軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#192 ジャイアントキリング

「皆様お待たせいたしました! 準決勝第二試合は皆様お待ちかねのキャプテン・ヒロの登場です! 対するはキャプテン・ヒロと同じ傭兵であるキャプテン・シュナイダー! 乗機は帝国航宙軍でも採用されている軍用コルベット、カバルリーⅦです!」

「キャプテン・シュナイダーはここまでカバルリーⅦの圧倒的火力と防御力を全面に押し出して対戦者を圧倒してきました。そんなキャプテン・シュナイダーにキャプテン・ヒロがどのように対処するのか、それとも圧倒的火力と防御力の前には彼のテクニックも通用しないのか、その点に非常に興味を惹かれますね」

試合開始位置について待っていると、広域通信チャンネルでアナウンサーと解説の女軍人の声が聞こえてくる。

「ヒロ様、対戦相手から通信が入っています」

「んん? なんだろうな。繋いでくれ」

「はい」

ミミがコンソールを操作し、対戦相手のキャプテン・シュナイダーとの通信が繋がった。

「こちらクリシュナのキャプテン・ヒロ。試合開始前に何の用だ?」

「シュナイダーだ。何、対戦前に挨拶でもと思ってな」

そう言ってキャプテン・シュナイダーは俺の顔をまじまじと眺めてきた。なんだこいつ、不躾にジロジロと。

キャプテン・シュナイダーの見た目は思ったよりも若い。俺よりは歳上だろうが、中年って印象は受けない。ミミと同じような明るいブラウンの髪の毛を長く延した美丈夫といった風貌だ。少々目付きが鋭いか。

「ふん? 思い上がったガキかと思ってたんだが、どうにもそういう雰囲気じゃないな。これは手強そうだ」

「そいつは過分な評価をどうも。だが、俺なんて運が良い……いや、悪いだけのペーペーだぜ? もっと見縊ってくれても良いんだぞ」

「本当に運が良いだけの雑魚は自分を少しでも大きく見せようと必死になるものだ」

キャプテン・シュナイダーは僅かに口角を上げ、獰猛な笑みを浮かべた。

「お前の刃が俺のドミネーターに届くかどうか、楽しみにさせてもらおう。シュナイダー、アウト」

通信が切れてコックピットのディスプレイに表示されていたキャプテン・シュナイダーのウィンドウが消える。

「やり手かしら?」

「そのように思えるな。やっぱり油断はできないな」

そんなやり取りをしている横で、ミミが何故か瞳をキラキラさせていた。一体何だ?

「今のやり取り、かっこよかったです! ルシアーダ皇女殿下に借りた傭兵モノのホロ小説みたいでした!」

「ああ……そう」

皇女殿下、うちのミミに何を読ませてるんですか、何を。純真なミミを汚染しないで欲しい。流石に腐臭を撒き散らすようなことはないと思うが、ちょっと今後は気をつけたほうが良いかもしれない。

「エルマ、しっかり頼むぞ」

「それはこの後の試合のこと? それともミミのこと?」

「両方だ」

「私はミミの母親じゃないんだけど」

「年齢的には痛い痛いごめんて」

エルマが太ももを抓ってきたので降参しておく。試合前でもこうやって無駄口を叩いてリラックスできるのもうちのチームの強さかもしれないな。

「両者試合開始位置に着きました。試合開始です、カウントダウンスタート!」

ディスプレイに大きくカウントダウンが表示される。

「作戦は?」

「最初は強く当たって後は流れで。まぁ、基本的には死角を取る。ミミ、試合が始まったらすぐに敵船をスキャン、主要なモジュールのある場所をマークしてくれ」

「わかりました!」

カウントダウンの終了と同時にクリシュナのスラスターを全開にしてドミネーターとの距離を詰める。対するドミネーターは火砲が集中している正面上部をこちらへと向け、まるでハリネズミのような対空――宇宙空間で対空というのも変な話だが――砲火を上げてくる。

「チャフ、ECM展開」

エルマの展開したチャフとECMが効果を発揮し、クリシュナに向かって飛んでくる対空砲火の精度が大幅に低下する。ちなみにこのチャフというのは実質的には地球で用いられていたチャフとは全くの別物だ。地球でよく知られるチャフは金属箔等をばら撒くことによってレーダー探知を欺瞞するものだが、クリシュナを始めとした宇宙戦闘艦に装備されているものはもっと先進的なもので、敵戦闘艦の照準システムを狂わせる一種の『分身』のようなものを作り出す装置だ。

その欺瞞効果は限定的なものだが、短時間だけ敵艦の自動照準機構を混乱させて命中率を大きく落とすことができる。原理は先進的だが、やっていることはそう変わらない。だから今でも変わりなくチャフと呼ばれているわけだな。

「流石に弾幕が分厚いな」

欺瞞装置を用いて被弾を減らしても徐々にシールドが削られていく。ドミネーターはこちらを懐に潜り込ませないように後退しながら艦首上面をこちらへと向け続けている。只管こちらに火力を叩きつけて削り切るつもりだろう。

「よし、行くぞ。いつでもシールドセルを展開できるように用意しておけ」

「了解」

クリシュナの艦首を上げ、ドミネーターの上面方向に突進する。当然、ドミネーターはクリシュナに頭上を飛び越されて背後に回られたくないので、それに追随するように艦首を上げてクリシュナの動きを追う。つまり、ドミネーターの巨体が上方向に縦回転を始める。

「牽制牽制っと」

こちらはこちらで艦をロールさせて上面方向をドミネーターへと向けて四門の重レーザー砲をドミネーターへと撃ち込んで牽制する。こちらの火力も小型艦としてはありえないほどの高火力だが、このまま正面から撃ち合うのはいくらなんでも分が悪い。クリシュナ強固なシールドと装甲を有しているが、あくまでも小型船だ。大型船に分類されるコルベットが相手では耐久力が違いすぎる。

「ジリ貧よ?」

「もう少し……今だ!」

ドミネーターが十分な回転速度を得た時点で俺は再び操縦桿を引き、稲妻のようにドミネーターの上方下方へと突っ込んだ。目指すはドミネーターの舳先だ。

ドミネーターは頭を越して回り込むような動きをしていたクリシュナに追従するためにその巨体を上方向へと縦回転させている。その巨体故にこのような急な動きに追従して回転方向を逆転させることは不可能なのだ。

「抜けたっ!」

クリシュナは地獄のような対空砲火の中を突破し、ドミネーターの舳先を掠めてその下方へと回り込んだ。無論、下方にも迎撃用の武装はいくらか存在するが、その火力は上面に比べるとささやかなものだ。砲台に至近距離から散弾砲を浴びせ、即座に沈黙させる。

「どんどん行くぞ」

事前にミミにスキャンさせておいた重要な内部モジュール――姿勢制御スラスターやメインスラスターへのエネルギー供給管や弾薬庫等に散弾砲浴びせていく。ついでに重レーザー砲もバンバン撃ち込んでシールドを飽和させ、ピンポイントでジェネレーターの存在する部分に執拗に攻撃を重ねた。そうしている内に試合終了のブザーが鳴り響き、俺達の勝利が宣言される。どうやらジェネレーターの破壊判定が入ったらしい。

「試合終了です! キャプテン・ヒロがジャイアントキリングを達成しました! 最初はキャプテン・シュナイダーが一方的に有利になるかと思われましたが」

「キャプテン・ヒロの見せたあの稲妻のような機動ですね。確かにコルベット級の大きさを誇る艦ではあの速度の切り返しについていくのは困難です。しかし、一対一であの機動を取るには相当な度胸が必要ですね。強力な対空砲火の中に突っ込むことになるわけですから、一歩間違えればそのまま撃墜されることになります」

「なるほど……」

アナウンサーと解説の女性軍人の話を聞き流しながら軍の整備場への帰還を始めた。

「まぁ、こんなもんだな」

「流石に今回はヒヤヒヤしました」

「そうね。シールドセルも三つ使ったし……ねぇ、なんで対艦魚雷を使わなかったの?」

エルマが尤もな指摘をしてくる。

「別に舐めプってわけじゃないぞ。いつも通りの戦いをしただけだ。相手が大型艦一隻のみなら対艦反応魚雷を使うまでもないだろ」

周りに他の艦がいて、ドミネーターだけに構っている暇がないなら対艦反応魚雷でとっとと片付けるだろうが、ドミネーター一隻だけが相手なら俺は対艦反応魚雷なんて使わない。

「高いじゃないか、対艦反応魚雷」

「試合なら模擬弾だし、お金はかからないでしょ」

「試合だからこそだ。負けて死ぬわけでもないのに派手で楽な手法を取っても仕方ないだろう。ドミネーターの元機体のカバルリーⅦのモジュール配列や耐弾性も確認したかったしな」

「……ヒロってたまに異常なまでにストイックよね」

何故かエルマに呆れた視線を向けられている気がする。別に悪いことじゃないんだし良いだろう。悪意を持って舐めプしたわけじゃないんだし。

「と、とにかく次で決勝ですよ! 決勝!」

「そうだな。サクッと面倒事を終わらせるとしよう。帝都で片付けるべきことが沢山あるってのに大分足止めを食らってるからな」

クリスのいるダレインワルド家の屋敷にも行かなきゃならないし、帝都産の高性能戦闘ボットをセレナ中佐のコネで購入する予定だってある。あと、メディアの取材も多分受けることになるだろうしな。その予定が全部後回しになっているのも全てファッキン皇帝陛下のせいである。畜生め。

何はともあれまずは補給と整備だな。