軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4  戸惑いの新婚

カミラとルークがジェラルドに急かされて結婚した数日後、パメラもまた慌ただしく出国の準備をして国を発った。

どうやらアッシャール帝国は以前から側室を募集していたらしく、喪が明けるやいなやジェラルドが妹の結婚を打診すると、是非とも、今すぐにでも、と快諾されたという。

アッシャール帝国も小国ながら織物産業などで栄えるラプラディアと縁ができるのは嬉しいようで、パメラの輿入れに関して山ほどの贈り物を寄越してきた。

そしてパメラがアッシャール帝国に旅立つのとほぼ同時に、カミラはルークと一緒に暮らすことになった。

とはいえ一年ほどかけてパメラとの結婚の準備をする予定だったのを前倒しにしたので、用意ができていない。

カミラとルークにはちょうど空いていた屋敷を一つ、新居として与えられた。中古の屋敷が王女夫妻の新居になるなんて笑い話になりそうだが、兄は一日でも早くカミラを王城ひいてはシャムロック家から追い出したかったのだろう。

急ぎなので、使用人の数も十分ではない。だがコックや庭師、私兵などの男性使用人は十分な数があった。どうやら彼らはルークと共に先の戦いで活躍した元兵士らしく、王女を娶って貴族になるということで、退役した彼らを雇ったようだ。

(ルークの元仲間なら、きっと問題ないわね)

もしかすると「美人な妹姫じゃなくて残念な姉姫なんて、ルークがかわいそうだ」ということでカミラは雑に扱われるかもしれないが、最低限の衣食住が揃っているなら文句はない。

修道院に入りたての頃に山で修行させられたときの方が、よほど過酷な環境だった。

「女性使用人はいませんが、すぐに揃えます」

使用人たちを紹介したルークはそう言って、カミラを屋敷二階に案内してくれた。

カミラのためにここ数日でルークは必死に調度品を揃えたりしてくれたようで、女主人用の部屋には大きなベッドや新しいクローゼット、鏡台や文机などがあった。

「その……申し訳ございませんが、あなたの体のサイズがわからなかったし時間もなかったので、オーダーメイドの衣類は買えませんでした。ですがすぐに女性使用人を雇い、十分な量のドレスを仕立てさせます」

カミラの視線がクローゼットの方に向いたからか、ルークは焦ったように言う。

結婚したら、妻の衣類は夫が準備する。それが甲斐性というものだし、妻が貧相な身なりをしていたら夫の沽券にもかかわる。

ルークも、貴族としての振る舞いや生き方を必死に習得し追いかけている途中なのだろう。クローゼットを開くと確かに、中にあったのはサイズもまちまちで柄も色とりどりの中古のドレスだった。

新婚早々、中古屋で買ったドレスを着なければならないなんて、普通の貴婦人なら屈辱だろう。だがルークだって結婚相手がパメラだったら十分な準備期間中にドレスを用意できただろうし、彼は健闘した方だろう。

「大丈夫よ。修道院では毎日同じような服だったから、十分すぎるくらいだわ」

カミラだって、それなりにおしゃれしたいという気持ちはあった。だが修道院は質素倹約をよしとしていたし、そもそも修道服にはほとんど種類がないので毎日同じようなものを着ていた。

それに、お古だろうとなんだろうと夫が自分のために街を駆け回って買い集めてくれたドレスなのだから、十分嬉しかった。

……そんな思いで言ったのだが、途端ルークの表情がさっと強張ったため、カミラは心臓が凍りついたかと思った。

今の自分の発言はおそらく、ルークを傷つけた。なぜなのか、どの部分がいけなかったのかはわからないが。

「……そう、ですか。それならよかったです」

「あの、ルーク……」

「そろそろ夕食にしましょう」

ルークは言葉少なに言うと、カミラに背を向けて歩きだした。

その背中からは「今は、話しかけるな」というオーラが出ているようで、カミラはもう一度ルークの名を呼ぼうとしてぐっと息ごと呑み込んだ。

夜、まだ女性使用人がいないので一人で髪を洗って寝間着に着替えたカミラは、二階にある女主人用の部屋に向かおうとしてふと足を止めた。

(そういえば、この部屋のベッドは一人用だったわ)

大きめではあるが、成人二人で寝るには少し狭いサイズだった。ということはあの部屋はカミラ専用で、夫婦用の寝室は別にあるのだ。

(でも夕食のときから、ルークとは話ができていないわ……)

夕方に女主人用の部屋の案内をしてくれたっきり、ルークとは会話がない。

間違いなく、あのときのカミラの発言でルークが気を悪くしたようで、筋骨隆々のコックが作ってくれた夕食を食べる間も会話はなく、その後それぞれ入浴するときもカミラは声をかけたがルークは無言でうなずくだけだった。

(……そうよ、ルークはまだ十六歳よ)

額に手を当てて、はあっとため息を吐き出す。

ラプラディア王国や近隣諸国では十六歳からが成人で結婚もできるが、とはいえルークはまだ十代半ばの少年だ。

彼は幼い頃から戦場で育ったようでそこらの十六歳よりはよほど落ち着いているし体も大きいが、少年からやっと大人になったばかりであることには違いない。大人なら受け流せることでも、まだ若い彼には看過できないことだってあるだろう。

(私の方が、大人の振る舞いをしないといけないわ)

ただでさえ年齢差のある結婚で彼は内心こりごりだと思っているだろうに、年上のくせに妻が甘ったれで「私のことを察して」と言わんばかりの態度だったら、疲れるし苛立ちもするだろう。

(今日一日を、このままでは終わらせられないわ。それに……いわゆる今日が『初夜』なのだし)

カミラが所属していた修道院には女性しかいなかったということもあり、性の教育に関してはわりと積極的でカミラにも相応の知識があった。初夜に夫婦が何をするのかも、わかっている。

(でも自分がそういうことをするという想像がつかないし、ましてや相手がルークだなんて……)

まるでいたいけな少年をたぶらかす悪女のようで、正直罪悪感がすごいしそういう気にもなれない。

そもそもカミラはそこまで恋愛とか性愛とかに関心がなかったし一生独身のつもりでいたので、我がこととして受け入れるのが難しかった。

(もしルークの方から求めてきたら、妻として応じるべきだけれど……)

どうするべきだろうかと二階の廊下の真ん中で悩んでいたカミラは、後ろから近づく足音に気づかなかった。

「カミラ様?」

「ひゃあっ!?」

後ろから声をかけられたため、カミラはぎょっとして振り返った。声で彼だとすぐにわかったのだが、カンテラを手に立っていた風呂上がりのルークはきょとんとした顔をしている。

「もしかして、部屋がどこかわからなくなりましたか?」

「あ、いえ、大丈夫よ。場所はわかるけれど、その、今夜そこで寝てもいいのかと迷って」

(……こうやってちゃんと、思っていることを話さないと!)

恥ずかしいが思い切って言うと、ルークはカミラの言葉の意味を数秒間かけて考えていたようだが、やがてその眉間に皺が寄った。

(あっ、これはよくない反応だわ)

「……確かに今日はいわゆる初夜というものですね」

「そ、そうね。もしルークと寝所を共にするべきだったら、夫婦用の寝室に入ることになるから」

「……」

ルークが険しい顔のまま、こちらを見てくる。その表情はどう見ても初夜に乗り気ではなく、カミラの心がしおしおとしおれ、そして一度ならず二度も夫を不快な気持ちにさせた恥ずかしさで冷えていく。

次の言葉が出てこなくて黙ってしまうカミラを見かねたのか、ルークがふうっとため息を吐き出した。

「……義務感でそう言っているのなら、ご安心ください。あなたに無理強いをするつもりはありません」

「……」

「今日は別々に寝ましょう。私の部屋はあちらなので、何かあればいらっしゃってください」

そう言って、ルークはカミラに背を向けた。

「では、おやすみなさいませ」

「……おやすみなさい、ルーク」

広い背中に、カミラはかすれた声をかける。

彼は、振り返らなかった。