軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#136 黒蓮のデビュー戦

昨日は慣熟訓練中に帝国航宙軍の臨検を受けるというハプニングがあったが、なにはともあれ一通りの動作確認は出来たので今日からは本業である宙賊退治に戻ることになる。先日のクリシュナ試運転の際には突発的な遭遇戦をしたが、最初から宙賊を狩るつもりで出撃するのは久しぶりのことだ。

スペース・ドウェルグ社からの出向者であるティーナとウィスカの整備士姉妹は不参加だったが、昨夜のうちに今日の宙賊狩りに関する打ち合わせは終わっている。クリシュナを格納庫に搭載したブラックロータスは滞りなくブラドプライムコロニーを出港した。

「じゃあ、昨日決めたプラン通りに運行してくれ」

『承知いたしました』

格納庫に搭載されているクリシュナに搭乗しているのは俺とミミ、それにエルマの三人だけである。メイはブラックロータスのコックピットで操艦をしており、ティーナとウィスカの整備士姉妹は格納庫近くの自室で待機中だ。流石に部外者だからと情報を完全に遮断するのは不安も大きいだろうから、彼女達の自室でもブラックロータスやクリシュナの様子をある程度モニターできるようにしてある。

「ティーナ、ウィスカ。まず心配はないと思うが、今日は実戦だ。一応気を引き締めておけよ」

『了解や』

『わかりました』

二人の緊張した声が通信越しに聞こえてくる。

「万一に備えてちゃんとおむつもしっかり履いておけよ」

『あはは、ウィスカやないんやから大丈夫やで』

『お姉ちゃん! ヒロさんも!』

俺とティーナの軽口にウィスカが顔を真赤にして憤慨する。結果的に緊張が解れたようで何よりだ。ミミもなんだか俺にチラチラと視線を向けてきている。

「ミミはもうおむつは取れてるだろ?」

「そ、それは勿論ですよ。もう私もそれなりに慣れてきましたから」

少し顔を赤くしながらもなんだかミミは嬉しそうに口元をによによとさせている。構ってもらえたのが嬉しかったのだろうか。別にミミを蔑ろにしているつもりは一切ないが、最近は母船の購入やクリシュナの整備、それに整備士姉妹への対処で少しミミと接する時間が少なくなっていたかも知れない。今日の宙賊狩りが終わったら存分にミミを甘やかすとしよう。無論、その次はエルマもな。ああ、メイもだな。メイには今回結構振り回されたが、ご主人様としてはちゃんと労ってやるのも大切なことだろう。

『出港申請完了。出港します』

「了解。出港したら予定のポイントへ向かってくれ」

『はい、お任せください』

クリシュナのHUDにはブラックロータスの各部センサーが捉えた映像や情報が表示されている。映像上では既に出港して動いているようだが、慣性制御が働いているのかクリシュナに乗っている俺達には特に船が動いているという感覚は伝わってこない。流石にカタパルトで射出でもされない限りはクリシュナの慣性制御装置は完璧に働いてくれるようだ。

程なくしてブラックロータスは超光速ドライブを起動し、超光速航行に移行した。向かう先は昨日このブラックロータスを臨検したブラド星系に駐屯している帝国航宙軍少尉に聞いたポイントで、最近宙賊被害が多いとされている宙域である。超光速航行のスピードを荷物を満載した採掘船並みの速度で運行し、宙賊がインターディクトしてくるのを待ち受けるわけである。

「まぁ一種の釣りだよな」

「星系規模の宙賊フィッシングね」

「ヒロ様はやることのスケールが大きいですよね」

別に傭兵としては普通だと思うけどな。まぁ、普通はインターディクトなんて好んで受けるようなものでもない。嬉々として受けるようなのは俺達みたいな宙賊釣りを嗜む傭兵だけだろう。

『ご主人様、亜空間レーダーに反応あり。こちらの後方に陣取ろうとしている集団がいます』

「早速か。よし、後ろに着かれるのを嫌がるように少し逃げろ。鈍重な輸送艦を装って回頭を速度は押さえてな。進路はブラドプライムコロニー方向に向けるんだ」

『承知いたしました。インターディクトを受けた場合も同じように出来るだけ抵抗しているように見せかけます』

「そうしてくれ。よし、俺達はスタンバイするぞ」

「はいっ」

「了解。メイもハッチオープンとカタパルトの準備をお願いね」

『お任せください』

臨戦状態に入ると同時に僅かな揺れを感じる。どうやら順調にインターディクトされたようだ。

その瞬間待機しているティーナから通信が入ってきた。

『ちょ、い、インターディクトされとるやん!? 大丈夫なんか!?』

「ああ、大丈夫大丈夫。計画通りだから。宙賊が餌に食らいついただけだ」

『え、えさ……? ま、まさかこのブラックロータスを餌に宙賊を釣ったんですか!?』

「その通り。ブラックロータスのシールドと装甲は分厚いから、二人は心配要らないぞ。ちょっと撃たれるだろうけど」

『いやいやいやいや! 撃たれるんかい!? それはアカんやろ!?』

「大丈夫だ! ブラックロータスを作った君達のスペース・ドウェルグ社を信じろ!」

グッ、と親指を立ててティーナ達からの通信を切る。まだ何か言い足りない感じだったが、いつまでも構っているわけにもいかない。これが日常的な出来事になるので、早めに慣れてもらうしかないしな。

『インターディクトを成立させて通常空間に遷移します。スキャンをして相手が宙賊だと判明次第射出しますので、そのつもりで』

「了解」

返事をしてから数秒を置いて微細であった震動が一際大きくなり、すぐに完全に震動が止まる。どうやら通常空間に戻ったようだ。

『スキャン完了、相手は宙賊です。数は小型九隻。ハッチ開放、射出します』

「了解。二人とも、飛び出したらすぐに始めるぞ。メイは宙賊の注意がクリシュナに逸れたのを確認次第攻撃を開始してくれ」

『『『 了解(はい) 』』』

三人の返事を聞きながら操縦桿の感触を確かめながらHUDの表示をブラックロータスのものからクリシュナのものへと切り替える。そうすると、丁度今にも開ききろうとしている格納庫のハッチが見えた。

『クリシュナ、射出します』

メイの声とともになかなかに強力なGが俺の身体をパイロットシートへと押し付けた。格納庫内の光景が一瞬で後方に置き去りになり、気密シールドを抜けたクリシュナが宇宙空間へと射出される。

『船から小型艦が出てきたぞ』

『護衛の船か? 一緒に飛ばないのは珍しいな』

『所詮一機だ。囲んで叩くぞ』

宙賊達の威勢の良いやり取りが聞こえてくる。ははは、元気な奴らだな。お前らは宇宙の藻屑と成り果てて俺に賞金を献上するが良い。

え? 命を奪うことに対する忌避感? 別に無いわけじゃないが、こいつら宙賊に関して言えばそういったものを抱く余地が無いな。略奪した船の船員を皆殺しにするのは当たり前で、悪ければ慰み者にした後に臓器を取り出して売り払うとか、それ以上に酷いことも平然と行うような連中だ。生かしておいても百害あって一利なし。奴らにかける慈悲はない。

ブラックロータスから飛び出した俺は即座にウェポンシステムを立ち上げて四門の重レーザー砲と二門の大型散弾砲を展開する。どうやら宙賊どもは護衛機と思しきクリシュナに六隻の小型船を差し向け、残り三隻でブラックロータスの足止めを行うつもりらしい。

フォーメーションも何もないでたらめな機動で六隻の宙賊艦がこちらへと殺到してくる。

「突っ込むぞ」

「了解、チャフ展開するわ」

エルマがサブシステムを制御し、チャフを展開する。チャフは完璧に敵の攻撃を撹乱するというわけではないが、敵のレーダー照準システムに欺瞞情報を与えてその精度を低下させる効果がある。

宇宙空間でチャフ? と思わなくもないが、実際にそのように作動するのだ。別に金属箔をバラ撒いているわけではないようなので、何か未知の粒子をバラ撒いているか、或いは何かしらの電子的な防御手段を行使しているのかもしれない。まぁ、仕組みにはさして興味はない。敵の攻撃精度が低下するなら俺にとってはなんだって構わないのだ。

『突っ込んできやがる!?』

『ブレイク! ブレイク! 正面衝突したら助からんぞ!』

自分達のシールドと装甲の薄さは自覚しているのか、宙賊達は突っ込んでくるクリシュナを避けようと慌てて機動を変えようとする。基本、ブラックロータスのような輸送船の護衛についている船というのはシールドも装甲もしっかりしている船が多いので、戦闘速度で正面衝突なんてした場合は宙賊側の船が木っ端微塵になるのだ。それを彼ら自身もよく自覚しているというわけだな。

当然のことながら、そうやって隙を晒させようというのが俺の狙いであるわけだが。

『うわ――』

四門の重レーザー砲から一斉に発射された緑色の光条がクリシュナとの正面衝突を避けようと腹を晒した宙賊艦のシールドを一撃で突き破り、その装甲と船体すらも貫いて行動不能に陥らせる。運良く動力系統か操縦系統だけを破壊したのか、爆発四散していないな。珍しい。

沈黙した宙賊艦の横を擦り抜けた俺はフライトコントロールシステムを切りながら姿勢制御スラスターを噴かしてクリシュナを急速旋回させ、更にメインスラスターを噴かして無理矢理宙賊共の背後を取る。慣性制御装置が働いているにも拘らず凄まじいGが襲いかかってくるが、もう慣れた。日々のトレーニングが功を奏しているのか、こういった無茶な機動を取っても身体に掛かる負担はさほどでもなくなっている。

「ぐっ……!」

「うぅっ」

エルマとミミから苦しそうな声が漏れ聞こえてくるが、それで追撃の手を休めるわけにはいかない。折角ケツに食らいついたのだから、遠慮なく宙賊艦のケツに重レーザー砲の砲撃を叩き込んでいく。

『何だよあの動きは!? 化け物か!?』

『クソが! いいようにやらせるか!』

更に二隻を撃沈したところで横合いから二隻の宙賊艦がレーザー砲を撃ってくる。しかし、そのレーザー砲撃はクリシュナの強固なシールドに阻まれてあえなく消え去った。シールドの状態を確認する限り、この調子だとあと二〇〇発ほど喰らわないとシールドは飽和しないな。もっとも、その前にエルマがシールドセルを使うだろうから実際にはもっと大量に撃ち込む必要があるだろうけど。

『うわぁぁ! こっち来んなぁ!?』

クリシュナを旋回させ、砲撃してきた宙賊艦との間合いを一気に詰める。宙賊艦も逃げようとするが、クリシュナの方が圧倒的に早い。

『や、やめっ――』

艦首に二門装備されている大型散弾砲が火を噴き、無数の散弾が宙賊艦のシールドを貫通してその装甲と船体を穴だらけにする。近くにいたもう一隻も同様に穴だらけにしてやる。慈悲はない。

『こ、こんなところで――!』

逃げようとした最後の一隻も重レーザー砲の斉射で片付け、今度は三隻の宙賊艦に足止めされているブラックロータスの援護を――。

『い、嫌だ! 死にたくねぇ! 死にたく――!』

逃げようとする最後の一隻の後方には艦首の大型EMLを展開したブラックロータスの姿があった。他の二隻はブラックロータスの各部に搭載されているレーザー砲で既に爆発四散した後らしい。

「あ、最後の一隻が超光速ドライブを起動しま――」

ブラックロータスの大型EMLの砲口が激しい光を放ち、その次の瞬間には逃げようとしていた宙賊艦最後の一隻が粉々になった。これは酷い。

「――起動できませんでしたね」

「そのようだな。戦闘終了だ。根こそぎサルベージするぞ」

今まではその場に打ち捨てていくしかなかった宙賊艦の装備や、損傷の少ない宙賊艦もブラックロータスのお陰で持ち帰ることができる。それはつまり、略奪品の売却益が今までよりも格段に跳ね上がるということである。特に、損傷が比較的少ない宙賊艦を一隻だけなら持ち帰ることができるのが美味しい。

拿捕した宙賊艦というのは戦闘力が必要な傭兵には殆ど価値のないものだが、駆け出しの星間行商人や採掘者、それにスカベンジャーににとっては安価に手に入れられる貴重な小型輸送船になり得るのだ。持ち帰ることさえできるのであれば、戦利品としてはかなり美味しい部類の戦利品なのである。

「へっへっへ、これからはちょっと気をつけて小型の宙賊艦を爆発四散させないようにしなきゃなぁ」

「……ヒロ様が悪い顔をしています」

「放っておきなさい。メイ、大きいのはそっちに任せるわ。ほら、ヒロ! とっとと戦利品を回収するわよ!」

『承知いたしました』

「了解」

物資コンテナをスキャンしながらクリシュナを宙賊艦の残骸の下へと移動させる。いやぁ、これは稼ぎの総額を見るのが楽しみだな!