軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#189 武器と威力は大きい方がいい

「まずはこちらをご覧ください。簡単な仕様書を作成してきました」

「どれ……うっ」

一見してオラシオは引いた。

いつの間に作ったのか、やたらと詳細な 飛竜戦艦(リンドヴルム) の内部構造図にびっしりと書き込みがされている。

さっと一読したオラシオは表情を歪めた。

「……おい、なんだこいつは。 竜炎撃咆(インシニレイトフレイム) の 紋章術式(エンブレム・グラフ) をほとんど入れ替える勢いじゃねぇか!」

「いちおうこれでも流用できるところは極力流用したのですが」

「~ッ! 流用つって、大気操作の部分をちょろっと残してるだけじゃねぇか! せめて半分は残せよ!」

「しかし 源素化兵装(エーテリックアームズ) とするにあたって爆炎の系統魔法は利用できませんから。そっくりエーテルの生成部と入れ替えました」

「確かに竜炎撃咆そのままだと“ 魔法生物(マギカクレアトゥラ) ”にゃあ通じないが、だからといってなぁ……」

飛竜戦艦の設計者であるオラシオとしてはなかなか複雑な部分があるのだろう。

彼は唸ったり頭を掻きむしったりしながら仕様書を眺めていたが、ふと動きを止めた。

「おい。このエーテル生成部ってな……お前の、外側にエーテルを集める 浮揚器(レビテータ) の応用か?」

「その通りです。よくご覧になっていますね」

「記載されている性能の通りならこいつは……飛竜戦艦の 魔力貯蓄量(マナ・プール) をそっくりそのままエーテルにしちまうじゃねぇか!?」

ぎょっとして問いかければ目の前には エルネスティ(エル) の穏やかな笑顔があった。

こいつはわかってやっている、オラシオは確信を抱く。

一度思考を整理する。

飛竜戦艦の全力をつぎ込んだまさしく必殺の兵器。しかし当然、それは多くの危険と隣り合わせである。

「なるほど、確かに紛うことなき全力だ。しかしこいつにゃ色々と問題があるぞ」

「伺いましょう」

「そもそも飛竜戦艦の魔力貯蓄量はずば抜けている。そりゃあ全力をつぎ込みたいんだろうが、んな大量のエーテルを発生させちまったら馬鹿みたいな 浮揚力場(レビテートフィールド) が出来上がっちまうぞ!」

源素化兵装として利用するにはエーテルをある程度集めておく必要があった。

そして集めてしまえば、それは疑似的な源素浮揚器として機能してしまう。

「お気づきになりましたか。さすがはエーテルの権威です、オラシオさん」

「舐めんな」

自らの攻撃の余力で浮き上がってしまう飛竜戦艦。絵面を想像すると非常に間抜けであった。

「これはもう飛竜の推力で抑え込むしかないと思うのですが」

「対抗するにはそれしかねーが……そりゃ真上に向かってマギジェットスラスタを噴かすってことで、いいのか?」

「……まぁ、そうなりますね」

さすがのエルも歯切れが悪かった。

少し想像してみればいい。

光の柱に接近する飛竜戦艦。しかし目前で攻撃の準備をしたところでぶわっと浮き上がり、必死に上に向かって推進器を噴かしながら攻撃しようともがく――。

「だせぇな」

「……むぅ。ダメですか」

「(あ。これはエル君、さては格好悪いから却下しようとしてるなー)」

エルネスティのこだわりは余人とはかなりズレたところをカッ飛んでいることが多いが、格好良さが大きな位置を占めているのは間違いない。

それとして、困っているエル君も可愛いなー、などと アデルトルート(アディ) は暢気な感想を抱いていた。

「 幻晶騎士(シルエットナイト) が手持ちするくらいのエーテルならほとんど影響はないんだろうがよ。飛竜の全力までいくと無視できなくなる。……それともうひとつ、デカい問題があってだな」

手元で何やらいろいろな計算式を書いていたオラシオが視線を上げる。

「魔力貯蓄量をほとんどエーテルにして、しかも無茶な体勢で突っ込むんだ。間違いなく飛竜は還ってこれないぜ」

オラシオとてかりにも鍛冶師長の肩書きを持つだけはあり、魔力切れの危険性についても知悉している。

「お前、人のモノだからって使い捨てにする気か?」

「まさかそのように蔑ろにする真似はしません! むしろ真剣に“全力を尽くす”ことを考えた結果です。それに犠牲になるという意味では、飛竜戦艦に接続されている我が方の飛空船も同様ですよ」

「(……チッ。こりゃあコイツの頭がイカれてやがるな)」

全力を尽くせるならば還ってこられなくともよい――真剣に考えてそれを実行できる人間は、概ねまともとは言い難い。

オラシオは思考を切り替える。

「良くないが、ひとまずいいだろう。俺だって使い手の要望を無視する気はない。百歩譲って捨て身でかかるとしよう……そりゃ一切失敗できないってことだぞ。少なくとも飛竜をもう一度用意することは不可能だし、つまり竜炎撃咆も同様だ」

竜炎撃咆ほどの巨大な 魔導兵装(シルエットアームズ) を運用するには飛竜戦艦級の躯体が必須である。

たとえどれほど機能を絞り簡略化したところで再建は不可能であった。

「仰ることはわかります。しかし相手は“魔法生物”……いまだその全貌も不明な超存在なのです。 躊躇(ためら) いや余力を考えている場合ではありません。それにそもそもが無茶を通すしかありませんので」

「ああくそ、どのみちあの光の柱に近づくしかねぇんだ。どうあがいたって飛竜が無事なわけねぇってことか!」

飛竜戦艦は極めて強力な兵器である。だがそれでも限度というものがある。

オラシオだって一度たりとも、空飛ぶ大地で“魔法生物”に突っ込むなどという用途を想定したことなどない。

まずもって実行した時点で無事には済むまい。

「聞けば聞くほど無茶だって気がしてきたぞ! お前本当にこれで行けると思ってたのか!?」

「困難であることは百も承知です。少なくとも犠牲なく終わることは最初から考えていません。ですが、だからこそ。絶対に成し遂げるための方法を今こうして論じ合っているのです」

オラシオはじっとエルの目を睨みつけた。

揺らがない。確かに今の言葉は本心からのものであると、信じられるだけの気迫があった。

「……この大地が落ちるとうちの雇い主が困るし俺も困る。そういうことだ。癪だがお前の無謀な賭けに手を貸してやるよ」

「ありがとうございます。もちろん、嫌と言っても働いてもらうつもりではありましたが」

「鬼か」

観念して仕様書をめくり計算をおこなう。

しばらく何事かを考えていたオラシオは、やがて深い溜め息をついた。

「“魔法生物”を倒すのに必要な威力がわからないのが痛い。計算できない以上、上限を求めるしかなくなるんでね。今はどんくらいまでいけるんだ」

「他に飛竜の余り空間に入る限界まで 源素晶石(エーテライト) を積み込む予定です。魔力貯蓄量と源素晶石と、それで全てですね」

なおも難しい顔で悩んでいる。

気が進まない様子でちらりとエルを見やり、ついに意を決して口を開いた。

「この 開放型源素浮揚器(エーテルリングジェネレータ) ってやつを応用して、さらに大量のエーテルを集める方法なら……ある」

「? エーテルへの還元であればすでに利用していますが」

エルの疑問に、オラシオは上を向くことで答えた。エルはつられるように顔を上げて。

――上。目を見開いてオラシオへと振り向く。

「まさか! 上空の濃いエーテルを集めるつもりですか!?」

「……やれやれ。本当にお前はバケモンだな、そんなすぐに気づくかよ。だったら問題点もわかるだろう。いけねぇんだよそんなとこまで」

この世界の空は、上昇するほどに大気中のエーテルの濃度が上がる。

それは経験則から判明していることであった。

そうして開放型源素浮揚器の技術を応用して周囲のエーテルを抽出することができれば、地上よりも圧倒的に大量のエーテルを集めることができる。

「問題…… 源素浮揚器(エーテリックレビテータ) の限界、ですね」

そもそもそれができる高度まで上がることが難しいのである。

源素浮揚器の基本原理はエーテルの濃度差によって浮揚力場を形成することにある。

周囲のエーテル濃度が上がるほど力場が弱くなってしまうため、現行の浮揚器には到達可能高度に限界が存在していた。

飛竜戦艦のそれはふさわしく巨大で高性能であるが、それでもまったく足りていない。

必要なだけの性能を発揮する浮揚器というのがどれほどの規模になるか、想像するだけで眩暈がしそうになる。

「しかも首尾よくエーテルを集められたところで別に問題は解決してないからな。今度は持って降りられなくなるのがオチだ」

頭を抱えて椅子に沈み込むオラシオとは対照的に、エルは上機嫌であった。

「ですが非常に興味深い案です。何らかの形でこれを可能とすれば、威力の問題は解決できそうですね!」

「おいおい。威力の問題しか解決しないし、むしろ問題自体は増えるんだぞ」

「そうですね……こういう時は助っ人を呼びましょうか!」

「なにぃ?」

突然立ち上がったエルへと怪訝な視線を向ける。

「何もこの場で全てを解決する必要はありません。これから助っ人に声をかけてきますので、明日改めて集まりましょう! では!」

「お、おう……」

言うやいなや別れの挨拶もそこそこにエルが立ち去る。

もちろんアディも後に続いた。

一気に静けさが戻るとともに、ぽかんとした表情のオラシオだけが残されたのであった。

開けて翌日。

同じくパーヴェルツィーク王国拠点内鍛冶整備場に、昨日とは違う面子が揃っていた。

「それでいきなり私を呼び出したというわけかい?」

不機嫌を隠しもしない 小王(オベロン) が、腕を組んで仁王立ちしている。

「はい! もう一人の専門家として知恵をお借りしたく」

「キミは。本当に。私のことを。便利扱いしてくれるじゃあないかい? 我々は敵だということをすっかりと忘れてしまったのかいこの頼りない頭は? いいだろうすぐさま思い出させてやるから外に出たまえよ? “魔王”がいつでも熱烈に歓迎してやるよ?」

「それはまたの機会に。まずは空飛ぶ大地を守ってからですね」

「ぐんぬぎぎぎ……あんな約束するんじゃなかった……」

ひとしきり歯を食いしばったところで、所在なさげに立っている西方人の存在に気が付いた。

この場の主人であるはずのオラシオである。

「あー、あんたぁ“魔王”ってのを操ってるエルフだっけか? なんでもハルピュイアの親玉やってるって話だったか」

「その認識で間違ってはいないねぇ。付け加えるならばそこのエルネスティ君とは不倶戴天の仇敵の関係にあたる」

「偶然だな。そりゃ多分俺もだ」

ふわっと何かが通じたような気がした。おそらく気のせいだろう。

「やれやれ、まさか他国の鍜治場に連れてこられるたぁ思いもしなかったぜ」

通じ合う者たちを他所に、一人のドワーフ族がさっさと座席を確保していた。

「おう。俺は銀鳳騎士団所属、鍛冶師隊隊長“ダーヴィド・ヘプケン”だ。そこの坊主とは長い付き合いでな。まぁ、坊主の無茶を形にするのが俺の仕事って考えてくれりゃあいい」

「今回もよろしくお願いしますね親方!」

「いまさらだ、多少のことじゃあ動じねぇつもりでいたがよ。まさかのまるっきり敵地じゃねぇか」

「王女殿下の許可はいただいているので敵地ではありません。他国の領土ではありますが」

「お前なぁ……」

他国の鍜治場という意味では、かつてクシェペルカ王国で世話になった経験がある。

とはいえさすがにあの時は友好国だった。

親方は、このまま味方とも敵ともつかぬ場所で仕事をするくらいならばイズモ内の設備を使うほうが気が楽だと内心溜め息を漏らしていた。

「まぁまぁ。こうしてお集まりいただいたのは何も一緒に茶を嗜もうというわけではありません」

「はーい。エル君の飲み物は用意してあるよ」

「ありがとうアディ。それで! 飛竜戦艦に搭載する大型源素化兵装……その完成のために力を貸していただきたいのです!」

エルは壁にバシバシと仕様書を貼りだしてゆく。

昨日の今日でさらに書きこみが増えている。オラシオは目元を揉んだ。

「例の“魔法生物”にぶつけるやつかね?」

「そうです。事前にオラシオさんと話し合った結果、少々厄介な問題が浮き上がりまして……」

エルが源素化兵装の仕様を説明してゆくと、さすがの小王も興味を引かれたのか黙って聞いていた。

何故かオラシオも知らない内容が増えていて頬をひくつかせる。

「……と、言うわけでして。現状の最大威力を求めたこの源素化兵装ではありますが、同時に無視しえない欠点が浮き上がってしまったのです」

小王と親方はしばし沈黙していたが、やがてそろって口を開いた。

「馬鹿かキミらは?」

「同感だ、この馬鹿坊主」

「頑張ったのにひどい言われようです」

「おい、今俺を巻き込んだか」

オラシオの抗議は当然のように無視された。

「やかぁしゃあ!! なんだこの“高高度まで飛びあがってエーテル集めて飛び降ります”ってのは! これを考えた奴が馬鹿じゃなかったらどいつを馬鹿と言やぁいいんだよ!?」

「ちなみに上がるのも大変ですが、集めるほどに浮揚力場が発生するので降りるのも大変です」

「大変ですじゃねーだるぉ!?」

「おいドワーフ、貴様のところの馬鹿だろう。ちゃんと首に縄でもつけておきたまえよ」

「坊主が縄程度で止まるならこうはなってねーよ!!」

「……そうだな」

思わず納得してしまい、まぜっかえすことも忘れて頷いてしまう小王であった。

「おい、そもそもあれだ。デカい源素晶石の塊があるとかないとか言ってなかったか」

「目下探索中ですね。発見しだい回収に動いてもらう予定ですが」

「こんなまどろっこしいことをしなくとも、そいつをぶつけりゃあいいんじゃないのか」

「“魔法生物”がでてきた穴が拡大している以上、源素晶石塊だけでは不足しています。万全を期すならば源素化兵装も仕上げておくべきだと考えますね」

「だからってなぁ……」

親方は腕組みして考え込む。

作れと言われればなんだって作って見せるが、考えることは難しい。

何しろエーテル技術は専門ではないのである。

ああでもないこうでもないと仕様書を突っつきまわす。

ふとオラシオが渋い顔つきで手を挙げた。

「あー、いまちょっと計算してみたんだが……どうやらもう少し良くないことが起こるな」

こちらはエーテルに関する専門家と言っていい。

その彼が“もう少し良くないこと”とまで言うのだ。

周囲は既にげんなりとした雰囲気を隠しもしないでいた。

「この規模で集中させたエーテルは浮揚力場を生む、がそいつはエーテル自身にも作用する。何が言いたいかっつうと撃ちだしたエーテル弾も浮き上がるな」

「それは……」

これまた厄介な話である。

水平方向に射出すればエーテル弾は上へと大きく軌道が逸れることになる。

これを防ぐにはやはり垂直方向から強力な威力で投射するしかない。

「つまりはエーテル量を確保して威力を高めれば高めるほどに勢いが削がれるということでしょうか。ううむ、なんともやりづらいですね」

浮揚力場を発生するという性質は浮揚器の要であるが、それ以外の用途への応用を阻む原因ともなっている。

魔力(マナ) の形で利用できるのならばその方が圧倒的に便利であるが、今回ばかりはそれも難しかった。

全員が考え込み、場が静かになったところで小王がぽつりと呟く。

「そういえばだが。源素晶石は浮かないのだな」

エルとオラシオがそろって音がしそうな勢いで振り返った。

発言した側である小王がのけぞるほどである。

「いま……なんとおっしゃいましたか」

「なんだい。先ほどからエーテルを集めると浮揚力場が発生するという話を続けているから。源素晶石というのはエーテルの塊なのだろう?」

源素晶石とは結晶化したエーテルである。

源素供給機(エーテルサプライヤ) などに入れて溶かしてみれば、エーテルのみを発生させて跡形もなく消えることからもそれは明らかだった。

「確かに……同じエーテルであるのに源素晶石が勝手に浮き上がるなんて聞いたことがありません……。これは盲点でした!」

エルの表情が鮮烈に変わってゆく。

「つまりは源素晶石にしてしまえばいいんです! 収集したエーテルを結晶化することさえできれば、浮揚力場に悩まされることなく全て攻撃力に転化できます!」

「待て、おい待て!」

たまらずオラシオが掴みかかろうとして、アディに威嚇されて引っ込んだ。

「いえ、事はそれに止まりません!」

きっかけを与えられた思考は加速する。

何が起こるか、さらには出来ることが何に波及するかへと向かい。

エルが決然と顔を上げ、親方が溜め息と共に覚悟を決めた。

おそらくこれから最高にとんでもないことを手伝わされるであろうからだ。

「小王。西方人がこの地を目指すのは一体なぜだかご存知ですよね」

「馬鹿にしているのかい? 当然知っている。それこそ源素晶石を求めてきたのだろう。船だか何だか知らないが迷惑なことだよ」

「その通りです。ではもしも周囲のエーテルから源素晶石を生成できるようになれば……どうなると思いますか」

「……わざわざこんな場所まで掘りに来ることがなくなる。そう、言いたいのかい?」

「おそらくは」

「ふうむ。たまには興味深いことも言えるじゃないか。詳しく聞かせるがよいよ」

「あーちょっと待てちょっと待ておいおいおいおいおい!! それは! そんなことが出来ちまったら……!!」

小王がずいと身を乗り出し、対照的にオラシオが食って掛かってきた。

今度はアディを警戒して掴みかかるような真似はしない。

二人の反応は違えど食いつきは似たようなものである。

エルネスティはくいと首を傾げて。

「オラシオさん。仮に源素晶石が生成できるようになったとして……何か困りますか? 飛空船に悪影響があるわけではありません。いえ、むしろ足枷のひとつを外すことになるでしょう」

「そりゃもちろん……!? ん? そうだよ、そうじゃねぇか! 荷物の制限がひとつまるっとなくなるじゃねぇか! ようしやっていいぞ。是非ともやってくれ!」

残る親方の方を向く。いつものように特大の溜め息をもらって、にこやかに頷いた。

「皆様の同意が得られたようですね!」

「だと思ったぜ……」

仕様書をばしっと叩く。

「これより全員で協力して、この源素晶石生成型の源素化兵装の完成を目指して頑張りましょう!」

「いいぞ……エーテルをそのまま回収できるようになりゃあ、さらに“真空”へ近づくんじゃねーか。くはははは、こいつは思ってもみなかった効果だ!」

盛り上がって手を打ち合わせるエルとオラシオはさておき、親方は何事か考え込んでいる小王に問いかけた。

「やれやれ、どんどんどえらいことになってくな。まぁそれでこそ銀色坊主だ。俺たちの大団長、銀鳳騎士団の頭ってやつだ。それで小王てえの? お前はどうすんだ」

「やはりエルネスティ君は気に入らない。前“魔王”の借りは些かも減じていないしね……だが 今の民(ハルピュイア) のためを成すのが先決だよ。……くく、しかもだねぇ。西方人に混乱が起きそうなのがいいじゃないかぁ!」

「こいつわりと性格悪ぃな」

ひとしきりそれぞれに盛り上がってから誰ともなしに集まった。

「とはいえまだ困難は山積みです。源素晶石の生成など原理も不明ならば端緒もつかめていない。しかも事態は時間制限付きときています」

エルは全員を見回して。

「ですがやり遂げます。ここまでは源素晶石を巡ってくだらない争いが起こり、さらには“魔法生物”まで招く始末。ですがここからは僕たちが 遊戯(ゲーム) の盤面を支配する……いいえ、“ 決まり(ルール) そのもの”を書き換えます。空飛ぶ大地を救い、ハルピュイアの住み処を脅かす要素も排除する。全部やりますよ」

「ウッヒヒ。エーテルの補給が要らなくなるってこたぁ……新型の浮揚器を完成させねーとなぁ!」

「うるさい西方人がいなくなると思うと胸がせいせいとするね。後はエルネスティ君を倒せば万々歳であるよ」

「またしばらく美味い飯はお預けだなこりゃあ……」

それぞれに思惑は異なれど、目指す方向は一致している。

「早速ですが、源素晶石の生成条件についてご意見を……」

そうしてエルネスティが言い終わるより先に。

足元から突き上げるような揺れが襲い来た。

「なにっ!?」

轟音が響き。視界のあらゆるものが揺さぶられ固定の甘かった幻晶騎士が倒れる。

激震と表現して差し支えない事態である。

やがて揺れが収まったところで全員で外に飛び出した。

混乱に包まれている騎士たちを呼び止める。

「いったい何があったのですか!?」

「あれ……ひ、光の柱が!」

振り返るまでもなく理解できた。

雷鳴と共に、青空が黒雲に塗り替えられていったからだ。

前触れのない異常現象は、“ 天候操作級魔法(ハザード・スペル) ”の行使をおいて他にあり得ない。

光の柱が解け数多の触腕がゆらゆらと漂う。

やがてそれらは吹き荒れる風雨の中に霞んでいった。

「なんだってんだ! 今日は光の柱へ接近する予定があったのか!? 聞いてねぇぞ!」

「いいえこれは……残り時間が、もうないのかもしれませんね」

険しい表情のエルネスティがぽつりと呟いた。