軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#029 スタコラサッサだぜぇ!

「死ぬかと思ったわ……」

「ははは、大袈裟な」

「大袈裟ではなかったと思いますけど……でも、さすがはヒロ様です!」

エルマが魂の抜けたような表情でぐったりと息を吐き、ミミがキラキラとした視線を送ってくる。ふふふ、もっと褒めてくれても良いんだぞ?

「それで、今回の稼ぎは?」

「撃墜スコアは途中から数えてなかったな。ミミ、どうだ?」

「はい、ええっと……戦艦三隻、重巡洋艦四隻、軽巡洋艦二隻、駆逐艦十三隻、コルベット二十一隻を撃破したみたいですね」

「大漁大漁。えーと、確か戦艦一隻二〇〇万、重巡一隻五〇万、軽巡一隻三〇万、駆逐艦一隻一〇万、コルベット一隻五万だったよな。反応魚雷の分を引いても……一〇九五万エネルか。ボロ儲けだな!」

「せんきゅうじゅうごまんえねる……」

「対艦反応魚雷四発で二〇〇万は飛んでるでしょ。だから八九五万エネルよ。私の取り分はその3%だから……二六八五〇〇エネルね」

「ええと、ミミの分は四四七五〇エネルだな」

「よんまんよんせんななひゃくごじゅうえねる……」

ミミがあまりの金額の大きさに呆然としている。俺の取り分は二人の報酬を差し引くと八六三六七五〇エネルか。貯金の二二〇万エネルにこの前のブラックボックスとデータキャッシュを売った分が約五〇万エネル、全部合わせると貯金は一一三三万エネルってとこだな。大金持ちだ。

「これで俺の貯金が一一三三万エネルか……まだ少ないな」

「少なくはないんじゃない? 欲しい船でもあるの?」

「安全な惑星上居留地に庭付き一戸建てが欲しいんだ」

「それじゃ全然足りないわね」

そうなんだよな。グラッカン帝国で安全な惑星上居留地の一等地に庭付き一戸建てを建てるには上級市民権やら土地やらを買わなきゃならない。その費用として数億エネルかかるらしい。そう考えると一一三三万エネルじゃ全然足りない。

「あんたくらいの腕があるならグラッカン帝国軍に仕官して騎士でも目指したほうが早いんじゃないの?」

「それなぁ……」

グラッカン帝国では貴族制が採用されている。高貴な血筋を持つ人々が多くの人民に支えられながら高貴なる義務の元にグラッカン帝国の各セクターを統治しているのだ。

貴族は血を重んじるため、基本的には平民が貴族になれるということはないらしいのだが、その例外が騎士制度である。

これはグラッカン帝国軍で著しい功績を上げた将兵を貴族として叙する制度で、騎士位を授けられた軍人はたとえ元は平民であっても上級市民権を与えられ、貴族として振る舞うことが許されるようになるらしい。

「軍人とか貴族とかめんどくさそうなんでパス。金で解決できるならそれが一番だ」

「あんたらしいわねぇ。めんどくさいってのには私も同意するけど」

エルマが微笑し、肩を竦めてみせる。ミミは……まだ戻ってきていないらしい。えねる、えねるって呟きながら放心している。

「とりあえずどうすっかね、今から合流するのも微妙だけど」

「一応合流したらいいんじゃない? これ以上暴れると他の傭兵連中から恨まれそうだし、後ろでおとなしくしてればいいじゃない」

「そうだな、そうするか」

艦首をグラッカン帝国軍が展開している宙域と向け、超光速ドライブを解除して展開している艦隊の上方に出る。

「こちらクリシュナ、任務を完了して帰投した」

超光速ドライブの停止と同時に通信を送ると、すぐに直属の指揮官であるセレナ大尉に回線が繋がれた。コックピットのディスプレイ上に映る彼女の表情は実に上機嫌な感じである。

『ご苦労さまです。随分と稼いだようですね?』

「ええまぁ。リスクを取りましたんでね。リターンもそれなりなのは当然の結果でしょう」

『そうですね。データの提出をしておいてください。追撃戦には?』

「これ以上活躍すると恨みを買いそうなんでやめときます。弾薬やチャフ、フレアにシールドセルなんかも心許ないですし」

『なるほど。ではクリシュナは本隊付近で砲撃部隊の護衛の任に着くように……ところで、あの結晶生命体は何故あのような場所に出現したんでしょうね?」

「撃破した連邦軍の旗艦にヤバいものでも積まれてたんじゃないですかね?」

予め用意していた返答ですっとぼける。聞かれることは当然想定できるわけだから、答えだってもちろん用意してある。もちろん事実とは違うが、それを確かめる術は存在しないのだ。なんせ対艦反応魚雷で跡形もなく吹き飛んでるからな。

『……そういうことにしておきましょうか。セレナ、アウト』

通信が終わり、セレナ大尉の顔が表示されていたウィンドウが閉じる。

「んじゃ、あとはのんびり戦いが終わるのを待ちますか」

「あんたが引っ掻き回したせいでワンサイドゲームになりそうね」

「流石だろ?」

「調子に乗るんじゃないわよ……って言いたいけど、そうも言えないわね。見事なものだと思うわ。いつ撃墜されるかと気が気じゃなかったけど」

「ヒロ様ですから」

いつの間にか復活したらしいミミが何故かドヤ顔でその大きな胸を反らせる。うむ、ナイスおっぱい。今日は大激戦で疲れたし、思う存分癒やしてもらうとしよう。ぐへへ。

☆★☆

ターメーン星系防衛戦はごく短い時間で終了した。当初、厳しい戦いを強いられると思われていたグラッカン帝国側の完全勝利という形で。

この戦いについては不明な点が多い。記録によると、何故かワープアウトしたばかりのベレベレム連邦艦隊に結晶生命体の群れが襲いかかり、大混乱の中で多数の艦船が失われたという。

この時ターメーン星系への攻撃を行なったベレベレム連邦艦隊の損耗率は凄まじく、実に九割の艦船がターメーン星系で宇宙の藻屑と化した。生き残った兵も少なく、あまりにも無様な大敗を喫したためかベレベレム連邦側では国民感情に配慮して情報封鎖が行われたような形跡がある。

また、グラッカン帝国側の情報も非常に少ない。こちらにも何らかの情報操作が行われた可能性が高い。

何故、都合よくベレベレム連邦艦隊に結晶生命体の群れが襲いかかったのか?

何故、いくら数が多かったとはいえ数千程度の結晶生命体の群れにベレベレム連邦艦隊が大損害を被ったのか?

戦力的に考えれば数千程度の結晶生命体では当時のベレベレム連邦軍の攻撃部隊に大きな損害を与えるのは難しい筈である。無論、無傷で済む数でもないが。

そこで浮上してくるのがこの頃ターメーン星系に滞在していたと思われるとある傭兵の存在だ。

そう、皆さんも御存知のあのキャプテン・ヒロである。記録によれば、彼は丁度この頃にターメーン星系に現れたとされている。

更に独自の調査の結果、当時のターメーン星系軍にあのセレナ=ホールズも帝国軍大尉として配属されていたのだということが判明している。

キャプテン・ヒロとセレナ=ホールズ。この二人が同時に存在していた星系で起きたグラッカン帝国軍の奇跡の快進撃。

記録が少ないため決定的な証拠は無いが、この二人の組み合わせとなれば『何が起こってもおかしくはない』と思うのは筆者だけではないだろう。

読者の皆様もご存知のように、彼らはこの後にも盛大な『戦果』を上げているのだから。

☆★☆

「また?」

「また、ですか?」

ターメーン星系防衛戦が終わって今日で三日目。

携帯情報端末に入ってきたメッセージを見て表情を歪めた俺を見てエルマとミミがうんざりしたような表情を浮かべた。多分俺も同じような表情を浮かべている。

それはセレナ大尉からの熱烈なラブコールだった。

『グラッカン帝国軍は優秀なパイロットを常に求めています! 高待遇! 充実した福利厚生! 一級市民権の付与! その他にも様々な特典があります! あいうぉんちゅーふぉーぐらっかんいんぺりあるふぉーす!』

要約するとこんな感じの内容である。こんな感じのメールが直接、あるいは傭兵ギルド経由で毎日のように送られてくるのだ。スパムメールかな?

「どうすんのよ。あの女、そのうち外堀を埋めにかかってくるわよ」

「あれは獲物を狙うハンターの目ですね」

「嬉しくねぇなぁ」

美人に狙われるのは大歓迎だが、それが軍人として自分の部下に欲しいからという内容となるとそれはちょっとノーセンキューである。いくら高待遇とは言っても傭兵の稼ぎよりは収入はずっと落ちるだろうし、自由な時間もなくなるだろう。クリシュナだってどうなるかわかったものじゃない。

福利厚生や市民権の付与には少しだけ興味があるが、福利厚生に関しては金さえあればなんとでもなる問題だし、市民権に関しては金で買うこともできるようなのでやはりこちらも金さえあればなんとかなる。正直あまり魅力的な提案ではない。

「よし、逃げよう」

「良いんですか?」

「構わないでしょ。傭兵がどこに行こうと本人の勝手よ。厄介な事になる前に逃げるのが賢いわね」

少し心配そうに首を傾げるミミにエルマがそう言って席を立つ。

「対艦反応魚雷以外は補給も整備も終わってるからすぐに出られるわよ」

「魚雷はまぁ、そう使うものじゃないし良いだろ。善は急げだな」

一発五〇万エネルの対艦反応魚雷なんてそうそう『出る』在庫じゃないからな。在庫をストックしているところなんてそうそうないもんらしい。ゲームなら簡単に補給できるのにな。

「い、良いのかなぁ……?」

ミミは逃げるようにターメーン星系を去るのが心配なようだが、別に逃げたからって指名手配されるわけでもなし。あっちは任務に縛られた軍人さんである。追ってくることもできまいて。

「次の目的地は?」

「少し遠い。六つ先の星系だ」

「六つ先……というと、昨日話していたあそこですね?」

「うむ。帝国の最先端医療技術が集うあそこだ」

「アレイン星系ね」

「そうそれ」

コックピットに向かいながら次なる目的地について話し合う。

次に向かうのはアレイン星系。医療系ステーションやバイオテクノロジー関係のコロニーが集うハイテク星系だ。

「なんか色んな種類の人造肉とか、遺伝子改良された作物とかも名物らしいぞ」

「お酒は?」

「遺伝子改良された作物があるならそれを使った酒も作ってんじゃね?」

「良いですね! 新しいグルメの予感がします!」

俺はパイロットシートに、ミミがオペレーターシートに、エルマがサブパイロットシートにそれぞれ座り、シートベルトを着用する。

「ミミ、発艦申請頼む」

「了解です」

「エルマ、いつもどおり出力管理とサブシステムの掌握を」

「はいはい、了解」

「発艦申請OKです!」

「よし、出るぞ!」

ハンガーベイとのドッキングを解除し、ランディングギアを格納して宇宙へと飛び出す。

今日も宇宙の景色が雄大で、美しい。この景色を見ていると自分がいかにちっぽけな存在なのか理解させられる。同時に、今の自分は行こうと思えば遥か彼方で光を発するあの星までも行くことができるのだとワクワクさせられる。

「まずはデルーマ星系か」

「はい、ナビを設定します」

ミミがオペレーター席でコンソールを操作し、目標の恒星系へのナビが開始される。俺はナビに従い、目標に設定された恒星へとクリシュナの艦首を向けた。

「超光速ドライブ、チャージ開始するわよ」

「あいよ。超光速ドライブ、カウントダウン」

「5、4、3、2、1……超光速ドライブ起動」

ドォンと爆音のような音が鳴り、クリシュナが光を置き去りにして走り出す。

「目標、デルーマ星系。ハイパードライブチャージ開始」

「ハイパードライブチャージ開始」

「ハイパーレーンへの接続成功」

「カウントダウン、5、4、3、2、1――ハイパードライブ起動」

空間が歪み、ハイパーレーンへと突入する。

さぁ、行くとしようか。ゲームではない、宇宙の彼方へ。

☆★☆

「今回の戦功はかなり大きなものだが……本当にそれでいいのか?」

画面の向こうで叔父様が眉を顰めて確認をしてくる。私は微笑みを浮かべて再度頷いた。

「ええ、国内を自由に移動して宙賊を狩って回る独立部隊の必要性は以前から具申しておりましたでしょう? それを叶えて頂ければと」

「君の実力ならばもっと大きく、華やかな戦功が望める部隊への転属も可能だが……どうやら説得は無駄のようだな。わかった、望むように取り計らおう」

「ありがとうございます」

「ああ。それではな」

頭を下げた向こうで通信が切れる、ホロ・ディスプレイに投影されていたウィンドウが自動で閉じる。

「ふふ……逃しませんよ?」

窓の外で光の尾を引きながら彼方へと飛び去っていく一隻の船を眺めながら私はそう呟く。

窓に映った私の顔にははっきりとした笑みが浮かんでいた。