軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

#115 野生の騎士があらわれた

ボキューズ 大森海(だいしんかい) に生い茂る木々の上を、 飛空船(レビテートシップ) が滑るように進んでゆく。

船団を構成していた船は、ふたつの集団へと分かれていった。

飛翼母船(ウィングキャリアー) イズモを中心としていくらかの 輸送型飛空船(カーゴシップ) で構成された主力打撃船団と、残る 強襲揚陸船(ランディングシップ) を中心として構成された拠点制圧船団である。

飛空船団が離れてゆくのを見送ってから、エルネスティはイズモの船倉へと戻った。

幻晶騎士(シルエットナイト) やら部品やらが散乱し、雑然とした空間である。船団を分けるにあたって急いで積み荷の交換をおこなったものだから、整理が追い付いていないのだ。

そのただなかで、上半身だけしかない異形の幻晶騎士カササギを前に、親方ことダーヴィド・ヘプケンは今日も頭を掻きむしっていた。

「おい、いったいなんだこりゃあ! 魔獣の素材どころじゃねぇ! 幻晶騎士に木材が入ってんぞ!!」

魔獣の甲殻を加工した 外装(アウタースキン) を外して内部構造を調べたところ、出るわ出るわ。カササギの内部は、無茶と不思議の博覧会と化していた。

「おっそろしいことをしやがる……なぜこいつが動いてんのか、さっぱりわからねぇ」

部品ごとの加工技術はお世辞にも高いとは言えない。さらに突貫工事でつくったのであろう部分は数知れず。余計な可動部は極力殺されているし、そもそも下半身が丸々なくなっているという前衛的な外見をしている。

幻晶騎士として見た場合、イカルガすら比較にならないくらいの欠陥品である。本来なら巨大なゴミにしかならないだろう。

しかし恐ろしいことに、この機体は唯一にして絶対の価値を有しているのである。

「よくぞこんなもの思い付きやがった、というべきだが、まったく。坊主から目を離すと何をしでかしやがるかわかったもんじゃねぇな」

ボキューズ大森海という、資材も技術も乏しい場所でなければ、生み出されなかったであろう機体。むしろそのような状況で幻晶騎士を再建しようなどと考えること自体、狂気の範疇にあるのだが。

親方は改めて、エルネスティの抱く幻晶騎士への執着を味わい、顔をひきつらせていた。

横で 小魔導師(パールヴァ・マーガ) と話し合っていたエルが、声をかけてくる。

「親方。調べるのはいいのですけど、あまり大きくばらさないでくださいね。そのうちに 小魔導師(パール) とともに出ますから」

「おう、わぁってら。だが中身を把握しておかねぇと、直すにも困るだろうが。つうかこんなもん、パッと見でいじれやしねぇよ」

犬でも追い払うように手のひらを振ってから、親方は再びカササギの内部へと潜りこんでいった。

「外装や骨格に、片っ端から 紋章術式(エンブレム・グラフ) をいれてやがるのか。強度稼ぎと……わけのわからん術式がまじってやがる。そりゃあ 皇之心臓(べへモス・ハート) が必要になるわけだぜ。イカルガより燃費悪くなってんじゃねぇかこいつ」

標準的な幻晶騎士であっても、機体を維持するために強化魔法の補助が必要不可欠である。そうはいっても、カササギは異常極まりなかった。

設計に、 魔法術式(スクリプト) の構築。両方に精通したエルネスティでなければ、このような機体は作れまい。

「強化だけじゃねぇな。おそらくこいつが 開放型源素浮揚器(エーテルリングジェネレータ) の、正体だ」

カササギは単に異形の幻晶騎士というだけではない、いうなれば“異形の 魔導兵装(シルエットアームズ) ”ともいえる。

源素浮揚器(エーテリックレビテータ) の機能を代替するために組み上げられた、世界に唯一の魔法装置。それこそが、カササギのもつ最大の価値であった。

「……こいつの機能をイカルガに組み込むのなんざ、無理だ。少なくとも、今はまだな」

銀鳳騎士団鍛冶師隊隊長として少なからず腕に覚えのある親方であったが、こればかりは白旗を揚げざるを得なかった。

機能と仕組みを深く理解し、十分な設備をもって向かわないと同じものが再現できない。彼は冷静に、それを認めていた。

「坊主の作るもんはたいてい狂ってやがる。中でもこいつはとびきりだ、久しぶりに震えがくる。だが……だからこそ、面白い」

彼は、知らず額を流れ落ちる汗をぬぐった。

「 魔力貯蓄量(マナ・プール) を流用してエーテルを抽出する、か。馬鹿げた思い付きだってのに、それをあっさりと実現しやがるからあいつは。ったく、面白くて仕方ねぇな。しかしよぅ、俺もこのままでいると思うなよ……」

いつしか、口元には笑みが浮かんでいる。

そうして親方は、ギリギリまでカササギの構造を微に入り細を穿ち、調べ続けたのであった。

カササギの調査に熱中している親方は脇において、残る者たちは今後の方針を話し合っていた。

「 師匠(マギステル) よ、我々はどのようにする」

「まずは、巨人の諸氏族を説得しないとですね」

「 諸氏族連合軍(エクサーキトゥス・バリィスゲノス) を、作る。それは変わりないのだな」

小魔導師が嬉しそうに頷く。もともと彼女たちは巨人の諸氏族を集めることを目的として移動していた。

途中で思いがけず銀鳳騎士団と合流したが、方針に変更はないということである。

「なんというか、まどろっこしいな。その、敵対している氏族。ルーベル氏族だったかい? そいつらと直接戦うと、何か問題があるのかい」

ディートリヒが首をかしげる。

「紅き小鬼族の勇者よ……ディーと、いったか? お前たちだけでルーベル氏族を倒せると。真を見ているのか」

「巨人族がどれほど強くとも、一人一人は幻晶騎士とそう大きくは違うまい? ならば問題は数だけだ、手はあるね。こちらには船があり、機動性があるのだから」

小魔導師は四つの瞳でひたとディーを見つめ、ゆっくりとエルへと首を向けた。彼は頷く。

「 小王(オベロン) が約束通りに 穢れの獣(クレトヴァスティア) を抑えられるのならば、不可能ではありません。制空権を押さえた側の有利というものを、じっくりと教えて差し上げます」

小魔導師は軽く瞳を伏せる。エルをはじめ、ここにいる小鬼族の者たちに嘘の気配はない。また傲慢とも違うだろう、ごく単純に己の力を知っているだけだ。

彼女が物思いに沈もうとしたところで、エルが立ち上がった。彼は周囲を見回して言う。

「ですが、僕たちだけでルーベル氏族と戦うのは悪手でしかない。それでは目的が達成されません」

「倒したとしても?」

「問題なのは、手順と……納得ですね。ルーベル氏族は巨人族の手によって討たれなければならない。少なくとも、問いは啓かれなければならない」

可能不可能が問題なのではない。もしも銀鳳騎士団――小鬼族の手によってルーベル氏族が倒されたとなれば、残る巨人族は決して納得しないだろう。そうなれば諸氏族は混沌へと陥り、やがて新たな戦いを呼ぶこと必至である。

「ですから、諸氏族を集めます。巨人同士の戦いにおいて結論を出す。同時に、僕たちの力を示します。小鬼族を侮ることのないように」

「なるほど。森伐遠征軍の生き残り、彼らを護るのだね?」

ディートリヒは、視線を端のほうに佇むザカライアへとむけながら言った。ザカライアは静かに周囲の話を聞いており、特に口を挟む様子はない。

「 小魔導師(パール) 。僕たちは、そのために戦います」

「我らは異なるものを見、しかし同じ道を歩める。我らカエルレウス氏族は、小鬼族の働きを忘れはしない」

小魔導師が頷いた。大半の巨人族にとって、小鬼族などどうでもよい存在だ。だがカエルレウス氏族は、エルがいたことによりそうではないと知っている。

「ありがとう。だから、この戦いは僕らが主導しなければならない、そのためにも 小魔導師(パール) 、諸氏族への遣いの出し方を工夫しないといけないのですが……」

そうしてエルは、自らの計画を説明したのであった。

イズモが巨人族の領域へと差し掛かっている頃。

そこからはるか離れた場所にある、小さな小鬼族の村。ここはかつてカエルレウス氏族が訪れ、またそのために魔獣との戦いに巻き込まれた村である。

あの時の戦いの跡は、まだ色濃く残されていた。住居の再建はかなり進められているものの、どれも急場をしのぐための仮設のものでしかない。

元より厳しい環境である、村人たちの生活は楽なものではなかった。彼らは、巨人族や上街の貴族たちとともに旅だっていった小さな騎士の言葉を胸に、懸命に毎日を生きている。

そんなある日のことだ。村に、恐るべき大異変が訪れたのは。

畑仕事のために出ていた村人たちが、唖然とした表情で空を見上げている。彼らの周囲の陽ざしが陰り、影が落ちてきた。雲が流れてきたのかと言えば、さにあらず。

低い唸りとともに、巨大な物体が空を横切ってゆく。

木と鋼を組み合わせて形作られたそれは、決して自然に生み出されたものではない。知識に乏しい村人たちにとっても、それは明々白々であった。

「なんだ……あれは。魔獣じゃないぞ」

「もしや、 巨人族(アストラガリ) の御方様がなにか……」

「バカを言え、空を飛ぶものかよ」

巨大な物体の周囲には、魚のようで形の違う、奇妙な何ものかが多数飛び回っていた。それらは巨大なものを守っているようである。ならば、これは魚のようなものの“巣”であるのか。

「なんということだ。騎士様が戻られる前に、こんな」

「は、早く逃げないと」

「どこへだ。当てなどないというのに……」

彼らには、ただ呆然と立ち尽くすことしかできない。何も持たない小鬼族に、怪異に抗う力などありはしないのだ。

その時、上空をゆっくりと進む巨大なものから、何かが飛び出してきた。

小さな埃のような大きさであったものが、落下し近づいてくるほどに形がはっきりとしてゆく。大柄な全身鎧を着こんだ、人のように見えた。

地面が近づいてきたところで激しく風を噴き出して減速すると、全身鎧の人物がゆっくりと地上に降り立つ。

村人たちが固唾をのんで見つめる先で、鎧の人物は兜を跳ね上げ、親しげに話しかけてきたのであった。

「みんな、しばらくぶりね! 大丈夫だった?」

兜の下から現れた見知った顔――アデルトルートの姿に、村人たちはあんぐりと口を開けたまま固まってしまうのであった。

しばらく経って慌てた様子の村長がやって来たところで、村人たちはようやく正気を取り戻していた。村長は、アディと上空の船を交互に見回しながら。

「き、騎士様。まさかこれほどはやくお戻りになるとは……。だとすれば、空にあるあれらは、騎士様の従えるものでございましょうか?」

あるいは、未知なる 幻獣騎士(ミスティックナイト) があるのかもしれない。彼らは以前、カササギの建造に手を貸したのである。あれを超えるものが在る可能性も、無きにしも非ずであった。

そんな疑念に、アディは苦笑しながら首を横にふって。

「あれは、私たちの騎士団の船よ。それで、置きっぱなしだったシーちゃんの心臓部をとりにきたのだけど」

「は、はぁ。ご出立されたときのまま、丁重にお預かりしております」

村長がカクカクと頷く。彼女は嬉しそうに、さらに要求を重ねた。

「あとね、騎士団と一緒に来たのだけど、こちらに拠点があったほうが便利だと思うの。それで、また村の設備を貸してもらえないかなって。もちろんお礼はするし、あんまり邪魔にならないようにするから!」

「滅相もございません。このように何もないところでございますが、どうぞご自由にお使いください」

「ありがとう! じゃあ連絡を、っと……」

アディは 幻晶甲冑(シルエットギア) に備え付けられた信号法弾を打ち上げる。眩い光の弾が、交渉の成功を船へと伝えた。

合図を確認した飛空船が、高度を下げ始める。

十分に下げたところで、船底の扉を開放した。歯車と鎖が奏でる絶叫を引き連れて、 幻晶騎士(シルエットナイト) が投下されてゆく。

白銀の鎧をまとう、重装甲の騎士。第一中隊隊長機アルディラッドカンバーだ。

続いて、隊員のカルディトーレが続々と降り立った。鎧に描かれた白い十字が鮮やかに映える。

あっというまに、村には一個中隊の幻晶騎士が現れていた。

村人たちは言葉を失い、目の前の光景を食い入るように見つめている。鋼の鎧を身にまとう、巨人とは異なる巨大な人型機械。幻晶騎士、人を護るべくある伝説の存在だ。

「おお……私が生きているうちに、このような光景を見られようとは」

感極まった村長の頬を、しずくが流れ落ちてゆく。

その時、アルディラッドカンバーの胸部が開いてエドガーが降りてきた。彼はアディと数言ほど話すと、示されるまま村長のところへとやってくる。

「皆さんが小鬼族の、この村の方々ですね。私の名はエドガー・C・ブランシュ、銀鳳騎士団第一中隊を率いる者です。先日は当騎士団の団長、及び団長補佐が大変お世話になりました」

「い、いいえ! いいえ! 助けていただいたのはむしろ、私どものほうでございまして……」

「しかし、巨人族との接触による戦いもあり、村は大きな被害を受けたと聞き及んでいます」

「それは、ああ! そうだ、申し訳ありません。今、村には皆様に使っていただくだけの家が、ないのでございます……」

村長ははっとした様子で、恐縮しきって頭を下げた。

村人たちが使うための施設はある。しかし、来客を招くことまでは考えられていない。まさか、騎士たちを崩壊した家に案内するわけにもいかなかった。

そんな村長たちの様子を見たエドガーは、安心するように言うと力強く頷いた。

「わかりました。魔獣の被害にあった村となれば、捨て置くわけにはいきません。それと我々の分はお気になさらず」

エドガーはアルディラッドカンバーの操縦席に戻ると、拡声器をひっつかむ。

「皆、聞いてくれ。まずは村の復旧作業を手伝うんだ。魔獣災害による支援活動、被害は甚大を想定する。船に連絡、すぐに動くぞ」

「了解!」

第一中隊のカルディトーレたちが、迷いなく動き出した。

普段は自由気ままに活動する銀鳳騎士団であるが、彼らもフレメヴィーラ王国の騎士団のひとつに変わりはない。魔獣からの被害を防ぎ、また村が傷を負った場合は復旧に手を貸す、それは騎士として最初に習う基本事項と言ってよい。

すぐに、飛空船から幻晶甲冑を纏った部隊がバラバラと降りてきた。“ 大気圧縮推進(エアロスラスト) ”は訓練済み、滑らかに降り立った騎士たちは、テキパキと動き出す。

「第一班、周辺の資材状況を探索してきます。ついでに魔獣も偵察してきまーす」

「第二班結成。不要な瓦礫とかありますかねー。ちょっと掃除してきます」

「残り第三班。んじゃ船の荷を下ろしましょうかね。村の人と調整してきますね」

「では第四班として鍛冶師隊で、資材調達までに建築計画を提出してくれ」

「了解。ちょっくら建物見せてもらいますよー」

またもぽかんと口をあけっぱなしの村人たちをさておいて、銀鳳騎士団は打ち合わせもそこそこに猛然と活動をはじめる。おそろしく慣れた動きであった。

「いったい、何が起こっているんだ……」

状況に追いつけない村人たちは、ただ見ていることしかできない。

全てが唐突過ぎる。だが彼らも、巨人族が訪れたときよりもとんでもない何かが起ころうとしているのだけは、おぼろげに理解していた。

戦闘の被害により半死半生であった村は、ものの数日で以前よりも立派な姿へと生まれ変わっていた。

幻晶騎士という強力な運搬機械と、幻晶甲冑という小回りの利く工作機械が合わさることにより作業は効率的に進む。村人たちが呆然と見ている前で、冗談のような速さで家が出来上がってゆくのだ。

「折角だから俺たちの宿舎もつくろうぜー」

「そうだな。そろそろ地上で暮らしたいよなー」

「俺ベッド欲しい! フワフワなやつ!」

「おいおい、さすがに綿なんてないぞ」

「なんかいい魔獣いないかね? 獣毛の取れるやつ」

「うーん。偵察の途中に、良さそうな奴を見かけた気が」

「よし狩ろう」

さくっと村を直しきった銀鳳騎士団の団員たちは、勢い余って自分たちの住まいまで作っていた。

それで素材を狩りにゆくと、カルディトーレが先導して幻晶甲冑部隊がぞろぞろと森に入ってゆく。

姿を変えたのは建物だけではない。村の端には幻晶騎士が駐機姿勢で並び、鍛冶師たちがちょこまかと動き回っている。さらに幻晶甲冑を着た部隊が、歩哨として周辺の警戒をおこなっていた。空には飛空船が止まり、 飛翔騎士(トゥエディアーネ) たちが羽を休めている。

もはや、立派な拠点の出来上がりである。

「いったい、何が起ころうとしているんだ……」

住みよくなった村を眺め、村人たちは呆然と呟くことしかできなかったのである。

その頃。村の奥まった場所にある鍛冶場では、鍛冶師隊の者たちが小躍りしていた。

「しっかりしてんじゃん! 簡易設備じゃないぞ! こいつはいい」

「ほう。やっぱりあったほうが楽なのか」

一緒に確認していたエドガーが問いかけると、彼らは拳を振り上げた。

「そりゃあもう! 巨人向けの防具作ってたんだろ? 十分だって」

「慣れない場所だが、やれそうだな」

「見くびってもらっちゃ困るぜ。クシェペルカん時にゃ、あっちこっち駆けずり回って作業してたからな!」

「腰を据えてやれるなら、断然楽ってもんよ!」

彼らの言葉に偽りはなく、すぐに精力的に動き出したのである。

飛空船から、様々な部品が降ろされる。その中に、特徴的な機体のものがあった。

「イカルガ、組み上げるんだね」

「ま、任せとけって。親方いないけど、整備の方法だったら俺たちも叩きこまれてるしな」

部位ごとに分かれていたイカルガの部品を組み上げ、そこにシルフィアーネの心臓部が運び込まれる。

遺された二基の 魔力転換炉(エーテルリアクタ) が出力を高め、つながった 銀線神経(シルバーナーヴ) に魔力が流れた。強化魔法が発動し、強度を高めた部品が接続されてゆく。

彼らは自負する通り、熟練の動きで作業をこなしていった。

魔の森、ボキューズ大森海の奥深く。巨人たちが支配する地域の片隅で、イカルガがあるべき姿を取り戻してゆく。

ちゃくちゃくと組み上がってゆく機体を眺め、アディは腕を振り上げた。

「エル君、イカルガできあがったよ! まぁちょっと、出力低いけど。それに私じゃ、エル君ほどうまくは操れないかな」

「心配ないってアディちゃん。そこは親方から秘策を授かってるから」

「え。なになにー?」

鍛冶師がみせた図面を見て、アディが驚きの表情を浮かべた。

「へー、これなら空中戦闘くらいできそう」

「まぁかせとけって。そもそもイカルガの機能はちょっと過剰だから。それなりにやりようはあるってもんさ」

彼女は振り返り、イカルガを見上げる。恐ろしげな鬼面も、今はどことなく退屈そうに見えた。

「完成したら、動かして練習しておかないとね」

アディは、本来の持ち主のことを思い出してにへっと笑みを浮かべる。イカルガを操れるようになれば、どこまでも彼の隣に居られることだろう。彼女は気合い十分、未来に向けて爆走を始めたのであった

かくして村に旗が掲げられるようになる。銀の鳳が大きく羽を広げた紋章を描かれた旗だ。

魔獣たちの楽園、ボキューズ大森海のただなか、ひっそりと地図が塗り直されてゆく。