軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#195 ダレインワルド伯爵家帝都屋敷の朝

何かが寝床に入ってくる気配で目が覚めた。

瞼越しに優しい日差しを感じながら寝床への侵入者を両手で捕まえ、モゾモゾと身を捩る侵入者をギュッと抱きしめる。すると、抱きしめられた侵入者が途端に大人しくなった。侵入者の身体から温かな体温が伝わってきて、俺は再び微睡み始める。

「おはようございまーす。あれ? ヒロ様ー?」

「んー……?」

んん? 侵入者はミミかと思ってたんだが……? エルマはこういうことはしないし、姉妹なら二人で来るはずだし……抱きしめた侵入者の身体のあちこちを触って確かめる。身体の大きさはミミとあまり変わらないが。

「んっ……」

ふにっと柔らかい感触が俺の手に伝わってくる。しかしその大きさはミミとは比べるべくもない。うん? そう言えば俺が寝ているここはどこだったかな?

「えっと……一時間くらい後に起こしに来ますか?」

遠慮がちなミミの声に一気に意識が覚醒する。俺は冷や汗が噴き出してくるのを感じながら自分が寝ていたベッドの布団をガバッ、と引っ剥がした。

「や、優しくしてください……いえ、少しくらいなら荒々しいのも……」

ベッドの中には頬を赤く染め、潤んだ瞳で俺を見上げてくる少女が一人。

「クリス!? クリスナンデ!?」

俺の悲鳴が屋敷――ダレインワルド伯爵家の帝都屋敷に響き渡――。

☆★☆

らなかった。いやぁ、流石は貴族の屋敷。防音が完璧で助かったな。

「悲鳴を上げるなんて酷いです」

「だからごめんて」

クリスが頬を膨らませてプンプンと怒っているが、申し訳ない気持ちと一緒に可愛いなぁという感想が出てきてしまう。まぁ、クリスも本気で怒っているというわけでは無いようですぐに機嫌を直してくれた。

俺達は今、帝都のダレインワルド伯爵家の屋敷に滞在している。

御前試合を終えて一度グラキウスセカンダスコロニーへと戻った俺達は目が死んでいる整備士姉妹を拾って再度帝都へと降下。ダレインワルド伯爵家に滞在しながら帝都でこなすべき仕事を片付けていた。

俺が御前試合で有名になったからか、それともゲートウェイの通行権を得たからか、それともプラチナランク傭兵になったからかゴールドスターが効いたのか。帝都への再降下申請は思いの外簡単に通った。

「しかしアレだ。ああいうのはやめような、マジで。俺の心臓が保たないから」

「ドキドキしましたか?」

「ドキドキしすぎて止まるかと思ったわ」

マジで洒落にならないからな。

クリス――クリスティーナ・ダレインワルドはダレインワルド伯爵家の唯一の跡取り娘である。

現在のダレインワルド伯爵家当主はアブラハム・ダレインワルド――彼女の祖父だが、その跡継ぎであったクリスの父はクリスの母親共々叔父に謀殺され、跡取り争いのすったもんだの末にその叔父も当主であるアブラハムに処断された。

その跡取り争いに俺達クリシュナのクルー偶然関わる事になり、その際にクリスと暫く一緒に行動したのである。その縁でクリスとは……まぁ、その、友好的というか、一言では言い表せないような絆を育むこととなり、ダレインワルド伯爵家とも浅からぬ縁を結ぶことになった。

ちなみにクリスは黒髪と、限りなく黒に近い至極色の瞳を持つ美少女だ。身長はミミと同じかちょっと低いくらいで、体型は……うん、今後の成長に期待といったところか。そんな彼女からは過分な好意を寄せられているわけだが、流石に手は出していない。

何せ相手は伯爵家の令嬢で、しかもミミと違ってまだ未成年だ。俺にだってそれくらいの理性と分別はある。

「あはは……私もびっくりしました」

そう言って俺達と一緒に歩いているのはミミである。元コロニー民の普通の女の子――と思いきや実は祖母に当たる方が現皇帝陛下の妹君であるということが判明した。普通に見える子が実は一番の爆弾だったというアレである。

ミミに関してはなんというか色々と手遅れだったので、場合によっては帝国と真正面から喧嘩をする覚悟もしていたのだが、皇帝陛下は実に話のわかる方で、事実を伏して今のまま彼女が傭兵として自由に生きられるように色々と取り計らってくださった。

そのために御前試合が行われ、俺が滅茶苦茶目立つことになったのは……まぁ、然るべき対価ということで受け容れようと思う。

身支度を整えるためにミミとクリスの二人と別れ、洗面所へと向かうとそこには丁度エルマが居た。彼女はもう身支度を整え終えたらしい。

「おはよう、エルマ」

「おはよう、ヒロ。よく眠れた?」

「よく眠れたが、目覚めがショッキングだったな」

「?」

首を傾げる彼女の白銀色の髪の毛から尖った耳がぴょこんと飛び出している。彼女は傭兵歴五年のベテラン傭兵であると同時に、ウィルローズ子爵家の令嬢でもある。これも帝都を訪れて初めて判明したことであったが、エルマの出自がどこかのお嬢さんであろうということはその前に何となく予想がついていたので、ミミほどには驚きは無かった。

まぁ、極度のシスコンである彼の兄にいきなり剣を突きつけられたり、可愛い娘を傷物にしやがってと彼女の父にキレられかけたが、エルマのお母さんとお姉さんが俺達の味方をしてくれたことによって彼女の父は封殺され、シスコンの兄は御前試合で俺と剣を交えた末に俺とエルマとの仲を認めてくれた。めでたしめでたしである。

「な、何よ? じっと見つめたりして」

「エルマは今日も美人だなと」

「もう……朝から何よ」

エルマが顔を赤くしてテシッとゆるく俺の腕を叩いてくる。彼女を本気で怒らせると殺人的なサブミッションで襲いかかってきたりするが、こういう時にはちゃんと手加減をしてくれるので本当にエルマは可愛い女である。ただし本当に本気で怒らせてはならない。今なら格闘戦でエルマとも良い勝負ができるかもしれないが、反応速度はともかく単純な筋力では俺は彼女には敵わないのだ。

ササッと身支度を整え、屋敷のダイニングへと足を運ぶと、ミミ達だけでなく耳の部分に特徴的なメカニカルパーツのついているメイド服の美女も待っていた。どうやら朝食の用意をしてくれていたらしい。

「おはよう、メイ」

「おはようございます、ご主人様」

無表情のまま彼女がペコリと頭を下げる。彼女はメイド型のアンドロイド――メイドロイドと呼ばれる存在である。黒く艶のある髪、紅いフレームの眼鏡の奥に光る意志の強そうな瞳、シックなヴィクトリアスタイルのメイド服、そして大きさはミミほどではないものの、形の良い胸……それら全ては俺がデザインしたものである。

はい、ぼくのかんがえたさいきょうのめいどさんです。金にあかせて彼女のボディは全て最高級のカスタマイズが施されており、その戦闘能力は一般的な戦闘ボットを軽く上回る。

「あの二人は?」

「死ぬほど疲れているから起きるまで放っておいてくれと言われております」

「さようか……」

スペース・ドウェルグ社からの出向という形で船の整備全般を請け負ってくれている整備士の姉妹が居るのだが、まだ寝ているらしい。なんだか知らんがどうも帝都のスペース・ドウェルグ支社の連中とは折り合いが悪いみたいなんだよな。流石に俺に迷惑をかけると不味いとわかっているようで、俺が彼女達をメカニックとして帝都に連れて降りるという話をしたらすぐに解放されたようだが。とにかくあの二人は暫く放っておいてやるとするか。

「まずは朝食を頂くとするか。伯爵は?」

「お祖父様は所用で帝城に出仕しています。帰りは今日の夕方頃という話なので、晩餐はご一緒できると思いますよ」

俺の質問にクリスが答えてくれる。なるほどね、伯爵閣下はお忙しいらしい。貴族様というのも案外大変なのかもしれないな。

「そうか、それじゃあ夕方には戻るとしよう。朝食を終えたら軽く身体を動かして、それから買い物に行こうか。昼はどこか美味しいところで食べようか」

「はいっ! 良さそうなところを探しておきますね!」

美味しいものを食べることに目がないミミが目をキラキラと輝かせる。もしかしたら帝室を飛び出したミミのお祖母さんもこんな感じで美味しいものや冒険に目がなかったのかもしれないな。

「お昼ごはんに思いを馳せるのも良いけど、まずは朝ごはんをしっかり食べましょう」

「はいっ」

エルマとミミのそんなやり取りを見ながらクリスが目を細めている。もしかしたら海洋リゾート惑星で一緒に過ごした日々を思い返しているのかもしれない。

「朝食を頂こうか、クリス」

「はい、ヒロ様」

彼女とずっと一緒にいることはできないが、その分一緒にいる間に少しでも多くの思い出を作ってやるとしよう。まぁ、今後はゲートウェイを自由に使える分、クリスに会うのもそんなに難しくはなくなるんだけども。