軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#159 待機命令

撤退してきた第三、第四偵察艦隊を追って結晶生命体が現れるかと警戒していたが、結局そのような事態には陥らなかった。もしそうなったら傷ついた第三、第四偵察艦隊を逃がすために第一、第二偵察艦隊が遅滞戦闘を行う必要があっただろうから、場合によっては厳しい戦闘を強いられることになっていたかもしれない。

ともあれ、傷ついた第三、第四偵察艦隊の艦艇に応急修理を施さなければ撤退もままならないので、クリシュナは暫くの間ブラックロータスのハンガーを他の船に譲ることになった。

ブラックロータスのハンガーに駐機できるのは小型艦二隻までなので、クリシュナがブラックロータス内で待機すると整備ができるハンガーを一つ塞ぐことなるからだ。

「落ち着きなさいよ」

「何がだ?」

「心配そうな顔をしていますよ、ヒロ様」

「……ぬぅ」

結晶生命体に殺されかけて気が立っている傭兵達にティーナとウィスカが何かされないか少しだけ心配なだけだ。何かあっても大丈夫なようにメイにはくれぐれも注意するように言っておいたから大丈夫だとは思うが……万が一ということもある。

もしあの二人とメイに――メイは絶対に大丈夫だと思うが――何かあったら、ブラックロータスから出てきた瞬間に俺がこの手でスペースデブリにしてやる。絶対にだ。

「そんなに心配しなくても大丈夫よ……ヒロが思っている以上にここにいる傭兵達はヒロのことを恐れているから」

「なんで?」

恐れられる理由がまったく思いつかないんだが。

「今、この作戦に参加している傭兵達からのヒロへの評価は『結晶生命体の群れに単身突っ込んで無事に戻ってくるクレイジー野郎』よ。受勲式でも銀剣翼突撃勲章を貰ったのに特段嬉しそうな様子を見せなかったらしいわね?」

「まぁ……別にはしゃいだりはしなかったな」

式典が死ぬほど面倒くさいと思っていたくらいか。ああ、戦場の俯瞰図を見るのは面白かったな。

「そういうのもあってか、金や名誉よりも危険とスリルを楽しむヤバい奴だって噂になってるわよ」

「何それ草生える」

大草原不可避というやつだ。危険とスリルより金や名誉の方が好きに決まってるだろう、常識的に考えて。悪いけど俺は別にバトルジャンキーとかじゃねぇから。

「というかそういう情報ってどこで仕入れるんだ?」

「それは秘密」

エルマはニッコリと笑って情報の出処を明かすことを拒否した。何か傭兵同士が情報を交換する裏サイト的な何かがあるのだろうか?

「二人ともああ見えて結構力持ちですし、メンテナンスボットもいるから大丈夫ですよ。メイさんもついてますから」

「そうだと良いけどな」

こんな感じで破損船の応急処置が終わるまで俺はクリシュナの中で悶々とした時間を過ごすのであった。

なお、整備士姉妹やメイがトラブルに巻き込まれるということは一切なかった。むしろ、小さな身体でテキパキと手際よく船の修理と整備をこなす整備士姉妹を傭兵達はどこか微笑ましげな様子で眺めていたとメイが後で報告してくれた。

普段荒んだ生活を送っている反動か何かだろうか? とりあえず俺はその絵面を思い浮かべて犯罪的だなと思うばかりであった。

☆★☆

「なんや、うちらのこと心配してくれたん? なんだかんだ言って兄さんも優しいなぁ」

「お兄さん……」

応急修理が終わり、一旦イズルークス星系に撤退するということになった時点で俺達はブラックロータスへと戻り、今は整備士姉妹と一緒に休憩をとっていた。

「別にそういうわけじゃ……ないこともないけど」

ニヤけてくねくねしているティーナを見ているとつい否定したくなるが、ティーナだけでなくウィスカも揃って二人で嬉しそうにされてしまうとそれもできなくなってしまう。

「私の心配までしてくださるとは思いませんでした」

休憩室で俺達の給仕をしてくれているメイの表情もこころなしか穏やかに見える。いつもと同じ無表情なのだが、なんとなく雰囲気が柔らかいのだ。

ちなみに、彼女がこうして休憩室で給仕している間もブラックロータスは他の船と一緒にイズルークス星系に向かって正常に運行中である。どのようにしているのかはわからないが、遠隔操作のような形で艦を制御しているらしい。セキュリティ的に大丈夫なのか? と思わないでもないが、メイが雑な仕事をするとも思えない。多分大丈夫だろう。

「結果的に何事もなくて良かった。うん」

「話をまとめようとしてるな」

「恥ずかしがらなくても良いのに」

「アーアーキコエナーイ。それよりも今後のことだよ」

ティーナとエルマがニヤニヤしているのを無視して話題を逸らす。これ以上からかわれたらたまらん。

「今後のことと言っても、イズルークス星系に戻って軍の判断を待つしか無いのでは?」

「ですよね」

ウィスカが首を傾げ、ミミが頷く。くっ、確かにそうだな。話題を逸らす先を間違えたか。いや、大丈夫だ。ここから更に話題を逸らすのだ。

「そっちじゃなくて、ティーナとウィスカの護衛のことだ。いくらドワーフで見た目より力が強いって言っても、限界があるだろう。今後、宙賊に接舷攻撃をかけられる可能性だってゼロとは言い切れない。護衛兼防衛用に戦闘ボットをある程度揃えたほうが良いんじゃないかと思ってな」

「そこまでいるか?」

「でも、万が一ということもあるよね」

自分達の身の安全ということで、ティーナとウィスカが真面目に相談し始める。

「どういったタイプの戦闘ボットを用意するのですか?」

「現場に急行できる高機動タイプから制圧力の高い重装タイプまでバランス良くだな。殺さずに制圧する機能も欲しい」

「となると、攻撃型ではなく警備型ですね。御主人様のことですから、高性能機をお望みになられると思います」

「そうだな」

ティーナやウィスカ、それにメイの身の安全のために金をケチるつもりはない。本当はブラド星系で買い揃えても良かったのだが、あまり品揃えが良くなかったんだよな。他の装備は結構品揃えが良かったのに、アンドロイドや戦闘ボット系のショップは今ひとつだったんだ。ドワーフと相性が悪いのかね? でもティーナとメイはメンテナンスボットを使うしなぁ。よくわからん。

「では結晶生命体関連の案件が片付いたら、そういった買い物に便利な星系に向かうのが良いでしょう。後でミミ様と行き先を検討しておきます」

「はい! 任せてください!」

ミミが両拳を握り締めてフンスと気合を入れる。次の目的地に関しては二人に任せて良さそうだな。

「そろそろクリシュナのチェックも終わっとるやろ、うちらはクリシュナの整備をしてくるわ」

「いってきますね、お兄さん。しっかり整備してきます」

整備士姉妹がそう言って手をふりふりと振ってから食堂を出ていく。ミミとメイは一緒になって次の目的地を決めているようだ。話に混ざっても良いんだが、決まってから聞こうかな。となると、やることがないな。

「船に戻るの?」

「そうだな。多分無いと思うが、スクランブルがかかることが絶対にないとも言えないし……」

俺も何かこういう待機時にできる仕事を作ったほうが良いかな。とは言ってもなぁ、情報収集や交易関連はミミに任せたし、メンテナンス関係はティーナとウィスカがいるし、その他のコアな情報に関してはエルマがどこかから拾ってくるし。

「別にそんな無理に働こうとしなくてもゆっくりすればいいじゃない。いざという時のために休むのも大事よ? それに、あんたは船長なんだから細々としたことは部下に任せてドンと構えていれば良いのよ」

「そうですよ! ヒロ様は働き過ぎです!」

「私もそう思います。私に気を遣ってくださる分をご主人様自身に向けて頂きたいです」

エルマとミミだけでなくメイにまで休めと言われてしまった。別に疲れてもいないし、そこまでワーカーホリックというわけではないと自分では思うんだが。どちらかというと貧乏性なんだろうと思う。何もせず漫然と時間を過ごすのが勿体なく感じるんだな。

「わかった。休憩スペースでボーッとしてるわ」

「そうなさい。パイロットは集中力が大事なんだから、頭を休ませるのも大事よ」

「へーい」

特にやることもないし、休憩スペースのソファで一眠りするのも良いかもしれない。そう考えながら俺は休憩スペースへと向かうのであった。

☆★☆

幸いなことに応急修理が終わってしまえばイズルークス星系への撤退そのものはスムーズに進んだ。結晶生命体に遭遇することもなく、無事に帰り着くことができた。

しかし、損傷した艦艇の本格的な修理や損害を被った第三、第四艦隊の再編成。それに持ち帰った情報の分析や、第三、第四偵察艦隊に被害を与えた結晶生命体の群れに対する攻撃を行うかどうかなどの検討をするために一週間ほどかかることになった。

その間、俺達傭兵はイズルークス星系の防衛に従事しながら待機せよという命令がお上から下った。まだまだ契約期間内なので、契約をこちらから解除しない限りはその命令には従わなければならない。

無論、こちらの都合で勝手に契約を解除するとなるとペナルティがある。契約不履行として多額の賠償金がかかるし、傭兵としても著しく評価を落とすことになるのだ。賠償金は払えなくもないし、別に評価なんてどうでも良いが、攻撃するかどうか決まっていない現時点で契約をこちらから解除してペナルティを食らうのは馬鹿のすることである。攻撃は断念、解散! なんてことになったら目も当てられない。

そういうわけで、俺達は暫くの間イズルークス星系にて待機することになるのだった。