軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#019 報酬受領

「おうおうおう女連れで来やがるとは俺への当てつけか? おォん!?」

傭兵ギルドの受付に行くなり強面のおっさんに絡まれた。

「チェンジで」

「何がチェンジ――グワーッ!?」

騒ぎを聞きつけて現れた傭兵ギルドのお姉さんが分厚いファイルを受付のおっさんの頭に振り下ろした。縦に。あれは痛い。そして悶絶したおっさんが後ろに放り投げられ、空いた席にお姉さんが座る。

「はい、チェンジしました。依頼報酬の受け取りと賞金の受け取りですね?」

「あっ、はい」

この人には逆らわないようにしようと心に誓った。ガタイの良いおっさんを片手で後ろに放り投げるとかどうなってんだ、この人。身体を機械に置き換えたりしてるんじゃないだろうな。この世界のテクノロジーだと生身のまま強化してる可能性もあるか……どっちにしろ怖い。

お姉さんに確認してもらったところ、依頼の討伐報酬と賞金額については俺が計算した通りになっていた。これで約七九〇〇〇〇エネル。約、というのは実は賞金首に懸かっている賞金には端数があったりするからだ。八一二三エネルとか。

「機体のメンテナンスや弾薬の手配も依頼したいんですが」

「はい、承ります。散弾砲の弾薬と、チャフ、フレア、シールドセルなどの補充ですね?」

「いえす。よろしくおねがいします」

「お任せください」

受付のお姉さんがにっこりと微笑む。こういった船のメンテナンスや弾薬の補充などは仲介をする傭兵ギルドの儲けに繋がるんだろうな。

「それにしても、今回は大活躍でしたね」

「そうだなぁ。もう少し歯ごたえのあるやつが多ければもっと稼げたんだけど」

これは割と本気でそう思っている。小型艦艇が多いのは良いんだが、小型艦艇はどうしても報酬も賞金も少ない。質と腕が良ければもう少し賞金額が上がったんだろうけど、今回戦った宙賊はどいつもこいつも数任せの雑魚ばかりだったせいか賞金額が少なかったんだよな。

中型艦艇がもう少し多ければもっと稼げたと思うんだが。

「なんだかんだ言ってもこの星系は治安が良い方ですからね。今回みたいに星系軍主導で宙賊の討伐をすることも結構ありますし」

「なるほどなぁ。賞金を稼ぐならもう少し治安の悪い星系を狙ったほうが良いか」

「それって危ないんじゃないんですか?」

「それは勿論危ないですね。そういう星系は宙賊の数も多くなる上に質も高くなりますし。狩れる腕があればボロ儲けできますけど」

ミミの疑問にお姉さんが答える。そう、勿論危ない。だが、今の俺の戦力だとこの星系で遭遇する宙賊は歯応えがなさすぎる。別に戦闘狂ってわけでもないんだからより強い敵を求めて旅をする必要は一切ないんだが、それにしたってもう少し稼ぎたい。

「でも、ヒロさんの腕ならもう少し危険な星系のほうが稼ぎは上がるかもしれませんね」

「今回の討伐で暫くこの星系は平和だろうしな」

「傭兵ギルドで仲介している仕事は宙賊退治だけじゃありませんよ? 護衛や輸送任務もあるんですけど」

「俺の船は輸送任務向きじゃないし、護衛任務は面倒くさそうだしなぁ」

「ギルドとしてはお仕事を受けてもらいたいんですけどね」

「そういうのは複数人で船団を組んでいる奴らに回したほうが良いと思うけどね」

船団というのは複数人の傭兵で構成された一団のことで、所謂パーティーのようなものだ。たった一隻で商船の護衛をするというのは土台無理がある。迎撃のために護衛対象から離れたらその隙に護衛対象がやられかねないし、かといって護衛対象に張り付いていたとしても遠距離から一方的に叩かれかねない。

せめて護衛が複数いれば仲間に護衛を任せて俺が迎撃に行くという手も使えるだろうけれど、ソロではそれもままならないだろうから完全にジリ貧になってしまう可能性が高いのだ。よって、護衛の任務を受ける気には到底なれないというわけである。

「船団は組まないんですか? ヒロさんなら引く手数多なのでは?」

「あー、今のところはそういうつもりはないかな。俺達には俺達のやりたいことがあるし」

ミミに視線を向けると、彼女は顔を少し赤くして微笑みを返してきた。やりたいこと、やるべきことは山積みなんだよな、実際。医療系のステーションにも行かなきゃならないし、庭付き一戸建てのために金も稼がなきゃならない。

「……なるほど」

俺達の様子を見た受付のお姉さんが意味ありげな笑みを浮かべ、頷く。なにか盛大な誤解をされた気がする。

「ヒロさんはこれからも稼ぎそうですし、見た目も暑苦しすぎません。ちょっと頼りないと言うか危なっかしそうなところがありますが、それも魅力かもしれませんね。これからハネムーンですか? お幸せに」

「え、えへへ……ありがとうございます」

お姉さんの言葉にミミがニヨニヨと蕩けそうな笑みを浮かべる。え? 否定しないの? ハネムーンってことでいいの? えっ? えっ?

「ハネムーンとかそういうのじゃ……」

「違うんですか?」

「違うんですか……?」

受付のお姉さんがきょとんとした顔で、そしてミミが泣きそうな顔で俺に視線を向けてくる。

「いや、どうかなー? 似たようなものかもしれないなー?」

俺の言葉に泣きそうになっていたミミの表情が笑顔に戻る。そんな俺とミミの様子を受付のお姉さんは興味深げに観察していた。

「今更ですけれど、お二人は一体どういう……?」

「どういう……難しいな。キャプテンとクルー、保護者と被保護者かな?」

「そうですね……あと、ヒロ様は私の命の恩人で、私の……ご主人様でしょうか?」

「ヒロさん?」

お姉さんが胡乱げな視線を向けてくる。マズい、返答次第ではあの腕力でキュッとされてしまうかもしれん。慎重に言葉を選ばなければ。

「第三区画でチンピラ共に襲われて乱暴されそうになっていたところを助けて、行く宛がないということだったからクルーにしたって感じです」

思わず敬語で経緯を説明する。誰だって死にたくはない。俺だって死にたくはない。

「私、パパとママが遺した三〇万エネルの借金が理由で二等区画から落ちてきたんです。ヒロ様は行く宛のない私のためにその借金だけでなく自由移動権まで含めて五〇万エネルもの大金を払って……だから、私はヒロ様に人生を捧げるって決めたんです」

俺に続けてミミが並々ならぬ決意を秘めた表情で力説する。それを聞いたお姉さんは目を瞑り、深く頷いた。

「セーフですね」

「っしゃ!」

許された! 思わず小さくガッツポーズをしてしまう。命の危機は去った……!

「全てを失った少女が無頼の傭兵に窮地を救われて始まる恋物語、ですか。まるで娯楽小説かホロ作品みたいな話ですね」

「そんなに良い話じゃないと思うけどなー」

現実問題としてミミは俺に貞操を捧げることになっているわけだし。幸いなのはミミが俺のことを嫌っていないというか、寧ろ積極的に受け容れてくれている点だなぁ。そうじゃなかったら俺は金に物を言わせていたいけな少女を好きにしている鬼畜野郎である。

「そんなことありません。ヒロ様に出会えて、私は幸せです。ヒロ様は優しいですし、わがままだって聞いてくれます」

「わがままなんて聞いたっけ?」

「三〇万エネルもかけて船内設備の更新をしてくれたじゃないですか」

「それは俺にも益のあることだし、ミミの一方的なわがままとは言えないと思うなぁ」

そんな俺達のやり取りを眺めていた受付のお姉さんが頬に手を当てて微笑む。

「仲が良くていいですねぇ。私もギルドの受付をやめてヒロさんの船のクルーになっちゃいましょうか」

「だ、だめです……」

お姉さんの言葉に危機感を覚えたのか、ミミが俺の腕にヒシっと抱きついてくる。当然柔らかい感触がムニュっと俺の腕を包み込む。なんという幸せ。

俺とミミのそんな様子を遠くで見ているおっさんが血の涙を流しそうな顔をしながらハンカチを噛んでいる。それだけでなく独り者らしい傭兵達が盛大に舌打ちをしやがった。ふふふ、羨ましかろう? だがミミは誰にもやらん。

「それは残念」

「ははは、じゃあ俺達はこの辺で……あ、そうだ」

席を立って立ち去ろうとしたところで聞くべきことがあったのを思い出した。

「あの、エルマってどうなったか知ってますか? ミミを俺の船のクルーにする時に手続きとかで面倒を見てもらった相手で、先日の作戦で船を大破させてたみたいだったから心配なんですけど」

「あ、あー……エルマさんはですねぇ」

お姉さんはいかにも気まずげな感じで困ったような笑みを浮かべる。

「もしかして大怪我でも……?」

「いえ、怪我は大丈夫なんですが……その、星系軍からの罰金というか、請求がちょっと……」

それで全てを察した。恐らく、かなりヤバい金額の請求が来たのだろう。

「……再起は?」

「……ちょっと、いやかなり厳しいかなぁと」

「Oh……」

「……?」

俺とお姉さんとのやり取りを見てミミが首を傾げている。うーん、まぁ説明するほどのことでも……いや、どうかなぁ。

「案の定というかなんというか、自分の船と星系軍の船の修理費用でピンチみたいだな」

「それは大変――! です、けど……」

慌てたように大声を出したミミの語尾が空気の抜けた風船のように勢いを失って萎んでいく。

「あー、まぁ、難しいなぁ」

個人的にはどうにかしてやりたい気持ちが無くはないんだけれども、頼まれたわけでもないのにお節介を焼くのはいかがなものかと思うし、エルマだってつい先日出会ったばかりで、しかもちょっと面倒を見てやっただけの俺に頼るようなことは……まぁ、しそうにないなぁ。よほど追い詰められればわからんけど。

「エルマはどこに?」

「とりあえず星系軍への支払いだけでもどうにかしようと奔走しているみたいですね」

「そっちを払わなかったらこれだよな?」

「それですね」

自分の手首に手錠をかけるようなジェスチャーをしてみせると、お姉さんは迷うことなく頷いた。ですよね。その後どうなるのかはわかったものじゃないが……まぁ碌な目には遭うまい。この星系には犯罪者を収監して過酷な採掘作業に従事させている監獄ステーションもあるわけだし。

「監獄ステーション送りですかね」

「そう、ですね……ただ、あそこは男性犯罪者の比率が圧倒的で、女性犯罪者はその……大変みたいです」

「おお、もう……」

大量の男性犯罪者の中に放り込まれた女性犯罪者がどんな扱いを受けるのかなんてことは想像に難くない。エルマがそういう目に遭うのはちょっとどうにかしてやりたいが……ううむ。

というかそういうのって男女別とかにしないの? こええなこの国。

「……一応、エルマにどうしても困ったら声を掛けるように伝えてもらえますか?」

「……良いんですか?」

「これも縁ってやつでしょう。どうなるかわかりませんが」

相談されても俺にはどうしようもない可能性だってある。俺にできることなんて多少の金を出すくらいのことだし。その分は身体で返してもらうことになるだろうけど。いや、性的な意味じゃなくてクルー的な意味でね? エルマならミミの教育役としてはうってつけだろう。

働きに応じて報酬の何%かを分配して、そこから借金を返してもらえば良いだろうし。

「そういえば、クルーに対する報酬の相場ってどれくらいなんですかね?」

「船にどれだけ出資してるか、その船でどんな役割を担っているかで決められることが多いですね」

「参考までに、ミミの場合は?」

「ミミさんですか……ええと、船はヒロさんのものですよね、100%」

「ですね」

「そうなると、乗員のスキルに応じてとなりますけど……ミミさんはその、ヒロさんと関係を?」

「えー、あー、まぁ」

「それは査定に入りますね。出資率0%、素人同然のクルー見習い兼キャプテンの愛人となりますと、相場では0.1%から0.5%くらいでしょうか」

「0.5%……安、くもない、のか?」

相場を聞いて首を傾げる。今回の報酬及び賞金額の合計が七九〇〇〇〇エネル。ミミの報酬額を0.5%とすると三九五〇エネルになる。一エネル百円くらいの価値だと考えれば、今回の出撃でミミが手にする報酬は円換算すると三九五〇〇〇円くらい。命と貞操を懸けた対価としては安いような……まぁ、衣食住は全て俺持ちと考えるとそうでもないのか?

「安いですよ。オペレーターとしてのスキルが上がればもう少し良くなりますけど、今は殆どただの愛人ですからね。ただ、ヒロさんの場合は稼いでますから……今回の報酬で計算すると三九五〇エネルですか。私の一か月分の給料より高いですね……?」

本気で俺の船のクルーになることを検討し始めたのか、受付のお姉さんが真剣な表情になる。勘弁してください。いくら美人でも片手で大男を投げられる人は怖くて無理です。

「さ、さんっ!? そんなに貰えませんよ!?」

「いや、正当な報酬だし。ちゃんと受け取るように」

「えぇぇ……」

降って湧いた大金にミミが震えるが、俺にしてみたら端金なんだよな……船の修理費や補給の費用だけで簡単に吹っ飛ぶ程度の金額だ。そもそも、船の停泊費用とか食費とか考えると約四〇〇〇エネルでは二十日と滞在できない。本当に端金だ。

「ミミ、金はいくらあっても困るものじゃない。受け取り過ぎだと思うなら、その分は貯蓄しておけばいい」

「そう……ですかね」

ミミはまだ納得できていないようだが、ちゃんと給料を受け取ってくれた。衣食住の面倒だけ見て無給ってのはあんまりだからな。私生活の面倒を見てもらっている上に命に関しても一蓮托生なわけだし。本当は0.5%と言わず5%、10%くらいでも良いと思うんだけどな……相場ってものがあるなら一応はそれに従っておこう。ミミの様子を見る限り、あまり大量に渡しても困らせてしまいそうだし。

まぁ、何なら俺が別枠でミミ用の貯蓄を積み立てておいてもいいな。検討しておくことにしよう。

給料をミミに渡し終えた俺はクルーの適正報酬比率の表をお姉さんにもらってからミミと一緒に傭兵ギルドを後にした。今日はこれ以上の予定はないので、ミミと第三区画のお店をブラブラと見て回り、一日を終えた。

明日からは数日かけて船内設備の入れ替えと船のメンテナンス、弾薬等の補給作業だ。頑張っていこう。