軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ルークの恋⑤

ルークには、やるべきことが山のようにあった。

体が石のように固まってしまったカミラを病院に預け、ディアドラの世話を使用人たちに頼んでからルークは一人、屋敷を飛び出した。

彼が向かったのは、妻と娘を襲った者たちが収監されている牢獄。ルークは同行を願い出る兵士たちを追い出し、襲撃者たちを問いただし、詰問し、拷問した。

襲撃者たちは、たかが十代後半の若造ごときに口を割るつもりはなかったようだ。

最初はルークに問い詰められても馬鹿にしたように一蹴していたが、彼が冷めた眼差しで拷問を始めると牢獄には絶叫が響き渡った。断末魔のような悲鳴に、離れたところに待機させられていた兵士たちの方が震え上がり何人かは恐怖で吐いてしまったという。

ルークは襲撃者たちを雇った者の跡を執拗に追い、とうとう雇い主が王妃であることを突き止めた。

息子の出来がよくないことに悩んでいた王妃は、ディアドラが王家の青色の目を持っていること、そしてたった一歳でありながら国王ジェラルドの関心を引くほどの堂々たる態度であることから、息子の政敵になることを恐れてディアドラの殺害計画を立てたのだという。

十分な証拠を携えて玉座の間に突撃し王妃の罪状を並べ立てるルークだが、王妃は当然最初はしらを切り通し妃を侮辱された国王も激怒した。

だがルークが淡々と事実を述べ、最後には王妃を脅して自供するよう求めた結果、ルークの気迫に負けた王妃が自らの罪を認めた。

ルークは、王妃を追放した。妃の愚行を目の当たりにした国王も意気消沈して、王位を譲って蟄居すると宣言した。

ルークは新しく就任した国王を支え、まだ四歳の王太子が立派な王になるよう誠心誠意仕えることを誓った。

その頃にはやっと、カミラの診察も終わった。どの医者もお手上げで、魔術に詳しい医者を遠くから呼び寄せてやっとまともに診てもらえたのだ。

「奥様はおそらく、魔術により石化していらっしゃいます」

言葉に異国の訛りのある医者は、硬い表情のルークに言った。

「過去の文献に、魔術の影響で体が石のように固まったという事例がございました。奥様のお体の状態は植物人間にしては硬く、死後硬直とも違います」

それはルークも思っていた。戦場で仲間を看取ることもあったルークは、妻の体がガチガチに固まっているもののこれは遺体特有の硬直とは違うと思っていた。

自宅が襲撃されてから数ヶ月経っているが、妻の体はかつての艶や柔らかさこそ消えたものの、腐敗はしていない。もし死んでいたら、既に体が腐っているはずだ。

「どのような魔術が使われたのかまではわかりませんが、奥様の体は活動を停止している状態だと思われます。石化が解けるまで、お体の状態は一切変化しないでしょう」

「……石化を解くことはできないのか?」

かすれた声でルークが問うと、医者は申し訳なそうに頭を垂れた。

「大変申し訳ございませんが、今すぐ石化を解く方法はわかりません」

「……」

「ですが、たいていの魔術には限度がございます。またどのような魔道具が使われたにせよ、魔術師が絶滅して久しい現在まで残っていたものとなると、そこまで質の高い魔力は込められていないはず」

「いつか自然に治癒されるということか」

ルークが急いて言うと、医者は慎重に「必ず、とは断言できません」と言った。

「ですが、十分希望はあると思います。奥様のお体を、最良の環境に安置して差し上げてください。気温や湿度など、何が奥様のお体に影響を与えるかわかりません。お体のお手入れを、定期的にされた方がよろしいでしょう」

「……わかった。感謝する」

医者が帰った後、ルークは妻の頬をそっと撫でてから隣の部屋に向かった。子ども部屋は襲撃の跡が痛々しいので封鎖しており、ディアドラはカミラの部屋で過ごさせている。

ルークが部屋に入ると、ディアドラをあやしていたメイドがこちらを見て軽く頭を下げた。

「おまえは、カミラ様によく仕えてくれたそうだな」

気を利かせて退出しようとしたらしいメイドを呼び止めると、まだ若い彼女はびくっと肩を揺らしつつ「恐縮です」と震える声で述べつつも表情を歪ませた。

「で、ですが、それなのに、私は奥様をお守りできず……」

「そのことは、いい。カミラ様も、自分以外に被害者がいないと知ると安心されるだろう。……それより」

ルークは、妻が眠る夫婦用の寝室の方に視線をやった。

「……これからおまえが、カミラ様のお世話をして差し上げてくれないか。カミラ様がいつお目覚めになるか、誰にもわからない。だが、いつお目覚めになってもいいように体の手入れをして、部屋を掃除し、季節を感じられるようにしてやってくれ」

「は……」

メイドは目を見開き、そして土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。

「もちろんです! 旦那様、必ずお役目を全ういたします!」

「頼んだ」

ルークはうなずいてからメイドを退出させ、そして部屋の真ん中に置かれたベビーベッドの方に向かった。

先ほどまでメイドと一緒に遊んでいたからだろう、ディアドラは柔らかいボールを握っていたが、ルークと視線が合うとにぱっと笑った。

「とーた!」

「っ……」

ルークの喉が震える。

ルークは恐る恐る腕を伸ばし、ディアドラを抱き上げた。一歳半の子どもの抱っこの仕方なんてわからないが、ディアドラの方からルークの腕の中でもぞもぞ動き、落ち着く格好になってくれた。

ぎこちなく娘を抱き上げ、こんなものかと思いながら体を左右に揺する。ディアドラはそれが気に入ったようで、きゃっきゃと笑いながらルークの上着を小さな手で握ってきた。

「……ディアドラ」

ずっと会いたいと思っていた、ルークの娘。

こんなに表情豊かなのも、出会ってすぐのルークのことを「とーた」だと認識できたのも、全てカミラがディアドラにたくさんの愛を注いで教えてあげたからだ。

「……カミラ様」

自分と同じ色の娘の髪の毛に額をくっつけて、ルークは呟く。

「私は、あなたのお目覚めを待っております。目覚めたあなたがいつも笑っていられるような国を作ってみせます。ディアドラを……守り育てます」

十八歳の若き男爵のハシバミ色の目には、決意の炎が灯っていた。