軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#110 不審人物の群れ

あれからおよそ七時間。クリシュナは極彩色のハイパースペースから脱出し、俺達は無事にブラド星系へと到着した。

光量調整されたHUD越しに黄色矮星とも呼ばれるG型主系列星のブラドがコックピットに着いている俺達を明るく照らした。G型主系列星と言われてもピンとこないだろう。俺もピンとこない。簡単に言えば太陽と同じような恒星ということである。

「確かメインシップヤードがあるのはブラドプライムコロニーだったよな」

「はい。セカンダスコロニーとテルティウスコロニーは採掘基地としての役割が強いみたいですね。私達が向かうのはプライムコロニーで良いと思います」

「じゃあブラドプライムコロニーに進路を向け──」

向けるか、と言おうとしたところでアラート音が鳴った。攻撃されているとか、ロックオンされているとかそういう物騒なアラート音ではなく、スキャンを受けているというアラート音だ。手元のコンソールを操作してレーダーを表示してみると、一隻の船が少し離れたところからクリシュナに艦首を向けているのがわかった。恐らくレーダーに映っているこの船がこちらをスキャンしてきているのだろう。

「スキャンされてるわね」

「まぁ、別に良いけどな。痛くもない腹を探られるのはなんとなく気分が悪いけど、目くじらを立てるようなことでもない。ミミ、ブラドプライムコロニーに進路を向け――」

再びアラート音が鳴った。別にロックオンされたわけでも、火砲を発射されたわけでもない。スキャンされたのである。スキャンする船が増えたのである。いつの間にかその数は三隻に増えていた。

「……」

「ええっと……ナビ設定しました」

「総員対ショック姿勢。一気に加速して振り切るぞ」

そう言って俺はクリシュナを急加速させた。アフターバーナーも使い、スキャンを試みる不審船を一気に引き離す。レーダーを見る限り慌ててこちらを追おうとしているようだが、知ったことではない。

「エルマ、超光速ドライブチャージ開始」

「はいはい、開始するわ。カウント、5、4、3、2、1……超光速ドライブ起動」

ズドォン、と炸裂音じみた轟音を立ててクリシュナの航行速度が一気に光速の壁を飛び越える。

「なんだかわからんが気味が悪い──」

再三のアラート音。

亜空間センサーを起動すると、超光速航行するクリシュナを追いながら黙々とスキャンを行う船、船、船……その数、七隻。いや、八隻に増えた。更に増えそうだ。多数の船を引き連れたまま超光速ドライブの航跡を残す俺と追随する不審船はさながら流星群の如き様相である。

「いやいやいやいや。おかしいだろ!」

逃がすな! 追え! と言わんばかりに俺の船を追跡する船がどんどん増えている。一体全体何事だよ。理解の範疇を越え過ぎてて怖いわ。

「恐らくはこの船が全く見たことがないものだからではないかと」

そう言ってメイが俺の正面にあるHUDに追跡してきている多数の船の所属を表示する。どれもスペース・ドウェルグ社所属の実験機や哨戒機であるらしい。兵器開発課とか船体設計課とか推進機構開発課とか細かく所属は分かれているようだが、どれもスペース・ドウェルグ社の機体であることには違いない。

「なんか急にコロニーに向かうのが嫌になってきたな」

厄介ごとの匂いしかしない。いや、クリシュナのようなユニーク船に乗っている時点でこれはいつか訪れる未来だったのだろう。どこかで決着──とは違うが、こういう事態は必ず起こるのだろうから今やるのも逃げてまたいつかやるのも同じことだろう。

そうこうしているうちにブラドプライムコロニーに着いたので、超光速ドライブ状態を解除する。

ドォン、というクリシュナが超光速ドライブを解除した轟音に続いてドドドドドドォン、と続々とクリシュナを追っていた船達もワープアウトしてくる。その数……数えるのも馬鹿らしくなってくるな。

「ミミ、ドッキングリクエストだ」

「はい」

鳴り響くアラート音が五月蝿い。威嚇射撃でもして追い散らしたい気持ちがフツフツと沸き上がってくるが、ここで短気を起こしても何一つ良いことがないので放っておくことにする。

「チャフでも撒く?」

エルマも俺と同様にかなりイライラした様子である。そりゃそうだろう。星系軍などの公的な法執行機関所属の船にスキャンされるならまだしも、民間船にこんなに執拗にスキャンをかけられたら不快に思うのも当然だ。

別に勝手にスキャンしたからといって法に触れるわけではないが、基本的にスキャンをかけるというのは『違法な物資を積んでいないか』『賞金がかかっていないか』ということを調べる行為である。言い換えれば、何か悪いことしてるんじゃないか? 俺はお前を疑っているぞ、という態度を示す行為だ。例えるなら全身をボディチェックされた上にバッグの中身も探られるようなものだ。

「不愉快だけど放っておけ。後で正式にクレームを入れれば良いだけだ。メイ、こちらをスキャンしている船のIDと所属を記録しておいてくれ」

「はい、ご安心ください。既に全て記録しております」

「よし」

別に不法行為ではない。だが不法行為ではないだけでマナーを大きく逸脱する行為ではある。一介の傭兵ならばともかく、こんなに多数の船が一斉に客に対してマナー違反を犯すというのは企業としてはよろしくない事態だろう。

「承認が降りました」

「よし、ドッキングするぞ。オートドッキングコンピューター起動」

「はい、起動します」

ミミの声と同時に船の操作が俺の手から離れ、クリシュナが自動制御でコロニーのハンガーへと向かい始める。ブラドプライムコロニーはスタンダードなトーラス型──所謂ドーナツ型の居住スペースを持つコロニーのようであった。ミミやエルマと出会ったターメーンプライムコロニーと同じようなタイプだな。

しかし、ブラドプライムコロニーは普通のトーラス型コロニーよりもかなり大型のようである。回転の軸となる部分が非常に長大で、その部分に艦船を建造するための造船所が併設されているようだ。脳裏に違法建築なんて言葉が過るが、まぁこのコロニーを管理しているのは銀河でも名の知れているシップメーカーだ。きっと問題はないのだろう。

俺の船をスキャンしていた船もドッキングリクエストを送っていたらしく、続々と入港を開始したようだ。

「やれやれ……この様子だと船まで押しかけてきそうだな」

「そうね……」

正直気が重いというか、面倒くさい。こりゃ船を空ける時はシールドを張っておいたほうが良さそうだな。好きにやらせていると船の中にまで入り込みかねない。

☆★☆

無事ハンガーへのドッキングを終えることができた俺達は寄港手続きを済ませて早速コロニーに降りる事にした。今回はフルメンバーで降りることにする。つまり俺、ミミ、エルマ、それにメイも一緒に降りてスペース・ドウェルグ社のショールームに向かうのだ。一応機種そのものはスキーズブラズニルに決めているが、内装や装備などに関しては最新のオプションも含めて全員で相談しようと思ったのだ。

で、準備を追えて船を降りたのだが。

「どういうことなの」

船のハッチを開けたらハンガーに十人以上ものエンジニアや研究者っぽい連中がたむろしていた。どう見ても港湾関係の職員には見えない。彼らはカメラのような機械や見慣れない機械をクリシュナに向けて何やら議論したり、興奮した様子である。おい待て、何だその脚立は。こら、勝手に船体に手を触れるんじゃねぇ。

「ええと、これは……」

「ヒロ」

「ああ」

俺はすぐさまポケットから小型情報端末を取り出し、港湾管理局をコールした。

『はい、こちらブラドプライムコロニー港湾管理局です』

「34番ハンガーのキャプテン・ヒロだ。船から降りようとしたら不審人物が十人以上もハンガー内にたむろしていて船から降りられん。勝手に何かよくわからん機器で調査らしきことをしたり、脚立を使って船体に触れているようなやつもいる。至急治安維持要員を寄越してくれ」

『それは……わかりました、すぐに向かわせます。ご迷惑をおかけして申し訳ありません』

「ああ、まったくだ。この後2000万エネルの商談があるんだ。早急に対処してくれ」

ドデカイ金額を提示して対応してくれた港湾管理局員を脅すと、すぐに治安維持要員が乗った車両が複数駆けつけてきて文句を言う不審人物達を速やかに拘束して連行していった。それを確認してから俺達はタラップを使って船を降り、小型情報端末を使ってシールドを起動する。

「とりあえずこれでよし……だけど先が思いやられるな、これは」

「そうですね」

「そうね」

「はい」

メイまでもが俺の言葉に同意した。だってあいつら妙に目が血走ってたりして気味が悪かったんだよ。何か開発ノルマとかそういうものがあって追い込まれているんだろうか? 実はスペース・ドウェルグ社はディストピアチックなブラック企業だったりするのか?

「最終的に俺達の目的が果たせれば良いと考えてある程度諦めたほうが良いんだろうか」

ポツリと呟くが、誰も俺の呟きには答えてくれなかった。