軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#175 群れ集う鳥たちの羽ばたき

蒼穹を貫く白銀の鏃。

飛空船(レビテートシップ) “ 銀の鯨(ジルバヴェール) ”号が空を征く。

眼下には広がる大海原。ここは既に空飛ぶ大地の外側だ。

このまま進めば 西方諸国(オクシデンツ) に辿りつくだろう、しかし彼らの目的は戻ることではなかった。

「隊長、そろそろです」

「準備は整って……いいえ、少し待ちなさい」

そう言って、“ノーラ・フリュクバリ”は硝子窓の外に目を凝らした。

海原に大きな影を落とす空飛ぶ大地の威容。

仕事から鍛えられた感覚が、そこにわずかな異常を見出す。

「これは……まさか?」

思わず己の目を疑った。

そんなことがあり得るのか? 疑問はすぐにわきへと追いやる。

「あり得ないなどと、思い込みは危険ですね。我々はこの大地について何も知らないも同然なのですから。……合流を急ぎます、これは早急に大団長のお耳に入れる必要があるでしょう」

「了解しました。すぐさま」

“銀の鯨”号の船尾からマギジェットスラスタの噴射が伸びる。

その素晴らしい速度性能を発揮し、射抜くように空を進んでいった。

雲をかき分け起こした風で吹き飛ばし、船が空を進む。

それは巨大な船だった。全長だけで一般的な飛空船の倍はくだらない。

――銀鳳騎士団旗艦、 飛翼母船(ウィングキャリアー) “イズモ”。

飛竜級(ヴィーヴィルクラス) 戦艦に次ぐ戦闘能力と、多数の 空戦仕様機(ウィンジーネスタイル) の運用能力を備えた強力な飛空船である。

巨体故に比較的広々とした船内、その一角にある会議室に不機嫌な声が響き渡った。

「おっっっっっせぇ! ディーの野郎、なにやってやがるんだ!?」

雷鳴でも轟いたかと勘違いしそうな声の主は、銀鳳騎士団の鍛冶師長にしてイズモ船長である、親方こと“ダーヴィド・ヘプケン”である。

怒れる剛拳を前に引き気味の騎士たちの中、妙にのんびりとした声が応えた。

「そもそもディーどころか紅隼騎士団の人間が丸ごと見当たらないのだがな」

「どいつもこいつも! おいエドガー、最近躾があめぇんじゃねぇのか?」

静かに席についていた白鷺騎士団長“エドガー・C・ブランシュ”は心外とばかりに片眉を上げる。

「時折、言っているがな。俺だって白鷺騎士団で手一杯なんだ」

「ったくディーの野郎、銀色坊主の悪いところばかり学んでやがる」

親方は一通り憤慨してから、端の方で逃げ腰になっている若手団員たちを睨む。

にわかにうち一人を指し示して。

「おいおめぇ」

「ひぇっ。お、俺でございますですか?」

「おう。ちょっとひとっ走り、ディーの野郎探して来い」

「ぇ……了解です!」

慌てて駆け出してゆく若手団員の背を見送り、親方はどっかと席に沈んだ。

「親方、うちの若手に当たらないでくれないか」

「 鍛冶師隊(うち) のを使おうにも、足がおせぇんだよ」

鍛冶師隊にはドワーフ族の者が多いのであるからして。

「そもそもなんだけどさ。どうしてダーヴィドがそんなにえばり散らしてるのさ? いくら馴染みって、二人とも騎士団長様だよ?」

横から呆れを含んだ声音が問いかける。

若手騎士たちがその蛮勇に震えあがるが、声の主を見て納得した。

“デシレア・ヨーハンソン”、最近ぐんぐんと腕を上げている鍛冶師であり、鍛冶師隊の副長でもある。

とはいえ銀鳳騎士団への加入は比較的最近のことであり。

「おう。そりゃ俺がこの“イズモ”の船長だからだ!」

「それに立場で言うなら銀鳳騎士団は俺たちの上位にあたる。それを別にしても、親方に変な遠慮をされるほうが困るからな」

「ってことだ」

エドガーに頷かれては言い返しづらい。

デシレアはいつものように溜め息を漏らした。

「大団長は何時も真っ先に飛び出しちまうし、鍛冶師が仕切ってるし。本当、変な騎士団だよここは……」

“イズモ”の上部甲板を風が吹き抜けてゆく。

出撃する機体もない今、そこにはだらしなく寝そべった数名の人影だけがあった。

誰あろう、紅隼騎士団長“ディートリヒ・クーニッツ”と 第一中隊(ふるかぶ) の面々である。

「ディーダンチョ、そういや会議の時間ッスよー」

「いいさ。来る日も来る日もぐるぐると、代わり映えのしない会議には飽き飽きだよ」

「めんどーッスけど。すっぽかすとまた親方にドツかれッスよ」

「……そ、そのていど慣れたものさ」

「親方も暇してるから、ダンチョで憂さ晴らしてる感あるんスよねー」

銀鳳騎士団時代から付き合いのある古株にとってはいつもの話である。

「やれやれ、せっかく大張り切りで空飛ぶ大地にやって来たというのに、周囲には嵐が吹き荒れて近づけないとはね」

“イズモ”の周囲を見回せば、そこには多数の飛空船が飛んでいた。

主に白鷺騎士団、紅隼騎士団に所属する飛空船団だ。

「出がけの大旦那の頭抱えっぷりからして、超急げって感じっしたけどね」

「仕方がないだろう。あの嵐を“イズモ”で越えるのはさすがに骨なのだから」

“イズモ”がこうして洋上を彷徨っている原因。

それが空飛ぶ島の周囲を吹き荒れる大風の存在である。

「“ 風防(ウインドスクリーン) ”使えば、普通の船はけっこういけるんスけどねー」

“風防”とは最近になって開発された 魔導兵装(シルエットアームズ) の一種で、“ 嵐の衣(ストームコート) ”の簡易版というべきものである。

船体を覆うように大気操作の魔法を発動することで船と乗員を保護する役目を持つ。

通常は低出力で動作しているそれを、短期間だけ出力を上げることで嵐に対抗しようというのだ。

しかし“イズモ”はその巨体故に風防ですら莫大な魔力を要求されることになり、こうして立ち往生しているのであった。

彼らがダラダラだべっていると、そこに若手の騎士が息せき切って駆けてきた。

「い、いたー!! クーニッツ団長! ヘプケン鍛冶師長がお怒……もといお呼びです! 至急会議室までお越しください!」

「ふうむ、見つかったか。仕方ないね」

やれやれと嘆息しながら立ち上がり。

最後に空飛ぶ大地を見回したところで、ディートリヒは動きを止めた。

「どしたんすかー。さすがに急がないと拳骨が増えるッスよ」

「……嵐が、止んでいる」

「えっ」

ぽつりと呟いたディートリヒにつられ、古馴染みの団員が目を凝らした。

「うおー? マジだ、雲の流れがぜんぜん落ち着いてら。ええーっ何故ッスかねいきなり? 風も吹くのに飽きた?」

「さあてね。空に浮かぶ大地の事情など私たちには知る由もないが。そろそろ退屈な時間は終わりということだ」

そういって彼らは意気揚々と会議室に向かい。

もちろん到着した彼らを待っていたのは、ドワーフ族にその人ありと謳われた親方による鉄拳制裁なのであった。

「……っつつ……。ちょっとくらい手加減してくれてもいいんじゃないかい? 吉報を持ってきたというのに」

「うっせ、報告なら監視から受け取れんだ。おめーも騎士団長ならど真ん中にいやがれ」

「エドガーがいるからいいじゃないか」

ぶーたれながらもいちおう席についたディートリヒを迎え、ようやく主要な面子が集まり切る。

「ディーの肩を持つわけではないが、嬉しい話なのも確かだ。訓練には良い旅だったが、さすがに果てがなくて困っていたからな」

「いようし、上陸すれば久方ぶりにグゥエラリンデにでも乗ろうかね。そろそろ身体が鈍って困る」

「お前ら目的忘れてんじゃねぇだろうな?」

親方に睨まれ、ディートリヒが明後日の方向に視線を逸らした。

「わかっている。予定通りに探索は若手を中心におこなう。ディー、お前は俺とここで指揮を執るぞ」

「ぐぬぬ」

自分も出撃したい、とディートリヒの顔にありありと書かれている。

すると紅隼騎士団の古株騎士がビシッと親指を上げた。

「ダンチョ……俺たちがダンチョの分まで暴れてきますんで、安心してくだせッスよ!」

「裏切り者め。非道い団員たちだねまったく」

ディートリヒが机に突っ伏した。

「おう、ディー。おめぇもいつまでも突撃ばかりじゃなくて、落ち着きやがれっていうんだ」

「親方には言われたくないねぇ。最初は私たち紅隼と白鷺のみで出撃するところを、“イズモ”ごと強引にねじ込んできたのはどこのどなただったかね?」

「……ありゃー……いやアレだ、仕方ねぇんだよ。なんせ坊主がいるからな、イカルガ持ってこねぇと。しかし他の奴になんざ危なっかしくて任せられやしねぇ。うむ、つまりそういうことだ」

「親方だって“アレ”の完成後は退屈していたくせにさ」

「……その辺は、なんだ。また銀色坊主が派手にかましてやがるんだ、見に行かねー手はねぇだろ?」

くっくっくっと笑い合うディートリヒと親方に、エドガーが抑えきれない嘆息を漏らす。

デシレアや若手騎士たちはなんとなく遠巻きに眺めていた。

「エルネスティか。しかし二度目になるな。彼を探してこうして遠くへと出るのは」

「おう。今回は生死不明じゃねぇだけずいぶんとマシだがよ」

今度は親方が深く息をついた。

ボキューズ 大森海(だいしんかい) の奥を目指して、必死になって旅立ったのもそう遠い昔の話ではない。

その時も“イズモ”に乗って長旅をしたのである。

話の最中にずい、と身を乗り出してくる禿頭の巨漢がいる。

“ゴンゾース・ウトリオ”、自身も紅隼騎士団の若手騎士でありながら、“銀鳳騎士団オタク”である彼としては聞き逃せない話題だった。

「私も耳にしておりますぞ! かの魔獣の森を斬り裂いた“イズモ”の活躍を!」

「活躍というか……とにかく大変だったよ。本当に大団長は大事件しか起こさないというかデカいヤマには大抵噛んでいるというべきか」

ディートリヒのぼやきにエドガーも真面目腐って頷く。

「しかも今回はエムリス殿下までもいる。おかげで陛下が最近、胃痛を召された」

「考えうる限り一番ひどいことになりそうな組み合わせだからね」

「なかなか否定はしきれないな」

二人して顔を見合わせる。

「エムリス殿下と大団長閣下といえば、かの 大西域戦争(ウェスタン・グランドストーム) にてクシェペルカ王国を救うべく立ち上がられたお方々! 此度もまた未知なる大地を目指されるとは、その勇猛さに些かの陰りもございませんな!」

「ちったぁ陰ったほうが世のためって気がすんぞ」

物は言いようである。

エムリスは国許を飛び出して乗り込んでいっただけだし、エルネスティに至ってはほぼほぼ暴れに行っただけだ。

その意味では未知の大地に向かっているだけの今回の方がマシだと言えるかもしれない。

とはいえ、彼らがそんな感想を抱いていられるのも二人の現状を把握するまでのことであろうが――。

「して。お二人を探す手立てなどいかがいたしましょうや?」

ゴンゾースが気を取り直す。

エドガーがああ、と応じた。

「目下、最大の目的はエムリス殿下の確保だ。しかし同時にこの大地には大団長が先行して入っている。ということは、まず間違いなく既に共にいると見ていい」

「いかな大団長とて、そううまくいきますかな?」

「何一つ疑うところではないさ。そして大団長がいる以上、一番騒がしい場所を探せば必ず出会える」

「……大団長閣下は魔獣か何かで?」

「もう少したちが悪いな。魔獣ならだいたい縄張りというものがあるし」

「魔獣をも上回る……さすがは大団長閣下でありますな!」

それで納得するのはゴンゾースくらいだろう。

周囲の者たちの不可解な表情がそれを裏付けていた。

「そうだな、ひとまず方針を決めるとしようか」

ディートリヒは手を叩いて気を引くと。

「先ほども言ったとおり、我々の目的はエムリス殿下及びエルネスティ大団長の捜索だ。そのため各船が連携の上、周囲を探索しながら進む。この“イズモ”を本陣とするよ」

「注意すべきなのは、この大地に乗り込んでいるのが我が国の関係者だけではないということだ。さらには見知らぬ魔獣が住み着いていることも十分に考えられる。それらの対処を含め、諸君らには日ごろの訓練の成果を発揮してもらいたい」

抑えたざわめきが走る。

団員たちは表情を引き締め敬礼した。

「了解しました!」

「その意気だよ。本当に皆、運が良いことだ」

「運、ですか?」

「ああ。飛空船による長距離の移動経験を積み、さらには魔獣のみならず他国との戦闘も視野に入っている。どれも国内では得難い経験になるだろう」

「は……はは……大役に過ぎて重く感じますが……」

「遠慮はいらないぞ」

「そうだそうだ、気合入ってきたぜー!」

盛り上がる古株たちに対して、若手たちはいっそ引き気味である。

そんな若手の中にも元気な奴はいるもので。

「その通りであります! 銀鳳騎士団……いや、紅隼騎士団の新たな伝説に一文を添えられると思えばこれに勝る喜び無し! クーニッツ団長! 先陣は是非、この私めにお任せをぉ!」

「ダメだね」

ゴンゾースは盛大にずっこけたのであった。

「おお、何故にございましょうか!? よもや私では力不足と……!?」

「いや、やる気に満ちているところ悪いがゴンゾース、お前の乗騎は 人馬騎士(ツェンドリンブル) だろう。調査は飛翔騎士の役目だから」

「それは抜かった……!」

うなだれる禿頭の巨漢を、 騎操士(ナイトランナー) の同期であるレコが慰める。

「後は俺たち、飛翔騎士にまかせて安心しろってー。毎日土産話を聞かせてやるからー」

「貴様、嫌がらせであるか!?」

「そもそも乗騎を選ぶときに、人馬騎士がいいと梃子でも動かなかったせいだろ。大人しくしておきたまえ。と、いうわけで飛翔騎士隊。当分はいつも通りの哨戒が続くだろう、よろしく頼むよ」

「はーい。しょうちでーす」

どこか眠たげな様子であるが、それがレコの常態である。

“イズモ”が進路を変え、嵐の収まった空飛ぶ大地へと向かう。

周囲の飛空船団が陣形を変える。

中隊単位で役目を決め、“イズモ”の護衛に付く船と、調査の役目を負う船で分かれていった。

飛空船から次々に飛翔騎士が出撃してゆく。

フレメヴィーラ王国の制式量産飛翔騎士“トゥエディアーネ”だ。

新設の騎士団である紅隼、白鷺騎士団が配備しているのは比較的後期に建造された改良版であり、初期よりも全体的に性能が上がっている。

マギジェットスラスタの響きも高らかに、機敏な動きで空に陣形を描いていた。

先端の部隊が空飛ぶ大地に影を落とす。

ぎゃあぎゃあと不気味な鳴き声を残して鳥が羽ばたいた。

「空に浮かんでいるくらいだから、どれだけ不気味かと思ってたが。案外普通に森とかあるもんなんだな」

「魔獣が潜んでいそうで、俺はむしろ怖いけどな」

飛翔騎士の騎操士たちが、軽口をたたき合いながら空を進む。

その速度性能ゆえに飛翔騎士は特に偵察に向いた機種である。哨戒任務など日常の出来事であった。

それでもいくらかの緊張があるのはやはり見知らぬ場所だからだろう。

「あれは……なんだ? 光が……」

そうして先を飛ぶ偵察騎は目の当たりにする。

空飛ぶ大地の中心あたり、天を貫くように伸びる光の柱の存在を。

すぐさま 魔導光通信機(マギスグラフ) の光が灯り、後方へと警告が為される。

そう間を置かず、その光景は“イズモ”からも見えるようになる。

「んだありゃあ」

「やれやれ、やはり今回も一筋縄ではいかないようだね」

「そんな気はしていた」

三者三様ではあるが騎士団長たちと鍛冶師長は落ち着いた、というか一種諦めのような境地にいる。

まったく動揺を見せない彼らの様子は傍目からは頼もしくも思え。

それも、ディートリヒが振り返るまでのこと。

にぃ、と笑みを浮かべた彼に、若手の騎士たちが思わず後ずさる。

「わかりやすい目印じゃないか。ではアレを目指して進むとしよう。我らが大団長ともあれば、一番騒ぎの大きなところにいるだろうしね」

「そうなりますか……」

連絡の光が明滅し“イズモ”が進路を変えたところで、さらなる緊急連絡が舞い込んできた。

「偵察騎より発光信号! 不明な船影あり、注意されたしと!」

「これはまた、思っていたより賑やかな場所のようだね」

「船影とは穏やかではないな。所属の確認を急いでくれ」

「お待ちください……!」

エドガーが伝声管に叫び返すと、ややあって喜色に満ちた声が返った。

「! 所属旗を確認……フレメヴィーラ王国! 藍鷹騎士団です!」

「おう。そういやあいつらもいるんだったな」

「相変わらず実に頼もしいことだね。……伝令! まずは藍鷹騎士団と合流する。各船は偵察騎を戻し、周辺の警戒に移ってくれたまえ」

「了解!」

伝令が慌ただしく動き出す。

船団は“イズモ”を中心として防衛的な陣形へと移り。

そうして空に浮かぶ船団へと、“銀の鯨”号がゆっくりと接近してきたのであった。

「ようこそ“イズモ”へ。やぁノーラ、久しぶりだ」

船の間に橋をかけ、“イズモ”へと藍鷹騎士団の人間がやってくる。

出迎えたディートリヒはその中に馴染みの顔を見つけてひらひらと手を振った。

「遠路はるばるお越しいただき感謝します、クーニッツ団長」

藍鷹騎士団に所属する者たちは普段から素顔を伏せていることも多く、顔馴染みといえばほぼ隊長格以上に限定される。

その中でも、以前より銀鳳騎士団との連絡役を担っていたノーラは例外的に付き合いが長かった。

「我らが大団長は元気にやっているかい? おそらくはアレにも噛んでいるとみるが」

「大団長はお元気にされています。ただあの光の柱は、今のところ原因がはっきりとはしていません」

「ほう。君たちの耳にも届いていないとは」

「手の者が動いていますが、何分ここは勝手が違いますから」

それはそうだとディートリヒは頷き。ふと片眉を跳ね上げた。

「しかし、そんなに畏まらなくてもいいのだが。君たちも以前はもう少し気楽だったと思うけどね?」

「そういうわけにはまいりません。いまやあなたは紅隼騎士団の団長となられたのですから」

「はぁ。まったくやりづらいことだ」

ぼやきつつ、二人は船橋へと向かう。

船橋には銀鳳騎士団の鍛冶師たちが船員として詰めている。

相変わらずこの船は彼らの手によって運用されていた。

いっとう高い船長席に座った親方が、入ってきた二人に気付く。

「おう、ご苦労。さっそくだがこっからの案内は頼めるか?」

「お任せください。私たちはそのために出向いてきましたから」

「頼もしいぜ。ようし野郎ども! 出発だ!」

おう、と応え鍛冶師たちが“イズモ”を発進させる。

「目標進路、馬鹿旦那と銀色坊主! とっとと捕まえんぞ!」

そうして“イズモ”が巨体を震わせ進みだす。

飛空船がその周囲を守るように固め、飛翔騎士が思い思いに泳いでいった。

――“イズモ”の船倉に、微かな唸りがこだまする。

船体なりに広々とした船倉もほぼほぼ物資と機材で埋め尽くされており。

しかし最奥だけは、奇妙に広々と間が開けられていた。

特別に設えられ鎮座する一騎の 幻晶騎士(シルエットナイト) 。

まるで怒りを湛えているかのような鬼面も今は眠りの中にあり。

蒼き鬼神は、ただ静かに主の命を待ちわびている。

「……ところでこの船。ちょっとバラしていいですか?」

「良いわけがないだろう! お前たちと手を組むのだってこいつを修復するためだ! なぜバラす話になる!」

怒気を含んで荒ぶる声も、涼し気に受け流される。

にこにこ、ふわふわ。

世界の果てにあるような空飛ぶ大地という魔境にてんで似つかわしくない、小柄で可憐な容姿。

このエルネスティとかいう小さな騎操士はイカれている。

パーヴェルツィーク王国の第一王女であるフリーデグントが、手で顔を覆い嘆息した。

「卿、飛ばしすぎだ。これは玩具ではないのだぞ……」

「そうでしたね! 僕の玩具は使命をまっとうしてしまいましたから」

玩具だって? いったい 飛竜戦艦(リンドヴルム) をどうするつもりか。

王女はすがるような視線を彼へと向けてくる。

「……少々、かなり、いやとてつもなく難物なのだが。これで能力があることは間違いない。我が国と飛竜戦艦のため、後は頼んだぞコジャーソ卿」

そうして飛竜戦艦の生みの親である鍛冶師、オラシオ・コジャーソは思いっきり顔をしかめたのだった。