軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#146 竜たちの饗宴

暗闇に蝋燭がともるように。瞳がぼんやりとした光を捉えた。

「う……こ、こは……」

霧に囲まれたようにはっきりとしない意識のなか、声ともつかない呻きが漏れる。

時と共に認識は明確な形をとってゆき。やがてハルピュイア一族、 風切(カゼキリ) の次列、ホーガラは目を覚ました。

「なん……」

最初に視界に飛び込んできたもの。それは緊迫感を湛えた男性の横顔であった。

村の誰かではなく、捕虜であり彼女が監視していたはずの“ 地の趾(ちのし) ”―― アーキッド(キッド) であることに気づいて、彼女は急激に慌てた。

「き、貴様何を……!? いや、私は……」

いまだ働きの鈍い頭がようやく動き出す。意識を失う直前の状況が思い浮かんで、彼女は一気に顔色を青ざめさせていった。

「! ホーガラ、気が付いたのか。すまないが今はちょっと取り込み中でさ」

「どういうこと……だ」

混乱のままに食ってかかろうとして、ふと彼女は気付く。

周囲にはなぜか大勢のハルピュイアが――しかも隣村の面々だ――おり、皆一様に緊張した面持ちであることに。

つられて彼らの視線の先を追いかけたホーガラは、目にすることになる。

人間たちが乗る 飛空船(レビテートシップ) 、 鷲頭獣(グリフォン) とともに飛ぶハルピュイア。あらゆるものたちが言葉もなく“ソレ”を凝視していた。

雲を吹き飛ばしながら、巨体の全貌が露わとなる。

先端に屹立する 竜騎士像(ドラゴン・ヘッド) 、節に分かれ長く伸びた船首、飛空船の本体であり多数の 法撃戦仕様機(ウィザードスタイル) を生やした胴部。

下側には 幻晶騎士(シルエットナイト) をひと握りに潰すことすら可能な 格闘用竜脚(ドラゴニッククロー) が、凶悪な爪を広げていた。

“ 孤独なる十一(イレブンフラッグス) ”が誇る旗艦、 重装甲船(アーマードシップ) を一撃のもとに轟沈せしめたる人造の魔竜。

“ 飛竜戦艦(ヴィーヴィル) ”の脅威を前にして、舞台には奇怪な沈黙が流れていた。

「あ……なんだあれは!? あのような獣がどの木に留まっていたと……!?」

「地の趾よ、あれもお前たちの騎獣なのか!」

竜の炎を逃れた“ 黄金の鬣(ゴールデンメイン) 号”の上、助け出されたハルピュイアたちがざわめきだす。

長く空飛ぶ大地に暮らす彼らをしてまったく未知なる魔獣を前に、静かな混乱が生み出されつつあった。

その時、足元の船がいきなり動き出したことで驚きの声が上がる。

「驚くのは後回しだ! 呆けている余裕はない、今は動け!!」

正気を取り戻したエムリスの怒号が船橋に轟く。

“黄金の鬣号”は今、 非戦闘員(ハルピュイア) により満杯である。とてもではないが戦える状態になどない。そもそも飛竜戦艦を敵に回して無事に済むとも思えないのだが。

「回頭急げ、なんとしても振り切るぞ! シュメフリークへは信号をあげろ、各個死力を尽くして逃げだせとな!」

常に不敵な様子を崩さないエムリスをして、強い緊張が表情に浮かんでいる。

重装甲船が落とされた今、次に近くにあるのは“黄金の鬣号”なのである。それは泡も食おうというものだ。

舳先を回しだした“黄金の鬣号”の甲板では、ハルピュイアたちが戸惑っていた。

混乱のさなかで立ち尽くしていたキッドのもとにエージロが飛んでくる。

「き、キッド……あれって何? やっぱり敵なのかな!?」

「あれは 竜(ドレイク) を象った戦闘艦だ。問題は誰が使っているかなんだけど……味方ってのは難しいよな。心当たりないしさ」

かつて飛竜戦艦を生み出したジャロウデク王国は、自らの野望の炎により身を焼いた。二隻目を建造する余裕などあるまい。

ならば別の誰かであるはずだが、だからとてあれだけの超兵器を使うものが平和を望むとも思えない。

そうして竜を睨みつけていた彼は、ある事実に気づいた。

「待てよ、あの飛竜戦艦。違和感があると思ったら覚えているのよりでかいぞ……!?」

かつて飛竜戦艦に“突撃”をかましたことがある彼だからこそ、明確に見て取った。

この船は中央にある船体が極端に巨大なのである。なにしろ本船の左右にさらに二隻、都合三隻の船が連結されたような形をしているのだ。

ただでさえ巨大であった飛竜戦艦がさらなる威圧感を備えており。この巨竜と比べては重装甲船など、ただ亀のごとくであろう。

誰もが圧倒される中、不思議と彼は逆に表情を明るくしていた。

「こいつは、行けるかもしれないぞ」

「どういうことだ。あの巨大な獣が敵なのだろう」

「ああ。だけどな、あいつの本当に恐ろしいところは動きが速いことなんだ。それがここまで巨体になっちゃさ、素早くは……」

そんな得意げなキッドの言葉を聞きつけたわけでもあるまいが。

悠然と首をめぐらせていた飛竜戦艦がにわかに動きだす。左右に配置されていた船体が、腹側にある扉を次々に開いていった。

多数の穴が覗くさまはまるで蜂の巣のようである。

「なにぃ、"巣"のようだと? おいおい、だったらなにが潜むというんだ」

硝子窓に張り付くようにして竜の動きを注視していたエムリスは、ろくでもない未来を想像して顔をしかめた。

飛空船が腹を開いたとなれば、次に何が起こるかなんて考えるまでもない。

船倉の内部から、次々に“何か”が飛び出てきた。

鏃(やじり) のような流線型をしたソレらは、船体からいくらか離れたところで“翼”を開く。

遠望鏡が捉えた姿が、“黄金の鬣号”乗員たちの心胆を寒からしめてゆく。

小型機だ。小さいと表現しても、それは比較対象が飛竜戦艦であるからそう見えるだけで、実際は幻晶騎士に近い大きさがあるだろう。

前方にはまっすぐに機首が伸び、後ろには爪を備えた脚がある。翼を広げてはいるが腕に相当する部分は見当たらない。まるで飛竜戦艦を幻晶騎士大まで縮めたかのような姿である。

つまりこれは未知なる航空戦力であり――。

小なる飛竜、その名を“ 竜闘騎(ドラッヒェンカバレリ) ”。

翼を動かし向きを変え、竜闘騎の首が一斉に船団を睨む。ついで尾部からは炎が迸り、莫大な推進力を受けた機体が目覚ましい加速を見せつける。

「うわ、ちっさいのがいっぱいきた!?」

「あれは 輸送船(カーゴシップ) なのかよ! それは反則だろぉ!?」

“黄金の鬣号”の甲板が悲鳴に満ちた。巨大な飛竜だけでも恐るべき脅威であるのに、さらに小飛竜を従えているとなっては難敵に過ぎる。

「やはり簡単には逃がしてくれないようだな! 応戦の準備だ、なんとしても切り抜けるぞ!」

船橋のエムリスが奥歯をかみ締め、身体に緊張を漲らせる。

法撃戦仕様機が動き出し迎撃の体制を整えながら、“黄金の鬣号”は竜の爪から逃れるべく進み続けた。

同刻。イレブンフラッグス軍旗艦、重装甲船の船橋ではトマーゾが荒れに荒れていた。

「ちくしょう! ちっくしょう! イオランダの阿婆擦れ婆めぇ! むざむざ本船を落とされただぁ!? 大損もいいところじゃないかよ!! 人に指図だけしておいて、なんてぇ役立たずだッ!! クソッ! クソォッ!!」

調度品を蹴り倒すたびに悪罵が止めどなく湧いてくるが、八つ当たりでは何も解決しない。

やがて室内を思うさま荒らした彼は、荒ぶる息を無理に鎮めて冷静な部分をかき集めると思考を巡らせ始めた。

「はぁ……はぁ。あの 竜(ドレイク) ……! 知っている、知っているぜぇ飛竜戦艦! 誰なんだよぉ、誰が作ったんだ。アレの情報はどこにもなかったはずだろぉが!?」

イレブンフラッグスをはじめとして、飛竜戦艦の威力を身に受けた国は少なくない。

ジャロウデク王国の覇の象徴ともいえたこの史上最大規模の戦闘兵器は、同国の敗戦とともに撃墜され、詳細を知る人物は姿を消した。そうして全貌は闇のなかに消えたはずなのである。

失われた竜を甦らせたのは誰なのか。あまりにも情報が足りなかった。

「なんでもいい、紋章か、旗か! いったい誰なんだよ、お前たちはよぉ!!」

トマーゾはかじりつくように遠望鏡を覗き込み。そうして竜の翼に描かれた紋章を見つけ、目を見開いた。

「あれは……“パーヴェルツィーク”だと!! なんでいまさら、北の亡霊どもが墓からはいずり出てきたのか!」

西方諸国(オクシデンツ) の北部に位置する国の名は、彼の驚きを誘うのには十分である。

だが戦いは、彼の動揺を待ってはくれない。

竜闘騎が飛翔する。馬鹿げた速さで迫りくる無数の飛竜が、イレブンフラッグス軍を追い詰めてゆく。

そもそも逃げきれるはずがない。亀と竜は比べるものではないのだ。

「だとしてもよぉ! 迎え撃て! 竜なんざ所詮は虚仮脅しだぁ! 撃ちゃあ墜ちるんだよぉ!!」

自棄じみた命令を受けた、イレブンフラッグス軍の 快速艇(カッターシップ) 部隊が動き出す。

空に布陣を描き、飛竜が間合いに入ったところでいっせいに法撃を撃ちはなった。

空に幾筋もの火線が伸びる。迫りくる炎弾の嵐を前にしても、飛竜たちに動揺はなかった。

機首を巡らせ素早く展開する。炎弾はかすりもせず通り過ぎ、飛竜はほとんど減速なしに前進を続けた。おそるべき機動性である。

快速艇は半狂乱で法撃を続けるものの、いっこうに命中することなく。ついには飛竜が敵を間合いに捉えた。

機首の先端がぐわっと顎を開く。中から覗くのは 魔導兵装(シルエットアームズ) の切っ先だ。

流し込まれた魔力のままに燃え盛る炎が渦を巻き、鋭利な槍の穂先を形作った。

機首はしなやかに巡り、しっかりと獲物に狙いを定める。

放たれた炎槍が、狙い過たず快速艇のどてっぱらに突き刺さった。

間合い、彼我の機動性、あらゆる要素が回避など許さない。

突き刺さった炎の槍はすぐさま弾け、空中に鮮やかな燃える花弁を広げる。腹をえぐられた法撃戦仕様機は無残に真っ二つとなり、足場であった船体と共に砕けて墜ちていった。

飛竜は獲物の末路を見届けることなく、すぐさま次へと狙いを定める。

機体下面にある脚が伸びる。先端には剣のごとく伸びた爪が備わっており、鈍い輝きを放っていた。

ひときわ強烈な噴射と共に急接近。すれ違いざまに脚を一閃する。

快速艇は空中での法撃能力こそあれど格闘戦能力はないに等しい。当たり前だ、どこの誰がこのような危険な場所で格闘の間合いまで踏み込んでこようか。

そんな予想を覆して振るわれた刃が、法撃戦仕様機の腕と武器を切り裂いた。均衡を崩しふらつく快速艇に、燃え盛る炎槍が突き刺さる。

快速艇の残骸がまたひとつ、仲間の後を追った。

それはもはや戦いとすら呼べないものとなり果てていた。

恐るべき能力を発揮する飛竜の群れを前に、快速艇はただ狩られるだけの獲物へと成り下がっていたのである。

見る間に快速艇部隊は壊滅寸前まで追い込まれてゆき。

極めて軽快、高速で飛翔する飛竜がつぎつぎと快速艇を食い落としてゆく。空の上では速力こそが優位を生むのだ、とでもいわんばかりだ。

竜闘騎はあらゆる点において快速艇を上回る性能を有する。いや、見た目に作りが華奢であるので耐久性のみは快速艇が勝っているかもしれない。

しかし竜闘騎の法撃は快速艇を落とすに足る以上、なんの慰めにもなっていなかった。

そんな悲惨な戦場を横目に、旗艦である重装甲船と周囲の飛空船は後退を始めていた。

だがその動きは遅々としたものであり、いっこうに距離を稼ぐことができていない。最も足を引っ張っているのはもちろん旗艦である。

「まずいまずいまずいまずいぞ、このままでは船が丸裸になる……いや、その前に追いつかれたらどうするんだよ!?」

飛竜戦艦には重装甲船を一撃で葬り去った竜の炎がある。接近されれば勝ち目など万に一つもない。

だが、まったく幸いではないことに、彼の心配は杞憂に終わった。何しろ飛竜戦艦が来る前に竜闘騎が食いついたのだから。

重装甲船に搭載された法撃戦仕様機が応戦を始めるが、速力に優れる飛竜を捉えきれない。

そもそもイレブンフラッグス製法撃戦仕様機“ドニカナック”は、クシェペルカやジャロウデクのそれに比べて未熟な面が多い。

特に攻撃精度の面で大きく劣っており、まず数を集めないと有効性を発揮しえない代物だった。

原型(オリジナル) が備える高度な 魔法術式(スクリプト) 群は、模倣するにもそれなりの技術力を要求する。

そのため代替品で賄っていたドニカナックは、機動戦闘に突入したところで欠点を大きく露呈してしまった格好となった。

後悔はいつも手遅れな場面で沸き起こる。

狙いの甘い法撃など飛竜にとっては無意味そのものである。悠々と飛空船に接近すると、炎の槍を叩き込んでゆく。

槍をくらったドニカナックが爆散し、船の守りはどんどんと奪われていった。

「……ああ! か、 輸送船(カーゴシップ) 三番船、墜ちます!!」

「各部の法撃戦仕様機から報告! すでに無事な騎士はほとんどなく! もう、もちません!」

次々に舞い込む悲鳴のような報告を耳に、トマーゾは呆然と立ち尽くしていた。

「何故だ……何故なんだよ! どいつもこいつも! 何故俺の邪魔をする!!」

竜闘騎が奏でる甲高い爆音が船橋に反響する。トマーゾは顔をしかめて耳を閉じた。

事ここに至っては彼を責めても仕方がない。もはや船の指揮などとるだけ無駄だった。

戦場の勝者は明らかであり、イレブンフラッグス軍はただ追い詰められる以外の選択肢を持たない。

「あああ! くそう、俺たちもあの船を手に入れてさえすれば! 最高の商売ができたってのによぉ!!」

彼の悲鳴が、静けさを取り戻した船橋に響く。飛竜たちの咆哮は遠くにあった。

浮かび上がった戸惑いと共に、硝子窓を覗き込む。

気付けば飛竜の動きが変わっていた。次々に機首を翻すと飛竜戦艦のもとへと戻ってゆき、その分だけ静かになったのである。

「そんな、ヒ、ヒィィィィ」

胸に湧き上がるのは安堵から最も遠い感情、絶望だ。

つまりこれは、雑兵を蹴散らし終えたことで親竜が動き出したということなのだから。

戦場に新たな音が生まれ出る。

遠雷のような唸りを上げて、飛竜戦艦が前進を始めた。

帰還した竜闘騎は翼をたたむと、開かれた扉の中へともぐりこんでゆく。全ての機体を格納し、残るは巨大兵器のみ。

確かにこの“二代目”は、巨大な船体を持ったことで機動性自体は初代よりも低下している。それでもマギジェットスラスタを主な推進手段とすることに変わりはなく、単純な速力だけならばさほど劣るものではない。

まさか鈍亀が逃げ切るようなことは起こるまい。そこに希望はなく、厳粛な結果だけが在る。

傲然と身をくゆらせて進んでいた飛竜戦艦が、軋みを上げながら顎門を開いた。

長く伸びた船首の奥より炎が生まれ来る。濃厚な死の予兆を覚え、重装甲船の巨体が震えたかに思えた。

飛竜戦艦の仕組みが初代と同じであるならば、この船首の内部には大量の魔導兵装が並べられているはずである。

それらは連続して起動することで加速度的に威力を増し、炎の奔流を生み出す。

放たれる、恐るべき威力の竜の炎――“ 竜炎撃咆(インシニレイトフレイム) ”。

飛竜戦艦を象徴する超大型対飛空船・対要塞魔導兵装。

溢れ出る獄炎は大河となり、重装甲船へと襲いかかった。途中、射線上にあった飛空船が一瞬で爆沈する。かつては要塞都市すら破壊した炎だ、ただの船に防げるものではない。

委細構わず竜の炎が重装甲船を呑み込んだ。

「あ、あああ! 燃える、燃えるゥゥゥゥゥ!!!!」

重装甲船はとかく護りの厚さだけを誇る船である。一瞬で墜ちるようなことなく炎に耐えてみせるが、さりとて逃れる術がない以上、終わりまでの時間がわずかに延びたに過ぎない。

絶望には十分で、抗うには物足りないていどの時間。

その一縷の望みにかけて、燃え盛る亀を置き去りに船員たちが逃げ出し始めた。

残っていた快速艇が、飛び出した瞬間炎に巻かれる。たぐいまれなる幸運を得た者だけが死の炎から逃れることを許されていた。

竜炎撃咆を浴びながらも、重装甲船は良くもったと言えよう。だが忍耐には限界がある。

ついに終わりの時はやってきた。焼け熔けた装甲が飛び散り、炎は構造材に達する。崩壊は船全体へと至り、直後に弾け飛んだ。

残骸が煙の尾をひきながらばらまかれてゆく。

立ち込める煙を吹き飛ばしながら、飛竜戦艦はその場にたたずんでいた。顎門を閉じると低い唸りを漏らす。

そのまま、逃げ去る船を追うことはしなかったのである。

かくして中心的存在であった旗艦を失い、イレブンフラッグス軍は潰走した。彼らは魔竜の復活を祝福する篝火となったのである。

混乱と破壊が吹き荒れた戦場を後に、“黄金の鬣号”は大きく迂回するようにして進んでいた。

「……敵影は見えません。どうやら追撃はない模様です」

「そうか。あいつらはイレブンフラッグスを先に狙うことにしたらしい。九死に一生を得たといったところだな」

エムリスは引き続いての警戒を命じつつ、それでもわずかに安堵の吐息をついた。

船はマギジェットスラスタは使わず推力を絞っている。なにしろ推進器の炎は目立つ、飛空船の巨体そのものが隠しきれないといえばそうなのだが、とはいえ好んで目を引く必要はないだろう。

飛竜戦艦だけでも恐ろしく厄介であるのにあの小飛竜たちがある。

いかに腕に覚えのある乗員たちと言えども勝利の姿を描ききれずにいた。今できることはただ、竜たちが執拗に後を追いかけてこないことを祈るばかりである。

「あの竜の厄介なところは、火力もさながら翼も優れるところだ。“ 黄金の鬣号(おれたち) ”はともかく、味方の船は無事にすむまい」

もしも追われたとしても、同じ推進機関を利用する“黄金の鬣号”は足の速さで引けをとらない。

だが通常の飛空船で構成されるシュメフリーク軍はそうはいかない。イレブンフラッグス軍の二の舞になることは明白だ。

「しかし、このまま追ってこないというのもむしろ厄介だな」

「何故でしょう若旦那。このまま逃げ切れれば万々歳ですよ!」

「この場はな。だが敵さんは飛竜戦艦をことさら秘密にするつもりがないということだ。つまり本格的な侵略と占拠を狙っているということわけだしな」

船員たちが顔をしかめる。

飛竜戦艦はイレブンフラッグス軍の重装甲船を蹴散らし、浮遊大陸において最強の座を得た。

この地に飛竜ある限り歯向かうものは焼き滅ぼされる。それを理解してなお挑むものがいったいどれほどあるだろうか。

行く先を考えて沈黙の降りた船橋にキッドが現れる。背にはやはりエージロがくっついていた。

「若旦那、ハルピュイアたちが行き先を教えてくれと」

「そうだった。まずは客人を安全な場所まで運ばねばならんな……どこか良い場所はあるか?」

シュメフリーク軍と合流し押っ取り刀で駆けつけたものの、彼らはこの地に拠点を持たない。今は何よりも安全な場所が必要であった。

キッドの背から、エージロが身を乗り出す。

「だったら僕たちの村に行こうよ。みんな歓迎するよ!」

「それはいい安請け合いだ! だがまぁ、他に当てもないのも確かだな。ようし、世話になるぞ」

鷲頭獣たちの導きに合わせて、“黄金の鬣号”が進路を修正する。

後を追うシュメフリークの船団と共に、ハルピュイアの集落を目指すのだった。