軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#157 竜の王は呼びかける

木々の間を風が駆け抜ける。振り仰げば巨大な獣が翼をはためかせていた。

鷲に似た頭に四足の胴、さらに巨大な翼を備えた空の猛禽―― 鷲頭獣(グリフォン) である。

ホーガラはつられて自分も翼を広げかけて、気付いて止めた。

彼女の相棒であった鷲頭獣は先日の戦いにて倒された。卑劣な策略があったとはいえ、怒っても後悔してももはや遅い。

彼女はハルピュイアの一羽、自らの翼で空を飛ぶこともできる。しかし共に空を進むことはもうどうやっても叶わない。

ぎゅっと手に力がこもり、掴んでいた獲物がびくっと震えた。

「ホーガラ! いたいた」

そうしてどれくらい森に立ち尽くしていたのだろう。自らを呼ぶ声を耳にして振り向いた。

「……キッドか。何の用だ」

「用って。狩りにしては遅かったから、どうしたのかと思ってさ」

「少し獲物の活きがよかったんだ。見てみろ、立派だろう」

ぐいと突き出された獲物を見てキッドは表情を引きつらせる。

ぱっと見の印象でいえば鶏が近く、空飛ぶ大地にしては珍しく走りに長けた姿をしている。ただしとてつもない違いがあって。

「えーと、首が二本あるように見えるんだけど。しかも前後に」

「ああ、おかげで非常に目ざといんだ。木々と一体となり風を読んで飛び、素早く倒さないと狩れないのだぞ?」

「そ、そうか。さすがだな」

何やら得意げにしているホーガラには申し訳ない気持ちだったが、なかなか不気味さが先に立つ生物である。

とはいえこれに躊躇しているようでは空飛ぶ大地で生きてゆくことなどできない。それに食べたら多分美味しい。

「村に戻ろう。ちゃんと付いてきてよ」

そんな風にキッドが頭を抱えている間に、ホーガラはさっさと翼を広げていた。

出遅れた彼は慌てて銃杖を握る。

一羽と一人が村まで戻ると、そこでは 幻晶甲冑(シルエットギア) を着こんだ船員たちが“ 黄金の鬣(ゴールデンメイン) 号”に荷物を運びこんでいる最中だった。

キッドは作業を見守っている巨漢と小柄な人物のもとへと駆け寄る。

「エル、若旦那! どこかに出航ですか?」

「お、戻ってきたかキッド。うむ、銀の長が周囲のハルピュイアに会おうと言い出してな」

「“ 銀の鯨(ジルバヴェール) 号”は貸し出していますので“黄金の鬣号”にお願いしようと思って」

「なるほど、味方探しにいくんだな」

頷くキッドに、エルネスティは曖昧な笑みを浮かべる。

「藍鷹騎士団から連絡が来ました。イレブンフラッグスは勢力を縮小し、代わりにパーヴェルツィーク王国が勢いを増していると」

「 西方諸国(オクシデンツ) では北側にある国だな。国土は広いが雪と氷に閉ざされ難儀していると聞く」

「 飛空船(レビテートシップ) の技術は彼らにとって楽園への渡し船であったことでしょう。だからこそ 飛竜戦艦(ヴィーヴィル) まで投入してきた」

入れ込みようのほどがわかるというものである。それだけに飛空船と、必需品である 源素晶石(エーテライト) への執着は激しい。

「各国の間で採掘村の奪い合いが各地で激化しているようですしね」

「つくづく 盤遊戯(ボードゲーム) の好きな連中だ」

「どの国も、最大の目的は源素晶石を得ること。それだけを望むならば理にかなっています……が」

「ハルピュイアにとっても、俺たちにとっても好ましくはないな」

「パーヴェルツィークは名目上、ハルピュイアを尊重しているようです。全てが上手くいっているとは言えないようですが」

ホーガラの表情が曇る。

「他にも焼かれた巣があるのだろうか」

「イレブンフラッグスは鳴りを潜めているようです。気を付けるべきはパーヴェルツィークですが、いずれにしろ気づいたら周囲の全てを取られていたということは避けたいですね」

「そのためにはハルピュイアとのつながりが不可欠だ」

エムリスが気合いと共に拳を打ち合わせる。

「それで僕たちだけで向かっても警戒されるだけです。橋渡しとしてハルピュイアのうちどなたかに来てもらえないかと、スオージロさんにお願いしていて」

「橋……? ああ、枝を渡るのか。それならば 風切(カザキリ) に伝えてみよう」

鷲頭獣を失ったホーガラはここにいても戦力として役に立つことが出来ない。それならば他の巣に赴いたほうがましだろう。

常の威勢を欠く彼女の様子を窺い、キッドはわずかに気がかりな思いを抱いたのだった。

右近衛長“イグナーツ・アウエンミュラー”が駆る竜頭騎士“シュベールトリヒツ”を先頭に、 竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ) の群れが飛翔する。

対する“ 竜(ドレイク) モドキ”は低い唸りを漏らすと高度を上げた。飛竜では比較にならないほどの巨体が重々しく舞い上がる。

混成獣(キュマイラ) たちはギャアギャアと吼えながら“竜モドキ”の周りに集まっていた。

「我らの利は速度にある! 騎士たちよ一撃離脱で臨むぞ!」

魔獣の群れめがけ、マギジェットスラスタの噴射音も高らかに飛竜たちが斬りこんでゆく。魔獣の頑強さは先程までの戦いで嫌というほど思い知った。ちまちまとした戦い方では勝利などおぼつかない。

噴射音が甲高さを増してゆく。シュベールトリヒツの持つ 大型騎槍(グロースランス) は高い強度と重量を持つ。速度の乗った突撃を受ければいかに頑丈な混成獣とて耐えられはしない。

そして速度では飛竜が圧倒する以上、穂先を逃れる術はなく――。

だがこの場にはまだ登場人物が残っている。

強烈な存在感をばらまき続ける“竜モドキ”。竜騎士たちもその脅威は認識しており、十分な警戒を払い距離を残していたはずだった。

“竜モドキ”がその秘めたる能力を発動する。空間に響いたのは音ならざる音、声ならざる声。

人間たちには感知しえない、だが混成獣の動きは劇的に変化していた。獰猛ではあれど散漫としていた動きが明らかに意図あるものへと。

一匹が鷲の頭で吼えると、すぐさま幾重にも咆哮が連なりだした。

紡がれた大気操作の魔法現象はたちまちのうちに重なり、空に巨大な暴風の塊が生み出される。

「群れるか、獣め!」

それは一匹で起こしたものより威力も範囲も段違いに強力だ。さしもの竜頭騎士とてまともに受けるのは危険すぎる。

イグナーツは瞬間、大型騎槍の 固定(ロック) を外し竜脚でもって振り回した。

大気が速度と摩擦を起こし急激な抵抗を生む。それは 制動(ブレーキ) となり同時に進路を捻じ曲げた。代償として恐るべき負荷が機体をもぎ取ろうと襲い掛かるが、竜頭騎士の強化魔法でもってねじ伏せる。

「捉えられると思うな!」

再び加速。迫りくる暴風から逃れ魔獣たちの背後まで突き抜ける。

右近衛長の動きに、後続の竜騎士たちも即座に反応した。それぞれに暴風を逃れると魔獣たちから距離を取る。

「……ハハハ、これが魔獣というものか。なんと恐るべき獣であることだ。それでこそ竜騎士の獲物にふさわしいというもの」

一向に衰えぬ戦意を剥き出しに、イグナーツは竜頭騎士を回頭させる。

再度の攻撃に臨む、しかし無策で突っ込んでは先程の二の舞である。距離を置きながら混成獣たちの動きを、“竜モドキ”の動きを観察する。

混成獣に備わった獅子の頭が牙を剥き出しに吼え、山羊の頭が無表情に嘶く。そこに獣性以外のものは見いだせない。

しかし先程の攻撃はただの本能では成しえないものだった。

「あれは獣の技ではないな。となれば“竜モドキ”が補ったということか」

歪な“竜モドキ”は翼を広げ悠然と空にある。混成獣たちを従え、誰がこの空を統べるものかを告げる。

人であり騎士である竜騎士たちにとっては認められないことだ。

「この源素晶石は殿下と我が国に捧げられるべきものだ。退いてもらう!」

竜頭騎士からの発光信号を受け、竜闘騎が陣形を組みなおす。槍のように一点をつく形から広がった形へ。重ねられた魔法現象は脅威だが原理上数を撃てない。ならば狙いを絞らせなければよいのである。

飛竜が次々に身を翻す。魔獣たちを囲むように接近し。

迫りくる槍の穂先に向け、混成獣たちはしかし魔法現象を起こさない。

代わりに、獣たちの中心にある“竜モドキ”が寸詰まりな首を巡らせた。

直後、イグナーツの脳裏を強烈な悪寒が貫いた。その時彼は何故か“竜モドキ”の瞳が自身を捉えていることを確信していた。

同時に沸き起こる雑音。頭の中で何かが引っかかれているような音が反響する。攻撃に備え集中力を高めていた 騎操士(ナイトランナー) たちにとっては煩わしいことこの上ない。

「何と邪魔な! これが竜モドキの能力なのか!?」

この状態で突撃を敢行するのは極めて危険だ。得体のしれない能力を、イグナーツは脅威と感じる。

だがしかし。“竜モドキ”が備える能力の本質は、彼らが考えているようなものではない。

「……………………レ…………ヨ……」

高まり続けていた音が、ふいに形を変える。

それは戦慄すべきで、同時にひどく奇怪な感触だった。脳裏に満ちていた雑音が急激に形を成す。ぼやけていた視界が一瞬で焦点を結ぶように、音が集まり“意味”を成す。

「…………去……レ……ヒト……ヨ……」

それは言葉ではなく、ただ“意味”そのものであった。

言語という前置きを抜きに理解だけが頭に浮かぶ、異様極まる体験が竜騎士たちに襲い掛かる。

かかる事態は想像の埒外にあった。これが“竜モドキ”が口を動かして喋ったというのならば、驚きはしても理解はできたかもしれない。

だが出会ったのは未曽有の怪奇現象であったのだ。

「右近衛長! こ、これは……!!」

「なんだ、なんだよ! 気持ち悪い、俺の頭から出ていけよ!!」

騎士たちの動揺を表すかのように竜闘騎の進路がぶれる。

竜頭騎士の操縦席では、イグナーツが歯を食いしばり己を律していた。彼の精神とて際どいものだ、一歩間違えれば部下のように取り乱してもおかしくはない。

だがそれは右近衛長としての矜持が許さなかった。

右近衛の象徴、竜騎士像たるシュベールトリヒツを駆る自分は誰よりも誇り高く飛ばねばならない。無様を晒すことなどありえないことである。

「これが竜の操る言語だと!? ……栄えあるパーヴェルツィークの竜騎士よ! 恐れるな、どれほど異様であろうともたかが! たかが竜が喋っただけだ!」

“意味だけが浮かびあがった”不思議は無視する。さもなくば精神がもたない。理解できる範囲に踏みとどまり、可能な行動を選択する。

「全騎、竜の手綱を握りなおせ! 獣の動きを警戒せよ! 仕掛けて来るぞ!」

動揺著しい竜騎士たちを取り残し、混成獣が動きだしていた。それらは“竜モドキ”の声に導かれているのだろう、迷いない動きである。

「……去らぬ……か。……愚か……ものめ」

“竜モドキ”が翼を広げる。その巨体を空に支える強大な魔法現象とは別に、新たな風を巻き起こした。急激に大気が集ってゆく。景色を歪める密度にまで集うと、周囲に紫電を纏い始めた。

イグナーツは顔色を変えて鐙を踏み込む。竜頭騎士は進路を変えると一息に加速した。わずかに遅れて、竜騎士たちが後に続く。

同時に“竜モドキ”が風雷の魔法を放った。渦巻く大気が空を歪め、雷鳴と共に翔け抜ける。

逃げ遅れた竜闘騎が法撃に飲み込まれてゆく。

巨体を持つ“竜モドキ”の魔法能力は圧倒的だ。機体は一瞬で圧壊し、粉々になって飛び散っていった。

竜騎士たちに、同胞の死を悼む余裕などない。間を置かず混成獣が襲い掛かってくる。山羊の頭が吼え、雷鳴を呼び起こした。

空に伸びる雷の鞭が飛竜を打ち据える。

飛竜たちとてやられるばかりではない。法撃を放ち応戦するが、攻撃は集中を欠きいかにも散漫であった。

ここで混成獣を相手取ろうにも、獣たちの中心に“竜モドキ”がある限り竜騎士たちの勝機は薄い。

奇怪な意志によって思考をかき乱される上に獣たちの襲撃をしのぐのは、いかに精鋭たる右近衛軍にとっても困難である。

「……後退だ。母船まで下がる!」

イグナーツは決断を下す。空を灼く雷鳴をかいくぐり、速力にものを言わせて飛竜が獣の包囲を突破する。

窮地を潜り抜けた飛竜たちを、混成獣たちは追うことはしなかった。“竜モドキ”の低い唸りに誘われるように戻ってゆく。

獣たちが舞う背後には、史上最大級の源素晶石が佇んでいる。

“竜モドキ”の巨体すら霞むほどの存在感に、イグナーツはその場を離脱しながら歯を軋ませていた。

「とてつもなく厄介だな、“竜モドキ”め。せめて言葉あるならば答えてみるがいい、貴様は何者だというのだ……!」

誰に聞かせるつもりもなかった悔し紛れの捨て台詞。しかし吐き捨てた瞬間、それまで一方通行であった意思が突如として向きを変えた。

「クク……ク……」

脳裏に響いた意思は、明らかに“嘲笑”を意味していた。何を拾ってのことかは明白だ。イグナーツの思考が怒りで鋭さを増す。

「我は……竜なるものの王なり……ここは……我らの地……ヒトよ……去るが……いい……」

“竜モドキ”――“竜の王”の貌が不気味に歪んだ気がした。イグナーツはまるで笑みのようだと思い、すぐにその考えを振り払った。

いかに高い知能を有しても、まるで人間のように笑うとは思えない。

竜の感情は騎士たちの胸に振り払えない不気味さを残していたのである。

飛竜たちの姿が小さくなってゆくのを見送り、“竜の王”の巨体が降下を始めた。巨大な源素晶石の周囲、生い茂る森の中へと。

混成獣を従え、魔獣たちの姿が視界から消えてゆく。

帰投した竜騎士たちが“ 輝ける勝利(グランツェンダージーク) 号”へと回収されてゆく。

速度を緩め帆翼を畳んだ竜闘騎から格納庫へと運び込まれていった。

竜頭騎士は飛空船を追い越す位置まで進むと、帆翼を広げ空気抵抗により減速する。飛空船と進路をあわせ、追いついた船の先端部にある発射台へと収まった。

帆翼と竜脚を畳み、装甲に収まる。

そうしてひとつの形に戻り、“輝ける勝利号”は回頭を始めた。“禁じの地”を離れパーヴェルツィークの拠点を目指して進む。

船橋に入ったイグナーツを副官が迎えていた。

几帳面な敬礼の中にも抑えきれない動揺が見て取れる。

「右近衛長、ご無事で! しかしいったいアレは……」

船橋の部下の視線がイグナーツへと集中した。魔獣の巨体は遠くからでもよく目立つ。船員たちも気が気ではなかったことだろう。

彼は肩をすくめると答える。

「いわく“竜の王”だと。ふざけた名乗りを聞いたよ」

困惑する副官を眺めて苦笑する。戸惑っているのは自分も同じだと。

「やれやれ何と困ったことだろうか。世界を支配するほどの源素晶石が、まさか“竜の王”の御所に転がっているとはね」

「困難ではありますが、先んじてこれを察知できたのは僥倖かと」

「そうだ、まずは殿下にお伝えせねばならない。ここは禁じられるだけの理由があり、同時に求めるだけの理由もあるとね」

“輝ける勝利号”は船首を翻すと山を下ってゆく。

後には竜の唸りも獣の雄叫びもない、静けさだけが残されたのだった。

竜騎士と魔獣たちによる戦いの余韻が過ぎ去った後。雲を纏う山頂からゆっくりと降りる一隻の飛空船の姿があった。

船体に描かれた紋章には十一杯の盃。“ 孤独なる十一国(イレブンフラッグス) ”所属の船だ。

「素晴らしい。素晴らしいものだ。なんと美しい景色だろうか」

「キキ。確かに美しき金の実がなる景色のう。捌けばいかほどになろうか、一旗増えるどころではないじゃろうなぁ。キッキ!」

船橋にある人影は、イレブンフラッグスの議員である“サヴィーノ・ラパロ”と、同じく議員の一人である怪老“パオロ・エリーコ”であった。

「しかし 重装甲船(アーマードシップ) を置いてうろつくなど、まったくもって心臓に悪いのぅ。老体に無理をさせるものじゃあないぞ」

「ふん。別に残ってくたばっていても良かったのだぞ」

「カッカ! いやはやこれほどの眼福を見逃しては余生の損というもの」

サヴィーノは情報の独り占めを許さない、がめつい爺だと心中で悪態をつく。相手もこの程度の印象は予想しているであろうが。

「竜騎士を追うのには骨が折れたが……支払った苦労に見合うものをえた」

「確かにのぅ。ヒッヒ。重装甲船二隻の損を贖ってなお釣りが来る代物じゃあ。しかしあの大きさ、密かに掠め取るのは難しかろうなぁ」

「加えて周囲にはあの“竜モドキ”がある。いずれにせよ戦力が必要になるだろう」

そこが問題である。イレブンフラッグス軍の戦力は、度重なるパーヴェルツィークとの戦いにより大きく損耗している。なにせ旗艦である重装甲船すら失ったのだから。

現状の手札でパーヴェルツィーク軍を出し抜き、なおかつ得体の知れない“竜モドキ”をかいくぐれるなど思ってはいない。

だが、とサヴィーノは薄く笑った。

「必要なのは戦力……それが誰の戦力かなど関係ない。せいぜい集まって踊ればよいのだ」

「然り然り。パーヴェルツィークには獣の相手をしてもらわねばのぅ」

「足りないな。パーヴェルツィークだけではない、あの源素晶石の存在を知ればあらゆる勢力が動き出すだろう」

パオロは眉を持ち上げた。

思わず睨みつけたサヴィーノの瞳の奥底に、消しきれない復讐心の炎を見る。

空飛ぶ大地においてイレブンフラッグスが順調であったのは最初だけ。

パーヴェルツィークが現れてからはいいように押し込まれており、それだけ損失も重なっているということである。

巨大な源素晶石は一発逆転の妙手になりえる。

しかしもしかしたら、彼にとっては損を取り返すことなど二の次なのかもしれない。

危険な兆候だと、パオロははりつけたにやけ顔の裏で警戒心を上げていた。

「……さて、派手な会食になりそうじゃな。しかし我らの取り分は残るかの?」

「立ち回ることこそ我ら商人の戦い方ではないかな?」

サヴィーノは満足げな様子で遠ざかりつつある山を見つめる。

これから起こるであろう戦いを、その結果を想像して口の端をゆがめた。

「諸君らの勇敢さには感服するよ、パーヴェルツィークの竜騎士たち。これからもせいぜい我らのために頑張ってくれたまえ」

船は“輝ける勝利号”とは異なる方向へと去ってゆく。

それぞれに異なる思惑が、空飛ぶ大地に混乱を呼ぶ。