軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#167 (◜◡◝ )ニコォ……

「まずは大金星、おめでとうございます」

「アッハイ」

にこぉ……と正に『貼り付けたような』と表現するべき笑顔をセレナ少佐に向けられて思わず直立不動になる。

ここは戦艦レスタリアス――にあるセレナ少佐の執務室である。マザー・クリスタルがその機能を停止したことによって結晶生命体達は全てその活動を停止し、既に戦闘そのものは収束している。

今は各艦『戦利品』を回収したり、様々なデータを取ったりしている所だ。何を隠そうこのレスタリアスもばらばらになったマザー・クリスタルの直ぐ側にまで移動してきている。

「えっと、セレナ様。何故ヒロさ――キャプテンは呼び出されたのでしょうか?」

流石にプライベートではない状況で貴族で帝国航宙軍の少佐であるセレナ少佐と俺を同じ『様』付けで呼ぶことが躊躇われたのか、ミミが俺のことをキャプテンと呼ぶ。地味に初めてかも知れない。

「そうね、呼び出した理由としては命令無視、敵前逃亡、危険行為などがそれに当たりますけれど、傭兵をいちいちそんなことで呼び出したりは致しません。ええ、致しませんとも。帝国航宙軍の軍人ではないので処罰もできませんしね」

ズモモモモ……と謎の効果音が鳴りそうなほど闇のオーラめいた気配を撒き散らしながらセレナ少佐が笑顔を向けてくる。こめかみの辺りがピクピクしてる! コワイ!

「ところでミミさん。自分で色々と苦労しながらお膳立てをして、それが成就するというその寸前に横から成果を掻っ攫われたらあなたは思います?」

「え、えぇっと……よ、よくもやってくれたな? とか?」

セレナ少佐に矛先を向けられたミミが小動物のように震えながらそう答える。セレナ少佐はその答えに満足そうに頷いて笑みを深めた。

「ええ、ええ、そうでしょう。情報ソースを明かせない不確かな情報を私が分析したデータという形にでっちあげ、それを使って綿密な根回しを行い、綱渡りのような思いを何度もして結晶生命体の討伐艦隊を立ち上げ多少の犠牲は出しつつも順調に敵の首魁であるマザー・クリスタルへと刃を届かせかけたその瞬間に手柄を横から掻っ攫われた私がそう思っても不思議はないですよね?」

「ヒェッ……」

徐々にヒートアップしたセレナ少佐がどんどん早口になっていく様子を見て震える。

「一応ね? あのままだと後衛に被害が出そうだから、ちょっと裏技的に超光速ドライブを使って距離を詰めてね? マザー・クリスタルにちょっかいをかけて小型結晶生命体を引きつけようとおもったのでするよ?」

「それがどうしてああなったんですか……?」

「ええと、俺の幸運、セレナ少佐の不運、そういったものが積み重なったんじゃないかな? おおっとステイ! ステイ! 剣の柄から手を離してステイ!」

ガタッ! と立ち上がって剣の柄に手をかけるセレナ少佐に向かって両手の平を見せてなんとか宥めようとする。くっ、メイを連れてくるべきだったか。

「じゃれるのはそのくらいにしなさいよ……それで、本題は?」

事態に全く動じること無く、エルマがそう切り出す。本題って俺に恨み言を言うことじゃないのか?

「……はぁ」

エルマの突っ込みにセレナ少佐は気が抜けたようにため息を吐き、力なく執務机の椅子に腰を下ろした。つい今まで俺を斬り捨てんと言わんばかりだったあの気迫はどこへ行ったのか。

「まぁ、大金星を上げた貴方を今回の討伐に引き入れたのは私ですからね。それに、大将首は貴方に取られてしまいましたが私の立案した作戦自体は上手く行きました。目的は達成できたので、先程のアレは純粋に手柄を横から掻っ攫われたことに対する私の意思表明です」

「前線を抜けていった小型種から後衛を助けたいという一心での行動だったので許してくれ」

「ええ、許しますとも。敵前逃亡についてはクリシュナの戦闘データとレスタリアスを始めとした戦艦の観測データで潔白が証明されていますしね。何より貴方は大将首を挙げた勇士ですから」

あれ? 嫌な予感がするぞ?

「信賞必罰という言葉もあります。ああ、少し前にもこの話はしましたね?」

セレナ少佐はそう言いながら執務机のコンソールを操作し、ホロディスプレイを立ち上げて何かを表示した。見た感じ、勲章のようである。この前貰った銀剣翼突撃勲章と似たような雰囲気だが、色が違う。まず色が銀色ではなく金色だ。そして形が違う。宝石のような赤い丸い石を中心に金色の十字が走り、更にその後ろから後光のように銀色の筋が走ってメダルのようになっている。

「高そうですね」

「まぁ、そうですね。これは一等星芒十字勲章といいます。一般的にはゴールドスターと呼ばれていますね。ご存知ですか?」

「ご存知でないです」

ミミとエルマに視線を向けると、ミミは目を見開いてこれでもかと言うほどに驚いており、エルマは苦虫を数匹まとめて噛み潰したかのような苦い顔をしていた。二人は知っているらしい。

「キャプテン以外の二人は知っているようですね。この勲章は戦闘において多大なる戦果を挙げた人に与えられる勲章で、事実上いち兵士に与えられるものとしては最上位のものとなります。傭兵に授与されることは非常に稀で、もし与えられれば帝国史上、貴方で四例目になります」

「へ、へぇ……史上四人目かぁ」

流石の俺でも帝国史上、傭兵に授与されることが四例目という事情の重さは理解できる。

「まだ決まったわけではありませんが、今回の戦役における一連の活躍に加え、今まで未知の怪物であった結晶生命体の首魁に止めを刺した戦功、これらを勘案すれば授与される可能性が十分にあります。もしゴールドスターを授与されなかったとしても、シルバースターは固いでしょう」

そう言ってセレナ少佐は似たようなデザイン――石の色が青くなって十字が銀になったもの――の勲章をホロディスプレイに表示してみせた。

「まぁ、我々――つまり結晶生命体殲滅艦隊の上層部の判断では恐らくゴールドスターになるだろうと思っていますが。何にせよ我々はあるがままの報告を上げるだけです」

「な、なるほど……それでその、俺達はイズルークス星系に帰ったら報酬を受け取ってそれでお役御免ですよね」

「ふふふ」

「ははは」

お互いに笑みを交わしているが、方やそれはもう楽しそうな笑みで、方や脂汗をだらだらと流している引きつった笑みである。

ひとしきり笑いあった後、セレナ少佐がスンッと真顔になった。

「そんなわけ無いでしょう。私の艦隊と帝都まで同行してもらいます」

「ですよねーっ!」

そんな大層な勲章の授与がイズルークス星系のような辺境の前哨基地で行われるとは思えなかった。恐らく正式かつ格式の高い場所でそれなりのセレモニーが執り行われるのではないかと予測していたが、どうやらその通りのようである。

「断固拒否したい……」

「我々の顔に泥を塗るおつもりで?」

「くそォ! 国家権力ぅ!」

自由な傭兵業と嘯いても、実質のところは軍の下請けみたいなものである。俺のような宙賊退治を主な稼ぎとしているような手合は特にそうだ。傭兵ギルドは不当な軍の圧力からは俺を守ってくれるだろうが、ここで勲章授与のセレモニーに参加するのが嫌だからと突っぱねて軍の顔に泥を塗るような真似をした俺を守ってはくれないだろう。

「エルマさんエルマさん、私達帝都に行くことになるんですね。私、ホロで見て憧れていたんです」

「そうね、流石に帝国の首都と言うだけあって物凄いわよ。政治と経済の中心地だからね」

絶望する俺の後ろでミミとエルマが楽しそうなやり取りをしている。君達は楽しそうだなぁ。

「でも、勲章授与のセレモニーにはクルーの私達も参加することになると思うわよ」

「え゙っ」

背後でミミが絶句する気配がする。そうか、ミミとエルマも道連れか。それはそれは……俺ひとりじゃないってだけでいくらか気が楽になるな。ははは。

「とにかくそういうことなので。ある程度調査をしたらイズルークス星系に帰還し、補給をしてすぐに帝都に向かいます。ああ、この前の約束も忘れていませんからご心配なく。イズルークス星系の前哨基地で用意してあるはずですからね。今回の件は帝国の威信を高めることになりますから、大々的に国民に向けて発表されるでしょう。貴方達は一躍有名人となり、貴方達自身が戦利品として持ち帰ってきた高品質な結晶はさぞ高値で売れるでしょうね。良かったですね」

そう言ってセレナ少佐がそれはもう楽しそうにニコニコしている。彼女はかねてから俺を帝国軍に取り込もうとしていたので、今の状況が楽しくて仕方がないのだろう。恐らくこのままなし崩し的に自分の部下として取り込もうとしているに違いない。今回、俺がこの結晶生命体相手の戦役に参加したのだってセレナ少佐に誘われてのことだったからな。その辺りも利用して立ち回るつもりだろう。

「俺は軍属になるつもりはないですよ」

「ええ、わかっていますとも。無理矢理は良くないですからね。というか、貴方のような部下は正直あまり持ちたくないですし、軍規で雁字搦めにすると貴方の良いところが死んでしまうのでしょう。それくらいは私も心得ていますよ。もう付き合いもそれなりに長いのですし」

セレナ少佐から意外な言葉が返ってきた。おや? と俺は内心首を傾げる。

「とはいえ、私がそう理解するのと軍がそう思うかどうかは別の話です。帝都の貴族達がそう思うかどうかもですね。帝都では傭兵ギルドを大いに頼ると良いでしょう」

「……どういう風の吹き回しで?」

「あまり失礼なことを言うと個人的に折檻しますよ」

「失礼しました」

セレナ少佐が剣の柄をポンと叩いたので、直立不動になって敬礼をする。

「私からは以上です。船に戻って休んで下さい。くれぐれも逃亡など考えないように」

「イエスマム」

俺の返事にセレナ少佐は満足そうに頷いた。

☆★☆

「流石はご主人様です」

ブラックロータスに戻り、セレナ少佐との一連のやり取りをメイに話して聞かせると彼女はそう言ってとても満足そうな表情をしてみせた。わずかに目尻が下がり、口角がほんの少しだけ上がっている。とても微細な表情の変化なのだが、普段殆ど表情を動かさない彼女からすればこれは大きな変化だ。

「あの一撃が綺麗に入ったのもメイがEMLを凄いタイミングで命中させてくれたお陰だけどな。帝国軍の同期砲撃の直後に着弾するようにタイミングを合わせたんだろう?」

「恐れ入ります」

いくらEMLの弾速が実体弾砲の中では早い方とは言え、レーザー砲撃の弾速とは比ぶべくもないもない。一体どのような方法で帝国航宙軍の同期砲撃のタイミングを正確に計ったのか、弾速の差を考慮して着弾タイミングを調整したのかは全く想像もつかないが、まったくもって常識の埒外の神業である。

「しかし、あの怪物に止めの一撃を刺したご主人様には及びません。あの一撃こそ神業かと」

「あまり持ち上げられると調子に乗っちゃうから勘弁してくれ」

と言いつつ、煽てられるのは気分が良いけどな! 称賛されて良い気持ちにならないやつなんていないだろう。その相手が美人なメイドさんとくればもう言うことはない。最高だ。

「その結果、帝都で格式高いセレモニーに参加することがほぼ決定してるけどね」

「良い気持ちになっているところに冷水ぶっかけるのやめてくれませんかねぇ……?」

「で、でもヒロ様! 帝都ですよ帝都! 帝国の中心地、文化と美食の聖地です!」

「ミミも一緒にセレモニーに参加するんだぞぉ……」

「うぅっ……! ヒロ様とエルマさんと一緒ならきっと大丈夫です!」

ミミは一瞬怯んだが、可愛いことを言ってなんとか持ち直した。ミミは可愛いなぁ、頭を撫ででやろう。そーれもふもふもふ。

「帝都に着いたら色々と用立てないとね。ヒロは良いけど、私とミミの正装を仕立てないと……」

「なんで俺は良いんだ?」

「前にシエラⅢでクリスにオーダーしてもらってたでしょ」

「……おお!」

ポンと手を打つ。そう言えば確かにそんなこともあった。クリスが俺に貴族らしい服を仕立ててくれてたんだよな。今はクローゼットの肥やしになってるけど、保存状態は完璧なはずだ。

正直服に着られている感があったが、クリスを始めとして女性陣には好評だったのであれで問題ないのだろう。

「二人の正装の費用に関しては俺が出すから、金の心配はしなくていいからな」

「それは助かるけど、装飾品も合わせるとそれなりにするわよ?」

「そうは言っても二人分で座布団のフルアップグレードにかかる費用ほどじゃないだろ?」

「それはそうだけど……」

座布団というのは新人傭兵が一番最初に乗る船として有名な傑作マルチロール宇宙船の通称だ。フルアップグレードに凡そ80万エネルほどかかるが、それなら今回手に入る報酬で余裕で賄える。

「帝都、楽しみですね」

「ああ、うん。そうね」

俺はあんまり楽しみじゃないけど、ミミが楽しそうだからそう答えておいた。多分治安が滅茶苦茶良いだろうから、傭兵としてはあまり惹かれる場所じゃないんだよなぁ。まぁ、宇宙帝国の首都ともなれば珍しいものも見られるか。うん、やっぱり少しだけ楽しみになってきたな。