軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

68話 踏みにじられたスローライフ

ゾルタン下町。アレスとシサンダンはレッド&リット薬草店の前へと来ていた。

レッドは出かける前に、もちろん店の鍵を閉めていった。

だがアレスにとっては通常の鍵を音も立てずに魔法で破壊することなど、簡単なことだ。

アレスはレッドとリットが暮らしている店へと、無遠慮に入っていった。

店には誰もいない。

アレスは秘密の部屋に隠れている可能性も考えて家中を荒らし回ったが、誰の気配もないことは明らかだった。

ただ、レッドとリットが一緒に買った食器類や、最初は少し距離があった2つのベッドが、今ではピッタリとくっついている寝室や、薬が足りなかったせいで重体になる者がでないようにと、ゾルタンの病気の流行についてレッドが書いたノート、たくさんの薬を作ってきた調合道具、リットやルーティが美味しいと言った料理を作ったキッチン、そしてたくさんの薬をゾルタンの人々に売った店頭……。

それらを躊躇なくひっくり返し、床にばらまき、破壊し、踏みつけ、それでもアレスは何ら収穫がないことにイライラと、家の中を歩き回った。

「くそ!」

その様子をシサンダンは、口元にニタニタと笑みを浮かべて見ていた。

「で、さんざん荒らし回った結果、ここには何の情報もないってことがわかったわけだ」

「うるさい!」

アレスは叫んだ。その剣幕にシサンダンは肩をすくめる。

「ギデオンはもう勇者様のところへ向かっているんじゃ?」

「なにを根拠に……」

「根拠もなにも、お前はレッドがギデオンだと気がついたから勇者様はゾルタンにやってきたと考えたんだろう? だったら勇者様とギデオンは一緒に行動していると考えるべきだろ?」

「……ふん」

アレスは荒々しく扉を蹴り開け、外へ出た。

後に続こうとしたシサンダンは、出る前に店内の様子を見渡す。

薬の棚が乱暴にこじ開けられ、中の薬が床に散乱している。また中央にあった天使の像は倒れ、翼の部分が壊れてしまっていた。

悲惨な光景だ。レッドとリットがここでたくさんの笑顔を浮かべ、このゾルタンでの暮らしを楽しんでいたというのに。

ここは2人のスローライフの象徴だった。

「ふむ」

これを見たらギデオンはどう思うだろうか?

「人間という生き物は面白いな」

そして、これだけ荒らし回ったアレスが、ギデオンと一緒に旅を続けてきた仲間だと思うと、アスラデーモンであるシサンダンは人間という種に対する興味がより一層強くなるのを感じた。

☆☆

「シサンダンが生きていた?」

レッドは思わず聞き返した。

2人は湿原の中を通る街道を走っている。

「おうよ、俺の右腕を食いちぎったのは間違いなく、ロガーヴィアで戦ったアスラデーモンのシサンダンだった」

「だけど、あいつは俺達でたしかに倒しただろう」

それも首を落とした。

身体の方は回収する暇はなかったが、頭はリットがロガーヴィアへと持ち帰り、ガイウスの仇討ちの証明として王に捧げたはずだ。

その後は、しばらく晒し者にされたあと、塚に埋められたと聞いている。

「同種族の兄弟とかじゃないのか?」

「いや、俺は一度戦った相手は忘れない。あの姿と刀法は間違いなくシサンダンだ」

ダナンは自分を襲った相手がシサンダンだと確信しているようだ。

ダナンがここまでいうからには間違いないのだろう。

「うーん、暗黒大陸やデーモンの加護はまだ未知の部分が多くはあるんだが……死者蘇生ができるのか?」

「お前が知らないのに俺が知るわけ無いだろうが。まぁ気にするな。大した話じゃない。やつが蘇るたびに、俺はやつをぶっ殺し続けるってだけだ」

そう言ってダナンはガハハと笑った。

目の前を馬に乗った衛兵が歩いている。俺達は直ぐ側を避けて走った。驚いて竿立ちなった馬を衛兵が慌ててなだめたときには、俺達は遥か前方へ走り去っていた。

だが、これでも俺はダナンに合わせて速度をかなり落としている。

「ダナンも疲労耐性取ったのか」

「武闘家のスキルでな」

コモンスキルならマスタリースキルまで上げないと手に入らない疲労耐性も固有スキルならそのまま取れる。

やはり固有スキルは強い。

俺達は常人ならすぐに息の上がるような疾走を続けながら走り続けた。

「おかしいな」

「どうした」

「このスピードならもうそろそろリット達にも追いつきそうなもんなんだが、精霊魔法かなにかで走竜を強化したり回復させながら走っているのか?」

そこまでして急ぐことも無かったような気がするが……とにかく先を急ごう。

「おいギデオン!」

「……!」

その時、俺達は上空の威圧感を感じた。

湿原の下生えの中に素早く伏せ、空を見上げる。

そこには、はるか上空を飛ぶ竜の姿があった。

「あれは 精霊竜(スピリットドレイク) か?」

「スピリットドレイクというと、誰かが召喚したのか」

「ドレイク召喚なんて高等魔法が使える加護持ちはゾルタンにはいなかったと思うが」

ドレイクの召喚は召喚系魔法の中でも最高峰に位置する高等魔法だ。

ゾルタンどころか中央の大都市でも使えるものはまずいない。

「方向は……おい、もしかしてお前の言ってた勇者様がいる山に向かってるんじゃないか?」

「ああ、かもしれない。一体誰だ?」

相手は空を進んでいる。

湿地の中をうねるように進む街道と違い、直線距離で進める空路なら目指す場所は同じでも移動距離は大きく違う。

「ギデオン、俺のことは気にするな、全力で先にいけ。俺もできるかぎり早く追いつく」

「悪いな」

「気をつけろよ、辺境に俺達と戦えるやつがいないと思いこむのは危険だ。なにやら、首の後がチリチリとしやがる。強敵との戦いを前にするとこうなるのよ」

俺は腰に佩いた銅の剣の柄に触れた。

「俺は弱いからな。そんな思い込みはしないさ」

この貧弱な銅の剣で斬れるものなどたかが知れている。

「俺は俺のできることをするだけだ。強いやつがいたら隠れているから、ダナンも早く来いよ」

そう言って俺は笑うと、足に力を込め全力で走り出した。

あっという間にダナンの姿が後方の点になり、見えなくなった。