報の共有であればホロ通信でも可能だが……?」

「あー……まだるっこしいやり取りは抜きで単刀直入で言うが、アイリアの件だ」

俺の言葉にハルトムートがピクリと反応する。急に無表情になるのやめてくれ。すげぇ怖いから。

「早とちりするなよ? 手を出すなとか俺の女だとか言うつもりは一切ないから。むしろ、俺はハルトムートを応援してるから」

「……なるほど? 詳細を聞かせてもらおう」

聞く姿勢になってくれたようなのは何よりなんだが、圧が強い。やる気と真剣さがビシビシと俺を圧してくる。

「まずどうして俺がわざわざこの件に嘴を突っ込みに来たのかと言うとだな、うちのクルーの一人が以前このコロニーに住んでいたことがあって、そのクルーはアイリアと大変に仲が良いんだ。一応言っておくと、女性だぞ」

「続けてくれ」

「オーケー。で、そのクルーが心配したわけだ。ハルトムートは子爵家の嫡男で、このコロニーの代官だ。その言葉は平民であるアイリアにとってとても重いものだ。今後施設の面倒を見るのもハルトムートだからな。だから、ハルトムートから何かしらの申し出をされた場合、それが彼女の意に沿わない内容だとしても頷いてしまうんじゃないかってな」

「……」

俺の言葉を咀嚼するかのようにハルトムートは瞑目し、しばしの間考え込んだ。

「だとしても、最終的に私がアイリア嬢を幸せにすれば問題ないのでは?」

「それはそう。ワイもそう思います」

「ワイ……?」

「極論そこなんだよなぁ。最終的に皆がハッピーになればそれで良いよな。本当にそう思うわ」

どんな物語でもハッピーエンドに至るまで大体は山も谷もあるものだしな。ましてや今お話しているのは物語ではなく現実の男女関係についてである。最初から最後まで順風満帆に行くわけがない。

「そもそも、ハルトムートがアイリアに好意を伝えないことには話が始まらないよな。それをするなっていうのはアイリアに手を出すなというのと同じことだし……というか、割と一方的にハルトムートがアイリアに好意を持っていると断定して話をしているんだが、そういうことで良いんだよな?」

「面と向かって言われると私も若干恥ずかしいのだが……まぁ、そうだ」

かーっ! イケメンは恥じらう姿も様になるなぁオイ! 俺があんな反応したら殆どコメディだぞ。

「ちなみにどういうところが良いと思ったんだ? 見た目か?」

「アイリア嬢の可憐な容姿に惹かれたのも確かだが、何より彼女の高潔さと善良さ、意志の強さに惹かれたんだ。卿に件の施設の話を持ちかけられた後、私も独自にあの施設について調べてな。あの極限とも言える状況下でも子供達を見捨てず、自分を犠牲にしてでも職務を全うしようとする彼女の高潔さには衝撃を受けたよ」

「なるほど。確かにそうだな。あと一日でも俺があの施設に行くのが遅かったら、今頃アイリア達は死んでいたかもしれない。子供達はマシな状態だったけど」

あの場に居た大人達はアイリアを含めて全員が伝染病と栄養失調の影響でいつ死んでもおかしくないような状況だった。それに対して子供達はまだマシな状態だったことを考えると、医薬品や食料を自分達でなく子供達に優先的に回していたのは間違いないだろう。アイリアが高潔な人間だというハルトムートの評価は妥当なものだと思う。

「あー……まぁ、とにかくだ。最終的にアイリアを幸せにすれば問題ないという意見は俺も大いに同意するところだが、一応は俺の言ったこと、うちのクルーが心配したことも心の片隅に留めておいてくれ」

「承知した。他ならぬ卿の言うことだからな。心に留めておくことを約束する」

「ありがとう。すまないな」

他人からこんな話をされるのは不快だろうに。こんな話を至極真面目に聞いてくれるという事実だけでもハルトムートの人となりというものがわかるというものだ。普通なら怒るぞ、こんなの。

☆★☆

その後、メイドさんが持ってきてくれたお茶を飲んで俺とメイはブラックロータスに戻ってきた。

え? 戦闘ボットまで引き連れていったのにブラディーズ潰しに加わらなかったのかって? それはご尤もなんだが、ハルトムート本人に「賊の討滅は統治者たる私の職務だ。厚意はありがたいが、卿の力を借りるのは筋違いというものだろう」とはっきり言われてしまったからな。

実際のところ、報酬も出ないのに自分の身を危険に晒しても本当に危ないだけで何一つ得をしないし……強いて言うなら死線を越えることによって何か研ぎ澄まされるものはあるかもしれないくらいか。ゲームのレベル上げじゃあるまいし、結局リスクの方が勝つのでハルトムートの言う通り退散してきたわけだ。

「あ、おかえりなさいヒロ様! 早かったですね?」

「ブラディーズ潰しには不参加ってことになってな。ハルトムートとも話をしてきたし、パンデミックも後は収束に向かうばかりだろうし、そろそろこのコロニーとも――」

「兄さん! どやった!?」

「――おごぉ!?」

休憩スペースソファに座っていたミミと話をしていると、俺の声を聞きつけたティーナが食堂から飛び出してきて俺の横っ腹に突撃してきた。

「落ち着け……ハルトムートにはちゃんと話をしてきたし、最終的にちゃんと俺の言葉を気に留めて行動するって言ってくれたから。ただ、そうあれ最終的にアイリアを幸せにしたいと言っていたし、ハルトムートはアイリアの容姿だけでなく心根を含めて彼女に好意を持ってるって話も聞いたから、そこまで心配する必要はないと思う。後は本人達がどうするかって話だ」

「ん……わかった。ありがとな、兄さん」

「ええんやで」

ティーナの頭をなでなでしておく。相当に振り回されることになったが、最後にちゃんと納得してくれたようで何よりだ。そろそろこのコロニーともおさらばかね。リンダもそろそろアイリアのところに帰さないとな。

「そういやショーコ先生はどうした? ここ二日くらい見ていない気がするんだが」

「研究室に篭っていらっしゃいます。お呼び致しましょうか?」

「いや、無事なら良いんだが……一体何をしているんだろうか?」

興味が湧いた俺はショーコ先生のラボに足を向けることにした。二日もラボに篭って一体何をしているのだろうか?

「ショーコ先生? 何を……うわ」

「んん? どうしたんだい?」

ショーコ先生のラボはキノコだらけになっていた。いや、あちこちに生えているんじゃなくて、ちゃんと株毎にケースに管理されているんだが、そのケースが多い。十や二十ではきかない。

「どうしたんだ? これ」

「これかい? 件の病原体のキノコを品種改良して無害化できないかと思ってね。色々と試行錯誤していたんだよ。ヒトに対する特効薬はできたけど、感染源を全滅させないといつまで経ってもパンデミックが収束しないだろう? だから、病原体のキノコを殺すキノコを作れないかといじくり回していたのさ」

「なるほど……? 上手くいきそうなのか?」

「うーん、そうだね。上手くいきそうだけど、結局のところコロニーを新たな菌で一旦汚染し直すことになるからね。流石に認可が降りないんじゃないかなぁ」

「だめじゃん」

「だめだねぇ」

そう言いながらショーコ先生がアッハッハと笑っている。

「まぁ、件の病原菌だけをターゲットにした浄化ナノマシンのデザインは終わったから、それを使えば良い話なんだけどねぇ。うーん、やっぱり生き物っていうのは制御が難しいねぇ」

「なるほど……? ん? じゃあコロニーのパンデミックって」

「特効薬と浄化ナノマシンを併用すればすぐに収まると思うよ。ああ、データとサンプルをまとめておいたからよろしくねぇ。私はシャワーでも浴びて一眠りするから。ふあーぁ……」

そう言ってショーコ先生は一抱えほどの頑丈そうなコンテナを俺に押し付け、あくびをしながら研究室を出ていった。

「……実はこの船で一番ヤバいのはショーコ先生なのでは?」

俺は受け取ったコンテナの重さを感じながら一人ぶるりと身を震わせるのであった。