軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#040 工場見学ツアー・お肉編

「つまり、あれか? エルマはツンツンしてるけど俺にぞっこんラぶぅ!?」

「ち、ちがっ、ちがうわよっ! そ、そんなんじゃないんだから!」

「エルマさん、照れ隠しで暴力を振るうのはめっ、ですよ」

「そうだそうだ」

「う、うぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

ミミにめっ、されたエルマが真っ赤になった耳を抑えて顔から湯気を噴く。

「結局どういう理屈なんだ? というか、エルフと人間で子供が作れるってすごいよな。染色体とか遺伝子ってどうなってんの?」

エルフと人間は姿形がとても似ているし、近縁種のように見えるから交雑できても不思議はないかなとは思う。でも、いくら見た目的に近縁種に見えてもそもそも別の星で個別に進化した別の存在だろう? よくよく考えれば非常に不可解だ。

「エルフは……その……精神的に、受け容れると、相手と……こ、こづ、くり……うぅっ!」

そこまで言ってエルマは耳を両手で抑えたまま食堂のテーブルに顔を押し付けて隠してしまった。なるほど、だいたいわかった。宇宙エルフはあれだな、本能的にというか体質的に他の種族の苗床にされちゃう的なアレなんだな。何そのエロフ。

もしかして宇宙エルフの故郷にはオークとかゴブリンとか触手さんとかもいるんだろうか。そういった種族に襲われても、相手の子を宿すことによって殺されないようにするという生存戦略とか? そして隔世遺伝でエルフが生まれることによってエルフという種の生存を図る……? 長寿と交雑による遺伝子汚染が宇宙エルフの生存戦略ということか? だとしたらある意味すげーな、宇宙エルフ。

「なんとなく理解した。宇宙エルフすげーな」

「ど、どういうふうに納得されたのか激しく不安だわ……」

「とりあえずエルマが俺のことを『しゅきしゅき♡』と思っているってことはよくわかった」

「ぐっ、がっ……うーーーーー!」

顔を真赤にしたエルマが唸り声を上げながら両手をわなわなと震わせる。消防車か何かかな?

「ヒロ様、そうやってからかうのもめっ、です」

「はい。ごめんなさい。エルマもすまん」

ミミにめっ、されたので素直に謝る。この中ではミミが一番年下なんだが、こうやってめっ、されると俺もエルマも何故か逆らえないんだよな。

「い、いいわよ。私も手を上げるとかやり過ぎたし」

「でも、俺は嬉しいぞ。それほどエルマが俺のことを想ってくれるなんてな。俺もエルマのことが好きだよ。頼りになるし、性格も可愛らしいし、何より付き合ってて疲れない気安さがな。一緒にいて心地良いって言えばいいのかね……」

「そ、そ、そう?」

「ああ、そうだ。本当だぞ」

「ふ、ふーん……ま、まぁ? 私も? 同じように思ってるわよ」

胸の前で手を合わせ、その指先をなんかもじもじとさせているエルマが真っ赤になった顔を逸らしながらそう言う。とてもかわいい。

「はい、これで二人とも仲良しですね」

「うん、仲良しだ」

「そ、そうね……うん」

にこにこするミミに俺とエルマが頷きを返す。

「じゃあ、仲直りしたところで今日の予定ですが、まずはシエラコーポレーションの人造肉工場に見学に行きます」

「おー、人造肉。確かにどうやって作ってるのか興味があるな」

人造肉。肉なんだが、赤みではなく白身の謎肉である。食感は牛や豚に近く、鳥っぽくはない。魚っぽくもない。完全に獣肉って感じ。ただ、前述のように赤身ではなく白身である。自動調理器に入れて調理してもらうと、表面は焼き色がつけられて肉っぽくなるんだけど、ナイフで切ってみると断面が白いのだ。

そんな奇妙な人造肉だが、旨味は強いし脂も乗っていて食べる分には非常に美味しい。人造肉という言葉から考えて、純粋な肉ではなく人工的に合成されたものなのだろうということは推測できるが、その製造工程は想像もつかない。

「私も人造肉の製造工場は見たことがないわね」

「楽しみですねっ! そしてその後は水耕栽培農場と、併設されている食料加工場に行く予定となっています」

「水耕栽培農場ね。どんなものが育てられているんだろうな?」

「フードカートリッジ用の藻じゃないの?」

「それは見ても楽しくなさそうだなぁ……でも、わざわざ観光ツアーにしてるんだからそんなつまらんものじゃないだろ?」

「そう言われればそうかしら」

「食料加工場でお昼ご飯を食べる予定ですよ。なんでもできたての加工品を食べられるらしいです」

「アレじゃなければいいな」

「大丈夫です、アレじゃないです。そこはちゃんと調べましたから」

虚無を湛えた瞳でミミが頷く。

アレというのは自動調理器に使うフードカートリッジの中身のことである。できたてをそのままシェイクか何かのように飲むのがこのコロニーの名物料理(?)であるらしい。味は……微妙に塩味で常温のムースのような何か……? 微妙に青臭さと生臭さが混じっていてとても美味しくない。腹は膨れるけど。

「そいつは重畳。そろそろ出るか?」

「そうですね……移動時間も考えるとそろそろ準備したほうが良いかもしれません」

「それじゃあ各自身支度をしてもう一回食堂に集合だ」

それから約一時間後、俺達は目的の場所に辿り着いていた。

「いやー、なんというかアレだな。あの移動用トレインは悪くない乗り心地だったな」

「加減速が結構キツかったですけどね」

「船の加減速に比べたらなんでもないわよ。たまに酔う人もいるみたいだけどね」

俺達が移動手段として使ったのは地下に張り巡らされている貨物輸送システムを利用した移動用のトレインだ。非常に安価で、素早く目的地へと辿り着けるのだが、車内は狭く、割と窮屈だった。

車両は貨物の輸送用コンテナに無理矢理座席を付けたような感じで、ギチギチに詰めてもせいぜい六人乗りってところだったな。俺達は三人だけで乗ったが、それでもちょっと窮屈だった。六人乗ったら間違いなくすし詰めだろう。

外の景色は一切見えなかったが、ぎゅんぎゅん動いてなかなか楽しいアトラクションだった。

「それで、ここが例の人造肉工……場?」

「ん? どうした?」

様子のおかしいエルマの視線の先にあるもの。それはこの工場の看板だった。

「シエラコーポレーション培養肉製造工場……?」

何か不審な点があるんだろうか?

「ちょっとわたし、用事を思い出したわ。今日は二人で楽しんできて」

「待たれよ」

踵を返してどこかに立ち去ろうとするエルマの肩をガシッと掴む。看板を見るなり何故逃げる? 看板に不審な点は特に見つからないんだが。

「培養肉? 人造肉じゃないんですね?」

ミミが首を傾げる。培養肉? おお、確かに培養肉と書いてあるな。人造肉とは何か違うんだろうか。

「エルマ?」

「私はちょっと中に入りたくないなー、って」

「でも、もう三人で予約してますよ? 時間ももうすぐです」

「ふーむ? まぁいいや、連れて行こう」

「いやいやいやいやいやいや……」

露骨に嫌な顔をするエルマを引きずって工場の敷地内へと移動する。正面扉から建物の中へと入り、受付ロビーへと向かうとそこには不健康そうな顔色の痩身の男性が詰めていた。

彼は俺達の姿を認めるなり、ニタァ……とにこやかに笑みを浮かべる。コワイ。

「いらっしゃいませ。ご予約のヒロ様御一行ですね?」

「アッハイ」

「この度は当工場の見学ツアーにお申込いただきありがとうございます。いやぁ……実に久々の見学希望者様でして。スタッフ一同張り切っております」

「ソ、ソウッスカ」

口元が凄く笑みなのに目が怖い。悪意は一切感じられないんだが……なんといえばいいのか。そう、とても楽しそうなのだ。目が爛々と輝いていて、まるで獲物を狙うような……いや違う、まるで玩具を手に入れた子供のような……き、気のせいだよな?

「さぁさぁ、順路はあちらでございます。ナビゲーションに従ってお進みください!」

ガチャッ、と音がして男が手で示した先の扉が自動で開く。うん、別に驚くようなことじゃない。自動ドアくらいなんでもないよな。でも、あの扉なんであんなに重厚なんだ? 金庫かな?

「ヒロ様、行きましょう!」

ミミは男の異様な雰囲気にまったく気づいていないのか、興奮した様子である。今にも俺の手を引いて通路へと駆け出しそうだ。

「わ、わたしはやっぱり遠慮……」

「逃さん……貴様だけは……」

「ちょ、力強っ!? ひ、引っ張らないでよぉ!」

ミミに引っ張られながらエルマの腕を引っ張って道連れにする。何かヤバい雰囲気だしミミを一人で行かせる訳にはいかない。だからといってここでエルマだけ逃がすのも嫌だ。ふふふ、死なばもろともだ……!

通路に入ると、背後の扉が閉まってガチャリと施錠された。

『工場内の衛生基準を保つために滅菌処理を致します。処理が終わりましたら、次の部屋にお進みください』

機械音声が流れ、ぶしゅーっと音がして室内が薄っすらと白い煙で満たされる。これで滅菌処理されたことになるらしい。

『滅菌処理が終了いたしました。次の部屋にお進みください』

通路の先の扉が開く。そこはちょっとした小部屋になっていた。窓もなく、扉なども入ってきたもの以外には見当たらない。

「何の部屋だ?」

「うーん? 扉は見当たりませんね?」

警戒する俺と、首を傾げるミミ。そして諦めた表情で溜息を吐いているエルマ。

「後悔するわよ……」

エルマがそう言った瞬間、俺達がこの部屋に入ってきた時に使ったドアが閉まって施錠される音が響いた。それと同時にがくんと地面が揺れる。

「部屋が動いているのか?」

そう俺が呟いた時、天井から声が響いた。

『本日はシエラコーポレーションの培養肉製造工場見学ツアーに参加していただきありがとうございます。この部屋は工場内を見学することのできるゴンドラとなっております』

「この部屋そのものが乗り物なんですね」

「椅子もなにもないけどな」

なんとなく腰に下げているレーザーガンの感触を確かめながら当たりを見回す。なんだか落ち着かない。

『当社の培養肉は顧客の皆様に愛されて三百年。紛い物の人造肉とは一線を画した高級食材として重宝されており、そのリピート率は驚異の93%! 当ツアーでは初期培養から成長工程、加工工程、出荷行程など培養肉の全てをご覧いただくことが可能です。是非その様子をお楽しみください』

「人造肉と培養肉って違うものなのか?」

「そうみたいですね?」

ミミが首を傾げる。エルマは部屋の隅の角に背を預け、目を瞑って完全に視覚情報をカットしていらっしゃった。え、何その対応は。とっても嫌な予感がするんですけど。

『まずは初期培養の様子をご覧いただきます』

壁が透明化し、外の様子が見えてきた。それはまさに工場だった。透明な容器がコンベアで運ばれ、機械によって数種類の液体が注入されていく。液体を入れられた容器は最終的に一箇所に集められ、孵化器のようなものに納められて貯蔵されているようだった。

「あの箱は何なんでしょうね?」

「まったくわからんな」

孵化器のようなものを指さしてミミが首を傾げるが、俺にも皆目見当がつかない。

部屋が進むに連れて恐らく保管されてから時間が経っているのであろう孵化器の様子が見えてくる。

「ヒェッ……」

「あ、あれはいったい……?」

奥に進んでくると、孵化器の透明な器の中に何かが見えてきた。それはまるでミミズか何かのように見える。紐状の肉だ。それは奥の孵化器に行くほどに大きく成長しているようだった。

「嫌な予感がしてきたぞー」

「も、もしかして培養肉っていうのは……」

孵化器のあるエリアが後方に遠ざかっていくのを見送る俺とミミ。

「だから嫌だったのよ」

エルマの言葉が静まり返ったゴンドラ内に妙に響いた。

☆★☆

「この度はご来場ありがとうございました。これからも高品質な当社の培養肉をご贔屓ください」

ニチャア……と粘着質な笑みを浮かべているであろう職員の言葉を背に受けながら、俺達は培養肉の製造工場を後にする。

「うぷ……」

「し、暫くお肉を食べられそうにありません……」

「だから嫌だったのよ……!」

あの後に見たもの? 思い出したくないよ! 肉色の触手めいた生物がひしめくプールとか、電車並みの大きさに肥大化したそれから肉を切り出すところとか……オェッ。アナウンスの内容なんて殆ど覚えてないが、なんでもあの触手めいた生物も元々は牛とか豚のような普通の動物だったらしい。

それを食肉に適するように遺伝子改良を施し、その末に出来上がったのがあの触手めいた生物だ。成長が早く、餌の栄養摂取効率に優れ、成長すると上質な肉になる。知能らしい知能は無く、ただ本能のみで餌を食い、成長するだけの家畜、もう少し見た目に気を遣えよとしか言えない。

「あの施設の目的がわからん……」

「食欲をそそる案内内容ではなかったですよね……」

「だから嫌だったのよ……次は水耕栽培農場だっけ……? 次はまともだと良いわね……」

精神的に披露した俺達は重い足取りで次の見学ツアーへと向かった。

いや本当に、次はまともな場所であって欲しい。