軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

伯爵夫妻、デートに行く③

ディアドラや使用人たちに見送られて、カミラとルークは馬車に乗った。

御者は、元志願兵のクライドだ。彼は元々動物に懐かれやすく志願兵時代にも荷馬車の御者を担当していたらしく、伯爵家の使用人になった今も護衛兼ディアドラやルークの外出時の御者を請け負ってくれているそうだ。

伯爵邸の立派な門を抜けた先は、伯爵領でも一番栄えている中心街だ。

カミラが眠りにつくよりも前のこのあたりは、王都近郊ではあるものの広々とした草原が広がるだけの場所だった。王国各地方に続く交易路だけが寂しく延びており、ここに町ができれば便利だし栄えるに違いないのに、とカミラも思っていた。

ルークは王都にある男爵邸を取り壊す際、この何もない場所にカントリーハウスを建てたいと所望した。彼の願いを叶えた国王は、ルークが子爵位を得て領地を持てるようになった際にこの一帯をベレスフォード子爵領に定めた。

ルークの指揮のもと、子爵領は見る見る間に栄えた。

王都の手前でありながらぽつぽつと家屋がありおんぼろの宿が一軒あるだけだったが、ルークは人を集め家を建て、今ではベレスフォード伯爵領はこれといった名産品はないものの、王都に到着する前の休憩地点、自然が美しく街の整備も治安もよい風光明媚な観光地になった。

ルークは水の汚染などによる疫病なども考慮したので、伯爵領の中心部には下水も完備されている。またカミラ付メイドのベラのようなひったくり被害者を減らすためにも、警備を徹底させている。おかげでベレスフォード伯爵領は何年も、凶悪犯罪発生件数がゼロだという。

……ちなみに、先日起きたカミラの誘拐事件については既に処理されている。

メイソン子爵は甥のしでかしたことで真っ青になったが、彼もやりたい放題の甥にほとほと手を焼いていたそうで誘拐事件にも名前を勝手に使われただけで彼は関与していなかったそうだ。

誘拐犯たちは屋敷の周りの高い塀を一生懸命よじ登って気絶させたカミラを背負って降りていったらしく、それを聞いたルークは一晩のうちに、屋敷の塀の上に有刺鉄線を取り付けさせていた。

カミラはこれまでにもディアドラと一緒に街に出かけたことがあるが、そのときはまだ体調について経過観察中で、さらに年頃の娘であるディアドラが一緒だったこともあり、専ら馬車で移動して目的地で降りるようにしていた。

だが今回は、医者からも「ほどよく体を動かすように」と言われているし、カミラのそばには王国最強の騎士とも名高いルークがいる。そのため街の中心部までは馬車に乗り、それ以降は馬車を降りてクライドを待機させてルークと二人で歩くことにした。

「この街は本当に治安が行き届いているのね」

日傘の下でカミラが言うと、彼女の腰を抱いて歩くルークが誇らしげにうなずいた。

「ありがとうございます」

「警備兵には、ルークの昔の仲間を採用したのだったかしら?」

「はい。多くの者はクライドと同じ傷痍兵ですが、傷を負った兵士が退役後、すぐに他の職に就けるとは限りません。戦うことでしか金を得ることができないという者も、多数おります。そういうこともあって多くの仲間たちが私のもとに集まってくれました」

ルークが言うように、傷痍兵の再就職はたやすいものではない。

クライドのように指を数本失っているくらいならまだしも、壊死を防ぐために足や腕を切り落とした者や、顔にひどい火傷を負った者などもいる。そして志願兵の多くは子どもの頃から戦いの方法だけを叩き込まれているので、いきなり店番や接客、物作りなどをすることはできなかった。

ルークはそういった者たちを集めて指導を行い、町の治安部隊員にした。住む場所や清潔な衣類、十分な食事と給金を与えることで彼らを統率し、兵として再び生きる道を示した。

そのためか、街で会う警備兵たちは誰も彼もがいかつくて顔つきが怖い。だが彼らが手に持った剣や槍をむやみに振り回すことはなく、町の子どもたちにせがまれて肩車をしたり足の悪い老人の荷物持ちを手伝ったりしていて、なんとも微笑ましい。

「……どのような者でも、生きる場所がほしいのです。自分の得意な分野で活躍し、人として求められ、安心して眠ることのできる温かい場所。誰にも見てもらえず破落戸に落ちぶれる者が一人でも減ればと思っています」

そこまで言ってから、ルークははっとした様子でカミラの方を見た。

「すみません、つまらない話をだらだらと――」

「ルクレツィオ・ベレスフォード。……つまらない話などと、言ってはなりません」

カミラはピシッとして言ってから、騎士としての習性なのかフルネームで呼ばれた途端軍人の顔をした夫の頬をそっと撫でた。

「私は十五年間眠っている間のことを、何も知らない。あなたやディアドラたちから教わらないと、わからない。……私は、あなたやディアがこれまでどんなことをしてきたのか、なんでも知りたい。あなたが育てた街のことをもっと知りたいのだから、『つまらない話』など言わないで」

「……その、カミラ様にとって退屈なのではと思ったのですが」

「まさか。あなたは私のことを、夫の活躍を聞いて面白くないと思うような妻だとでもお思いで?」

「まさかっ!」

即答したルークは、観念したとばかりに苦笑した。

「……わかりました。まるで自慢話のようで少しこそばゆいのですが……実は、あなたに聞いてほしい話がたくさんありまして」

「ええ、どんどん自慢してちょうだい」

カミラは微笑み、夫の肩にそっと寄り添った。

結婚当初の自分たちは、あまりにも会話が足りなかった。

だからこそ、十五年の時を超えて再会した今、ルークの話を何でも聞きたい、彼のことをたくさん知りたいと心から思えたし――カミラのことももっと知ってもらいたいと思った。