軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Ep.38 私の世界の終わり

「クララ、お前の処刑が決まった」

ようやく助けに来てくれた!と顔を上げた私に、お父様が告げたのは『処刑宣告』だった。

その言葉に私の思考は停止する。

「……は?処刑……?……お、お父様、何の冗談を「冗談ではない」」

無表情のまま、いつも美しく輝いている翡翠色の瞳は、どこか仄暗く濁っている。

そんなお父様の後ろに立っているお兄様は、悲痛な表情で私から視線を逸していた。

「な、何でですか!?私は何もしておりませんわ!」

鉄格子を掴みながら、私は無実を叫んだ。

窓もない薄暗い 地下牢(ここ) に放り込まれてから、どのくらいの時間が経ったのかも分からない。

美しく整えられていたはずの肌や髪も、今では見る影もなく汚れ、不快な痒みに悶え苦しんでいるというのに。

「……ブラムウェル卿……いや、イディオがすべて自白したよ。共に逃亡する計画を立て、お前から頼まれて毒薬を用意した事を」

お父様の口からイディオの名前が出た瞬間、ヒュッと息が止まった。

あの男、裏切ったの!?

「そ、それは……ですが、ブラムウェル卿が用意した毒は少し体調を崩す程度の弱い物だと!皇女殿下を殺せるはずがありません!」

「では、ベッドの裏から見付かった毒薬はどう説明する?……いや、もういい。何も聞きたくない。お前をアシュフォード公爵家から除籍した」

……は?除籍……?貴族ですらなくなったというの?

「お前はセシリアを嵌め、王家を欺いた時点で既に処刑されていたはずだった。たとえ、皇女殿下を暗殺する意図はなかったとしても、貶めようとしていたのだろう?」

「もはや、お前を庇うことは出来ないし、庇うつもりもない」と、お父様は私に背を向けた。

「クララ……何故、お前はこんな風になってしまったんだ?私にはお前の事が理解出来ない……」

顔を歪め、掠れた声でお兄様が問いかけてくる。

何故?何故ですって?

「……全部、お姉様が悪いのよ!!私より先に生まれただけで、称賛もハインリヒ様との婚約も、私の欲しい物を全部奪ったんだもの!!」

私の叫びに、二人はまるで化物を見るような目を向けた。

「何を、言っているんだ……?称賛はセシリアが努力した結果だ。殿下との婚約も王命であり、初めからお前の物ではない。……ああ、もういい……これ以上、何も聞きたくない……」

「これで最後だ、クララ……私たちはお前を、心から愛していたよ……」

二人はそれだけ告げ、私の前から去って行った。

……何で、誰も分かってくれないの……

二日後。ついに処刑の日を迎えた。

もう、何も考えられない。

すべて、どうでもいい。

牢の薄汚い壁に背を預け、呆然としていた私のもとへ、カツン、カツンと足音が近付いて来た。

「ごきげんよう。クララさん」

「ごきげんよう。お久しぶりですわね」

現れたのは、皇女とシャーロットだった。

皇女の姿を見た瞬間、カッと頭に血が上った。

「あなた……あなたでしょ!?自分で毒を飲んで、私を嵌めたのね!?」

冷たいはずの鉄格子を力いっぱい握り締めたけれど、怒りで冷たさなんて感じなかった。

「だったら?あなたが他の人に仕掛けてきたことが、自分に返ってきただけでしょう?」

皇女は扇子を口元に添え、見下すように冷たい視線を向けた。

「は?私は何もしてないわ!!」

「いいえ。あなたは周囲のセシリア様への印象を操作し、悲劇のヒロインを気取り、噂を使い貶め、孤立させましたわ」

皇女の隣に立つシャーロットの変化に気付き、私は息を呑んだ。

いつも穏やかに微笑んでいた彼女の、紅いピンク色の瞳が妖しく光っている。

こんな彼女を見るのは初めてだった。

「……シャーロット……あなたも皇女の仲間だったの?」

その言葉に彼女は蔑むように嘲笑した。

「仲間?……そうですわね。私たちは『同志』ですわ。アシュフォードや王国に蔓延る浅はかな羽虫を駆除する。……あなたのせいで、私のアーサー様は深く傷付かれましたわ……それだけで、あなたは万死に値しますわ」

低く響く冷酷な声に、恐怖で体がガタガタと震え、その場に崩れ落ちた。

「あらあら、シャーロット様。殺気を抑えないと。怯えていらっしゃるわ」

皇女がくすくすと笑い、心にもない言葉を口にすると、目線を合わせるようにしゃがみ込み、扇子の先で私の顎を持ち上げる。

「……ねえ、クララ。『お遊び』は楽しかったかしら?お前がお姉様へした仕打ちを聞いた時から、お前のことだけは許さないと決めていたの。お姉様は、お前ごときが侮辱していい存在ではないのよ」

「お気付きになりませんでした?セシリア様は、その気になればいつでもあなたを潰せましたわ。ですが、ちょうど良かったのです。あなたのおかげで、この国の『腐敗物』が誰なのか、一掃すべき対象が把握出来ましたもの」

すーっと血の気が引いていき、震えが止まらない。

「……お姉様、も……あなたたちの、仲間……?」

「ふふっ、何を言っているの?すべての絵を描いていらっしゃるのは、お姉様よ?」

……うそ……うそよ……

「そ、そんな……そんな、はず……だって、お姉様は……私に負けて……」

私の言葉にシャーロットは深い溜め息を吐くと、冷たく見下ろした。

「さすが、物分かりが悪くていらっしゃるのね。本当にアーサー様とセシリア様の妹なのかしら?」

「お姉様が王妃になるのなら、それはそれで良かったのよ。でも、お姉様は切り捨てたわ。ハインリヒも、この腐った王家のことも。腐った林檎は処分しなければ、他の果実まで腐ってしまうでしょう?」

目の前が真っ暗になり、足元がガラガラと音を立てて崩れていった。

目の前に立つ二人の姿が巨大な双璧のように見え、その後ろに、お姉様の幻影が見えた気がした。

昔と同じ……あの凍てつくような冷たい翡翠色の瞳で、ただ私を見つめていた⸺⸺

二人が立ち去った後、指一本動かす気力すら湧かなかった。

一人で立ち上がることも出来ず、そのまま私は騎士たちに引きずられるように外へ連れ出された。

久しぶりに感じた陽の光が眩し過ぎる。

視線だけ動かして周りを見渡せば、大勢の民衆が私を罵倒していた。

「ここにいる平民クララは、セシリア・トレヴァント辺境伯夫人と王家との間で結ばれた婚約を不当に壊し、ヴィクトリア皇女殿下への嫉妬心から暗殺を企てた!!よって、レイヴンクレスト国王陛下の名の元に、死刑に処す!!」

罪状が高らかに読み上げられ、私は断頭台の上に押し付けられた。

頬に触れる冷たい台。

周囲の罵声。

「……お、姉……さ、ま」

誰にも届かない呟きと共に、重い刃が落ち

私の世界は終わった⸺