軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#128 巨人たちを案内しよう

エルネスティたち銀鳳騎士団があれこれと動き出しているころ、王城シュレベール城もまた大きな動きの中にあった。

城にある大会議室に、王国内の貴族たちが勢ぞろいしている。よほど喫緊の用件がない限り、貴族階級の九割九分までがここに集まっているのだ。

この場を取り仕切るのはやはり、国王リオタムスであった。彼は緊張の面持ちを浮かべる貴族たちを見回し、ゆっくりと口を開く。

「 巨人族(アストラガリ) ……この未曽有の出会いを経て、ボキューズ 大森海(だいしんかい) の禁秘がまたひとつ明らかとなった。森の中にあるはただ獣ばかりではない。知恵あるものが交わす物語が、そこにあると」

銀鳳騎士団が連れ帰った巨人族の存在については、貴族階級ではほぼ共有されきっている。民衆への発表はまだ時期を見ているところだ。

「大森海……人の手に余るこの森は、裏返してみれば手付かずの大地であるということ。それに踏み出せるならば、恩恵もまた大きなものとなろう」

貴族たちの間に抑えたどよめきが走る。フレメヴィーラ王国の建国より数百年、ついに王国はその姿を変えようというのである。銀鳳騎士団が参加した先遣偵察隊は、この時のためにあったといってもよい。

「かつての我々は国の中にある魔獣たちで手一杯でした。大森海の向こうなど夢のまた夢。しかし今は違う……」

頷く貴族たちの表情には自信があった。

この背景には銀鳳騎士団が生み出した最新鋭の 幻晶騎士(シルエットナイト) 群がある。従来とは隔絶した性能を備える強力な幻晶騎士、それは魔獣に対する打撃力を高め国内の安定化を大きく促した。

王国の歴史の中でこれほどまでに穏やかに暮らせる者たちは、初めてなのではないか。そう言われるほどに国内は安全となりつつあるのだ。

「森に歩を進めるのであれば、すでに森に暮らす者たちと手を取り合うことも必要になるだろう」

「巨人……いや、小人族と呼ばれる者たちが」

「第一次森伐遠征軍の生き残りまでいようとは。やはり大森海には魔が住むな」

これから踏み出さんとしている場所に“先住者”が存在しているというのは、往々にして問題を伴うものである。しかしリオタムスは小さく笑ってつぶやいた。

「幸いにも銀鳳騎士団の働きにより、そのどちらとも良い関係を築いていると聞く。ならばこれを生かさぬ手もあるまい」

王と貴族たちは頷きあう。

先遣偵察であったはずの銀鳳騎士団の旅路が、どれほどの大事に発展したか。すでに全員が承知していることであった。

「いずれ、森に人を遣わすことになろう。これからは長い道のりとなるぞ」

締めくくりとなる国王の言葉を受けて、貴族たちはそろって一礼したのであった。

そうして話し合う貴族たちの話の外に、一人たたずむ老齢の男がいる。先代の国王であったアンブロシウスだ。彼はずっと周囲の話に耳を傾けており、最後まで口をはさむことはしなかった。ただ静かに、何かを考えていたのであった。

そんな話がされているとはつゆ知らず、話題の巨人族はといえば。

「小人族の鍛冶師よ。お前たちの防具は大きさのほどはいいのだが、少々色合いにかけるな」

「その通りである。これでは氏族を表すこともできまい。そうだ、獣の毛を用いて飾るのはどうか」

「ああもう、注文は受け付けてないよ! まったくデカい図体のわりに細かいったら」

銀鳳騎士団の拠点であるオルヴェシウス砦にて、デシレア・ヨーハンソンは今日も頭を抱えていた。

彼女の頭痛の源は、まさに目の前でぐだぐだと余計な言葉を漏らしている。

「だいたいうちの幻晶騎士はそんな飾りはつけないんだ。それだと変に目立って仕方ないよ」

「我らはかまわぬ」

「あたしたちがかまうんだよ! どうしてこんな小細工が必要なのか、ちゃんと理解しなさいっての。まったく……」

全高で一〇m前後にも及ぶ巨体を持つ、巨大な人間。当初はその存在に驚愕し、恐れさえ抱いていた彼女であったが、そんなものは一週間もするころには大森海の向こうまで吹っ飛んでいた。

悲しいかな、人とは慣れる生き物である。それが注文の多い客ともなれば、格下げは一瞬のことであった。

「やはり己を鎧うは己が手で狩った獲物でなくては。どうにも落ち着かぬことだ」

「 百眼(アルゴス) に見守られぬのではないか。ルーベル氏族はよくもこのような目を閉じ耐えたことだ」

だいたい万事がこの調子では、彼女ならずともうんざりすることであろう。

彼女たちが喧々諤々と言い合っていると、 親方(ダーヴィド) が鎚をふりふりやってくる。

「おう、デカいの! そいつぁ俺たちの住み処をうろつくための約束ってもんだ。お前らの鎧とはちいと役割が違う、おとなしく被っとけ!」

親方が声を張り上げたのを聞いて、巨人たちは顔を見合わせる。

「ならば致し方あるまい」

「だがそのうちに鎧は仕立て直すぞ」

「おうおう。そのへんは団長にいっとくからよ」

少々投げやりに答えれば、巨人たちは一応満足したようで頷いていた。

そうして親方が周りに指示を投げているとデシレアがやってくる。

「ようやく静かになったか……。おいダーヴィド! こいつら本当にどうにかしてくれ」

「おう、ご苦労だなデシレア。ぼやく気持ちはわかるがよ、こりゃあ陛下の命でもあるし工夫するしかねぇよ」

編み込まれた髪の毛をいらだちも露わにかき回すデシレアを前に、親方には肩をすくめることしかできない。

「あたしは新しい幻晶騎士を生み出してみたかったから、こっちに来たんだ。うるさいの相手に仕立屋をやるつもりはないよ」

「そう熱くなるな。ちいと時期が悪かったが、そのうち嫌ってほど幻晶騎士を作ることになるからよ」

「……経験談?」

「 銀鳳騎士団(うち) の共通認識だ。どうせ 団長(ぼうず) が黙ったままなんてことは、ない。前はいきなり幻晶騎士を飛ばし始めたからなぁ」

「さすがに飛ぶ以上のことは、そんなにないんじゃ……」

どこか遠くを見やりながらつぶやかれた言葉を耳にして、デシレアはわずかに表情をひきつらせたのだった。

そうして鍛冶師たちの努力もあって、巨人族の偽装用外装が出来上がった。巨人族がもともと使っていた鎧は銀鳳騎士団の預かりとなる。

「鍛冶師の皆さん、ありがとうございます。巨人たちも、これでようやく窮屈な思いをせずに済みますよ」

「本当に疲れたよ……」

色々と苦労を支払っただけはあり、鎧を身に着けた巨人たちはそれなりに幻晶騎士らしい雰囲気があった。とはいえ大きさがまちまちで、妙に小さな動きが多い(幻晶騎士は動かさなければ静止する)ために違和感の拭いきれないものではあったが。

「これ以上は、あたしらの仕事じゃないよ。あのデカいのどもを躾けてくれ」

「あくまで仮の姿になりますし、そこまで徹底する必要もないかと」

鎧の具合を確かめてぐりぐりと動き回っている巨人たちを横目に、デシレアが嘆息する。よほど苦労したのであろう、なだめるエルも苦笑気味である。

彼らの頭上から影がかかった。見上げれば、そこには巨人としては少し背丈の低い人影がある。

「 師匠(マギステル) エルよ」

「 小魔導師(パール) 。うん、よく似合っていますよ」

「……そうだろうか。必要だからとつけてはみたが、どうにも窮屈だ」

小魔導師(パールヴァ・マーガ) は鎧自体は軽めで、全体を大きな布製の 外套(マント) によって覆っている。

しっくりこないのか、先程からしきりに兜の位置を直していた。四つ目が見えるように調整されてはいるが、視界が狭まるのはいかんともしがたい。

逆に外からも、眼球水晶ではなく生の瞳だと気づかれる恐れはある。しかしじっくり調べられなければ大丈夫だろうと、エルは気にしないことにした。

そこに別の巨人がやってくる。一般的な巨人、幻晶騎士よりも一回り大きな体躯を持つ、五眼位の巨人。鋼の鎧をまとった姿は恐ろしく威圧的だった。

「虹の勇者よ、約束通り見た目を変えたのだ。そろそろ我らを案内してほしいものだな」

「わかっていますとも。あ、ですが今は皆忙しいところですね」

銀鳳騎士団は今、再編成のあおりを受けて大変にごたごたしている。特に人員選抜の都合から各中隊長の手が空いていないのだった。

「仕方がありません。僕とアディで……」

エルが指示を出そうとした時のこと。団員の一人が息せき切って駆け寄ってくる。

「だ、団長! 大変です! 大変な客人が……」

「客? さて話は聞いていませんが」

団員の慌てぶりに首をかしげながら、エルは応接室へと向かったのだった。

フレメヴィーラ王国の中心を貫く大動脈、東西フレメヴィーラ街道。そこには常と同じく、数多くの馬車が行き交っていた。

飛空船(レビテートシップ) が登場してしばらくの時が経ったが、高級品である船はそうそう普及していない。物流の主役は今も馬車である。

変化といえば、時折巨大な人馬の騎士が 荷馬車(キャリッジ) を牽いて走ることがあるくらいか。こちらは人馬騎士の普及に伴いそれほど珍しくもなくなりつつある。

「 小人族(ヒューマン) の国というものは広いものだな」

「さらにあちこちに幻獣がある。これほどの数、ルーベル氏族とてなかったものだ」

ツェンドリンブルの牽く荷馬車の上、小魔導師は目を細めて周囲を見回した。巨人たちの暮らす集落というものも森に点在していたが、人間の国ほどの広さはない。

これはどちらかというと人間の国が広いのである。単純に数の違いによるものと、魔獣の被害を極力避けて過ごしてきたという経緯があるからだ。

街が近づけば、街道沿いに畑が広がっているのが見えてくる。戦力を止め置きやすい街の近くはより安全であり、畑を広げやすかった。

「ほう。小人族は草どもを育てるのか」

「体の小さな小人族ならではだな。我らでは腹の足しにならぬ」

肉食系巨人どもは大した興味もなく流していた。

またある者は荷馬車の走る道を指さして。

「この道というものは歩くにも便利である。我らも敷くか?」

「これほどの石を運ぶのは難儀であるな。そも、獣道があればそれで足りる」

路面の状況を問わないというのは、巨人族の頑強さがなせる業であろう。生物として、単体の強度が高まるほどに生きるための工夫がいらなくなってゆく。

こうして巨人たちは、何か目に付くものがあるたびにわいわいと騒いでいたのだった。

ツェンドリンブルの牽く荷馬車は巨人族が乗るものばかりではない。幻晶騎士を載せたものも当然ある。

そんな荷馬車の一台から、はしゃぐ巨人族の様子を見つめる者がいた。

「ふうむ。巨人族というものはどうしてなかなか、聡いではないか。我らとは生き方が違うようだが、方法を共有することはできるようであるな」

流れる風に吹かれながら、先王アンブロシウスが独り言ちる。隣にちょこっと座ったエルが答えた。

「彼らは彼らに独自の文化があって、たまに意味が通じないことはありますが、言葉は通じますからね。それも森伐遠征軍の怪我の功名というもの。しかし……先王陛下、突然お越しになって巨人族を見たいとおっしゃった時には驚いてしまいました」

「ふうむ。すこし思い立ってな、これからのためにも巨人の性を見極めておかねばと思うてのぅ。なに、邪魔はせぬ。団員たちに伝えよ、わしのことは気にするなと」

「そのようなわけにはまいりませんから」

オルヴェシウス砦に突然、 銀虎(ジルバティーガ) がやってきた時にはさしものエルも驚いていた。さらには巨人を見せろというので、こうして共に出てきたわけである。

「後は直接話してみねばな。エルネスティ、どれか話しやすそうなものはあるか?」

「それでしたら、僕の弟子をご紹介いたしましょう」

「ほう。弟子と来たか。そうであるな、エルネスティよ。着くまで森の話を聞かせてくれぬか。遠征軍の末とはどのように生きていた?」

「そうですね。最初は巨人族に隷属していまして……」

そうして二人が話している間にも、荷馬車は街道を進んでゆく。

やがて一行は主街道から逸れて森の中へと入っていった。ツェンドリンブルは速度を落とし、道なき道を踏み越える。辿り着いた先は街や街道からは離れた森の中。いまだ魔獣の住まう場所である。

「この幻獣、動くには便利だが飽きるな」

「ふうむ。森の気配は、そうは変わらん。久方ぶりの狩りであるか、まったく腕が鈍りそうでいかん」

どことなくうれしそうな様子で、巨人たちは森に分け入ってゆく。普段とは違う鎧を身に着けていることなど既に忘れ去っているようだ。

巨人に続いて、荷馬車から幻晶騎士が立ち上がる。カルディトーレに交じって、 銀虎(ジルバティーガ) の姿もあった。

「ほう。魔獣を倒す腕前はさすがであるな」

さっそく見つけた獣を倒す巨人たちを見やり、アンブロシウスが唸りを漏らした。

「ここにあるは、各氏族の中でも 勇者(フォルティッシモス) と呼ぶにふさわしき強者。たとえ我らの森でなくとも、生中な獣に後れはとらぬ」

小魔導師がこころなしか胸を張ってこたえる。先王は何やら楽しそうに頷いていたが、ふと思いついた風に話し始めた。

「ところで巨人の娘よ、確か 小魔導師(パールヴァ・マーガ) といったか……。ひとつ、頼みがあるのだが」

小魔導師は銀の虎を見つめ、首をかしげたのだった。

その頃、カルディトーレに乗ったエルは巨人たちの付き添いとして森を進んでいた。

「やる気があるのはわかりますが、あまり散らばりすぎないでくださいね?」

「虹の勇者よ。そうはいっても久しぶりに手足を伸ばせているのだ。獣はいくらでもいる、飾りにもなりそうであるしな!」

「えーと、狩りはいいですけど飾りはちょっと」

あれこれと巨人たちを案内していると、そこに息せき切ってかけてくる幻晶騎士の姿が現れる。

「だ、団長! 大変です!」

「う。この流れには聞き覚えが」

嫌な予感を覚えたエルが振り向くと、果たして団員は予想通りの事態を叫ぶ。

「先王陛下が! 向こうで!」

「しまった、目を離してしまいました……」

思わず天を仰ぎかけたが、そんなことをしている場合ではない。エルは巨人たちに断りを入れると、全力で機体を走らせたのであった。

「…… 小魔導師(パール) 、これはいったいどういうことでしょうか」

「む、師匠よ。あの銀の幻獣が、我らの力を問いたいと言ってな」

「先王陛下……最初からこれが狙いだったのですね。もう、どうしましょうか」

戻りついたところで、エルの操るカルディトーレが器用に頭を抱える。視線の先では五眼位の巨人と銀虎が睨みあっていた。

「駄目であったか?」

「……小魔導師のせいではありません。しかしこのまま放っておくわけにはいきませんね」

エルが悩んでいる間にも、二体の巨人の間で戦意が高まってゆく。

銀虎の持つ槍が、ぴたりと巨人を睨み据えた。

「どうした。まずは 巨人族(アストラガリ) というものを、教えてくれるのではなかったか」

「ぬぅ……」

森の魔獣とは一味違う、鋭い殺気。巨人の戦士ともまた異なる圧力を感じ、五眼位の巨人は知らず笑みを浮かべていた。

「幻獣よ、それでこそ勇者に挑むものよ! よく目を開け!」

気合いとともに踏み出し巨人が先手を取る。しかし間合いは槍のほうが広い、鋭い一撃が巨人の持つ棍をとらえた。

攻撃を押し返され、怯みを見せた巨人を突きの連打が襲う。身体は頑強でも技術に劣る巨人はアンブロシウスの攻撃を防ぎきれないでいた。

鋼の鎧を打ち据える鈍い音が続く。

たまらず巨人は飛び退り間合いをあけた。攻撃を受けた割に軽快に動けるのは、銀虎がわざと鎧の頑丈な部分を狙ったためだ。

「獣の角など、くらべものにもならぬな……」

金獅子(ゴルドリーオ) と 銀虎(ジルバティーガ) は、最新の機体の中でも膂力に優れた機体である。さらに王族に供される幻晶騎士として品質の高い部品を使用され、常に万全に整備されているのだ。

五眼位という上位の巨人に対しても勝るとも劣らない力がある。

「だが、我が目はまだ尽きぬぞ。…… 炎よ、来たれ(イグニアーデレ) !」

巨人が繰り出した掌に、赤々とした光が宿る。その光景を目にしたアンブロシウスが、口の端を笑みの形に曲げた。

「ほう! 自ら魔法を操るか……面白い、見せてみよ!」

戦術級魔法(オーバード・スペル) を上回る、激しい炎の奔流が放たれる。

銀虎は素早く槍を回すと、迫りくる炎を一薙ぎに払いのけた。

だが、それは巨人の狙い通りだ。五眼位の巨人は、自らの魔法を追うようにして突撃する。槍を振り回したばかりの銀虎が、一歩出遅れた。

巨人が棍を振り上げ、銀虎が迎え撃とうとし――。

二体の間に割り込むように、影が飛び込んでくる。

「!!」

カルディトーレの姿を認識した瞬間、銀虎と巨人はともに狙いを変えた。

銀虎が足を跳ね上げ蹴りを放つ。迫りくる膝装甲に向けて、カルディトーレが剣を打ち込んだ。わざわざ剣の腹を使い棍のごとく扱う。足を払った次の瞬間、カルディトーレの 背面武装(バックウェポン) が光をともした。

銀虎は受けた攻撃の勢いを逃さず、飛び退る。ほんの直前まで銀虎がいた“地面”に、法弾が突き刺さった。

「! こちらを狙ってはおらぬか!」

吹き上がる土煙に遮られ、銀虎が悔しげに下がる。それと同時に、銀虎とは逆の方向から巨人が攻めかかってきた。

カルディトーレは慌てず、左に構えた盾を掲げて攻撃を受ける。棍の一撃が盾の表面を削り、派手に火花をあげた。

そのまま、カルディトーレは大きく巨人に向かって踏み込む。剣を投げ捨てながら懐へと入り込むと鎧に手をかけた。

魔力転換炉(エーテルリアクタ) が雄たけびのごとく吼え、瞬間的に出力を高める。綱型結晶筋肉が多量の魔力を代償に、猛烈な力を発揮した。

五眼位の巨人、その巨体が持ち上がる。巨人の突撃の勢いを逆に利用することで、巨人を投げ飛ばしたのである。

「おおっ!? この、我を!?」

驚きつつも巨人の反応は素早かった。空中で身をひねると地面を転がり衝撃を逃がす。同時に間合いを取ってから起き上がると、乱入者に向かって棍を向けた。

奇しくも銀虎と並んで武器を構える形だ。

銀虎と五眼位の巨人、二体の巨人へとカルディトーレがゆっくりと向き直る。

「……お二人とも、これはいったいなんということでしょうか?」

いつもより少し低くなったエルの声を聴いて、二体ともすっと構えを解いたのだった。

「うむ。エルネスティよ、いま良いところであったのだ。もう少し待てい」

「その通りだ虹の勇者。問いを阻むなど勇者のおこないにあらざるもの」

「言い訳はそれだけでしょうか? 巨人よ、これは狩りのために出てきたはず。それと先王陛下……お畏れながら、ご案内したのは槍を向けるためではありません」

銀虎がややきまり悪げに視線を逸らした。

「やはり互いを深く知るには手合わせが一番であるからな? ……うむ、致し方ない。巨人よ、よい戦いであったぞ」

「小人族が勇なること、よく見せてもらった。しかし此度の問いは終わってはおらぬ。いずれ正しく百眼のお目に入れよう」

あまり小言の意味はなかったようだ。珍しく、エルがため息をついていた。

「小人族の幻獣よ、お前の操る槍は鋭いものであった。このような鎧よりもお前たちの武器こそもらい受けたいものだな」

「吝かでもないが。いかに強力な武器であろうと、持てば強くなるというものではなかろう。巨人よ、お前たちにこれが使いこなせるか?」

「今は背を見ようと、明日もまた同じとは限らぬ」

「然りであるな」

互いに低い笑いを漏らしあう。五眼位の巨人とアンブロシウス、二人の間ではなにやら謎の理解が深まったようなのだった。

それはそれとして。砦への帰り道では、エルネスティがアンブロシウスに苦言を呈するという珍しい光景が見られたのである。