軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

97話 ティセとうげうげさんはお風呂に入る

私はゾルタンで薬草農家をやっているアサシンギルド所属の暗殺者。ティセ・ガーランド。

もはや肩書が意味不明だが、毎日楽しんでいるので問題ない。

今日は 冬至(とうじ) のお祭りだった。ゾルタンの祭りはとても楽しいものだった。

なんといってもおでんが美味しかった。オパララのおでんはいつも美味しい。明日も、夜食を買いに行こう。

「ティセ、お風呂あがったよ」

「はい、私も入ります」

祭りの後のちょっとした騒動のせいで、今日はずいぶんお風呂が遅くなってしまった。

これがアヴァロニア王都の住宅街なんかだと、お風呂をいれる音でお隣さんから苦情がくるところだろうが、今住んでいるゾルタンの邸宅なら庭も広くお隣さんとの距離も遠い、お風呂で歌っても大丈夫だ。

深夜のお風呂ステージタイム。なんと甘美な響きか!

まぁルーティ様に丸聞こえになるのでやらないけどね。

私は手入れをしてた武器をさっと片付ける。錆止めの油を刀身に塗ったため手がすこし汚れているが、これからお風呂だからちょうどいい。

「うげうげさんはどうする?」

うげうげさんは首を傾げ、右腕をあげた。

湯船には浸からないが、水滴を使って身体をキレイにしたいらしい。

「分かった」

私が右手を差し出すと、うげうげさんがぴょんと手の甲に飛び乗った。

それからスルスルと腕を駆け上がり、私の肩へと移動する。

うん、それじゃあ行こうか。うげうげさんは勢いよく右手を振って行こうと答えてくれた。

「ティセ?」

私が立ち上がった時、ひょこりとルーティ様が扉から顔を出す。

「武器の手入れしてた?」

ルーティ様は、床に置かれた武器の手入れ道具を見て言った。

「はい。もう終わりました」

そういえばルーティ様は、結局ゾルタンに来た時にゴブリンを倒して手に入れた穴あき剣のゴブリンブレードを使い続けている。降魔の聖剣はシサンダンに折られてしまったが、ルーティ様のアイテムボックスには色々と魔王軍のキャンプや遺跡から見つけた武器が入っているはずだ。

もうBランク冒険者としてある程度実力を見せているわけだし、その中から手頃な武器を選んでもいいと思うのだけれど。

「ルーティ様はゴブリンブレードのままでいいんですか?」

「うん、特に不便はしていない」

それもそうか。素手でもアヴァロン大陸最強だろうし、ゾルタンで戦う相手くらいならゴブリンブレード一本でも十分だろう。

しかし……。

「レッドさんの影響ですか?」

「……うん」

わざわざ銅の剣を買い直したレッドさんのように、あえて弱い武器を持つことでルーティ様はレッドさんに近付こうとしているのだ。

「私も、お兄ちゃんのように平和に暮らしてみたい」

「そうですね。きっとできますよ」

うげうげさんが私の肩の上で、ルーティ様を応援するように両腕をあげた。

ルーティ様は少し照れたように笑っていた。

☆☆

「ふぅ」

お風呂に入ると思わず声がでる。なぜ声が出るのかなどと考えそうになるが、思考力はお湯に溶けて、私は全身の力をだらりと抜いた。

窓から白い湯気が流れ出ている。うげうげさんは、窓のところで腕に小さな水滴をすくって器用に身体を洗っていた。

その様子をぼんやり眺めながら、緩みきった頭で今日の最後の出来事を思い返す。

はぐれアサシンと先代市長のミストーム師。

ゾルタンにはぐれアサシンがいるとは知らなかった。だが、ゾルタンはアサシンギルドの支部すら無い辺境、ここで活動すれば確かにアサシンギルドに見つかる可能性は低く、暗殺者としてやっていけるのかもしれない。

だが、なぜミストーム師を狙ったのか。もちろん、暗殺者ということは、誰かがミストーム師を殺したいと考え依頼されたから狙ったのだろう。

しかし、ミストーム師は政治家としても冒険者としても引退した身だ。ゾルタン市民は、今のミストーム師がどこに住んでいるのかも知らない。

市政への影響力はもうほとんど無いはずだ。今更ミストーム師を殺して何の意味があるのだろうか。

「意味がないなら怨恨目的」

だがその線でも、いまさら狙うかな?

現役時代に恨まれているならその時に狙うだろうし、隠居してから殺されるほどの恨みをかったりするだろか?

暇な時にでも調べてみようかな。私は思考を中断し、湯船の中で腕をさする。

窓の方を見ると、うげうげさんがぴょんと飛んだ。窓から入り込んだ羽虫を捕まえたようだ。

「あんまり食べると太るよ」

私が声を掛けると、うげうげさんはそっと目をそらしていた。

☆☆

「釣りだー!」

「おー!」

俺の掛け声に集まった仲間たちは釣り竿をあげて答えた。

メンバーは、俺、リット、ルーティ、ティセ、そしてハーフエルフのタンタ。

「あれ? ゴンズは?」

「ゴンズ叔父ちゃんは、昨日、祭りで配ってた珍しいお酒を飲みすぎちゃったみたい。二日酔いで寝込んでる」

「あいつ、自分で言い出しておいて」

「レッド兄ちゃんの薬飲んだから昼には復活するんじゃないかな?」

まったく。

「しゃーない、じゃ俺達だけでいくか」

「うん!」

タンタが嬉しそうにうなずいた。もしかしたら中止になるのではと不安だったのか。

俺が安心させるように頭を撫でると、タンタはくすぐったそうに笑った。

「全員分のお弁当もあるわよ」

リットが手に持った大きなバスケットを見せる。あの中にはお弁当がいろいろと入っている。

もちろん作ったのは俺だ。

「それで今日はどこへ行くの?」

「海の方に行こうと思ってる。馬を借りてこうかなと」

「それなら私とリットの魔法で精霊獣を召喚すればいい」

「そうか? リットもそれでいいか?」

「いいよ!」

決まりだな。

俺達は町の門を抜ける。リットは 精霊大狼(スピリットダイアウルフ) を、ルーティは 精霊乗馬(スピリットマウント) をそれぞれ2匹召喚する。

リットの精霊獣は、ヒグマほどもある巨大な狼。ルーティの精霊獣は、純白の毛並みが美しい馬で、鞍や手綱がついている。

タンタは、牙をむき出しにしたダイアウルフに最初は驚いたようだが、すぐに順応しそのふかふかの首に抱きついた。

ダイアウルフはタンタの服を口で掴むと、ひょいと自分の背中に放り投げる。

「すげえ!」

タンタはダイアウルフが気に入ったようで、ワシャワシャとダイアウルフの首を撫で回している。

「タンタはこっちがいいか。じゃ、俺が一緒に乗るよ」

俺はタンタの後ろに飛び乗った。

「大丈夫? 鞍があるし、あっちの馬の方が良くない?」

「大丈夫だろう」

リットの不安に対し、任せろとでも言うように、ダイアウルフは鼻を鳴らした。

その仕草にタンタは興奮したように、目を輝かせて狼の首にペタリと腹ばいになって抱きついていた。