軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#161 作戦開始まであと……

セレナ少佐との通信からきっかり二日後、イズルークス星系に駐屯している帝国航宙軍駐屯部隊は結晶生命体への再攻撃を決定し、作戦に参加する傭兵達に二十四時間後に作戦行動を開始するという通達を出した。傭兵の反応としては『やっとか』というものが多く、特にすることもなく待機しているだけという退屈な状況が打破されることを歓迎するようなムードだ。

この時点で契約を破棄して作戦から離脱する傭兵は驚いたことに一人も居なかった。俺の予想としては命あっての物種、ということで離脱者が出ると思っていたのだが、俺の予想は裏切られた形となる。

「この状況で尻尾巻いて逃げたら今後の活動に差し支えるでしょ。違約金を払って尻尾を巻いて逃げたと言われるくらいなら、作戦に参加して安全第一で消極的な行動に走る連中のほうが多いわよ。勝ち馬に乗れそうだと判断したら手のひら返して前に出てくるでしょうけど」

「ふーん……じゃあまた目立つことになりそうだな」

「は?」

エルマがお前は何を言っているんだ、という表情をする。

「他の傭兵が前に出てこないなら、前に出る俺達がまた目立つだろ。必然的に」

他に合わせて後ろで縮こまっているつもりは一切ないから、結果としてそうなるだろうと思う。というか、足の早い小型艦がちゃんと前に出てガーディアンクリスタルを引き付けないと、中型艦や大型艦に被害が出る可能性がある。そうなると勝てる可能性が低くなり、結果的に小型艦の首を絞めることになりかねない。

「というわけで、二人には悪いけど俺は前に出るつもりだから」

「大丈夫です。ヒロ様を信頼してますから」

「あんたの判断に任せるわ。無駄死にを選ぶようなタチじゃないものね?」

「そりゃ勿論」

好んで爆発四散する趣味はない。無謀な突撃や自己犠牲なんてクソ喰らえである。死なない範囲で自分の仕事をするだけだ。

対結晶生命体のレイド戦で小型で足の早い船の役割というのはそのものズバリ回避盾だ。ヘイトを稼いで敵の攻撃を引き付け、火力担当である中型、大型艦に敵が行かないようにする。危険度は高いが、そこは慣れである。追い詰められて押し潰されないように注意しながら適当にぶっ放し、全速力で逃げ回る。

ある程度の足の速さと運動性さえ確保できれば兵装は豆鉄砲でもいいので、SOLのレイドコンテンツの中ではある意味で初心者向けのコンテンツだった。無論、本当の初心者はダメなところに突っ込んで爆発四散しまくるのだが。

「ブラックロータスのドックもようやく空いたらしいし一旦戻るか」

「そうね。出撃前の整備もしてもらったほうが良いだろうし」

「ティーナちゃんとウィスカちゃん元気かな? メイさんはいつもどおりだろうけど」

☆★☆

「おかえり」

「おかえりなさい」

「お、おう、ただいま……」

ブラックロータスに戻った俺達をティーナとウィスカの整備士姉妹が出迎えてくれたのだが、二人ともなんというか……ひどい有様であった。

「お前ら、ちゃんと寝てたのか?」

「ちゃんと寝てたで。メンテナンスボットに作業を任せて手が空いたときに」

「手持ち無沙汰になるタイミングはありますからね」

そう言ってにへら、と力の無い笑みを浮かべる二人の目の下にはクマが濃く刻まれていた。この様子だと殆ど寝てないな。顔も作業服もオイルか何かわからないけど汚れっぱなしだし。

「こりゃだめだ。おい、二人を風呂に放り込んで寝かしつけるぞ。手伝ってくれ」

「はい!」

「了解」

ミミとエルマの返事を聞きながら俺は整備士姉妹をそれぞれ小脇に抱え、ミミとエルマを引き連れて居住区画へと向かうことにした。

「なんなん? クリシュナを整備せなあかんやろ」

「そんなの後だ後。動き出すのは二十四時間後、現地に着くのに凡そ六十時間。今せんでも十分間に合う」

「あ、あの、シャワーとか暫く浴びてないですから、抱えな……あぅっ」

死んだ目で仕事を続けようとするティーナを黙らせ、ジタバタとするウィスカを静かにするようにという意図を込めてぎゅっと締め付けてやる。

ちなみにウィスカが心配しているような臭いは別にない。というか、二人ともオイルか何かの臭いしかしねぇ。ツナギのチャックを開けて胸元に顔を埋めたら臭うのかもしれないけど、流石にそこまでレベルの高い変態行為をするつもりはない。するつもりは、ない。

シャワールームに辿り着いた俺は二人をシャワールームに放り出し、ミミとエルマによく洗ってから寝かしつけておくように命じてからコックピットへと向かう。

「おかえりなさいませ、ご主人様」

「ああ、もどっt――うぉぉ!?」

コックピットに入って挨拶するなりメイが物凄いスピードで接近して俺を抱きしめてきた。むにゅりとした柔らかい感触で胸板が幸せだ。メイが俺の身体を抱きしめる力は決して強くないが、身じろぎをしようとしてもビクともしない。一体どういう仕組みなんだ、これは。

「メイ?」

「凡そ一四九時間ぶりの接触です。もう少しだけ」

「お、おう」

されるがままに抱きしめられておく――というかこっちも抱き返してやる。もう少しだけと言いつつ、たっぷり五分くらい抱きあった後にメイはようやく俺を解放してくれた。

「至福の時間でした」

「それは何よりだが、一体どうしたんだ?」

「何か不自然でしたでしょうか?」

俺が何を疑問に思っているのかわからない、という感じでメイが真顔で首を傾げる。

「いや、突然の濃厚なスキンシップにびっくりしただけなんだが」

「ご主人様、端的に言うと私は『寂しかった』のです」

メイは機械だが、感情と知性を有する機械知性である。だから、主人である俺と長期間会えない状況に陥ると、寂しくなってストレスが生じ、それを解消するために俺との身体的接触を必要とした。なるほど?

「わかった。今後は今回のようなことにならないよう最大限に配慮する」

「恐れ入ります」

☆★☆

「……何やってるの?」

「ブラックロータスを空けている間の報告を受けている」

「その状態でですか?」

「何か問題が?」

十分後、俺は休憩スペースのソファでメイに膝枕をしてもらい、頭を撫でてもらいながらこの六日間の報告を受けていた。整備士姉妹の面倒を見終わったエルマとミミが俺とメイを見てなんとも言えない表情をしていたが、クルーの精神的なケアも艦長としての務めである。多分。

「思うところはあると思うが、スルーしてくれ。これでもだいぶ譲歩してもらったんだ」

「なんだかよくわからないですけど、わかりました」

「まぁ、どうでもいいけれど……」

ミミがメイの隣に、エルマが少し離れたところに腰掛けたのを見計らってメイが続きを話し始める。

「このおよそ六日間、特にトラブルらしいトラブルはありませんでした。逗留された傭兵の皆様が内装の快適さに驚愕され、内装の詳細や発注元などに関する問い合わせが何点かあったくらいでしょうか。若干マナーの悪い方もいらっしゃいましたが、私の真摯な説得で改心して下さいました」

「真摯な説得」

「はい」

俺だけでなくミミとエルマの脳裏にもきっと「説得(物理)」という言葉が浮かんでいることだろう。二人の顔色を見る限り間違いないと思う。説得された傭兵がメイドという存在を見ると怯えるような状態になっていないように祈っておくとしよう。

この日、俺は四六時中メイに付き添われて一日を過ごすことになった。一日中、だ。色々と察して欲しい。

☆★☆

作戦発動の凡そ四時間前に俺は目を覚ました。場所はブラックロータスに設けられた俺の寝室である。メイの姿はないので、恐らく既にコックピットか食堂に行っているのだろう。最終的にメイの機嫌というか寂しさによるストレスは解消できたようなので、今後は今回のように何日間も顔を合わせないということがないように気をつけたいと思う。本当に。

疲れを知らない彼女には絶対に勝てない……。

「大丈夫なの? もう少しで作戦開始よ?」

「大丈夫。飯食ってゆっくりしてればなんとかなる」

ジト目で視線を送ってくるエルマにそう答えてホットドッグもどきと青汁めいた栄養価の高いジュースという朝食を摂る。ホットドッグが味気ない栄養ペーストじみたサムシングだったら立派なディストピア飯だっただろうな、これは。

「ティーナとウィスカは?」

「もうずっと前に起き出して元気いっぱいにクリシュナの整備をしにいったわよ。ミミも補給物資の最終確認をするって言って一緒に格納庫に向かったわ」

「そうか。俺も飯を食い終わったら二人の様子を見に行くかな」

「そうしなさい。相当無理をしたみたいだから。昨日は大変だったのよ? 風呂に入れたらそのまま寝るし。ミミと二人がかりでお風呂に入れたんだから」

「それは危険だな。二人に世話をしてもらってよかった」

整備士姉妹とミミとエルマがお風呂でくんずほぐれつしている光景に思いを馳せる。ちょっと見てみたかった。そんな俺の思考が筒抜けなのか、エルマが俺の太腿を抓ってくる。ちょういたい。

「ほんとにアンタは緊張感の欠片もないわねぇ……これから死地に向かうのに」

「死地だと思ってないからなぁ」

帝国航宙軍の規模を考えれば、負けるということはまず無いだろうと考えられる。

今回投入される戦力は戦艦六隻、巡洋艦二十隻、駆逐艦二十五隻、コルベット四十二隻という盤石としか言いようのない大戦力だ。正直傭兵とか要らないんじゃね? と思わなくもない。

帝国航宙軍も本気というか、圧倒的戦力を投入して帝国航宙軍に一隻たりとも被害を出させないという強い意志を感じさせる布陣である。先日派遣された第一から第四偵察隊全てを合わせた戦力の一.五倍の戦力が投入されている。しかも今回は既に敵の位置が判明しているので、隊を分けたりせずに戦力が集中運用される。

つまり、単純計算で言えば先日大損害を被った第三、第四偵察艦隊と比べて凡そ三倍の戦力を該当星系に投入するわけだ。更に傭兵達も同じくまとめて投入される。SOLで培った俺の感覚からすれば過剰戦力だ。運用さえ誤らなければ先日の偵察艦隊規模の戦力で十分対処できると思う。

「というわけだ」

「なるほど、根拠があってのことなのね」

「そういうこと。流石に数が多いだろうから油断はできないが、ガーディアンクリスタルの掃除さえ済めば戦艦と巡洋艦、それに駆逐艦から投射される圧倒的火力でマザー・クリスタルはさほど苦労せずに破壊できると思う」

つまり、俺達傭兵や帝国航宙軍のコルベットがちゃんと仕事をしてガーディアンクリスタルを迎撃し、ヘイトを取って引きずり回せば後は帝国航宙軍の戦艦や巡洋艦が全部片付けてくれるということだ。後はマザー・クリスタルから放出される小型結晶生命体と適当に遊んでいればいい。

「不意の遭遇戦でもない限り、軍の戦いってのは始まる前に終わってるってこったな」

先日の大損害に関しても、別に作戦失敗ってわけじゃないしな。大きな被害が出たのは確かだろうが、敵の本拠地と戦力を知るって目的はちゃんと達成できていた。あの偵察行は情報を持ち帰ることができれば勝ちだったわけである。

「心配はいらない、でも油断はできないってわけね。つまりいつも通りと」

「そういうことだな」

肩を竦めてみせる俺を見てエルマが微笑む。

作戦開始まで、あと四時間弱。